61 / 512
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活
狙われヴィオラ
ヴィオラが居なくなると、デイビッドは糸が切れたようにソファに座り込んで動かなくなった。
腕の中に残った感覚を、何度も思い出し、鮮明に記憶に残そうと頭がフル回転している。
あのチョコレート色の瞳には、確かに自分が映っていた。
見えないものには期待を掛けず、目の前の事だけを受け入れる性質の脳が、ふつふつと現実と向き合い始め、じわじわと幸せな気持ちが膨らむと同時に、恥ずかしさも爆発して、頭の中が大変な事になっている。
(どうせ今頃になって、自分の言動にでも悶えてるんだろうなぁ…)
たまに震えたり青くなったりするソファの上の肉団子を、エリックはうっとおしげに眺めていた。
その頃ヴィオラは、寮の自室で荷解きを終え、ベッドの脇に置かれたディディを眺めながら、幸せの余韻に浸りつつ明日の予習をしていた。
(あったかくて、軟らかくて、優しくて、心臓の音がドキドキいってた…これから毎日会えるのね!幸せねディディ!?)
こうして、ヴィオラの期待に満ちた学園生活が始まった。
特別枠の夏季講習と言っても、他の居残り生徒と一緒に、授業に出る事も多い。
「ヴィオラ・ローベルと申します。皆様よろしくお願いします。」
編入生として紹介された後は、周りの生徒とも、当たり障りのない会話だけでなんとかやり過ごしていた。
少人数の教室では自分の課題に集中し、授業が終わると直ぐに出て行ってしまう。
始めは編入生なので忙しいのかと思っていた他の生徒も、そのうち面白い話のネタはないか気になり出し、ついに誰かが例の噂にたどり着いた。
「ヴィオラ様が聖女様のお姉さんって本当?」
「聖女様と言えば、春先の弾劾事件よね?!」
「第二王子殿下がおかしくなってしまわれたのも、その頃からだって…」
まだ直接悪意をぶつけて来る者はいないが、二学期が始まれば人も増え、絡んで来る輩もいるだろう。
ヴィオラは姿勢を正し、気を引き締めて教室に通った。
どんなに暗い気持ちになっても、緑の廊下の角のドアを開けば、ヴィオラの心は晴れ晴れとして幸せで満たされていく。
その内に、代わり映えもなく濁った周囲の目も、そこまで気にならなくなっていった。
ある日図書室で本を探していると、棚の影から背の高い男子生徒が現れた。
「こんにちは!君がミス・ヴィオラかな?僕は2年のテレンス!生徒会の役員なんだ。お邪魔でなければ少し話をしたいんだけど…」
「初めましてテレンス様。ヴィオラです。私になんのお話でしょうか?」
「最近君の噂が出回っているようだったから…心配でね?嫌な目には遭っていないかい?!僕で良かったら相談に乗るよ!?」
人懐っこい好青年のテレンスは、全学年の女生徒から人気が高い。
女の子達は彼に話し掛けられると、みんな頬を染めて嬉しそうにする。
今も、ヴィオラに近づくテレンスを、遠目から見つめている生徒がちらほらいるくらいだ。
テレンスが体を近づけて来たが、ヴィオラはスッと後ろへ下がり、距離を開けた。
「お気遣いありがとうございます。ですが、そう言った相談は然るべき方々にさせて頂いておりますので、ご心配なく。」
「相談相手は多いに越したこと、ないと思うけどなぁ。それにしても…君、婚約者がこの学園内にいるんだって?酷い話だね、自分の婚約者が傷付いているのを、気にも掛けず一人にしておくなんて…僕だったら耐えられないな…」
「ここは学園ですから、授業中は会えませんよ、普通。それに課題が忙しくて、まだ同学年の方とは挨拶ぐらいしかしてませんし、どんな噂が流れてるかなんて、わざわざ聞きに行く程暇じゃないんです私!」
「ヴィオラは強い人なんだね?!でも、気を張ってばかりでは疲れてしまうよ?もっと酷い噂だって流れるかも知れない…生徒会としてそれは見過ごせないな…」
「そういう話は噂を流している人に言わないと。」
「そ、そうだね…」
「噂話で盛り上がれるなんて、暇な人もいるんですね。では、私はこれで…」
「ちょっ、ちょっと待って!?ねぇこれから一緒にランチなんてどうかな?君の話、もっと聞きたいな…」
「あ、お構いなく!先輩との先約がありますので!」
「先輩だって?同学年の子達にも、まだ友達はいないんだろう?!心配だなぁ…僕も一緒に行っていい?」
テレンスはそれはもう必死に、ヴィオラの気を引こうとあれこれ言い訳を考えるが、全て打ち返されてしまうため、ついに強行手段に出た。
先輩とやらもどうせ女子なら、テレンスが加わることにも賛成してくれるだろう。
そこから周りを味方につけて、逃げられないよう、距離を詰めていけばいい。
面倒な遠回りをさせやがってと、テレンスが内心舌打ちをした時、後からとんでもない威圧感を感じた。
「何が心配ですって?ああ、心配ですわね?!新入生に片っ端から声を掛けて、その気にさせては次の獲物を狙うプレイボーイ気取りのキザ野郎が一緒だなんて!」
「ミス・シェルリアーナ…?!」
「シェル先輩!」
腕を組んだシェルリアーナが、2人の後ろから現れ、テレンスを睨みつける。
「遅くなってごめんなさいね。まさかこんなクズ男に目を付けられているなんて思わなくって!ま、大方リベンジマッチに応じない、どっかの誰かさんに一泡吹かせようなんて魂胆なのでしょうけど…人の弱みを突こうなんて、卑怯な手を使いますのね?!」
「リベンジ…?あ!テレンス様って!例の知恵比べで負けたっていう、あの!!」
「(どストレートにいきましたわね…)ええそうよ。と、言うわけで、ただのクズ男には興味ありませんわ!消えて下さるかしら?!」
「ひ…酷いこと言わないでよ~!そうだ、これからランチでしょ?ぜひ僕も一緒に…」
「大切なランチタイムに、つまんない男のつまんない話聞けって?!冗談じゃないですわ!!さ、時間の無駄ですわ。行きますわよ!」
「では、お先に失礼します。」
唖然とするテレンスに、軽く会釈をしてヴィオラはシェルリアーナの後ろについて行ってしまう。
一人残されたテレンスの周りに、すぐさま他の女生徒達が集まり、昼食に誘ってきたが、テレンスの気持ちは全く晴れなかった。
「デイビッド様!来ました!!」
「お疲れ!今日はどうだった?変なのに絡まれなかったか?」
「テレンス様という人に話し掛けられました。」
「え?!で、どうした…?」
「全部カウンターで打ち返してましたわ。あの悔しそうな顔…見せてやりたかったですわ!」
「そうか……」
「…そんなに心配しなくても、この子が他所に目移りなんて、するはずありませんわよ!?」
あからさまにほっとするデイビッドを見て、これだけ好かれてもまだ不安なのかと、呆れるシェルリアーナだった。
腕の中に残った感覚を、何度も思い出し、鮮明に記憶に残そうと頭がフル回転している。
あのチョコレート色の瞳には、確かに自分が映っていた。
見えないものには期待を掛けず、目の前の事だけを受け入れる性質の脳が、ふつふつと現実と向き合い始め、じわじわと幸せな気持ちが膨らむと同時に、恥ずかしさも爆発して、頭の中が大変な事になっている。
(どうせ今頃になって、自分の言動にでも悶えてるんだろうなぁ…)
たまに震えたり青くなったりするソファの上の肉団子を、エリックはうっとおしげに眺めていた。
その頃ヴィオラは、寮の自室で荷解きを終え、ベッドの脇に置かれたディディを眺めながら、幸せの余韻に浸りつつ明日の予習をしていた。
(あったかくて、軟らかくて、優しくて、心臓の音がドキドキいってた…これから毎日会えるのね!幸せねディディ!?)
こうして、ヴィオラの期待に満ちた学園生活が始まった。
特別枠の夏季講習と言っても、他の居残り生徒と一緒に、授業に出る事も多い。
「ヴィオラ・ローベルと申します。皆様よろしくお願いします。」
編入生として紹介された後は、周りの生徒とも、当たり障りのない会話だけでなんとかやり過ごしていた。
少人数の教室では自分の課題に集中し、授業が終わると直ぐに出て行ってしまう。
始めは編入生なので忙しいのかと思っていた他の生徒も、そのうち面白い話のネタはないか気になり出し、ついに誰かが例の噂にたどり着いた。
「ヴィオラ様が聖女様のお姉さんって本当?」
「聖女様と言えば、春先の弾劾事件よね?!」
「第二王子殿下がおかしくなってしまわれたのも、その頃からだって…」
まだ直接悪意をぶつけて来る者はいないが、二学期が始まれば人も増え、絡んで来る輩もいるだろう。
ヴィオラは姿勢を正し、気を引き締めて教室に通った。
どんなに暗い気持ちになっても、緑の廊下の角のドアを開けば、ヴィオラの心は晴れ晴れとして幸せで満たされていく。
その内に、代わり映えもなく濁った周囲の目も、そこまで気にならなくなっていった。
ある日図書室で本を探していると、棚の影から背の高い男子生徒が現れた。
「こんにちは!君がミス・ヴィオラかな?僕は2年のテレンス!生徒会の役員なんだ。お邪魔でなければ少し話をしたいんだけど…」
「初めましてテレンス様。ヴィオラです。私になんのお話でしょうか?」
「最近君の噂が出回っているようだったから…心配でね?嫌な目には遭っていないかい?!僕で良かったら相談に乗るよ!?」
人懐っこい好青年のテレンスは、全学年の女生徒から人気が高い。
女の子達は彼に話し掛けられると、みんな頬を染めて嬉しそうにする。
今も、ヴィオラに近づくテレンスを、遠目から見つめている生徒がちらほらいるくらいだ。
テレンスが体を近づけて来たが、ヴィオラはスッと後ろへ下がり、距離を開けた。
「お気遣いありがとうございます。ですが、そう言った相談は然るべき方々にさせて頂いておりますので、ご心配なく。」
「相談相手は多いに越したこと、ないと思うけどなぁ。それにしても…君、婚約者がこの学園内にいるんだって?酷い話だね、自分の婚約者が傷付いているのを、気にも掛けず一人にしておくなんて…僕だったら耐えられないな…」
「ここは学園ですから、授業中は会えませんよ、普通。それに課題が忙しくて、まだ同学年の方とは挨拶ぐらいしかしてませんし、どんな噂が流れてるかなんて、わざわざ聞きに行く程暇じゃないんです私!」
「ヴィオラは強い人なんだね?!でも、気を張ってばかりでは疲れてしまうよ?もっと酷い噂だって流れるかも知れない…生徒会としてそれは見過ごせないな…」
「そういう話は噂を流している人に言わないと。」
「そ、そうだね…」
「噂話で盛り上がれるなんて、暇な人もいるんですね。では、私はこれで…」
「ちょっ、ちょっと待って!?ねぇこれから一緒にランチなんてどうかな?君の話、もっと聞きたいな…」
「あ、お構いなく!先輩との先約がありますので!」
「先輩だって?同学年の子達にも、まだ友達はいないんだろう?!心配だなぁ…僕も一緒に行っていい?」
テレンスはそれはもう必死に、ヴィオラの気を引こうとあれこれ言い訳を考えるが、全て打ち返されてしまうため、ついに強行手段に出た。
先輩とやらもどうせ女子なら、テレンスが加わることにも賛成してくれるだろう。
そこから周りを味方につけて、逃げられないよう、距離を詰めていけばいい。
面倒な遠回りをさせやがってと、テレンスが内心舌打ちをした時、後からとんでもない威圧感を感じた。
「何が心配ですって?ああ、心配ですわね?!新入生に片っ端から声を掛けて、その気にさせては次の獲物を狙うプレイボーイ気取りのキザ野郎が一緒だなんて!」
「ミス・シェルリアーナ…?!」
「シェル先輩!」
腕を組んだシェルリアーナが、2人の後ろから現れ、テレンスを睨みつける。
「遅くなってごめんなさいね。まさかこんなクズ男に目を付けられているなんて思わなくって!ま、大方リベンジマッチに応じない、どっかの誰かさんに一泡吹かせようなんて魂胆なのでしょうけど…人の弱みを突こうなんて、卑怯な手を使いますのね?!」
「リベンジ…?あ!テレンス様って!例の知恵比べで負けたっていう、あの!!」
「(どストレートにいきましたわね…)ええそうよ。と、言うわけで、ただのクズ男には興味ありませんわ!消えて下さるかしら?!」
「ひ…酷いこと言わないでよ~!そうだ、これからランチでしょ?ぜひ僕も一緒に…」
「大切なランチタイムに、つまんない男のつまんない話聞けって?!冗談じゃないですわ!!さ、時間の無駄ですわ。行きますわよ!」
「では、お先に失礼します。」
唖然とするテレンスに、軽く会釈をしてヴィオラはシェルリアーナの後ろについて行ってしまう。
一人残されたテレンスの周りに、すぐさま他の女生徒達が集まり、昼食に誘ってきたが、テレンスの気持ちは全く晴れなかった。
「デイビッド様!来ました!!」
「お疲れ!今日はどうだった?変なのに絡まれなかったか?」
「テレンス様という人に話し掛けられました。」
「え?!で、どうした…?」
「全部カウンターで打ち返してましたわ。あの悔しそうな顔…見せてやりたかったですわ!」
「そうか……」
「…そんなに心配しなくても、この子が他所に目移りなんて、するはずありませんわよ!?」
あからさまにほっとするデイビッドを見て、これだけ好かれてもまだ不安なのかと、呆れるシェルリアーナだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】
本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。
Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited.
© 魯恒凛 / RoKourin
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。
とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。