黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

婚約者に義妹ができた話

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「実は、この子を引き取りたいという方が現れまして…」
「…いや、それは、普通のことなのでは?」
「それが…」

院長の話によると、ライラを引き取りたいと言ってきたのはなんと王都の貴族だったそうだ。
引き取りについて理由や家の様子を聞こうとした所、金は出すから黙って寄越せといった発言があったため、院長が怪しみ、適当な理由を付けてその日はなんとか帰って貰ったという。

「この子を一番に疎外していた王都の貴族が、教会がなくなった途端お金を払ってでも引き取りたいなど、おかしな話ではありませんか?」
「怪し過ぎるな…家の名前は何だった?」
「ハルフェン侯爵と…」
「…だとよ、エリック。お前、ついに元実家と因縁対決になるんじゃねぇか?」

デイビッドが後ろでお茶の支度をしていたエリックの方を見ると、真っ青な顔色でカップを落としそうになっていた。

「あ…あのクソ野郎…もう手当たり次第かド畜生め…」
「口が悪いぞ?」
「失礼、恐らくライラに掛けられた妖精の守護の事をどこかで知ったのでしょう。」
「まぁまぁ、そんなことが…」
「黙っていて申し訳ありません院長先生。この子は少し特殊なんです。手元に置けないのでお預けしましたが、ご迷惑をおかけしてしまったようですね…事業を預かる者として浅はかでした。この件についてはこちらで対処致します。」
「まぁまぁ、ではこの子はどうしましょう…まさかまた別のところへ…?」 
「いいえ、ハルフェンの者が来たら既に事業主の養子になっているからとお答え下さい。後ろ盾である貴族の意向と言うことなら向こうもすぐに手出しはできないでしょう。」
「あら、それではこの子は…」
「親父に引き取らせます!」

早速当主印が役に立つ。
栄えある当主代理一発目の仕事は、父親と孤児の養子縁組で決まりだ。

デイビッドはその日の内に貴族院へ出向くと、さっさとライラをデュロックの一員に加えてしまった。

「貴族同士の場合は時間がかかるが、市井の一般人を受け入れる場合、即日で確定するから楽でいいな!」

それも相続に関係ないただの扶養者として迎える場合は、書類も簡易で貴族院でも重要視されていない。
そのあまりの手際の良さに、後ろのエリックがドン引きした顔でライラを抱いていた。

「決断の速さと行動力…」
「あうー!」
「いいんだよ。ハルフェンに目を付けられたなら、どの道正面からやり合う覚悟がねぇとな。あの家は面倒だ。そう簡単に手を引くとは思えねぇ。腹括れよ?!」
「やだなぁ…」

ハルフェン侯爵は王家直属の魔術師の1人だ。
精霊魔法の使い手として代々王家に仕えていたが、ここ数年後継者の血統の覚醒が上手くいっていないらしい。
血が薄まったのか、あるいは受け継ぐ身体が弱過ぎたのか、当主はかなり焦っており、方々から妖精や精霊の関係者を集め、我が子に祝福や守護を掛けさせているが付け焼き刃のようだ。
実はその中にイヴェットの生家フルーラ伯爵家も入っており、他にも迷惑を被った家は多数あったが、皆侯爵の地位と権力の前に口を閉ざしていた。
後継者のは優秀だが精霊を視る力が弱く、妖精と契約しようにも力のあるものには見向きもされず、弱い個体と契約を重ねてみても気休め程度の力しか手に入れる事は出来ていないという。

帰りがてら、デイビッドは一度郊外に出て乳児院と養護院に顔を出した。

「まぁまぁ、先程は大変申し訳ありませんでした。」
「いいんですよ。いつも言っているように、何かあったらいつでも相談して下さい。」
「あ!おいちゃんだ!」
「おいちゃん、おねぇちゃんは?」
「こっちにおにいさんもいる!」
「あそぼー!?」
「よし、遊んでやれエリック。」
「えー?!子供の相手って疲れるんですよ~!」

エリックが庭で大量のシャボン玉を飛ばして子供達の気を引いている間、デイビッドが厨房で鍋いっぱいの料理の仕込みをしていると、数名の子供達が覗き込んできた。

「あの…ご飯の作り方おしえてください!」
「お?手伝ってくれるか?」
「僕たちもおいしいもの作れるようになりたい!」
「じゃ、手と顔洗って来な。俺の言う通りにできるなら今日のスープは任せてやるよ。」
「ほんと?!」
「うまいもん作って先生を驚かせてやれ。」
「うんっ!!」

子供達に一鍋任せ、芋や野菜を切らせる横で、トマトやキノコのパスタソースや、鶏肉のソテーの下拵えを終えると、厨房中の焜炉に大鍋が煮え立ち、食事の支度ができた。

「皮を剥く時は刃を寝かせて、包丁はこのまま、野菜の方を動かしてみな。」
「味を調える時はまず塩よりスパイスと甘み、その後塩を入れると濃くなり過ぎずにうまくいきやすい。」
「鍋を混ぜるなら掻き回すより円の中心を通るようにヘラを動かしてみろ。」

出来上がったクリームスープに子供達は大喜びだった。

「おいしい!」
「これ、ホントに僕たちがつくったの?」
「みんなにじまんしよー!」

デイビッドは他の子らと遊んでいたライラを抱き上げると、数日はこちらで預かる旨を院長に伝え、ヘトヘトになったエリックを呼んで帰って行った。


研究室に戻ったら、今度はこちらの昼食の支度に取り掛かる。
その前にライラを下に降ろしたデイビッドは、この部屋が子供向きでないことに少々考え出した。

「よし、エリック手伝え!」
「なんですか?いきなり…」

ソファと大きなカウチを解体し、部屋の隅まで運んで行くと、床を掃除すると隣の空き部屋から大きなジュートの敷布を運んで来た。
長い巻物状の敷布を広げ、その上に再びソファを運び込んでキッチン側との間に仕切りを設けると、カウチで反対側を閉じ、クッションを適当に置くと簡易のサークルが出来上がる。カウチソファの座面の一部を木の板に切り替えるとテーブルにもなり、部屋がアデラ式の床に座ったまま食事が取れる仕様に早変わりした。

「おお!これならいくらハイハイしても余裕ですね!」
「きゃー!!」

早速転げ回るライラをデイビッドは満足そうに眺めていた。

肉と野菜を炊き込んだ米と、葉物野菜のポタージュ、茹でたソーセージと甘さを控えた野菜と果物入りのカトルカール。
ライラはソファによじ登り、デイビッドの動きをじっと追いかけていた。

「お!お!」
「ああ、今できるからもう少し待てよ?」
「おいしー!おいしー!」
「お!?なんだもう喋れるのか!そうそう、おいしいぞー!」
「おいしー!」
「……なんで皿じゃなくて俺を指差す!」
「おいしー!」
「デイビッド様の事をおいしいものと勘違いしてるのでは?」
「俺はおいしくない!!」

デイビッドが来るとおいしい物が口に入る。
乳児院でそう学習したライラはデイビッド=おいしいものをつくる人と認識していた。略して…

「おいしー!」
「おいしいのはこっち!皿の上!」
「う?」
「なんでそこは理解してくれねぇんだよ!」
「赤ちゃんに言ってもねぇ…」

物足りない大人用にずっしりとしたミートパイも焼き上がる頃、ヴィオラが戻って来た。

「デイビッド様、ライラちゃんは?!」
「あーう!」
「あーん!なんてかわいいの?!ほっぺがもちもちね!お手々もぷにぷにね!かわいいのねぇ~!」
「今日からライラ・デュロックになったんですよ。ヴィオラ様の義妹になる訳ですからよろしくお願いしますね。」
「そうなの?そっかぁ、ライラちゃんが私の…義妹!?」
「はい。」
「じゃぁそれってつまりデイビッド様の…」
「義妹ですね。」
「義妹!!?」

ライラとデイビッドを交互に見比べたヴィオラは、ヨロヨロとデイビッドに近づいて行った。

「デイビッド様ばっかり、ズルい!!」
「そう来たか…」
「ライラちゃんの方が先にデイビッド様の家族になってるの!もっとズルい!!」
「そう言われてもな…」
「なんで私がライラちゃんの義姉なんですか!?」
「なんでと言われても…」
「どうせならママなりたかった!!」
「そっちか!未成年には無理だって!」
「もういいですもん!ライラちゃんにママって呼んでもらうから!」
「色んな方面で俺が詰むから止めて!!」
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