黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

トラブルパーティー

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(すごい、全然怖くない…)

緊張して入った会場は、キラキラして眩しかったが、どんなにジロジロ見られても、あからさまな視線をぶつけられても、アニスは少しも気にならない自分に驚いた。

背筋をピンと伸ばして、私は大丈夫、とつぶやくと不思議と恐怖が消えていく。
心強い同士にも囲まれて、アニスは最高に幸せな気分になった。


「先生~ヒールが折れちゃったぁぁ~!!」
「すいません…気持ち悪くなっちゃって…」
「緊張したらお腹痛い…」

一方で、医務室にはパーティー開始直後から、けっこうな人数が詰めかけていた

「靴は直しとくから、足診てもらえ!痛むのは胃の辺りか?薬やるから飲んどけ。こっちはコルセット締めすぎだ!!ひと目でわかるから止めとけよ?!どうせその様子じゃ朝飯もろくに入れてないんだろ…?隣の部屋で紐緩めたら、なんか一口食って来い!」

シモンズ女医は、面倒くさそうにしながらもテキパキ良く動く助手に大変満足の様子だ。
そこへさらにもう一人生徒が入って来た。

「先生…なんか頭がクラクラして…」

「貧血か?にしちゃ顔色は良さそうな…ん?なんか…酒の匂いがする…?」

「そんな馬鹿な。今日は生徒の親善会だよ?!酒類は出して無いはずだろう?!」

「いや、確かに酒の匂いだ。酒精の強い物でも出てるのか?…さっき、会場で何食べた?」

「ピンク色のカクテル飲みました。…恋のおまじないのヤツ…」

「……シモンズ先生、ちょっと下の様子を見てきていいですか?」

「ああ、行って来い!こっちはアタシに任せときな!」

デイビッドが会場へ降りていくと、軽食のワゴンの上のドリンク台に、他の飲み物と一緒にピンク色のカクテルグラスが並んでいた。

「これか?…っ酒だ!!誰だこんなもん紛れ込ませたヤツは!!おーい、そこの給仕係!頼む、このカクテル回収してくれ。このピンクのヤツと……コレもだ!…こっちのレモン入りと…このミントの炭酸も…出した数はわかるか?」

「え…と、まだ始まったばかりですので、7種類10杯ずつお出ししました。」

「ってことは…すでに18人も飲んじまったか…会場を回って、生徒がもし手にしてたらそれも回収してくれ!教員達にも伝えて欲しい!俺は一度厨房の方へ行ってくる!」

急いで厨房へ向かうと、給仕長らしい人物が出てきた。

「一体何事ですか?」

「酒の提供があったんで回収して来たところだ。今日は酒類は禁止のはずだが、伝達漏れでもあったのか?」

「そ…それは…」

煮え切らない様子の給仕長の横から、別の女性給仕が話し出した。

「どっかの貴族の家から毎年頼まれてるんですよ。お祝いの席にひとつも酒がないのはおかしいからって。シャンパンやリキュールなんかの甘いやつですけど。もうここ何年もお出ししていますし、問題は無いはずですよ?」

「問題だらけだな……未成年が主体のパーティーで、酒は出ないと周知されていたにも関わらず、ずっと隠して酒を出してきたってのか…」

「だって、相手は貴族ですよ?逆らって損したくないでしょう?」

「…ひとまず、これ以上酒は出さない事。とりあえず親善会はこのまま続けるが、後日学園から調査を入れるから、そっちも覚悟しとけ。」

デイビッドはモヤモヤとした嫌な気分で厨房から出ると、会場の方へ戻った。

「あれ?デイビッド様、医務室に引きこもるんじゃなかったんですか?」

「酒に酔った生徒が来たから、食品の方を確認しにきたんだよ!案の定、酒が紛れてたから回収させてきた。」

「ええ?お酒ですか?!…ああ、デイビッド様、それ飲んだんですね…」

「味見しただけだよ!!一杯分も飲んでねぇって!!」

「…気づいてないんだ…」

「……ちょっと顔が火照る程度だろ?!」

「だから人相めっちゃ良いんですよ。酒飲むと眉間のシワが取れて、表情が丸くなるんですよ貴方は!」

「……マジか………??」

「はい、マジです!普段からそうしてて欲しいくらいですよ…それより、せっかく降りてきたなら一曲くらいおど…」

「踊らねぇっつってんだろ!!お前こそ、いつもなら腹が減ったの騒ぐ頃だろ?あっちになんか色々出てたぞ?」

「あー、アレね…なんでしょうね…不味くはないんですけど、ずっと食べるほどじゃないんですよ…僕はもう普通のご馳走じゃ満足できない身体になってしまったんです。誰かさんのせいで…」

「人聞きが悪い!!こっち見んな!!」

「責任取って下さいよー!!お腹空いてるのに全然食べる気が起きないんですよ!?困ってるんですよ~!」

「知るかっ!!」

2人がホールで言い合っていると、光り輝くドレスに身を包んだ女生徒がひとり近付いてきた。

「こんな所で騒がないで下さいますかしら?」

「うわっ!まぶっし!!何だそのドレス!ドレス??警告灯の間違いじゃねぇのか?!」

「相っ変わらず失礼極まりないですわね!!魔力布の微調整中よ!!光を落とせばいいんでしょ!?」

シェルリアーナは魔力を流すと輝く布で元のドレスにティアードを足し、本当に輝きながら、会場で大勢の視線を独り占めしていたそうだ。
ただし安定しないので、気を抜くと光が抑えられなくなるらしい。

「なんか…ギラギラして虫が寄ってきそうだな…」

「はっ倒すわよアンタ!!せっかく人が誘いに来てやったってのに!!」

「誘うって何に?」

「ダンスに決まってんでしょ?!レディから声を掛けられたのだから、断るのは失礼ではなくて?」

「そっか!じゃ、2人で行って来い!」

「めんどうだからってエリックに押し付けんじゃ無いわよ!!!」

「いや、めんどうなのもあるんだが…」

「はっきり言わないで!!」

「俺さ、ちゃんとした相手と踊るなら、最初は婚約者とが良いんだ。悪いがシェルリアーナとはその後だな。」

「なっ……なにをいきなり誠実っぽいこと言ってますの…?」

「っぽいて何だ?!誠実なんだよ!純粋に!!」

「え…なにかしら…今日の貴方ちょっとおかしい感じがしますわ…?なんと言うか…毒が薄い様な?空気が軟らかいような…?」

「普段そんなにピリピリしてんのか俺…」

「少なくとも、目つきはもっと悪いですわね。」

「ヤサグレ感もすごくて…」

「威圧感もありますわね。」

「散々な言われよう…」

「ま、仕方ないですわ。では改めて、エリック先生、私と踊って下さるかしら?」

「ええ、喜んで!」

二人がダンスの輪に入って行くのを見届け、デイビッドは医務室に戻って行った。

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