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7代目デュロック辺境伯爵編
デュロック領
「なんだそれ?」
「領地経営科の課題です!運河を題材にレポートを書こうと思って!」
「真面目だなぁヴィオラは。」
運河には支流がいくつもあり、その先には農場や工場が多く建てられているそうだ。
12の領地を跨ぎ、各地に恩恵をもたらしながら、最大の目的である水上運送と河川交通の役目を果たしている。とても合理的で莫大な利益を生み出すこの運河は、時にラムダの動脈とも呼ばれている。
運河には各地にダム湖が設けられ、水の氾濫や増水時の下流の安全を守っている。
ダムのある領地は水辺に宿場町が広がり、舟人達の拠点として賑わっていた。
「今日はここで停泊しよう。」
「うわぁ!街の灯りが水に映って綺麗ですね!」
夕間暮れが近づき、港の明かりが湖面に揺れて幻想的だ。
個人用の桟橋に船を付け、船内の様子を見ると、既に宴会が始まっていた。
「思ってたより揺れないし、船酔いも無くて快適でしたよ。」
「これならワッフルタワー食べても良かったわ…」
「あむあむ!!」
ライラは買ってもらった赤い果物がイチゴではなかったことに文句を言っていたが、硬い皮を剥いて中身を出し、大きな種を抜いてやると夢中で食べた。
ヴィオラとシェルリアーナが個室に収まり、ライラもベビー用のベッドに横たわると、デイビッドは再び甲板に出た。
すると、ウィンチがひとりでに動いており、丁度もやい綱が巻き上がった所で、船の錨は当然の様に引き上げられていた。
「夜も進む気か?」
「そうみたいだね」
川風を浴びていると、いつの間にかまたルーチェが顔を出す。
水の中を覗くと、月の光に反射した何かの目玉がいくつも光って見え、思わず怖気づいてしまった。
やがて船は音も無く、夜の水面に滑り出して行った。
「船なら速くて楽かと思ったけどよ、こういうのは想像もしてなかったな…」
「力になれたって みんな喜んでるよ」
「俺なんもしてねぇのに?」
「精霊樹が生えたおかげで 運河にも浄化された水が流れ込んで、妖精が住みやすくなったんだって これはそのお礼だよ」
船が夜通し進んだおかげで、たった一晩で3つ目の拠点まであっという間に辿り着き、1週間と見ていた旅程の半分が終了してしまう。
他の船も動き出す時間にまた大きな拠点へ入り、少しだけ船を止めてデイビッドも一休みした。
「あれ?なんか、港の様子が違ってません?」
「気のせいだろ!?」
「清々しく嘘つくのヤメて!」
「えーと…あ!ポメロイって看板が見えたので、地図だと…この辺りですね!」
ヴィオラがいつの間にか広げたラムダの地図には、運河の丁度真ん中に当たる港町とあった。
「何が起きてるのか聞かない方がいい感じ?」
「聞いても知らない振りしとくのがいい感じかもですね。」
「またなの…?」
昨日市場で買ったフルーツの残りと、ヴィオラが作ったパンケーキで朝食を済ませたシェルリアーナが頬杖をついて遠くを見ている。
「ねぇ、この先にエイプルって村があるんだけど、停まれない?」
「訳ねぇけど、小さな村だから拠点はねぇぞ?なんか用があるのか?」
「…お祖母様のお墓があるの…」
「わかった。」
しばらく進むと、長閑な田舎の村々が川を挟んでいくつも見えて来る。デイビッドはそこの支流へ船を進め、川辺にワタスゲのたくさん生えている村の外れで停まった。
シェルリアーナは鞄から薬草や木の枝を編みこんで呪いを込めたウィッチクラフトを取り出すと、1人で船から降りて行った。
「デイビッド様は何してるんですか?」
「ん?ああ、ちょっとな…」
デイビッドはシェルリアーナを見送ると、船を降りて1人大きな石を積み上げ、何やらハーブの塊を焚いてその上で小鍋を沸かし始めた。
少し辛味のある煙が燻って細く辺りに立ち込めると、火の中にまた数種類のハーブを加え、湧いた湯にネズノキとニワトコの枝を探して来て浸し、草地に円になるよう石を並べる。
「…魔女みたい…」
「たまに顔に似合わない謎な行動しますよね。」
「ああ、あれは魔除けのまじないだな。姐さんが墓参りに行ったろ?それで戻った時に現世に悪いモノがついてこないよう払うための用意だよ。つってもホントに古いやり方だけどな。」
「今は浄化魔法をかけるのが一般的ですものね。」
「すごいしれっと会話に入って来た…」
いきなり隣に現れたトムティットに、ヴィオラは心底怪訝な顔をした。
一方でシェルリアーナは森の中にある墓地に着くと、祖母の墓を見つけてクラフトを捧げ、長い事その場で祈っていた。
(お祖母様、私魔女になりました。素晴らしい師匠にもお会い出来ました。新しい友達もできたのよ。今とても幸せなの…どうかこれからも見守って下さい…)
やっと立ち上がってズボンの砂を払うと、クラフトに火を付けて燃やし、その灰を墓の周りに撒く。花などは供えず魔女の教えに則った厳かな訪いを済ませると、一言も喋らずに船へと戻った。
体の浄化が済むまでは口を聞いてはいけない。
急いで支度を始めようとすると、船の前でいきなり温かい雫を浴びせられ、思わず声を上げそうになった。
顔を上げると薬湯に浸したニワトコの枝をデイビッドが振っている。
その足元に並んだ石を見て、シェルリアーナは直ぐに状況を理解した。
改めて両腕を広げて薬湯の飛沫を浴びると、石枠の中に立って煙をまとい、ハーブの燃え差しを靴で数回踏みつけ、銀のゴブレットから薬湯を飲み干し、枠の外に出る。
そして石の輪から出て直ぐにデイビッドの脇腹を薙ぐように蹴り飛ばした。
「いきなりなにすんだよ!!」
「なんかムカついたわ!!」
「なんで!?」
「なんか…なんかこう…イラッとするのよ!アンタがそういう事してると!!」
「キャッキャッ!!」
草むらに転がり、痛みに耐えるデイビッドを見て、ライラもケラケラ笑っている。
トムティットだけはこの状況について行けず驚いていた。
「今ゲフッって言ってたけど、アレ大丈夫なん?!」
「いつもの事なので。」
「いつもて?!いつも蹴っ飛ばされてんのアイツ!?」
「まぁ…基本的に?」
「基本的に蹴られてんの?!お嬢ちゃんもなんかあんまり気にしてなげだし…人間としてその扱いはどうなん?」
「うーん、僕も踏んだことくらいはあるんでなんとも。」
「え…どういう状況で…?」
「7割事故でしたよ。」
「…残り3割は…?」
「興味本位と好奇心に勝てず…」
(コイツも相当ヤバいな…)
儀式に使った石は全て川に沈めなければならない。ドポンドポンと石を投げ入れていると、シェルリアーナとヴィオラも横から手伝った。
「それにしても、よく知ってたわね?!魔女の墓参りの作法なんて…」
「田舎じゃたまに見る古い魔除けだよ。要は病を集落に持ち込まないためのまじないだ。墓地は病原になりやすいからな。特に土を持ち込むのは良くない。燃やしたハーブを踏むのも、薬湯を浴びるのにも意味がある。無駄な事じゃねぇんだよ。」
「そうなんですね!魔法じゃないのに魔法みたい…」
「浄化魔法は合理的で早いけど、故人を悼む事自体に重きを置くという意味では複雑な手順も必要な事があるのよ。」
現代を生きる魔女と、古の教えを守る魔法使い。
やはりこの2人はどこか似ている所が多い。
船に戻った一行は、今度こそ寄り道せず運河を登って行く。
2つ目のダム湖に近づくと、ヴィオラが水の中を指差して声を上げた。
「デイビッド様!水の中に何か大きな生き物がいます!!」
「ああ、カイギュウだよ。大丈夫、魔物だけど温厚で、湖底の水草を食べる草食動物なんだ。」
船と変わらない大きさはあるこの魔物は、大きなヒレを四本足の様に動かし、湖底を歩くように泳ぎながらのんびりと水草を食む以外何もしない。
時折湖面に顔を出し、空気を吸うとまた潜っていく。
「肉と脂を目当てに乱獲されて数が減っちまったから、もうこの国ではここでしか見られない貴重な魔物なんだ。」
「おおきぃ~~!ほらライラちゃんも見て見て?!」
「ふわぁ~~~!」
夜になると群れで湖面に腹を出して浮かんで眠るそうだ。
なんとも穏やかで平和な魔物もいたものである。
船はその後も変わりなく昼夜水上を進んで行った。
協力してくれる妖精や水霊達の顔ぶれも次々変わっているらしく、中には人間が気になって挨拶しに来るものもいた。
「カプカプカププ…」
「しまった!水精系は言語がわからん!!」
「“こんにちは きみはとてもおいしそうだね”だって」
「それ文化の違いで片付くヤツか!?本気で言ってるワケじゃねぇよな!?」
「大丈夫 水霊の加護を受けた人間は食べないよ」
「受けてなかったら食べていいみたいな解釈になってないことを祈る…」
異文化どころか種族・生態から生息域すら異なる相手だ。当分親しくはしない方が良さそうだと、デイビッドは今更になって引きつっていた。
スイスイと流れの緩急にも影響されず、淀みなく船は進み、その結果、3日目の朝には潮の香り漂うデュロック領最大の港町“ナナ”へと到着した。
ヴィオラは船から身を乗り出し目を見開いた。
王都などとは比べ物にならない程広く、大きな建物のひしめく街並みと、活気のある港と、どこまでも続く空。
壁に囲まれたせせこましい王都とは違う、開放感のある風通しの良い美しい街並みは、自国の文化と異国情緒が合わさりなんとも華やかだが、それでいてどこか落ち着きがある。
行き交う人々の表情は誰もが明るく、幸せそうだ。
「これが…デュロック領……」
「の、ほんの端っこだ。」
「わー!久しぶりですね、この空気!やっぱり活気が違うなぁ。」
「なんて大きな街なの…これじゃ王都が田舎に見えちゃうわ…」
デイビッドは桟橋のひとつを借りると、今度こそ錨を下ろし綱をかけて船を停めた。
「さてと…腹括るか!」
そう言って荷物を手に船を降りると、ヴィオラ達を伴い歩き出した。
目指すはサウラリース。
デイビッドの生まれ故郷を目指して、一行は街へと向かって行った。
「領地経営科の課題です!運河を題材にレポートを書こうと思って!」
「真面目だなぁヴィオラは。」
運河には支流がいくつもあり、その先には農場や工場が多く建てられているそうだ。
12の領地を跨ぎ、各地に恩恵をもたらしながら、最大の目的である水上運送と河川交通の役目を果たしている。とても合理的で莫大な利益を生み出すこの運河は、時にラムダの動脈とも呼ばれている。
運河には各地にダム湖が設けられ、水の氾濫や増水時の下流の安全を守っている。
ダムのある領地は水辺に宿場町が広がり、舟人達の拠点として賑わっていた。
「今日はここで停泊しよう。」
「うわぁ!街の灯りが水に映って綺麗ですね!」
夕間暮れが近づき、港の明かりが湖面に揺れて幻想的だ。
個人用の桟橋に船を付け、船内の様子を見ると、既に宴会が始まっていた。
「思ってたより揺れないし、船酔いも無くて快適でしたよ。」
「これならワッフルタワー食べても良かったわ…」
「あむあむ!!」
ライラは買ってもらった赤い果物がイチゴではなかったことに文句を言っていたが、硬い皮を剥いて中身を出し、大きな種を抜いてやると夢中で食べた。
ヴィオラとシェルリアーナが個室に収まり、ライラもベビー用のベッドに横たわると、デイビッドは再び甲板に出た。
すると、ウィンチがひとりでに動いており、丁度もやい綱が巻き上がった所で、船の錨は当然の様に引き上げられていた。
「夜も進む気か?」
「そうみたいだね」
川風を浴びていると、いつの間にかまたルーチェが顔を出す。
水の中を覗くと、月の光に反射した何かの目玉がいくつも光って見え、思わず怖気づいてしまった。
やがて船は音も無く、夜の水面に滑り出して行った。
「船なら速くて楽かと思ったけどよ、こういうのは想像もしてなかったな…」
「力になれたって みんな喜んでるよ」
「俺なんもしてねぇのに?」
「精霊樹が生えたおかげで 運河にも浄化された水が流れ込んで、妖精が住みやすくなったんだって これはそのお礼だよ」
船が夜通し進んだおかげで、たった一晩で3つ目の拠点まであっという間に辿り着き、1週間と見ていた旅程の半分が終了してしまう。
他の船も動き出す時間にまた大きな拠点へ入り、少しだけ船を止めてデイビッドも一休みした。
「あれ?なんか、港の様子が違ってません?」
「気のせいだろ!?」
「清々しく嘘つくのヤメて!」
「えーと…あ!ポメロイって看板が見えたので、地図だと…この辺りですね!」
ヴィオラがいつの間にか広げたラムダの地図には、運河の丁度真ん中に当たる港町とあった。
「何が起きてるのか聞かない方がいい感じ?」
「聞いても知らない振りしとくのがいい感じかもですね。」
「またなの…?」
昨日市場で買ったフルーツの残りと、ヴィオラが作ったパンケーキで朝食を済ませたシェルリアーナが頬杖をついて遠くを見ている。
「ねぇ、この先にエイプルって村があるんだけど、停まれない?」
「訳ねぇけど、小さな村だから拠点はねぇぞ?なんか用があるのか?」
「…お祖母様のお墓があるの…」
「わかった。」
しばらく進むと、長閑な田舎の村々が川を挟んでいくつも見えて来る。デイビッドはそこの支流へ船を進め、川辺にワタスゲのたくさん生えている村の外れで停まった。
シェルリアーナは鞄から薬草や木の枝を編みこんで呪いを込めたウィッチクラフトを取り出すと、1人で船から降りて行った。
「デイビッド様は何してるんですか?」
「ん?ああ、ちょっとな…」
デイビッドはシェルリアーナを見送ると、船を降りて1人大きな石を積み上げ、何やらハーブの塊を焚いてその上で小鍋を沸かし始めた。
少し辛味のある煙が燻って細く辺りに立ち込めると、火の中にまた数種類のハーブを加え、湧いた湯にネズノキとニワトコの枝を探して来て浸し、草地に円になるよう石を並べる。
「…魔女みたい…」
「たまに顔に似合わない謎な行動しますよね。」
「ああ、あれは魔除けのまじないだな。姐さんが墓参りに行ったろ?それで戻った時に現世に悪いモノがついてこないよう払うための用意だよ。つってもホントに古いやり方だけどな。」
「今は浄化魔法をかけるのが一般的ですものね。」
「すごいしれっと会話に入って来た…」
いきなり隣に現れたトムティットに、ヴィオラは心底怪訝な顔をした。
一方でシェルリアーナは森の中にある墓地に着くと、祖母の墓を見つけてクラフトを捧げ、長い事その場で祈っていた。
(お祖母様、私魔女になりました。素晴らしい師匠にもお会い出来ました。新しい友達もできたのよ。今とても幸せなの…どうかこれからも見守って下さい…)
やっと立ち上がってズボンの砂を払うと、クラフトに火を付けて燃やし、その灰を墓の周りに撒く。花などは供えず魔女の教えに則った厳かな訪いを済ませると、一言も喋らずに船へと戻った。
体の浄化が済むまでは口を聞いてはいけない。
急いで支度を始めようとすると、船の前でいきなり温かい雫を浴びせられ、思わず声を上げそうになった。
顔を上げると薬湯に浸したニワトコの枝をデイビッドが振っている。
その足元に並んだ石を見て、シェルリアーナは直ぐに状況を理解した。
改めて両腕を広げて薬湯の飛沫を浴びると、石枠の中に立って煙をまとい、ハーブの燃え差しを靴で数回踏みつけ、銀のゴブレットから薬湯を飲み干し、枠の外に出る。
そして石の輪から出て直ぐにデイビッドの脇腹を薙ぐように蹴り飛ばした。
「いきなりなにすんだよ!!」
「なんかムカついたわ!!」
「なんで!?」
「なんか…なんかこう…イラッとするのよ!アンタがそういう事してると!!」
「キャッキャッ!!」
草むらに転がり、痛みに耐えるデイビッドを見て、ライラもケラケラ笑っている。
トムティットだけはこの状況について行けず驚いていた。
「今ゲフッって言ってたけど、アレ大丈夫なん?!」
「いつもの事なので。」
「いつもて?!いつも蹴っ飛ばされてんのアイツ!?」
「まぁ…基本的に?」
「基本的に蹴られてんの?!お嬢ちゃんもなんかあんまり気にしてなげだし…人間としてその扱いはどうなん?」
「うーん、僕も踏んだことくらいはあるんでなんとも。」
「え…どういう状況で…?」
「7割事故でしたよ。」
「…残り3割は…?」
「興味本位と好奇心に勝てず…」
(コイツも相当ヤバいな…)
儀式に使った石は全て川に沈めなければならない。ドポンドポンと石を投げ入れていると、シェルリアーナとヴィオラも横から手伝った。
「それにしても、よく知ってたわね?!魔女の墓参りの作法なんて…」
「田舎じゃたまに見る古い魔除けだよ。要は病を集落に持ち込まないためのまじないだ。墓地は病原になりやすいからな。特に土を持ち込むのは良くない。燃やしたハーブを踏むのも、薬湯を浴びるのにも意味がある。無駄な事じゃねぇんだよ。」
「そうなんですね!魔法じゃないのに魔法みたい…」
「浄化魔法は合理的で早いけど、故人を悼む事自体に重きを置くという意味では複雑な手順も必要な事があるのよ。」
現代を生きる魔女と、古の教えを守る魔法使い。
やはりこの2人はどこか似ている所が多い。
船に戻った一行は、今度こそ寄り道せず運河を登って行く。
2つ目のダム湖に近づくと、ヴィオラが水の中を指差して声を上げた。
「デイビッド様!水の中に何か大きな生き物がいます!!」
「ああ、カイギュウだよ。大丈夫、魔物だけど温厚で、湖底の水草を食べる草食動物なんだ。」
船と変わらない大きさはあるこの魔物は、大きなヒレを四本足の様に動かし、湖底を歩くように泳ぎながらのんびりと水草を食む以外何もしない。
時折湖面に顔を出し、空気を吸うとまた潜っていく。
「肉と脂を目当てに乱獲されて数が減っちまったから、もうこの国ではここでしか見られない貴重な魔物なんだ。」
「おおきぃ~~!ほらライラちゃんも見て見て?!」
「ふわぁ~~~!」
夜になると群れで湖面に腹を出して浮かんで眠るそうだ。
なんとも穏やかで平和な魔物もいたものである。
船はその後も変わりなく昼夜水上を進んで行った。
協力してくれる妖精や水霊達の顔ぶれも次々変わっているらしく、中には人間が気になって挨拶しに来るものもいた。
「カプカプカププ…」
「しまった!水精系は言語がわからん!!」
「“こんにちは きみはとてもおいしそうだね”だって」
「それ文化の違いで片付くヤツか!?本気で言ってるワケじゃねぇよな!?」
「大丈夫 水霊の加護を受けた人間は食べないよ」
「受けてなかったら食べていいみたいな解釈になってないことを祈る…」
異文化どころか種族・生態から生息域すら異なる相手だ。当分親しくはしない方が良さそうだと、デイビッドは今更になって引きつっていた。
スイスイと流れの緩急にも影響されず、淀みなく船は進み、その結果、3日目の朝には潮の香り漂うデュロック領最大の港町“ナナ”へと到着した。
ヴィオラは船から身を乗り出し目を見開いた。
王都などとは比べ物にならない程広く、大きな建物のひしめく街並みと、活気のある港と、どこまでも続く空。
壁に囲まれたせせこましい王都とは違う、開放感のある風通しの良い美しい街並みは、自国の文化と異国情緒が合わさりなんとも華やかだが、それでいてどこか落ち着きがある。
行き交う人々の表情は誰もが明るく、幸せそうだ。
「これが…デュロック領……」
「の、ほんの端っこだ。」
「わー!久しぶりですね、この空気!やっぱり活気が違うなぁ。」
「なんて大きな街なの…これじゃ王都が田舎に見えちゃうわ…」
デイビッドは桟橋のひとつを借りると、今度こそ錨を下ろし綱をかけて船を停めた。
「さてと…腹括るか!」
そう言って荷物を手に船を降りると、ヴィオラ達を伴い歩き出した。
目指すはサウラリース。
デイビッドの生まれ故郷を目指して、一行は街へと向かって行った。
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