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7代目デュロック辺境伯爵編
先祖
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それからギディオンは、少し寂しそうに手元を見つめながら続けた。
「もうひとつは、私に信用がなかったからだ…ゴブリン如きの話などまともに取り合う人間は、デュロックと言えど外縁の人族にはほとんどおらんかったよ。私を信じ、お前さんを託してくれたのは、この200年の中でハイデルヒェンだけだった。だから私も全力で応えようとしたのだよ。」
偏見さえなければ、生き延びる選択をした者はもう少しいただろう。なんとも哀しい話だ。
「でも、サウラリースの初代は助けたんだろ?」
「無論、あやつはガロの者だったからな。私の弟子でもあった。苦痛に耐え、20歳から50年生きたよ。」
「そんな伸ばせるのか!?」
「極端な例だ。無理をし過ぎて晩年は足が動かなくなり、片目の視力もほとんど失っておった。それでもこの地を守る為、そして見届ける為、魔素を抜く苦痛に耐え抜き、最期は穏やかに逝きおったよ。」
「そっか…」
そしてもうひとつ、どうしても聞いておきたいことがあり、デイビッドは重い口を開いた。
「あとよ…俺の婚約者が…デュロックの初代の奥方の血を引いてることがわかったんだ…」
「なんと!エルスラ様のか?!確かに、身籠られて直ぐに拐かされたからな。なんとお辛い目に遭われたことか…」
「それで…俺の婚約者がその血筋の人間だったって、ついこの前わかったんだ。」
「そんな奇跡が起きたのか!それは嬉しいことではないか!?なぁ?!」
「まぁ、結果的にそう言えるのかも知れねぇけど…前に言ってたろ?魂の約束…みたいなの…」
「ああ、魂の解放された行く末にもまた逢う事を約束する、あの誓いの事か?」
「もし、約束した魂が巡り会ったら、どうなるんだ?」
「どうなる…とは?」
「お互い直ぐにわかって、惹かれ合ったりすんのかな…?」
「さぁな?なんせ時空を超えた先の話だ。その後は巡り合った当人達にしか分からんよ…」
「…なんだそれ?生まれ変わるんじゃねぇの?」
「人族は知らんか?ガロには古くから、この世には時の壁を越えて数多の世界が存在しておるという教えがあってな。死後は生まれた世界を離れ、また新たな世界に生まれ直すと言われておる。その行く末にまた巡り逢いまみえんと約束するのだよ。」
「あ、この世界での話じゃねぇのか!」
「特に不幸な目に遭い、引き裂かれた魂の慰めによく使われる思想だからな。苦しみのあった世界ではなく、穏やかな別の時空で次こそは幸せになりましょうという意味だ。」
「そういうこと…」
なんとなく、同じ世界で生まれ変わり、一目でお互いと分かり惹かれ合ってしまうような想像をしていたデイビッドは、全く違う次元での話に肩透かしを食らった。
(エリックの変な恋愛譚の影響か…?)
ヴィオラも恋愛小説が大好きなので、2人の会話を小耳にしている内に少なからず影響を受けていたらしい。
(なぁんだ…そういうことかぁ…)
もしもヴィオラがエルスラの生まれかわりで、出会うべき相手を見つけてしまったら?
たかが数年にも満たない付き合いのデイビッドなど、簡単に忘れてしまうのではないか…などと、余計な不安に駆られていただけに、変な緊張が解け、少し気が抜けて気持ちが楽になった。
「そうだ、あともう一つ。俺、先祖返りって言われて来たけど、サウラリースはデュロックの初代とは別の養子筋だろ?誰と似てんの?」
「お前さんか?ハハハ!そうだな、サウラリース初代だったアステルにそっくりだよ。」
「それって、さっき言ってた魔力無しの?!どんな奴だったんだ?」
「私の弟子の1人でな。魔法陣の覚えは悪いし、魔法薬の調合も下手で、とにかく手を焼かされた。しかし度胸と腕っ節は誰にも負けなかったな。デュランディオ様が奥方を奪われ傷心の中、サウラリースの立て直しに一役買い、そのまま養子に迎えられた事をそれは喜んでいたよ。ラムダの地で生き抜く魔族の為に尽力し、今のサウラリースの地盤を作った功労者だ。大胆で豪快で、愉快な奴だった…エルスラ様自慢の兄だったなぁ…」
「……え?!」
「知らんかったか?元々サウラリースの初代は、デュランディオ様の義兄だったんだよ。」
「じゃ、俺とヴィオラは元兄妹筋って事か?!」
「いや、確か妹と血は繋がっていなかったと思ったなぁ…」
「複雑ぅ!!」
「妹思いの良き兄であった…」
なんせ200年も前の、それも戦乱の時代の話だ。
ギディオンも記録はあったかも知れないが、記憶はしていないと言い、結局詳しい話は聞けなかった。
「ちなみに…何族だった…?」
「人族だよ?お前さんと同じ人間だった。本人は竜族か獣人の狼族に生まれたかったと言っておったがな。」
「あ、そう…」
(なんか色々とどうでも良くなってきたな…先祖のしがらみとか、俺には関係ないって事でいいか…)
デイビッドには今を生き、自分の人生を掴み取る方が重要だ。
幸せは向こうからやっては来ない。自分の手で捕まえなくては…
シュクレ生地が焼き上がったら、卵生地を流し込みレモンの薄切りを浮かべて再度オーブンへ。
タルトプディングが焼ける内に、フライパンで薄焼きの生地を焼き、畳んで酒と果実と砂糖を煮詰めたシロップを掛け回し、キャラメリゼして皿に盛る。シェルリアーナなら一気に4~5枚は食べてしまう悪魔のクレープだ。
街で買ってきたベーコンと野菜でスープも作り、肉料理も増やそうと鹿肉を叩いて薄切りにして下味を付け、小麦粉を叩き焼いていく。
「…さっきからお前さん、手際が良すぎんか?私はてっきり商人になったものと思っとったが、料理人にでもなったのか?」
「王都で世話になってる商会でシゴかれて…でも、最近は好きで作ってる内に多少腕も上がった気がする。」
「ほほう。好きで、か?」
「食ってくれる相手と…楽しみだって言ってくれる連中がいて、なんかそれが当たり前になってきて……嬉しい…っていうか…」
「そうかそうか、良かったなぁ。国の外に飛び出さずとも、良い出会いはあったようだ。私も安心した。」
「全部、ヴィオラのおかげだ…」
できた料理を2人が運んで行くと、テーブルの支度を整えたヴィオラとシェルリアーナが、席を用意して待っていた。
「初めまして!デイビッド様の婚約者、ヴィオラ・ローベルと申します。」
「これはご丁寧に!この地の相談役、魔術師のギディオンと申す。これは確かに…エルスラ様の面影をお持ちでおられる…」
「あ…あの、肖像画で見ました。デュロックの最初の当主様の奥様ですよね…?」
「そうだな…しかし、ヴィオラ嬢はもっと柔らかで優しい顔をされておいでだ。改めて、我等がサウラリースへ良くぞお越し下された。」
そこへ冷えた酒を持ってエリックが現れ、シェルリアーナがグラスを持って来た。
「さぁどうぞ!掛けて下さい師匠!」
「せっかく揃ったんですから、乾杯しましょうよ!」
ギディオンを囲み4人が座ると、誰ともなしにグラスを掲げる。
出会いと再会に、未来に、乾杯を。
「…で!結局こうなると!?」
「おつまみ追加!」
「次は辛いの食べたい!」
「ほう!言えば作ってくれるのか!では戸棚に牡蠣の瓶詰めがあるから、軽くバターで炒めてくれんかね!?」
結局キッチンに張り付き、注文を受けることになったデイビッドは、せっせと手を動かしながら楽しげに語り合うギディオン達を横目に見ていた。
「弟子と酒が酌み交わせるとは、こんなに嬉しい事はない!」
「師匠のお弟子さんでしたら大勢いらしたのでしょう?」
「そうだな…しかし、もう長い事取っておらんかったからな。今はシェルリアーナ君とデイビィだけだ。」
「いつ俺が弟子になったんだよ!」
「古語と魔法薬の作り方をまとめて渡してやっただろう?あの時点でお前さんは私のかわいい弟子になったのだよ。」
「かわいい…?」
「まだ8つになったばかりの坊主だったからな。素直ではなかったが、可愛げはあったぞ?」
「見てみたいなぁ…小さい頃のデイビッド様…」
「その辺に写真があったかな?ちと探してみるか?」
「わぁーい!!」
「オイ、やめろジジイ!」
ギディオンが古ぼけた箱を出して来て開けると、中にはたくさんの写真が収められていた。
「これが先代のハイデルヒェンだ。隣がアルテ殿と、2人の間にいるのがデイビィ。これはまだ3歳の頃だな。」
「かわいい!!」
「この時点でもう丸っこいのね。」
「へぇ…この頃はまだ素直そうな顔してますね。」
「ああ、素直で明るくて、ヤンチャもしたが根が優しく、皆に愛され可愛がられておったよ。」
「今は見る影もないわね。」
「捻くれた顔してるなぁ~。」
「うるせぇよ!!」
ギディオンは懐かしそうに写真のデイビッドを撫でながら、もう1枚、今度は目付きの鋭い写真を取り出した。
「これが8歳の時。アデラの王宮へと向かう直前の写真だ。」
「「目が死んでる!!」」
「アデラ行きの船に乗る前に、私の所へ来てくれた時に撮ったものだ。それから直ぐだったなぁ…王宮を抜け出し行方不明になったと聞かされたのは。2年間、無事を祈らぬ日はなかった…」
「こんなに人に迷惑かけて…」
「で、これが2年後港に帰って来た時の写真だ。」
「「顔こっっわ!!」」
「スラムで揉まれた以上に、2年掛けて積み上げた計画を達成目前に邪魔された事に腹を立て、荒れに荒れて手がつけられなかったそうだ。それでも私の所に帰国の挨拶に来てくれた時は本当に嬉しかったよ。」
目に光のない、傷だらけの少年の横顔が、悲壮な世界に飛び込み、成長を遂げた戦士の様に見える。
ヴィオラは子供らしさの欠片もない、それでも幼さの残るデイビッドの姿に、心臓がキュッと痛むような感覚を覚えた。
「もうひとつは、私に信用がなかったからだ…ゴブリン如きの話などまともに取り合う人間は、デュロックと言えど外縁の人族にはほとんどおらんかったよ。私を信じ、お前さんを託してくれたのは、この200年の中でハイデルヒェンだけだった。だから私も全力で応えようとしたのだよ。」
偏見さえなければ、生き延びる選択をした者はもう少しいただろう。なんとも哀しい話だ。
「でも、サウラリースの初代は助けたんだろ?」
「無論、あやつはガロの者だったからな。私の弟子でもあった。苦痛に耐え、20歳から50年生きたよ。」
「そんな伸ばせるのか!?」
「極端な例だ。無理をし過ぎて晩年は足が動かなくなり、片目の視力もほとんど失っておった。それでもこの地を守る為、そして見届ける為、魔素を抜く苦痛に耐え抜き、最期は穏やかに逝きおったよ。」
「そっか…」
そしてもうひとつ、どうしても聞いておきたいことがあり、デイビッドは重い口を開いた。
「あとよ…俺の婚約者が…デュロックの初代の奥方の血を引いてることがわかったんだ…」
「なんと!エルスラ様のか?!確かに、身籠られて直ぐに拐かされたからな。なんとお辛い目に遭われたことか…」
「それで…俺の婚約者がその血筋の人間だったって、ついこの前わかったんだ。」
「そんな奇跡が起きたのか!それは嬉しいことではないか!?なぁ?!」
「まぁ、結果的にそう言えるのかも知れねぇけど…前に言ってたろ?魂の約束…みたいなの…」
「ああ、魂の解放された行く末にもまた逢う事を約束する、あの誓いの事か?」
「もし、約束した魂が巡り会ったら、どうなるんだ?」
「どうなる…とは?」
「お互い直ぐにわかって、惹かれ合ったりすんのかな…?」
「さぁな?なんせ時空を超えた先の話だ。その後は巡り合った当人達にしか分からんよ…」
「…なんだそれ?生まれ変わるんじゃねぇの?」
「人族は知らんか?ガロには古くから、この世には時の壁を越えて数多の世界が存在しておるという教えがあってな。死後は生まれた世界を離れ、また新たな世界に生まれ直すと言われておる。その行く末にまた巡り逢いまみえんと約束するのだよ。」
「あ、この世界での話じゃねぇのか!」
「特に不幸な目に遭い、引き裂かれた魂の慰めによく使われる思想だからな。苦しみのあった世界ではなく、穏やかな別の時空で次こそは幸せになりましょうという意味だ。」
「そういうこと…」
なんとなく、同じ世界で生まれ変わり、一目でお互いと分かり惹かれ合ってしまうような想像をしていたデイビッドは、全く違う次元での話に肩透かしを食らった。
(エリックの変な恋愛譚の影響か…?)
ヴィオラも恋愛小説が大好きなので、2人の会話を小耳にしている内に少なからず影響を受けていたらしい。
(なぁんだ…そういうことかぁ…)
もしもヴィオラがエルスラの生まれかわりで、出会うべき相手を見つけてしまったら?
たかが数年にも満たない付き合いのデイビッドなど、簡単に忘れてしまうのではないか…などと、余計な不安に駆られていただけに、変な緊張が解け、少し気が抜けて気持ちが楽になった。
「そうだ、あともう一つ。俺、先祖返りって言われて来たけど、サウラリースはデュロックの初代とは別の養子筋だろ?誰と似てんの?」
「お前さんか?ハハハ!そうだな、サウラリース初代だったアステルにそっくりだよ。」
「それって、さっき言ってた魔力無しの?!どんな奴だったんだ?」
「私の弟子の1人でな。魔法陣の覚えは悪いし、魔法薬の調合も下手で、とにかく手を焼かされた。しかし度胸と腕っ節は誰にも負けなかったな。デュランディオ様が奥方を奪われ傷心の中、サウラリースの立て直しに一役買い、そのまま養子に迎えられた事をそれは喜んでいたよ。ラムダの地で生き抜く魔族の為に尽力し、今のサウラリースの地盤を作った功労者だ。大胆で豪快で、愉快な奴だった…エルスラ様自慢の兄だったなぁ…」
「……え?!」
「知らんかったか?元々サウラリースの初代は、デュランディオ様の義兄だったんだよ。」
「じゃ、俺とヴィオラは元兄妹筋って事か?!」
「いや、確か妹と血は繋がっていなかったと思ったなぁ…」
「複雑ぅ!!」
「妹思いの良き兄であった…」
なんせ200年も前の、それも戦乱の時代の話だ。
ギディオンも記録はあったかも知れないが、記憶はしていないと言い、結局詳しい話は聞けなかった。
「ちなみに…何族だった…?」
「人族だよ?お前さんと同じ人間だった。本人は竜族か獣人の狼族に生まれたかったと言っておったがな。」
「あ、そう…」
(なんか色々とどうでも良くなってきたな…先祖のしがらみとか、俺には関係ないって事でいいか…)
デイビッドには今を生き、自分の人生を掴み取る方が重要だ。
幸せは向こうからやっては来ない。自分の手で捕まえなくては…
シュクレ生地が焼き上がったら、卵生地を流し込みレモンの薄切りを浮かべて再度オーブンへ。
タルトプディングが焼ける内に、フライパンで薄焼きの生地を焼き、畳んで酒と果実と砂糖を煮詰めたシロップを掛け回し、キャラメリゼして皿に盛る。シェルリアーナなら一気に4~5枚は食べてしまう悪魔のクレープだ。
街で買ってきたベーコンと野菜でスープも作り、肉料理も増やそうと鹿肉を叩いて薄切りにして下味を付け、小麦粉を叩き焼いていく。
「…さっきからお前さん、手際が良すぎんか?私はてっきり商人になったものと思っとったが、料理人にでもなったのか?」
「王都で世話になってる商会でシゴかれて…でも、最近は好きで作ってる内に多少腕も上がった気がする。」
「ほほう。好きで、か?」
「食ってくれる相手と…楽しみだって言ってくれる連中がいて、なんかそれが当たり前になってきて……嬉しい…っていうか…」
「そうかそうか、良かったなぁ。国の外に飛び出さずとも、良い出会いはあったようだ。私も安心した。」
「全部、ヴィオラのおかげだ…」
できた料理を2人が運んで行くと、テーブルの支度を整えたヴィオラとシェルリアーナが、席を用意して待っていた。
「初めまして!デイビッド様の婚約者、ヴィオラ・ローベルと申します。」
「これはご丁寧に!この地の相談役、魔術師のギディオンと申す。これは確かに…エルスラ様の面影をお持ちでおられる…」
「あ…あの、肖像画で見ました。デュロックの最初の当主様の奥様ですよね…?」
「そうだな…しかし、ヴィオラ嬢はもっと柔らかで優しい顔をされておいでだ。改めて、我等がサウラリースへ良くぞお越し下された。」
そこへ冷えた酒を持ってエリックが現れ、シェルリアーナがグラスを持って来た。
「さぁどうぞ!掛けて下さい師匠!」
「せっかく揃ったんですから、乾杯しましょうよ!」
ギディオンを囲み4人が座ると、誰ともなしにグラスを掲げる。
出会いと再会に、未来に、乾杯を。
「…で!結局こうなると!?」
「おつまみ追加!」
「次は辛いの食べたい!」
「ほう!言えば作ってくれるのか!では戸棚に牡蠣の瓶詰めがあるから、軽くバターで炒めてくれんかね!?」
結局キッチンに張り付き、注文を受けることになったデイビッドは、せっせと手を動かしながら楽しげに語り合うギディオン達を横目に見ていた。
「弟子と酒が酌み交わせるとは、こんなに嬉しい事はない!」
「師匠のお弟子さんでしたら大勢いらしたのでしょう?」
「そうだな…しかし、もう長い事取っておらんかったからな。今はシェルリアーナ君とデイビィだけだ。」
「いつ俺が弟子になったんだよ!」
「古語と魔法薬の作り方をまとめて渡してやっただろう?あの時点でお前さんは私のかわいい弟子になったのだよ。」
「かわいい…?」
「まだ8つになったばかりの坊主だったからな。素直ではなかったが、可愛げはあったぞ?」
「見てみたいなぁ…小さい頃のデイビッド様…」
「その辺に写真があったかな?ちと探してみるか?」
「わぁーい!!」
「オイ、やめろジジイ!」
ギディオンが古ぼけた箱を出して来て開けると、中にはたくさんの写真が収められていた。
「これが先代のハイデルヒェンだ。隣がアルテ殿と、2人の間にいるのがデイビィ。これはまだ3歳の頃だな。」
「かわいい!!」
「この時点でもう丸っこいのね。」
「へぇ…この頃はまだ素直そうな顔してますね。」
「ああ、素直で明るくて、ヤンチャもしたが根が優しく、皆に愛され可愛がられておったよ。」
「今は見る影もないわね。」
「捻くれた顔してるなぁ~。」
「うるせぇよ!!」
ギディオンは懐かしそうに写真のデイビッドを撫でながら、もう1枚、今度は目付きの鋭い写真を取り出した。
「これが8歳の時。アデラの王宮へと向かう直前の写真だ。」
「「目が死んでる!!」」
「アデラ行きの船に乗る前に、私の所へ来てくれた時に撮ったものだ。それから直ぐだったなぁ…王宮を抜け出し行方不明になったと聞かされたのは。2年間、無事を祈らぬ日はなかった…」
「こんなに人に迷惑かけて…」
「で、これが2年後港に帰って来た時の写真だ。」
「「顔こっっわ!!」」
「スラムで揉まれた以上に、2年掛けて積み上げた計画を達成目前に邪魔された事に腹を立て、荒れに荒れて手がつけられなかったそうだ。それでも私の所に帰国の挨拶に来てくれた時は本当に嬉しかったよ。」
目に光のない、傷だらけの少年の横顔が、悲壮な世界に飛び込み、成長を遂げた戦士の様に見える。
ヴィオラは子供らしさの欠片もない、それでも幼さの残るデイビッドの姿に、心臓がキュッと痛むような感覚を覚えた。
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