黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

新学期

晴れた空が飛び抜けて青く、輝くような陽の光を受けた木々の木漏れ日に、秋の訪れを感じる頃。
夏休みが終わった…

「それでは皆さん、今日からまたしっかりと勉学に励みましょう!」

講堂の檀上に立つ、今学期の新入生達。

帝国から4人の男女が留学し、編入生が騎士科に1人、淑女科に1人、そして領地経営科に1人。

ついにやって来たヴィオラの妹に、会場のごく一部がピリピリしている。
(この聖女様歓迎お祭りムードの中で、ここだけピンポイントで氷河期到来させるのやめて下さいよ!!)

ほとんど顔も覚えていなかったが、リリアとヴィオラ、並ぶと確かに雰囲気が良く似ている。
檀上で明るく美人な妹の横に立ち、俯きがちに自分を落ち着かせるように指輪に触れているヴィオラが見えた。

集会が解散すると、生徒達は各々気になる新入生の元へ群がった。
ヴィオラはなんとか振り切ろうとしたが、やはり大勢に囲まれてしまい、身動きが取れず、仕方なく笑顔で対応した。

「ヴィオラさんも領地経営科なのね!よろしくね?!」
「わかんないことがあったら何でも聞いてよ!」
「私、夏休みに何度か会ったの覚えてる?すごく可愛い服着てたよね?あれ、どこで買ったの?」
「ねぇ!今度一緒に街に行ってみない?」

怒涛の質問攻めに、曖昧に答えながら、どうしたら良いか悩んでいると、後ろから涼しい声が聞こえてきた。

「はじめまして、ミス・ヴィオラ。私は政務科のアリスティアと申します。同寮生としてご挨拶に参りました。」
「はじめまして…ヴィオラと申します…」
「少し私とお話させて頂けませんか?静かな所で…」
「え…は、はい。」
「それでは皆さん、お喋りの途中に失礼しました。ミス・ヴィオラをお借りいたしますね?!」

有無を言わさぬ立ち居振る舞いで、周囲を圧倒したアリスティアは、ヴィオラを連れて廊下を歩き出した。
数名の側近を青い廊下の終わりで下がらせ、緑の廊下をどんどん進んで行くアリスティアの後ろを、ヴィオラは不安げな表情でついて行く。


「ここなら落ち着いて話ができますね。」
「ここは…」
「あら?前来た時より、ずいぶん様変わりしましたね!?これも全部ヴィオラさんの為?気遣いも細やかで、そういう所は兄とは大違いですね?!」

見慣れた廊下の突き当たり。
見慣れたドアを開けると、そこはいつもの研究室。

「何しに来た…?」
「お喋りです!ヴィオラさんと私、寮の同班なんです。仲良くてしたくて。」
「王族ならカフェとか使えよ!?」
「人の目しか無い所で、友人との会話は聞かれたくありませんから。」
「ハァ…ヴィオラ、安心しろ。アリスティアは王族だが、こっちの事情は知ってる。味方だよ。」
「お、王族?ししし失礼しました!!」
「大丈夫よ?学園では身分も家名も関係ありませんもの。気軽にアリスとお呼び下さいな!?」

縮こまっているヴィオラの手を取り、アリスティアがにっこり微笑む。

「デイビッド先生には、日頃お世話になっておりますので、ヴィオラさんのお話も良く伺っています。ずっとお会いしたかったんですよ?!」
「人に無理やり尋問しといてよく言う…」
「あ!デイビッド先生。私、今日は紅茶じゃなくてハーブティーがいいです。」
「ハイハイわかりましたよ!!」

だんだんアリスティアに対しても扱いが雑になってきて、他人には見せられないなとエリックは思ったが、口にすると巻き込まれるので静かに給仕に徹していた。

その後2人は少し早めのブランチを楽しみ、すっかり打ち解けて仲良く寮へ帰って行った。


午後は久方振りに訪れる者が無く、デイビッドが珍しく静かな研究室を見回しながら、一夏のあれこれを思い出していると、外から誰かの呼ぶ声のした。

「先生!デイビッド先生!居ますか?」

窓の外には領地経営科の男子生徒が、不安げな顔で中を覗いている。

「どうした?入っていいぞ。」
「失礼します。あの…実は先生に相談があって…」

深刻そうな顔の生徒を座らせ、エリックを下がらせると、デイビッドは生徒と向き合った。

「なんかあった顔だな。落ち着いて話してみな。」
「はい…実は……」

生徒の名前はコリン・ルフト、2年生。
夏休み中に実家に帰り、家を継ぐ兄の手伝いのついでに、二学期の課題になりそうな問題は無いか、自領内を周って調べていたら、領地境近くに住む農家から、養蜂の巣箱を新しい物に替える時期なので援助が欲しいと相談を受けた。

「まぁ普通にありそうな話だけど…」
「それが…僕の所はグリュース領の隣なんです…先生、言ってましたよね。グリュース領は訳あって蜂蜜はもう作らないって…家もそのはずなんです。父と兄に確認しても、養蜂はとっくに廃業していて、誰も知らないと…」
「厄介事の臭いしかしない案件!!」

自家消費や、果実の栽培に蜂を使う事はあっても、そう大規模にはならない。
しかしコリンが見た山中の養蜂施設は、最低量ではあるが確実に出荷を目的とした数の巣箱が設置されていたそうだ。

「山の中にひっそりあって、でもどこかから資金が出てるらしいんです。怪しいので聞いてみたら、何年も前に役人らしい人たちが来て、養蜂技術の保全と研究用の蜂蜜を確保するために養蜂を勧められたと言う話でした。」

さらに怪しいのは、研究用の蜂蜜なので、作っても決して食べてはならないという制約が設けられていた事だ。
その代わり、代金は相場の2倍から3倍出すとのことで、以前は養蜂をしていたというその農家は、それで快く引き受けたのだそうだ。

「もちろん、家の誰もそんな指示出してないんです。僕、怖くて、兄にも両親にも何も言えてなくて、逃げるように学園に帰って来ちゃったんです…」
「あーーーー………そうか…なるほどねぇ……こりゃ確かに怪しいな…他にこれを話した相手はいるか?」
「兄に怪しい養蜂施設があると話しましたが、信じてもらえませんでした。」
「それで俺のとこに来たと?」
「先生なら、何とかしてくれると思って!!」
「その謎の信頼はどこから…?まぁよく話してくれたよ。この話は一旦預からせてくれ。他所には絶対話すなよ?下手したら大問題になる可能性がある。」
「先生…あと、これ…」

コリンはポケットから小さな瓶を取り出して、デイビッドの前に差し出した。

「その蜂蜜、巣がはみ出た所を削ってこっそり持ってきたんです。死んだ蜂も一緒に…」
「でかした!なかなかやるじゃねぇか!?わかった、後はこっちに任せてくれ。1人で抱え込むのも楽じゃなかっただろ?」
「…先生っ…僕の家っ…どっ…どうにかっ…なっちゃうのかなぁ…うぅっ…」
「もう大丈夫だ。ここまでよく来てくれた。安心しろ、俺がなんとかしてやるよ。約束だ!」

泣きじゃくるコリンを落ち着かせ、養蜂施設の詳しい位置や正確な規模と収穫量などを聞き出し、その日は帰らせた。

「あ~~~…新学期早々、またエライ問題が飛び出てきたもんだ…」

デイビッドは机の上の空き瓶に収められた、蜂蜜入りの巣と蜜蜂の死骸を見つめ、蓋を開けると薬用の匙を突っ込み、ひと掬い、口に入れてみる。

「…………エリック、居るんだろ?早馬を頼みたい。アーネスト宛に極秘で送れるか?」
「うわぁ…めちゃくちゃ面倒事の予感…」
「もう手遅れだ。蜂蜜事件の再来だな…」

デイビッドは眉間に皺を寄せながら、書簡を書き上げエリックに渡すと、方々宛に手紙を書き始める。
早々から波乱に満ちた新学期が、明日から始まろうとしている。
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