黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚辺境伯爵令息

まさかの事態

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ヴィオラが、ランドール家で家庭教師から授業を受けていたのはほんの3ヶ月程度。
その後は妹リリアの侍女の真似事をさせられていたそうだ。

リリアは、事ある毎に言いがかりのような罪をでっち上げ、母親に泣きついた。
その度、罰として鞭で打たれ、冬の地下室や夏の屋根裏に閉じ込められた。

「それでも、姉はあの子を家に縛り付けた!何度も養子にしてくれと頼んだのに…」

母親としてせめてもの情だとか言っていたそうだが、そのくせあの夜会では大衆の面前で簡単に絶縁を宣言した。
恐らく貴族女性として使い物にならなくなったと思われたのだろう。

「まぁ、そのおかげで私はあの子を正式に、娘として引き取ることができましたがね…」

「では、彼女…ヴィオラ令嬢はローベル子爵の元にいらっしゃると?!」

「はい!あの夜、王太子殿下に呼ばれ、その場で養子とする手続きを済ませて頂きました!」

本来なら何日もかかる手続きを寸の間で終わらせるとは。

(あぁ、アイツも仕事したんだな…)

少し感心しながら、デイビッドは子爵に笑いかけた。

「それはおめでとうございます!ご令嬢のお加減はいかがですか?!」

「身体より、精神が疲れ切ってしまったようで、今は眠っております。頃合いを見て領地へ返してやりたいのですが…学園をどうしようかと…」

貴族である以上、学園へは通う義務がある。
しかし今の彼女の状態では、周囲の目や噂もある中、学園になど通えるだろうか。
更に苦しめてしまうだけでは…と、子爵は憔悴しきりだった。

デイビッドも、どうしたものかと考えていると、デュロック伯爵がとても良い笑顔でデイビッドの肩をぽんと叩いた。

「それならご安心下さい!私の息子がお守りしますので!」

「は?!!!」

「デイビッド殿が…?」

「そうですとも!実は学園からぜひ講師にと、私に誘いが掛かっておりまして、それを息子にやらせようと思います。研究室をひとつ頂く予定でしたので、授業後はそこへいらっしゃれば良いかと!」

「な?!未婚の貴族令嬢が男と一緒はマズイだろ!!」

「だったら婚約者として過ごせばいい。それならなんの不思議もない。」

「摩訶不思議だらけだろ?!」

「なんと…あの子の事をそこまで考えて下さっていたとは…」

「いや…その…子爵、これは…」

「子爵としてはいかがだろう?見てくれはコレだが、中身は保証できる息子だが?!」

「ああ!なんと勿体ないお話でしょう!!デイビッド殿に勝る貴族子息がこの国に居ようものか!なんともありがたいご提案です!!」

「ほ…本人の意思は?!令嬢の承諾も必要だろう!?こんなめちゃくちゃな口約束で婚約が決まるなんて…」

「なら、ご令嬢の意思も聞くとして、お嫌のようなら別の理由を探そう。重要なのは学園内に味方と居場所を作ることだ。」

「デュロック伯爵…本当に…本当にありがとうございます!デイビッド殿、娘をよろしくお願いします!」

「まだ決まったワケではないですが???」

涙目の子爵は、デイビッドの両手をがっちりつかみ、何度も礼を述べて帰って行った。


その後、子爵を見送り部屋に戻ったデイビッドは、父親を睨みつけた。

「おい!親父どういうつもりだ!?」

「どうもこうも、お前がきちんと相手を見つけて来ないからだろう?それに、中途半端に助けたレディを他人に押し付けて逃げるのは…ちょっと男として情けなくないか?」

「親父は娘を豚に攫われて何とも思わないのか?!」

「豚には豚の言い分もあるだろうに。嫌がる相手を力尽くで攫ったならともかく、助けに入ったなら話くらい聞くものさ。」

「貴族令嬢が、醜聞まみれでこの先幸せになれると思うか?」

「だから!お前が幸せにしてやれば良いじゃないか?!目立ちたく無いからと!王太子殿下に色々押し付けているのは知ってるぞ?!今回くらいは自分のしでかしたことに最後まで責任を持つことだな!ハッハッハ!!」

笑いながら何処かへ行こうとする父親を、デイビッドは引きずり戻して話を続けた。

「まだ話は終わってない!!なんだ?あの話?!学園の講師だと?!」

「ああ、学園長から領地経営と、農林水産の品質向上のための講義を頼まれていたんだ。当主の仕事が忙しいと断わっていたが、お前が代わってくれるならありがたい!」

「引き受けるなんて一言も言ってねぇよ??!!」

「だが、子爵のご令嬢と婚約したら必要な立場だぞ?まぁ、話が付き次第上手くまとめてやるから、お前は安心していなさい!」

「何も安心出来ねぇが!?」

「お前ももう18だろう?ふらふら歩き回るのもいい加減にして、足元を固めて置かにゃなるまい。いつまでも押し付け先があるとは思わん事だ。自分で拾った種は自分で育てて実らせなさい!ハッハッハ!!!」

「言いたいことだけ言ってどっか行くなー!!」

何も解決しないまま、デュロック伯爵は止めるデイビッドを振り切り、馬車に乗って帰って行った。
残されたデイビッドは珍しく疲れて見えたそうだ。

「相変わらず自由な方ですね旦那様は。」

「エリック、お前は知らないだろう。自由といえば聞こえはいいがな、他人を振り回すこと厄介この上ないぞ?!」

「で?どうなさるんですか?」

「何が??」

「婚約の話ですよ。もしこのままご令嬢に気に入られて承諾されたら、デイビッド様もついに婚約なさるんですよね?」

「賭けてもいい!そんな未来は来ない!!」

「でもご令嬢を助けたのはデイビッド様でしょう?責任取りましょうよ。男らしくもない。知ってますよ?!王太子宛に令嬢に渡すよう、山のような贈り物を届けたとか。」

「好感度欲しさにじゃない!真剣に心配したんだよ!!」

「じゃ、それこそ責任取ればいいのに…」

「この!!容姿で!!頷いてくれる女がいるか?!お前も忘れたわけじゃないだろう?!婚約の申し込み48件!内、見合いまで進んだのが12件!8件はすっぽかされて、残り4件は泣きながら婚約できないと叫ばれた!!もう女はうんざりなんだよ!!」

「かわいそうに…偏見ばかり強くなってしまわれて…」

ふるいにかけられた話も、出戻りの厄介払いや、援助目的で身売り同然に娘を押し付けたり、籍は入れてやるから顔は合わせず金だけ寄越せという、とんでも案件ばかりで気が滅入ったそうだ。

あまりに酷い家は令嬢を逃がしてやったり、真に困窮しての申し出は支援や援助を承諾したりと、ややこしい事もたくさんあった。

女嫌いなのではない。
既に女性そのものと関わることに、何もかも諦めているのだ。

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