黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

災難

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「何やってのよ!?ホントに!!」
「まさかこうなるとは思わなくて…」
「魔力抵抗のない人間は極稀にだけどいるのよ?!なんでそんなピンポイントなレアカード引くのよアンタ等は!!」
「わぁぁぁん!!デイビッド様ぁぁぁっ!!!」

(騒がしいな……)

デイビッドの意識が戻り、薄目を開けると、見慣れた天井と、言い合いをしているエリックとシェルリアーナの姿がぼやけて見えた。
肩がやけに重いと思ったら、ヴィオラが縋り付いて泣いている。
安心させたいのに、声がかすれてうまく出ない。
なんとか腕を動かして、ヴィオラ頭を撫でようとした時、シェルリアーナが先に動いた。

「横っ面引っ叩いたら戻らないかしら?!」
「やってみます?」
「せーのっ!せいやっ!!」

スパァンと乾いたイイ音がして、デイビッドの右頬に激痛が走る。

「いいってぇぇっ!!起きてる起きてる!!気がつけ!叩く前に!!!」

「あらヤダ。」

「寝ても覚めても叩かれて!なんだ?今日は厄日か!!?」

今の衝撃のせいなのか、勢いで手足が動くようになり、身体を起こして座り直すと、ヴィオラがしがみついて来る。

「よがっだぁぁ!!デイビッド様が目覚めなかったらどうしようって!怖かったぁぁぁ!うわぁぁぁ!!」

「大丈夫、もう大丈夫だから…泣かないでくれ。」

「貴方、頭は大丈夫ですの?」

「その言い方にはちょっと色々突っ込みたい所だが…まぁ少しフラつく程度だ。もう治ったよ。なんだかとんでもない悪夢を見てた気もするが、忘れちまった。」

「もし叩いてダメなら、あらゆる手を尽くしてみるつもりでしたのよ?!」

「今閉じた本は何だ?!人を人体実験の材料にするんじゃない!!」

シェルリアーナはパタンと閉じた本を背中に隠して、目を逸らしている。

「デイビッド様!本当にもう大丈夫なのですか?」

「ああ、スッキリしたよ。心配掛けて悪かった。助かったよヴィオラ…」
(あれ?なんで俺は今、ヴィオラに助けられたと思ったんだ?)

頭に靄がかかった様に、うまく考えかまとまらない。

「不安なのは分かりますが、そろそろ寮の門限ですわよ?ヴィオラも私も、もう行かないと。」

「そういや、2人共わざわざ戻って来てくれたのか?悪かったな。」

「エリックが血相変えて追っかけて来たから、何事かと思いましたわ。本当に大事で驚きましたけど!?」

「デイビッド様…きっと元気になって下さいね!?明日必ず来ますから!デイビッド様ぁ…」

「さぁ、行きますわよ。」

シェルリアーナに連れられて、ヴィオラも泣く泣く寮へ帰って行った。
研究室の中は、再び静かになり、エリックとデイビッドだけになる。

「さて、エリック!ちょっと話がある…」

「いや~…なんと言うか…僕は…その…」

「逃げるなっ!!最近調子に乗ってると思った矢先でやらかしやがって!!少しは反省しやがれ!!」

「イダダダダダッ!!ちょ…それ以上絞めないで!?骨が…骨がボキボキいって…ギブギブ!!あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ!!!」

そろりそろり逃げようとして失敗したエリックは、しっかりデイビッドに捕まって絞め技を喰らい、文字通り地獄を見る事とになった。
こうしてエリックは、二度と他人に魔力を流し込もう等とは考えまいと心に誓ったのだった。



「なぁデイビッド。お前の顔、なんか腫れてないか?」

「んー…昨日ちょっと色々あってな…」

「なんだ?!痴話喧嘩か?」

「ちげぇよ!!余計な事考えてねぇで、手ぇ動かせ!!」

次の日は騎士科で、炊事の強制実習。
今は、野菜と肉を切る係と、米を研いで炊く係に分け、それぞれ作業に当たらせている。

カインは監督としてデイビッドから直接手順を教わっていたが、どうしてもデイビッドの赤く腫れた顔の右側が気になってしまうようだ。

汚れた古い焜炉を破棄して、一回り大きな焜炉を2台据え置き、火を入れると、調子良く燃え出して熱くなってきた。

「悪いな、こんな物まで用意してもらって。」

「なぁに、解体した古い家屋にあった中古を、安くゆずってもらったんだよ。今度はキレイに使え?!」

「わかってる!ちゃんと掃除もするって!」

大鍋で野菜屑とベーコンを使ってスープを作り、隣で平たい鍋に油を引き、野菜と肉を炒め、瓶のペーストを加えて、塩コショウで味を調える。

「味見するか?」

「ウマッ!!でもずいぶん味が濃いな?!」

「まだ未完成だからな。そっちはどうだ?」

もうひとつの焜炉ではジュウジュウと鍋が吹きこぼれ、蓋が踊っている。

「吹いちゃったぞ?!」

「まだ開けるな!そのままでいい。火を落として、あと少し蒸らしてから火から下ろせ!熱いから気をつけろよ?」

静かになった鍋を開けると、真っ白な米がふっくら炊けていた。

「なんか…このまま食ってもうまそうだな…」

「慣れないと味気なく感じるらしいけどな。ちょっとどいてろ。」

デイビッドは鍋の中身をヘラでかき回すと、ほぐれた所を手のひらに乗せて丸め出した。

「何だそれ?!」

「東の先の国じゃこうして食べるんだと。握り飯とか言うらしい。前に海で教わった。」

(なんか他にも呼び方があったな…なんだっけ…)
米がまとまったら塩を馴染ませ、手の中で三角の形に整えて皿に並べていく。

隣の焜炉で小鍋を熱し、油を注いで下味をつけた肉に小麦粉を薄くはたいて揚げ焼きにすると、握った飯の横に盛り付けて、スープも添えてどこかへ持って行く。

「え?それ食うんじゃないのか?!うまそうだ!!」

「これは寝てる2人の分!お前等のは後で見てやるから、洗い物でもしてちょっと待っとけ!」

ベッドの部屋に入ると、2人はもう起き上がり、机に向かって課題をしていた。

「なんだ、もうすっかり良さそうだな?!」

「デイビッド先生!!」

「はい!もう元気になりました!!」

「よし、その様子じゃ明日辺りから普通の生活に戻れそうだな。今日はこれ食って、課題が終わったら、もうひと休みするといい。」

「わぁ、肉だ!」

「この白いの、昨日の米ってやつですか?」

「そうだよ。水の入れ方でこんだけ違うのも面白いだろ。」

「温かい!塩味だけなのに、すごくうまい!」

「この肉も最高!!」

「ゆっくり食えよ。明日から飯を抜かなくても良くなるよう、色々考えといてやったから、後はカインの言うことを良く聞いてしっかりやれよ?!」

「「はいっ!!」」

美味しそうに握り飯を食べる2人を見ながら、こういう人との関わり方も悪くないなと思うデイビッドだった。
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