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7代目デュロック辺境伯爵編
駅での出会い
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「汽車を?!」
「しかし、公爵家がなんと言うか…」
「税はどうなる?走る度赤字になるなど、以ての外だぞ?」
汽車を通すには今まで難題が山積みで、国内でもその計画は何度も持ち上がっては、机上の空論として立ち消えを繰り返して来た。
しかし、今デイビッドの手持ちのカードには、勝機に繋がる札が揃っている。
「いきなり駅を構えた本格的な物は必要ありません。まずは荷物を運ぶだけの実用的な貨車路線を通すのですよ。そして、祭日や特別な日に人を乗せられるよう客車を走らせる。要は実務用と遊覧用に分けて国内に宣伝をするんです。こんなにも素晴らしい乗り物があると広く国民に伝われば、国も貴族も動かざるを得なくなります。管理を陸運ギルドに任せて拠点を広げ、路線に合わせて陸路を整備すれば、各地との連携も取りやすくなりギルドも潤います。運河の港への人の出入りも盛んになれば、市場も賑わい、船の利用も更に増えるでしょう。運輸だけではなく汽車そのものを目的とする集客も目論めるものと考えています。」
喋り切ってから、出しゃばり過ぎたかと身構えていると、先程の老人が拍手を送って来た。
「いや!実に素晴らしい案ではないか!!如何ですかな総領、20年前、ワシが無謀にも理想だけを描いた絵空事を、コヤツは確実に手の届く計画に練り上げて来おった!私は賛成だ!この計画にならば多少の無理にも応えよう!どうだね、諸君?!」
声高に年甲斐も無くはしゃぐこの老人こそ、ラムダ唯一の機関車技術の保持者であり、アレルの街の総大将にしてデイビッドの祖父の弟、ジェンキンス・アレル・デュロックである。
技術者が一番乗りに承諾してしまったので、あとの者はそれに続くより他はない。
そもそも汽車路線の開通は現国王の悲願。これはその大きな前進となる計画だ。
総領は扇で隠した口元を満足そうに引き上げた。
「よろしい。ではデイビッド、今日明日中にデュロック各地を回り、路線の長所と短所を確認した後、今述べた計画を書面にして提出なさい。」
「え!?」
「それから今日の午後2時、隣のロゼ子爵領へ必ずいらっしゃい。」
「何か御用ですか…?」
「カトレアに魔導伝書を送ったら、現当主がロゼの別荘地に他人名義で隠れていた事がわかったので捕まえてもらいました。大事な話合いをするから立ち合いなさい。」
「はい…」
デイビッドはその場で汽車の優待乗車券を渡され、1人だけ先に会議の場を出されてしまった。
(余計なこと…言ったかな…)
屋敷を出た瞬間、総領の用意した馬車に乗せられ、デイビッドは駅に向かわされた。
「デイビッドがいないだと!?」
「はい、ディオニスへ向かわれたそうですが、ご連絡の行き違いですか?」
サウラリースの入門管理局に現れたジョエルは、デイビッドが既にディオニスへ向かったと知らされ、悪態を吐いていた。
「忌々しい豚野郎め!お祖母様にゴマスリでもするつもりか!?この私がわざわざ出迎えに来てやったと言うのに…」
しかし、ジョエルはいいことを思いついたと言わんばかりに、今度は標的を変えヴィオラを呼び出した。
「婚約者に置いていかれては可哀想だ。せっかく来たご令嬢に、我等がデュロック領をもっと楽しんで頂きたい。お呼びしてくれ。」
その知らせを受けたヴィオラは、丁度ギディオンの家で朝食を終え、今日はサウラリースの街を案内してもらうつもりで、ウキウキとアルテミシアの家に到着したところだった。
「断りたい…けど、後で何か言われるのも嫌なんですよね…」
「お受けします?」
「エリック様も来て下さい。」
「ハァ~…今日こそシェリィとデートのつもりが、とんだ邪魔が入ったものですね。」
「いいじゃない。私は師匠と魔術式の構築についてとことん詰める予定だから、邪魔しないで。」
「流石に3日放置は妬きますよ!?」
「何言ってるのよ!アンタとはこれから嫌ってほど時間があるんだから、少しくらい譲りなさいよ!」
「仕方ない…ではヴィオラ様、僭越ながら僕がエスコート致します。」
「気をつけてねヴィオラ!なんかあったらコイツ囮にして逃げるのよ?!」
「僕の扱いがだんだん誰かさんに似てきてません!?」
アルテミシアは今日もパンタスを共に、ライラと街で買い物の予定だそうだ。
ライラと過ごす間に、アルテミシアは日に日に肌艶が良くなり若返っているように見える。
赤ん坊の力とは凄いものだ。
嫌々重い足を引きずるようにサウラリースの門を出ると、ヴィオラを目にしたジョエルが跪いて手を差し伸べて来た。
「レディ、どうかそのお手を取る事をお許し下さい!」
「結構です。1人で歩けますわ。」
スッとその手を無視して、ヴィオラはその後ろで待つ馬車へ先に乗り込んでしまった。
慌てて追いかけて来たジョエルが向かいに座ったが、すかさず扇子を取り出し、再び壁を作ってしまう。
「先日は身内共が大変失礼致しました。今日はお詫びも兼ねて、デュロック随一の高級繁華街“メル”へお連れ致します!」
「そうですか。」
「きっと気に入る店が見つかりますよ!?ヴィオラ嬢、ここは行楽の都デュロックです。心を閉ざしていてはつまらない、もっと楽しんで下さい!」
「はぁ…」
始終ジョエルの話は止まらず、駅まで連れて来られたヴィオラは仕方なく指示に従った。
しかし、ごった返す人混みの中で迷子になっては大変と、エリックにぴったり張り付いていると、ふと、中央のベンチに見慣れた背中を見つけ、思わず走り出した。
「デイビッド様!?」
「ん?あれ?ヴィオラ!なんでここに!?」
そこには難しい顔でノートに何かを書き付けながら、一般車両の待ち合い席で汽車を待つデイビッドの姿があった。
口に何か棒の様な物を咥え、気怠げに付いた頬杖から、ヴィオラを見るや直ぐに顔を上げた。
「デュロックの本家の方に呼ばれたので、少し出て来ます。いいですか…?」
「アイツ等も懲りねぇなぁ…1人にして悪い、エリックは?」
「一緒にいます!」
「で、今離れて来ちまったのか…気をつけろよ?何かあれば直ぐに逃げるんたぞ?」
「はい!デイビッド様もお出かけですか?」
「ああ…おエライさんから出された課題でよ。駅や車両について工夫点や問題点を挙げろって、ごめん…直ぐに帰れなくて…」
「タバコ吸ってるのかと思いました。」
「話し相手もいねぇし、口寂しいからなんとなく買っただけだよ。」
デイビッドは口に咥えていた薄水色の棒付き飴を離すと、ポケットの残りをヴィオラに見せた。
「私も食べたいです。」
「好きなの持ってけよ。」
「私これがいい。」
「あ!ちょ、俺の食いかけだソレは!!」
「私もそれがいい…」
「同じのやるから!」
油断も隙もないヴィオラに飴を2~3本渡すと、人が大勢乗った客車がデイビッドの前に止まった。
「悪い…行って来る。」
まるで本当の別れ際の様な無理に作った笑顔で、デイビッドは車両に乗り込み、行ってしまった。
その後ろからエリックが人を掻き分けて現れる。
「ヴィオラ様!どこ行っちゃったかと思いましたよ!」
「ごめんなさい、今デイビッド様がいたもので。」
「え?なんで?だったら一緒に来たっていいのに!」
「お仕事ですって。邪魔しちゃいけないわ。」
そこへジョエルが走って来て、ここは平民の乗り場だからと貴族専用車両なるものの方へヴィオラを連れて行き、またひとしきり自慢話を垂れ出した。
(つまんないなぁ…)
ヴィオラもエリックが、ダラダラ喋るだけのジョエルに辟易していると、停車した駅で開けた窓からこれまた見知った顔を見つけて驚いた。
「あれ?もしかして、ミス・ヴィオラ?!」
「わぁ!テレンス先輩!?セルジオ様も!お2人共、奇遇ですね!」
ヴィオラは立ち上がると、2人の乗り込んだコンパートメントの方へサッと行ってしまった。
「学園の友人とお会いしたので、少々失礼します。」
「え?!そんな、ヴィオラ嬢!僕にもぜひ紹介して…」
「失礼します!」
ヴィオラに続いて頭を下げたエリックは、遮るように扉を閉め、嫌がらせに少しの間ドアが開かないよう軽い魔法を掛けて行ってしまう。
後ろでガチャガチャやっているジョエルをいい気味だと思いながらテレンス達の席を探し出すと、丁度乗り口のステップからこちらへやって来るところだった。
「誰かと一緒じゃなかったの?」
「いえ、知らない人です。」
「ホントか!?」
「珍しいね、出先でデュロック先生と一緒じゃないなんて。」
「お家のお仕事で忙しいんですよ。その間に街を見るのもいいかと思って。」
「それにしても驚きました。お2人も観光ですか?」
「いいや、汽車の技術者から返事が来たから、これから向かうところなんだ。」
「でも、まだ時間もあるし、その前に少し街の様子も見てみたいねって話になって…」
「そしたら街より汽車に乗ってる方が楽しくて!ちょっと折り返しでもう一周りしたいなぁって!」
「楽しいですよね!私も窓の外を眺めているだけであっという間に時間が経ってしまうんです!」
「それにしても、良くエルムの王族が一人歩きを許可されましたね。」
「外に出たからには王族ではなく、他国の客として振る舞えと姉上からも言われてますし、なにより(自国では厄介者認定されて派閥は立ち消え姉に目を付けられている)“僕”ですから…」
相変わらず自虐気味のセルジオは、同じく共の一人もいないテレンスと2人、デュロックで魔導機関車の話を聞きに来たそうだ。
「以前は従者やメイドなんかをぞろぞろ連れて歩くのが普通だったんだけど、最近なんだかそれが鬱陶しくなってきちゃって…」
「ちゃんと護衛がいらないように護身具なんかも身に着けてるし、いざとなったら逃げる為の魔法なんかも展開できるようにしてあるから、大丈夫!」
2人は少し裕福な家の子息程度の格好で、どちらを取っても侯爵子息と王族には見えない姿をしている。
セルジオが持って来た伊達メガネには、認識阻害魔法もかかっているそうだ。
「しかし、公爵家がなんと言うか…」
「税はどうなる?走る度赤字になるなど、以ての外だぞ?」
汽車を通すには今まで難題が山積みで、国内でもその計画は何度も持ち上がっては、机上の空論として立ち消えを繰り返して来た。
しかし、今デイビッドの手持ちのカードには、勝機に繋がる札が揃っている。
「いきなり駅を構えた本格的な物は必要ありません。まずは荷物を運ぶだけの実用的な貨車路線を通すのですよ。そして、祭日や特別な日に人を乗せられるよう客車を走らせる。要は実務用と遊覧用に分けて国内に宣伝をするんです。こんなにも素晴らしい乗り物があると広く国民に伝われば、国も貴族も動かざるを得なくなります。管理を陸運ギルドに任せて拠点を広げ、路線に合わせて陸路を整備すれば、各地との連携も取りやすくなりギルドも潤います。運河の港への人の出入りも盛んになれば、市場も賑わい、船の利用も更に増えるでしょう。運輸だけではなく汽車そのものを目的とする集客も目論めるものと考えています。」
喋り切ってから、出しゃばり過ぎたかと身構えていると、先程の老人が拍手を送って来た。
「いや!実に素晴らしい案ではないか!!如何ですかな総領、20年前、ワシが無謀にも理想だけを描いた絵空事を、コヤツは確実に手の届く計画に練り上げて来おった!私は賛成だ!この計画にならば多少の無理にも応えよう!どうだね、諸君?!」
声高に年甲斐も無くはしゃぐこの老人こそ、ラムダ唯一の機関車技術の保持者であり、アレルの街の総大将にしてデイビッドの祖父の弟、ジェンキンス・アレル・デュロックである。
技術者が一番乗りに承諾してしまったので、あとの者はそれに続くより他はない。
そもそも汽車路線の開通は現国王の悲願。これはその大きな前進となる計画だ。
総領は扇で隠した口元を満足そうに引き上げた。
「よろしい。ではデイビッド、今日明日中にデュロック各地を回り、路線の長所と短所を確認した後、今述べた計画を書面にして提出なさい。」
「え!?」
「それから今日の午後2時、隣のロゼ子爵領へ必ずいらっしゃい。」
「何か御用ですか…?」
「カトレアに魔導伝書を送ったら、現当主がロゼの別荘地に他人名義で隠れていた事がわかったので捕まえてもらいました。大事な話合いをするから立ち合いなさい。」
「はい…」
デイビッドはその場で汽車の優待乗車券を渡され、1人だけ先に会議の場を出されてしまった。
(余計なこと…言ったかな…)
屋敷を出た瞬間、総領の用意した馬車に乗せられ、デイビッドは駅に向かわされた。
「デイビッドがいないだと!?」
「はい、ディオニスへ向かわれたそうですが、ご連絡の行き違いですか?」
サウラリースの入門管理局に現れたジョエルは、デイビッドが既にディオニスへ向かったと知らされ、悪態を吐いていた。
「忌々しい豚野郎め!お祖母様にゴマスリでもするつもりか!?この私がわざわざ出迎えに来てやったと言うのに…」
しかし、ジョエルはいいことを思いついたと言わんばかりに、今度は標的を変えヴィオラを呼び出した。
「婚約者に置いていかれては可哀想だ。せっかく来たご令嬢に、我等がデュロック領をもっと楽しんで頂きたい。お呼びしてくれ。」
その知らせを受けたヴィオラは、丁度ギディオンの家で朝食を終え、今日はサウラリースの街を案内してもらうつもりで、ウキウキとアルテミシアの家に到着したところだった。
「断りたい…けど、後で何か言われるのも嫌なんですよね…」
「お受けします?」
「エリック様も来て下さい。」
「ハァ~…今日こそシェリィとデートのつもりが、とんだ邪魔が入ったものですね。」
「いいじゃない。私は師匠と魔術式の構築についてとことん詰める予定だから、邪魔しないで。」
「流石に3日放置は妬きますよ!?」
「何言ってるのよ!アンタとはこれから嫌ってほど時間があるんだから、少しくらい譲りなさいよ!」
「仕方ない…ではヴィオラ様、僭越ながら僕がエスコート致します。」
「気をつけてねヴィオラ!なんかあったらコイツ囮にして逃げるのよ?!」
「僕の扱いがだんだん誰かさんに似てきてません!?」
アルテミシアは今日もパンタスを共に、ライラと街で買い物の予定だそうだ。
ライラと過ごす間に、アルテミシアは日に日に肌艶が良くなり若返っているように見える。
赤ん坊の力とは凄いものだ。
嫌々重い足を引きずるようにサウラリースの門を出ると、ヴィオラを目にしたジョエルが跪いて手を差し伸べて来た。
「レディ、どうかそのお手を取る事をお許し下さい!」
「結構です。1人で歩けますわ。」
スッとその手を無視して、ヴィオラはその後ろで待つ馬車へ先に乗り込んでしまった。
慌てて追いかけて来たジョエルが向かいに座ったが、すかさず扇子を取り出し、再び壁を作ってしまう。
「先日は身内共が大変失礼致しました。今日はお詫びも兼ねて、デュロック随一の高級繁華街“メル”へお連れ致します!」
「そうですか。」
「きっと気に入る店が見つかりますよ!?ヴィオラ嬢、ここは行楽の都デュロックです。心を閉ざしていてはつまらない、もっと楽しんで下さい!」
「はぁ…」
始終ジョエルの話は止まらず、駅まで連れて来られたヴィオラは仕方なく指示に従った。
しかし、ごった返す人混みの中で迷子になっては大変と、エリックにぴったり張り付いていると、ふと、中央のベンチに見慣れた背中を見つけ、思わず走り出した。
「デイビッド様!?」
「ん?あれ?ヴィオラ!なんでここに!?」
そこには難しい顔でノートに何かを書き付けながら、一般車両の待ち合い席で汽車を待つデイビッドの姿があった。
口に何か棒の様な物を咥え、気怠げに付いた頬杖から、ヴィオラを見るや直ぐに顔を上げた。
「デュロックの本家の方に呼ばれたので、少し出て来ます。いいですか…?」
「アイツ等も懲りねぇなぁ…1人にして悪い、エリックは?」
「一緒にいます!」
「で、今離れて来ちまったのか…気をつけろよ?何かあれば直ぐに逃げるんたぞ?」
「はい!デイビッド様もお出かけですか?」
「ああ…おエライさんから出された課題でよ。駅や車両について工夫点や問題点を挙げろって、ごめん…直ぐに帰れなくて…」
「タバコ吸ってるのかと思いました。」
「話し相手もいねぇし、口寂しいからなんとなく買っただけだよ。」
デイビッドは口に咥えていた薄水色の棒付き飴を離すと、ポケットの残りをヴィオラに見せた。
「私も食べたいです。」
「好きなの持ってけよ。」
「私これがいい。」
「あ!ちょ、俺の食いかけだソレは!!」
「私もそれがいい…」
「同じのやるから!」
油断も隙もないヴィオラに飴を2~3本渡すと、人が大勢乗った客車がデイビッドの前に止まった。
「悪い…行って来る。」
まるで本当の別れ際の様な無理に作った笑顔で、デイビッドは車両に乗り込み、行ってしまった。
その後ろからエリックが人を掻き分けて現れる。
「ヴィオラ様!どこ行っちゃったかと思いましたよ!」
「ごめんなさい、今デイビッド様がいたもので。」
「え?なんで?だったら一緒に来たっていいのに!」
「お仕事ですって。邪魔しちゃいけないわ。」
そこへジョエルが走って来て、ここは平民の乗り場だからと貴族専用車両なるものの方へヴィオラを連れて行き、またひとしきり自慢話を垂れ出した。
(つまんないなぁ…)
ヴィオラもエリックが、ダラダラ喋るだけのジョエルに辟易していると、停車した駅で開けた窓からこれまた見知った顔を見つけて驚いた。
「あれ?もしかして、ミス・ヴィオラ?!」
「わぁ!テレンス先輩!?セルジオ様も!お2人共、奇遇ですね!」
ヴィオラは立ち上がると、2人の乗り込んだコンパートメントの方へサッと行ってしまった。
「学園の友人とお会いしたので、少々失礼します。」
「え?!そんな、ヴィオラ嬢!僕にもぜひ紹介して…」
「失礼します!」
ヴィオラに続いて頭を下げたエリックは、遮るように扉を閉め、嫌がらせに少しの間ドアが開かないよう軽い魔法を掛けて行ってしまう。
後ろでガチャガチャやっているジョエルをいい気味だと思いながらテレンス達の席を探し出すと、丁度乗り口のステップからこちらへやって来るところだった。
「誰かと一緒じゃなかったの?」
「いえ、知らない人です。」
「ホントか!?」
「珍しいね、出先でデュロック先生と一緒じゃないなんて。」
「お家のお仕事で忙しいんですよ。その間に街を見るのもいいかと思って。」
「それにしても驚きました。お2人も観光ですか?」
「いいや、汽車の技術者から返事が来たから、これから向かうところなんだ。」
「でも、まだ時間もあるし、その前に少し街の様子も見てみたいねって話になって…」
「そしたら街より汽車に乗ってる方が楽しくて!ちょっと折り返しでもう一周りしたいなぁって!」
「楽しいですよね!私も窓の外を眺めているだけであっという間に時間が経ってしまうんです!」
「それにしても、良くエルムの王族が一人歩きを許可されましたね。」
「外に出たからには王族ではなく、他国の客として振る舞えと姉上からも言われてますし、なにより(自国では厄介者認定されて派閥は立ち消え姉に目を付けられている)“僕”ですから…」
相変わらず自虐気味のセルジオは、同じく共の一人もいないテレンスと2人、デュロックで魔導機関車の話を聞きに来たそうだ。
「以前は従者やメイドなんかをぞろぞろ連れて歩くのが普通だったんだけど、最近なんだかそれが鬱陶しくなってきちゃって…」
「ちゃんと護衛がいらないように護身具なんかも身に着けてるし、いざとなったら逃げる為の魔法なんかも展開できるようにしてあるから、大丈夫!」
2人は少し裕福な家の子息程度の格好で、どちらを取っても侯爵子息と王族には見えない姿をしている。
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