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黒豚特別非常勤講師
波乱の幕開け
「素晴らしい授業でした、デイビッド先生!」
学園長がにこやかに拍手をすると、他の教師達もデイビッドの側へ寄ってきた。
「学ぶ事の本質を捉えた斬新な講義でした。」
「けっこうな数の生徒から反感は買ったと思うけどなぁ…」
「本人が選んだ事なら良いではないですか?各々が必要とする学びの時間となった事でしょう。学ぶ事の意義を見出す事もまた勉強です。」
「他の先生方も…俺のせいで授業に支障が出たら申し訳ない…」
「何を仰る。そもそもデイビッド殿は講師であり、教師ではないのですから、生徒を師事し導くのは我々の役目です。しかし驚きました。今日の一コマだけで領地の産業に革命が起きますよ?!」
「そりゃ大袈裟な…」
そのうち、昼食のため移動する生徒で廊下が賑わったので、デイビッドは教師達と離れ自室へ戻って行った。
「おーいエリック戻ったぞ?!初日にしちゃ手応え良くてなぁ、次も楽しみ…って見たことないエリックがいる…」
デイビッドの視線の先には、派手な模様の部屋着でカウチソファに寝そべり、雑誌を読みながらサンドイッチを貪っているエリックがいた。
「家でもここまで酷いのは見たことなかった…」
「オフです!デュロック家の侍従でもなく、講師でもない!今の僕は完全にオフなのです!」
「しかも俺の塩漬け豚と今朝焼いたパンと昼用のサラダ食ってる…」
「仕方ないですおいしいんで!食堂の百倍おいしいんで!」
「あと、熟成中だったソーセージも遠慮なしに食ってる…」
「これめっちゃ美味しいです!売りに出さないんですか?」
「屑肉の寄せ集めだから、肉の種類も鮮度もバラバラで流石に難しいなぁ。ってそれは俺も楽しみだったのに!サンドイッチも卵たっぷり豪勢に作ったもんだなぁオイ!」
「僕は明後日まで受け持ちの授業無いんで!今日はもうオフにしました!」
「自室でやれよ!?」
「イヤです!こっちの方が快適なので!!」
「にしてもなんだ?その部屋着…」
「着心地が一番良いヤツです!」
デイビッドはエリックの着ている服を見て、人前に出すには抵抗のある、ちょっとアレなセンスの柄に、珍しく戸惑った。
「まぁ…好きにしてろ…俺は自分の飯作って食うから…」
「僕が言うのもなんですが、使用人のこの態度を見てもなんも言わないデイビッド様って、やっぱりちょっと変ですよ?!」
「変な服着た奴が語る変とは??!」
言いたい事も思う事も山程飲み込んで、デイビッドは外に出ると昨日作った丸窯に火を入れた。
捨ててあった足の折れた椅子や机を薪にして、火力を調節するとあっという間に窯が熱くなる。
そこへ昼前に仕込んだ大きなパイ皿と、丸鶏を並べてじっくり焼いていく。
先に焼けたコテージパイを取り分けていると、いつの間にかエリックが隣に立っていた。
「うわぁ!じゃが芋が甘いですね!クリーミーでチーズと下のミートソースとも良く合います!」
「出てくんなその服で!しかもまだ食うのか?!」
「ローストチキンにありつくまでへばりついてやる…」
デイビッドは、丸窯の前に座り込んだエリックに竈の火を任せ、薪の追加を拾いに植え込みの外へ出た。
反対側は騎士科の演習場らしく、木剣のかち合う音がまだ聞こえていた。
植え込みと壁の隙間を覗くと、思った通り、壊れた練習用の武器がゴロゴロ捨ててある。
拾えるだけ拾って戻ろうとすると、誰かに声をかけられた。
「おい!そこ、なにをしてる?!」
「ああ、すまん。邪魔したか?」
「なんだお前は?騎士科の者じゃないな?何の用だ!」
「ゴミ拾いだよ。ここに色々捨ててあるんでその片付けだ。」
「ゴミ拾い?お前、まさか部外者じゃないだろうな?!」
「こう見えて教員だよ。先日壇上で挨拶したのを覚えているか?」
「あ!お前、あの失礼なブ…いや新任講師か?!」
「はは、ブタでかまわねぇよ。ここには薪の代わりを拾いに来ただけだ。すぐいなくなる。」
ガラガラと木片を集めて歩き出すと、後ろからさっきの青年がついてくる。
「なんか用か?」
「う…えっと、その壊れた木剣はもうゴミではあるが、騎士科の所有物だったものには違いない。滅多なことに使われないよう見届けさせてもらう!」
「…燃やすだけだが?」
研究室の前に戻ると、エリックはまた部屋の中でカウチに寝そべっていた。
火が少し落ちてきていたので、そこへ木切れを放り込むと、よく燃える。
「な…こんな所で飯を作ってるのか?!」
「この部屋が俺の研究室なんでな。好きにさせてもらってるよ。」
「非常識だろ?!学園の敷地内で!竈まで作って…うまそうな鳥まで焼いて…」
ぐぅぅぅ…と腹の音がして、青年が顔を赤くした。
「昼時ギリギリまで訓練は腹減るよな?食ってくか?」
鶏の足をむしって差し出すと、青年はずいぶん葛藤してから、ついに空腹に負けて鶏肉を受け取った。
それでもしばし肉とデイビッドを交互に見ては悩んでいたが、デイビッドが目の前でもりもり食べる姿を見て、ヤケクソとばかりにかぶりつく。
「うまい!!」
「だろ?」
肉はあっという間に骨だけになった。
「疑って悪かった…稀にだが、備品を売りさばいて小遣い稼ぎする連中がいるんで、警戒してしまった。」
「真面目だな。3年生か?」
「そうだ。同い年…だよな?」
「あぁ、デイビッドでいい。」
「俺はカイン。肉、うまかったよ。またなデイビッド!」
カインと名乗った青年は、手を振ると、騎士科の敷地に戻って行った。
「また餌付けですか?」
「今更だろ?俺の道楽みたいなもんだ。」
食事を終えたデイビッドは、鉢植えの世話と、古い花壇を耕して小さな畑を作り始めた。
肥料を混ぜて土をなじませ、ここには苗を植える予定だ。
鉢植えの植物も順調に育ち、つぼみがついている。
しおれた葉を取っていると、研究室のドアをノックする音がした。
着替えていつもの服に戻ったエリックがドアを開けると、制服に腕章をつけた生徒達が立っていた。
「失礼、ここはデイビッドさんの研究室ですね?」
「おや、生徒会の方ですか?なんの御用でしょう?」
「先ほどここの“研究員”が行った、生徒に対する不当な対応について話がしたい。至急、生徒会室へ来るよう伝えて欲しい!」
学園長がにこやかに拍手をすると、他の教師達もデイビッドの側へ寄ってきた。
「学ぶ事の本質を捉えた斬新な講義でした。」
「けっこうな数の生徒から反感は買ったと思うけどなぁ…」
「本人が選んだ事なら良いではないですか?各々が必要とする学びの時間となった事でしょう。学ぶ事の意義を見出す事もまた勉強です。」
「他の先生方も…俺のせいで授業に支障が出たら申し訳ない…」
「何を仰る。そもそもデイビッド殿は講師であり、教師ではないのですから、生徒を師事し導くのは我々の役目です。しかし驚きました。今日の一コマだけで領地の産業に革命が起きますよ?!」
「そりゃ大袈裟な…」
そのうち、昼食のため移動する生徒で廊下が賑わったので、デイビッドは教師達と離れ自室へ戻って行った。
「おーいエリック戻ったぞ?!初日にしちゃ手応え良くてなぁ、次も楽しみ…って見たことないエリックがいる…」
デイビッドの視線の先には、派手な模様の部屋着でカウチソファに寝そべり、雑誌を読みながらサンドイッチを貪っているエリックがいた。
「家でもここまで酷いのは見たことなかった…」
「オフです!デュロック家の侍従でもなく、講師でもない!今の僕は完全にオフなのです!」
「しかも俺の塩漬け豚と今朝焼いたパンと昼用のサラダ食ってる…」
「仕方ないですおいしいんで!食堂の百倍おいしいんで!」
「あと、熟成中だったソーセージも遠慮なしに食ってる…」
「これめっちゃ美味しいです!売りに出さないんですか?」
「屑肉の寄せ集めだから、肉の種類も鮮度もバラバラで流石に難しいなぁ。ってそれは俺も楽しみだったのに!サンドイッチも卵たっぷり豪勢に作ったもんだなぁオイ!」
「僕は明後日まで受け持ちの授業無いんで!今日はもうオフにしました!」
「自室でやれよ!?」
「イヤです!こっちの方が快適なので!!」
「にしてもなんだ?その部屋着…」
「着心地が一番良いヤツです!」
デイビッドはエリックの着ている服を見て、人前に出すには抵抗のある、ちょっとアレなセンスの柄に、珍しく戸惑った。
「まぁ…好きにしてろ…俺は自分の飯作って食うから…」
「僕が言うのもなんですが、使用人のこの態度を見てもなんも言わないデイビッド様って、やっぱりちょっと変ですよ?!」
「変な服着た奴が語る変とは??!」
言いたい事も思う事も山程飲み込んで、デイビッドは外に出ると昨日作った丸窯に火を入れた。
捨ててあった足の折れた椅子や机を薪にして、火力を調節するとあっという間に窯が熱くなる。
そこへ昼前に仕込んだ大きなパイ皿と、丸鶏を並べてじっくり焼いていく。
先に焼けたコテージパイを取り分けていると、いつの間にかエリックが隣に立っていた。
「うわぁ!じゃが芋が甘いですね!クリーミーでチーズと下のミートソースとも良く合います!」
「出てくんなその服で!しかもまだ食うのか?!」
「ローストチキンにありつくまでへばりついてやる…」
デイビッドは、丸窯の前に座り込んだエリックに竈の火を任せ、薪の追加を拾いに植え込みの外へ出た。
反対側は騎士科の演習場らしく、木剣のかち合う音がまだ聞こえていた。
植え込みと壁の隙間を覗くと、思った通り、壊れた練習用の武器がゴロゴロ捨ててある。
拾えるだけ拾って戻ろうとすると、誰かに声をかけられた。
「おい!そこ、なにをしてる?!」
「ああ、すまん。邪魔したか?」
「なんだお前は?騎士科の者じゃないな?何の用だ!」
「ゴミ拾いだよ。ここに色々捨ててあるんでその片付けだ。」
「ゴミ拾い?お前、まさか部外者じゃないだろうな?!」
「こう見えて教員だよ。先日壇上で挨拶したのを覚えているか?」
「あ!お前、あの失礼なブ…いや新任講師か?!」
「はは、ブタでかまわねぇよ。ここには薪の代わりを拾いに来ただけだ。すぐいなくなる。」
ガラガラと木片を集めて歩き出すと、後ろからさっきの青年がついてくる。
「なんか用か?」
「う…えっと、その壊れた木剣はもうゴミではあるが、騎士科の所有物だったものには違いない。滅多なことに使われないよう見届けさせてもらう!」
「…燃やすだけだが?」
研究室の前に戻ると、エリックはまた部屋の中でカウチに寝そべっていた。
火が少し落ちてきていたので、そこへ木切れを放り込むと、よく燃える。
「な…こんな所で飯を作ってるのか?!」
「この部屋が俺の研究室なんでな。好きにさせてもらってるよ。」
「非常識だろ?!学園の敷地内で!竈まで作って…うまそうな鳥まで焼いて…」
ぐぅぅぅ…と腹の音がして、青年が顔を赤くした。
「昼時ギリギリまで訓練は腹減るよな?食ってくか?」
鶏の足をむしって差し出すと、青年はずいぶん葛藤してから、ついに空腹に負けて鶏肉を受け取った。
それでもしばし肉とデイビッドを交互に見ては悩んでいたが、デイビッドが目の前でもりもり食べる姿を見て、ヤケクソとばかりにかぶりつく。
「うまい!!」
「だろ?」
肉はあっという間に骨だけになった。
「疑って悪かった…稀にだが、備品を売りさばいて小遣い稼ぎする連中がいるんで、警戒してしまった。」
「真面目だな。3年生か?」
「そうだ。同い年…だよな?」
「あぁ、デイビッドでいい。」
「俺はカイン。肉、うまかったよ。またなデイビッド!」
カインと名乗った青年は、手を振ると、騎士科の敷地に戻って行った。
「また餌付けですか?」
「今更だろ?俺の道楽みたいなもんだ。」
食事を終えたデイビッドは、鉢植えの世話と、古い花壇を耕して小さな畑を作り始めた。
肥料を混ぜて土をなじませ、ここには苗を植える予定だ。
鉢植えの植物も順調に育ち、つぼみがついている。
しおれた葉を取っていると、研究室のドアをノックする音がした。
着替えていつもの服に戻ったエリックがドアを開けると、制服に腕章をつけた生徒達が立っていた。
「失礼、ここはデイビッドさんの研究室ですね?」
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