黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

写真の真相

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祭りの次の日。
デイビッドは普通に授業へ行ってしまった。

予定のなくなったヴィオラが、息を弾ませて研究室へ来る頃には、エリックとシェルリアーナの2人だけしかいない。
がっかりするヴィオラにエリックが声を掛けた。

「2校時終わったら戻って来ますよ。それより、一緒に写真見ませんか?昨日撮ったやつ!」
「見たいです!!」

エリックがシェルリアーナの隠蔽魔法でこっそり撮りためたお宝を、ヴィオラは食い入るように何度もめくって見ている。

「ここ!弓を射る所!キレイに撮れてますね!?はぁ…カッコイイ…」
「獲物を見定めた捕食者みたいな目してません?」
「デイビッド様、お芝居全然見てない…」
「も~ヴィオラ様ばっか見つめちゃって…え?なんでこれ、カメラ目線?!めっちゃこっち睨んでる!?隠蔽掛かってんのに?バケモンかあの人!?」
「シェル先輩は何の写真を見てるんですか?」
「こっちは新聞部と写真部から回収してきた写真ですわ。面白いのだけ燃やさずに残して持ってきましたの。結構笑えますわよ?」

学園内でネタにしたのか、面白おかしいシーンがいくつも撮り溜めてあった。

「へー…あ、側溝のフタ踏み抜いて、どっかぶつけて悶絶してる。で、元に戻そうとして、反対側も踏み抜いて落っこちて…なんです?この写真…?」
「弱みを握ろうとして、撮りまくったんでしょうね。でもこの程度気にもしないわよあの男は。」
「あ…この写真…私欲しい!」

ヴィオラが見つけたのは、泥だらけで壁に寄りかかり、日溜まりでウトウトしている写真。

「あげるわよ?!でもそんなんでいいの?」
「私の前ではこんな顔してくれないので!」
「思いきり気が抜けてる時の顔ですね、コレは。」
「あっ!……これ……」

そして、ヴィオラはついに見つけてしまった。

「これ…です…シェル先輩とデイビッド様のツーショット…」
「…それ、めくって見て御覧なさい?」
「え?」

日溜まりの廊下を並んで歩く2人の次には、デイビッドがシェルリアーナの強烈な蹴りを食らってすっ飛ばされ、壁に激突している写真が続いていた。

「アイツ私に向かって、あと1.5倍は太っても誰も気づかないとか抜かしやがりましたの。」
「それはまたデリカシーのないことを…」
「フフフ…シェル先輩は、デイビッド様と本当に仲が良いのですね!」

「お願いっ!!そんな恐ろしい勘違いしないで!!アレにとって私は、ヴィオラと一緒にいる付属品みたいなものなのよ?!私からしても!アレを異性として認識できる精神は持ち合わせて無いの!!人語を解する肉団子くらいにしか思って無いのよ!!」

「せめて生物に例えましょうよ…」
「大丈夫です。もう、デイビッド様の人間関係に、いちいち不安になったりしませんから!」
「その調子よヴィオラ!貴女は婚約者なんだから、そのくらい余裕を持たなくちゃ!よく似合ってますわよ、その指…輪……!?」

左手の薬指に嵌めた指輪に頬を寄せるヴィオラを、シェルリアーナは信じられないものを見つけた目で凝視した。


「戻ったぞー!なんだ今日は俺が最後か。」
「デイビッド様、お疲れ様です!」
「ヴィオラ!き…昨日はちゃんと休めたか?」
「はい!お守りのおかげでぐっすり眠れました!」
「そうか…良かった。」
「デイビッド様は…付けてないのですか…お揃いの…」
「んー…料理したり薬品を触る事もあるから、指にはな…でも、ちゃんと付けてるよ…」

襟元から引き出した革紐に、ヴィオラとお揃いの指輪が光る。

「なんでそこはチェーンじゃないんですかね!?」
「首に金属が掛かる感じが好きになれねぇんだよ…」
「ちょっと!それ見せなさい!!」
「あだだだだ!!しまるしまる!!首がしまってる!!」

シェルリアーナは革紐をお構い無しにぎゅうぎゅう引っ張りながら、先に結び付けられた指輪に触れた。

「これ…アダマントじゃないの?!こんな超超希少金属どこで手に入れたのよ!!しかもこんな魔鉱石、見たこと無いわ!?この透明度…内包してる魔力量も…しかも、このとんでもない魔術の重ね掛け…王族が身に付けてもおかしくない代物ですわ!!」
「なんでヴィオラの方じゃなくてわざわざこっちの見ようとすんだ!!」
「くっ…次から次にとんでも魔導具ばっかり出して来て…羨ましいのよ!!この餅豚饅頭!!」
「毎度毎度人をバリエーション豊かに罵るのやめい!!」

シェルリアーナの手から指輪を取り返し、襟の中に戻すと、首筋には触ってわかる程くっきり跡が残ってしまっていた。

「ったく…このところ淑女のしの字も無い…ヴィオラはダメだぞ?あんな風になっちゃ…」
「大丈夫です!デイビッド様の前ではしません!」
「他所でもダメだって!」

そんな他愛ないやり取りをしている内に、昼食が出来上がる。
大きな肉団子の入ったパスタに、夏野菜のフリット、パプリカのマリネ、コーンスープ、フルーツゼリー。

「肉団子が頭から離れなくて、考えてたら食いたくなった。」
「お団子おいしいです!肉汁たっぷりで!」
「揚げたてのフリットもいいですね!」
「揚げ立ての…これは野菜…野菜だから大丈夫…野菜…」

しっかり食べた後に、ヴィオラとシェルリアーナは2人でダンスの練習を始めた。
優雅なラムダ国のステップで、たまにエリックも交えて楽しそうだ。
デイビッドはその間、片付けを終えると気配を消して外仕事に専念した。

疲れた頃に冷やした飲み物で一息ついて、シェルリアーナは自身の課題を、ヴィオラは読みかけの本に集中する。
時々、エリックとシェルリアーナが真剣に魔法学について語り合っているのを見て、ヴィオラはそわそわしていた。

(あの2人、なんだかお似合いな気がしませんか?)
(色んな意味でお似合いだな、あの2人は…)
特に人(主にデイビッド)をおちょくる時の息の合い方はいっそ感心してしまう。
あの2人が組んで悪巧みをしたら、たぶん誰にも止められないだろう。

「ところで、ヴィオラは休みの間に何かしたいことは無いのか?」

夏休みも残り半分。
ヴィオラが、少しでも楽しい時間が過ごせるように、デイビッドは色々考えを巡らせて…いる内に頭がこんがらがってよくわからなくなったので、本人に相談することにした。

「私の…したいこと…」

新しいお洋服を買いに行ったり、美味しい物を食べたり、友達とのんびり過ごしたり…
デイビッドともたくさん一緒の時間を過ごしたいと、そう思って学園に来たはずだったが…

「全部終わっちゃいました…」
「全部?!ひとつくらい残ってるだろ?!」
「あ!せっかく素敵なお洋服を頂いたので、どこかへ着ていきたいです!」
「よし、わかった!どこでも好きな所へ連れてってやるからな!?」

その一言に、飛び跳ねて喜んだヴィオラは、夕方にシェルリアーナと寮へ戻り、それは楽しげにあれこれ語っていたらしいが、次の日、いつもの時間に姿を現さなかった。

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