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7代目デュロック辺境伯爵編
汽車に乗って
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船を降りてまず先に向かったのは港の検問所。
そこで入港税と、関税を人数分払い、滞在用の簡易身分証を発行してもらう。
「観光ですか?商用ですか?」
「いや…招待だ…」
「招待状かご招待に関する証明などはございますか?」
「これでいいか?…」
「これはご当主様の!失礼致しました。こちらが身分証になります。失くさないようお気をつけ下さい。」
デイビッドは頑なに自分がデュロックの一員であるとは話さなかった。
当主印を使って偽造した招待状を受付で見せ、一般の旅券を受け取ると関税をしっかり払って街の方へ出た。
「大きくて綺麗な街…売ってる物も新鮮で目移りしちゃいます!」
「…駅まで大通りを突っ切る事になるから、好きなだけ見て行けるぞ。」
「変わった食べ物やかわいい細工物のお店もたくさん!お洒落やお洋服のお店まで!!」
「魔道具や魔導式の機材まであんなにあるわ!」
「おっきな本屋さんがあっちにもこっちにも!」
「お2人共落ち着いて、この街は観光名所の中でも買い物に特化した商業地区なんですよ。新しい店もここで3ヶ月持てば、王都で向こう10年は安泰と言われる程の激戦区なんです。」
「だからこんな目新しい物ばかり揃っているのね。見て、あんな乗り物まであるわ!」
「んっきゃーーっ!!」
「ライラちゃん乗りたいの?何かしらあれ?」
「皆さんお目が高いことで。あれは魔導式の小型カートですよ。乗ってみますか?」
「「乗りたい!!」」
レンタルのカートは、箱型の車体に座席が4つついたオープンスタイルの四輪車で、運転手付きのものと自分で動かすものがある。
エリックが運転席に座り、ヴィオラとシェルリアーナがライラを抱いて後ろへ座ると、人が歩くより少し早い程度の速度で走り出した。
「デイビッド様は!?」
「俺はいい、後ろから着いてく。そんなに速さは出ねぇから。」
その後ろから少し早歩きでデイビッドがついて行く。
「お買い物に便利そうね!」
「この街は道幅が狭く、馬車の通行が制限されているので、このカートが人々の足の代わりなんです。公共用の大型の物と、個人用の小型の物とがありまして、道に専用のレーンが敷かれていて、無意識に人が避けるようにできてるんです。」
「レーンに何かしらの魔法式が組まれてるのね…」
「万が一人や物に当たりそうになっても感知して止まりますので、事故の心配も無く優雅にお買い物が楽しめますよ!?」
「ちょっ…と欲しいわ…」
「本体は金貨1枚半。維持費で一月だいたい大銀貨2枚掛かりますけどね。」
「高いけど…宝石より実用的かしら。」
気になる店の前に来ては止まり、買い物を楽しむ3人の後ろで、デイビッドはただ黙って足を動かし、影のように佇んでいた。
「ずいぶん買っちゃったわね!」
「カートがあると楽でいいですね。ところで、この後はサウラリースへ直行の予定ですか?」
「いや…先にディオニスに行く。」
「ディオニス…?」
「デュロックの総本家なんだと。よく知らねぇし、呼ばれたこともねぇけど。」
「行って、どうなさるつもりです?」
「帰って来た報告だけしたら直ぐにサウラリースへ向かう。そっちの用の方が重要なもんでな。」
「そうよ!師匠にお会いしに行くのよ!ああ、何かもっと気の利いたお土産持ってくるんだった…」
「だったら途中で飴でも買ってってやれよ。」
「そんな雑な扱いしないで!!」
「…仕事の合間に口に入れられる甘い物があると喜ぶんだよ。ミルク系のヤツが特に好きで、練乳なんかもよく飲み物に入れてる…」
「そうなのね!?ならどこかにいいお菓子屋さんはないかしら!」
「人のこめかみに肘入れる前に話聞けよ!!」
「キャッキャッキャッキャッ!!」
ガツンと良い音がして吹っ飛んだデイビッドを置いて進もうとするシェルリアーナと、それを見て大笑いするライラ。
明らかに教育によろしくないのではないかと考えつつ、デイビッドはカートの後ろからまたついて行った。
濃厚なミルクのキャンディを大瓶で買ったシェルリアーナは、早くも緊張して動きがぎこちない。
ヴィオラは見るもの全てが新しく、ずっと目がキラキラし通しだ。
ライラはそろそろおねむのようで、カートを降りるとデイビッドに抱っこをせがみうとうとし始めた。
大きな駅で切符を買い求め、構内に入ると中は人と荷物でごった返している。
右へ左へ大忙しで動く人の波に流されないよう塊まっていると、ヴィオラがデイビッドの腕に抱き着いた。
「すごい人ですね!」
「それだけ需要があるんだ。俺達が乗るのは…8番線か。あっちだな…」
荷物とライラとヴィオラを手にモゾモゾ動くデイビッドの後ろを、シェルリアーナを連れたエリックがついて行く。
「後ろ姿が完全にお父さんでウケる。」
「レディをエスコートしてる意識ゼロね!」
8番線へ着くと、そこにはピカピカの蒸気機関車が湯気を立てて停まっていた。
初めて目にする汽車に、ヴィオラもシェルリアーナも感動しているようだ。
「あーっ!あぅーー!!」
「なんだ目が覚めちまったのか?そうこれに乗るんだぞ!?」
ゆったりと座れるコンパートメント席を取り、全員が座ると大きな汽笛の音が空気を震わせた。
「ふぇぇ~~ん!!」
「今度はびっくりしたのか?喜んだり泣いたり忙しい奴め。」
汽笛に驚いて泣き出したライラをあやしながら、ヴィオラ達の方を見ると2人は車窓に張り付いて何も言わずに外の景色を眺めていた。
「…楽しいか?」
「はいっ!これはテレンス先輩がこだわっていたのも頷けます!荷物を運ぶ手段なだけじゃない…こんなに感動的なものだなんて思いもしませんでした!」
「予想以上に速度があるのね!まるで空を飛んでるみたいだわ!」
「喜んでもらえて良かったですねぇ。僕も久しぶりで少しわくわくしてますよ!」
「あわぁ~……」
汽車の走行音だけが響くコンパートメントは静かだが、それぞれ真剣に楽しんでいるようだ。
実はルーチェもこっそり窓に腰掛け、外の様子に目を奪われていた。
「へぇ~、人間ってのは色んなもんを考えつくもんだなぁ。」
「妖精には騒がしすぎやしねぇか?」
「人慣れしてねぇ奴は驚くだろうな。所で…ついさっきお姫様からお呼び出しがあってよ、アンタに大事な物だって預かった。」
「なんだ…?」
トムティットは鏡を通し、移動中も学園とその他の場所へ繋ぎを付けていた。
距離が長くなればなる程運べる物が小さくなり、魔力も余計に使う。
「すげぇ速さで鏡の入り口が離れてく感じ。この先まで行ったら学園には戻れそうにねぇなぁ…」
「そうか、これ一枚でも届けてくれて助かった。」
アリスティアの手紙は分厚く、中には封筒がいくつも入っていた。
ひとつはアーネストから。
内容は、ルミネラ公爵が代替わりし、本人は蟄居したことの報告。次代は弟が継ぎ、若手の後継はまだ選定されていない。そして元生徒会長だったアレックスの容態が回復してきているので、今後再び調査協力を要請する予定だそうだ。
デイビッドの不在中また良からぬことを企まないよう、王家でも目を付けて見張っているので安心してくれ、と書かれているがどこまで大人しくしているかは不明だ。
加えてハルフェン公爵が正式に子息に継がれ、お披露目をしたとか。同世代の中でも一足先に次代後継組から抜けたチャールズの動きにも注意しなくてはならない。
もうひとつはアリスティア本人から。
置き土産のパネトーネが美味しかった事に合わせて、遂に王族として影的存在を手に入れた事が嬉々として綴られている。が、恐らく国家機密だろう。
あるいは、機密の共有をする事でデイビッドと対等になろうとしているのかも知れない。
この手紙は後で燃やそう…とデイビッドはため息をついた。
(パンのついでの報告じゃねぇぞまったく…)
そして最後が、国王からの手紙。
教会関係の中で王家に再度忠誠を誓い、受け入れられた数家が、今後協力者として長年における教会の悪事を公にしてくれるそうだ。
その中で、以前デイビッドに言った聖女について、新たに分かったことが書かれていた。
200年前、ガロ帝国の移住を聞きつけた教会は、何とかしてその技術を奪おうと機会を伺い、装置を運ぶ馬車を襲い、装置の守り人ごと攫って生涯幽閉したそうだ。
守り人は抵抗したが、従わなければ今度こそガロ国民を皆殺しにし、夫を桀にすると脅すとようやく協力する事に同意したと記録されているらしい。
国の民と夫を人質に取られ、どれ程口惜しかった事だろう。
その後、思いがけず子を産み落とし、その子供を遺して先に逝く事が、どれ程辛く心残りだっただろう。
胸糞悪い報告の後には、その子供の行く末が記されていた。
産まれたのは娘で、聖女の子として教会で育てられ、後に当時の第四王子に嫁いでいたと。
そこからは王家の記録を辿り、産まれた姫と王子が降嫁したり他国へ嫁いだりと行く末の追えない者もいたが、中の1人が公爵家へと嫁ぎ、そこから更に子が、孫が、他家へ広がる中、読み進めていたデイビッドの目が止まった。
(ロディリアーニ侯爵家第二子…ランドール伯爵家の嫡男と婚姻…)
ランドール家はヴィオラの生家。
ヴィオラの父方の祖母は確か侯爵家出身だと、どこかで耳にした記憶もある。
(ヴィオラは…本当にエルスラの血を引いてたんだ…)
そこで冷静になると、リリアもムカつくランドール当主も同じ血を引く人間である事を思い出し、しばし思考が停止する。
(少なくとも、エルスラの子は不幸な人生を送ったわけじゃないってことか…)
それが知れただけでも良かったと思う。
しかし、懸念はここでは終わらない。
(ヴィオラが同系の魔力を持ってた理由は分かった…じゃぁ、俺は…?)
デイビッドの出身はデュロックのサウラリース。
デュロックの中でも傍系の、本家とは希薄な存在だ。
もしも、本当にヴィオラがエルスラの生まれ変わりであったなら、魂の行く末を誓った相手は間違ってもデイビッドにはならない。
デイビッドは一抹の不安を抱いたまま手紙をしまうと、情景を楽しむ婚約者の横顔を目に焼き付けるように眺めていた。
そこで入港税と、関税を人数分払い、滞在用の簡易身分証を発行してもらう。
「観光ですか?商用ですか?」
「いや…招待だ…」
「招待状かご招待に関する証明などはございますか?」
「これでいいか?…」
「これはご当主様の!失礼致しました。こちらが身分証になります。失くさないようお気をつけ下さい。」
デイビッドは頑なに自分がデュロックの一員であるとは話さなかった。
当主印を使って偽造した招待状を受付で見せ、一般の旅券を受け取ると関税をしっかり払って街の方へ出た。
「大きくて綺麗な街…売ってる物も新鮮で目移りしちゃいます!」
「…駅まで大通りを突っ切る事になるから、好きなだけ見て行けるぞ。」
「変わった食べ物やかわいい細工物のお店もたくさん!お洒落やお洋服のお店まで!!」
「魔道具や魔導式の機材まであんなにあるわ!」
「おっきな本屋さんがあっちにもこっちにも!」
「お2人共落ち着いて、この街は観光名所の中でも買い物に特化した商業地区なんですよ。新しい店もここで3ヶ月持てば、王都で向こう10年は安泰と言われる程の激戦区なんです。」
「だからこんな目新しい物ばかり揃っているのね。見て、あんな乗り物まであるわ!」
「んっきゃーーっ!!」
「ライラちゃん乗りたいの?何かしらあれ?」
「皆さんお目が高いことで。あれは魔導式の小型カートですよ。乗ってみますか?」
「「乗りたい!!」」
レンタルのカートは、箱型の車体に座席が4つついたオープンスタイルの四輪車で、運転手付きのものと自分で動かすものがある。
エリックが運転席に座り、ヴィオラとシェルリアーナがライラを抱いて後ろへ座ると、人が歩くより少し早い程度の速度で走り出した。
「デイビッド様は!?」
「俺はいい、後ろから着いてく。そんなに速さは出ねぇから。」
その後ろから少し早歩きでデイビッドがついて行く。
「お買い物に便利そうね!」
「この街は道幅が狭く、馬車の通行が制限されているので、このカートが人々の足の代わりなんです。公共用の大型の物と、個人用の小型の物とがありまして、道に専用のレーンが敷かれていて、無意識に人が避けるようにできてるんです。」
「レーンに何かしらの魔法式が組まれてるのね…」
「万が一人や物に当たりそうになっても感知して止まりますので、事故の心配も無く優雅にお買い物が楽しめますよ!?」
「ちょっ…と欲しいわ…」
「本体は金貨1枚半。維持費で一月だいたい大銀貨2枚掛かりますけどね。」
「高いけど…宝石より実用的かしら。」
気になる店の前に来ては止まり、買い物を楽しむ3人の後ろで、デイビッドはただ黙って足を動かし、影のように佇んでいた。
「ずいぶん買っちゃったわね!」
「カートがあると楽でいいですね。ところで、この後はサウラリースへ直行の予定ですか?」
「いや…先にディオニスに行く。」
「ディオニス…?」
「デュロックの総本家なんだと。よく知らねぇし、呼ばれたこともねぇけど。」
「行って、どうなさるつもりです?」
「帰って来た報告だけしたら直ぐにサウラリースへ向かう。そっちの用の方が重要なもんでな。」
「そうよ!師匠にお会いしに行くのよ!ああ、何かもっと気の利いたお土産持ってくるんだった…」
「だったら途中で飴でも買ってってやれよ。」
「そんな雑な扱いしないで!!」
「…仕事の合間に口に入れられる甘い物があると喜ぶんだよ。ミルク系のヤツが特に好きで、練乳なんかもよく飲み物に入れてる…」
「そうなのね!?ならどこかにいいお菓子屋さんはないかしら!」
「人のこめかみに肘入れる前に話聞けよ!!」
「キャッキャッキャッキャッ!!」
ガツンと良い音がして吹っ飛んだデイビッドを置いて進もうとするシェルリアーナと、それを見て大笑いするライラ。
明らかに教育によろしくないのではないかと考えつつ、デイビッドはカートの後ろからまたついて行った。
濃厚なミルクのキャンディを大瓶で買ったシェルリアーナは、早くも緊張して動きがぎこちない。
ヴィオラは見るもの全てが新しく、ずっと目がキラキラし通しだ。
ライラはそろそろおねむのようで、カートを降りるとデイビッドに抱っこをせがみうとうとし始めた。
大きな駅で切符を買い求め、構内に入ると中は人と荷物でごった返している。
右へ左へ大忙しで動く人の波に流されないよう塊まっていると、ヴィオラがデイビッドの腕に抱き着いた。
「すごい人ですね!」
「それだけ需要があるんだ。俺達が乗るのは…8番線か。あっちだな…」
荷物とライラとヴィオラを手にモゾモゾ動くデイビッドの後ろを、シェルリアーナを連れたエリックがついて行く。
「後ろ姿が完全にお父さんでウケる。」
「レディをエスコートしてる意識ゼロね!」
8番線へ着くと、そこにはピカピカの蒸気機関車が湯気を立てて停まっていた。
初めて目にする汽車に、ヴィオラもシェルリアーナも感動しているようだ。
「あーっ!あぅーー!!」
「なんだ目が覚めちまったのか?そうこれに乗るんだぞ!?」
ゆったりと座れるコンパートメント席を取り、全員が座ると大きな汽笛の音が空気を震わせた。
「ふぇぇ~~ん!!」
「今度はびっくりしたのか?喜んだり泣いたり忙しい奴め。」
汽笛に驚いて泣き出したライラをあやしながら、ヴィオラ達の方を見ると2人は車窓に張り付いて何も言わずに外の景色を眺めていた。
「…楽しいか?」
「はいっ!これはテレンス先輩がこだわっていたのも頷けます!荷物を運ぶ手段なだけじゃない…こんなに感動的なものだなんて思いもしませんでした!」
「予想以上に速度があるのね!まるで空を飛んでるみたいだわ!」
「喜んでもらえて良かったですねぇ。僕も久しぶりで少しわくわくしてますよ!」
「あわぁ~……」
汽車の走行音だけが響くコンパートメントは静かだが、それぞれ真剣に楽しんでいるようだ。
実はルーチェもこっそり窓に腰掛け、外の様子に目を奪われていた。
「へぇ~、人間ってのは色んなもんを考えつくもんだなぁ。」
「妖精には騒がしすぎやしねぇか?」
「人慣れしてねぇ奴は驚くだろうな。所で…ついさっきお姫様からお呼び出しがあってよ、アンタに大事な物だって預かった。」
「なんだ…?」
トムティットは鏡を通し、移動中も学園とその他の場所へ繋ぎを付けていた。
距離が長くなればなる程運べる物が小さくなり、魔力も余計に使う。
「すげぇ速さで鏡の入り口が離れてく感じ。この先まで行ったら学園には戻れそうにねぇなぁ…」
「そうか、これ一枚でも届けてくれて助かった。」
アリスティアの手紙は分厚く、中には封筒がいくつも入っていた。
ひとつはアーネストから。
内容は、ルミネラ公爵が代替わりし、本人は蟄居したことの報告。次代は弟が継ぎ、若手の後継はまだ選定されていない。そして元生徒会長だったアレックスの容態が回復してきているので、今後再び調査協力を要請する予定だそうだ。
デイビッドの不在中また良からぬことを企まないよう、王家でも目を付けて見張っているので安心してくれ、と書かれているがどこまで大人しくしているかは不明だ。
加えてハルフェン公爵が正式に子息に継がれ、お披露目をしたとか。同世代の中でも一足先に次代後継組から抜けたチャールズの動きにも注意しなくてはならない。
もうひとつはアリスティア本人から。
置き土産のパネトーネが美味しかった事に合わせて、遂に王族として影的存在を手に入れた事が嬉々として綴られている。が、恐らく国家機密だろう。
あるいは、機密の共有をする事でデイビッドと対等になろうとしているのかも知れない。
この手紙は後で燃やそう…とデイビッドはため息をついた。
(パンのついでの報告じゃねぇぞまったく…)
そして最後が、国王からの手紙。
教会関係の中で王家に再度忠誠を誓い、受け入れられた数家が、今後協力者として長年における教会の悪事を公にしてくれるそうだ。
その中で、以前デイビッドに言った聖女について、新たに分かったことが書かれていた。
200年前、ガロ帝国の移住を聞きつけた教会は、何とかしてその技術を奪おうと機会を伺い、装置を運ぶ馬車を襲い、装置の守り人ごと攫って生涯幽閉したそうだ。
守り人は抵抗したが、従わなければ今度こそガロ国民を皆殺しにし、夫を桀にすると脅すとようやく協力する事に同意したと記録されているらしい。
国の民と夫を人質に取られ、どれ程口惜しかった事だろう。
その後、思いがけず子を産み落とし、その子供を遺して先に逝く事が、どれ程辛く心残りだっただろう。
胸糞悪い報告の後には、その子供の行く末が記されていた。
産まれたのは娘で、聖女の子として教会で育てられ、後に当時の第四王子に嫁いでいたと。
そこからは王家の記録を辿り、産まれた姫と王子が降嫁したり他国へ嫁いだりと行く末の追えない者もいたが、中の1人が公爵家へと嫁ぎ、そこから更に子が、孫が、他家へ広がる中、読み進めていたデイビッドの目が止まった。
(ロディリアーニ侯爵家第二子…ランドール伯爵家の嫡男と婚姻…)
ランドール家はヴィオラの生家。
ヴィオラの父方の祖母は確か侯爵家出身だと、どこかで耳にした記憶もある。
(ヴィオラは…本当にエルスラの血を引いてたんだ…)
そこで冷静になると、リリアもムカつくランドール当主も同じ血を引く人間である事を思い出し、しばし思考が停止する。
(少なくとも、エルスラの子は不幸な人生を送ったわけじゃないってことか…)
それが知れただけでも良かったと思う。
しかし、懸念はここでは終わらない。
(ヴィオラが同系の魔力を持ってた理由は分かった…じゃぁ、俺は…?)
デイビッドの出身はデュロックのサウラリース。
デュロックの中でも傍系の、本家とは希薄な存在だ。
もしも、本当にヴィオラがエルスラの生まれ変わりであったなら、魂の行く末を誓った相手は間違ってもデイビッドにはならない。
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