黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
109 / 411
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

二学期の終わり

しおりを挟む
「アーッハッハッハッ!!アルラウネに世界樹の実丸ごと食わせるとか!!もーーホント毎回バカみたいなこと平気でホイホイに仕出かしますね!?ベルダ先生もかわいそうに!!」
「今回は笑い事じゃねぇんだよ!!」

すっかり元気になったエリックが、先程の話を聞いてカウチの上で笑い転げている。

「大丈夫じゃないですか?植物は強いって言うし、なんなら余分な魔力を放出すれば元に戻りますよ。」
「そんな単純にいくか?」
「これに懲りたら少しは自重して下さいね?最近特に好き勝手しましたけど、そろそろ落ち着いて本業に取り組んでもらわないと!」


エリックの休暇も終わり、そろそろ二学期もラストスパート。
もうすぐノエルの時期がやって来る。


「先生!こんなにとれた!!」
「この芋すごく色が濃いですね!?」
「ニンジンもキレイな色!」
「豆も大粒で、こんなにたくさん!」
「大収穫ですよ?!」

領地経営科の授業は二学期から屋外実習も不定期で行ってきた。
この日は食堂の裏手を耕して、肥料や土の実験で育てた畑の収穫日。

月に2~3回実習を挟み、生徒に作らせた畑はプロ顔負けの仕様となり、これにはデイビッドも驚かされた。
農業関係に強い生徒が多く、気合いの入り方が違う。

「よし、じゃぁ、食ってみるか!?」
「「「やったー!」」」

皆で水場まで移動すると、野菜を洗い、皮を剥いて、豆の鞘を外す。
調理場を借りて、まずはシンプルに塩茹でと蒸かし芋。

「グリーンピース甘い!」
「じゃが芋ホックホク!バター欲しい!!」

その間に寸胴鍋でスープを作り、塩漬けにしておいた干し肉を適当に放り込んで仕上げに茹で豆を入れる。

「なにこれ!ニンジンがめちゃくちゃ美味しい!」
「玉ねぎがとろけて最高~!」
「先生、この肉なんですか?!」
「保存食のレパートリー増やそうと思って試作したヤツなんだが、意外とイケるな!?」
「ぷるぷるで脂が出て、スープに合いますね!」

次々と手が出て来て、大鍋はあっと言う間に空になった。

「片付けたら、教室戻って成果と反省点の見直しするぞ!?」
「「はーーい!!」」

寸動鍋を洗っていると、1人の生徒がデイビッドに話しかけてきた。

「あの…先生って帝国風の料理って作れますか…?」
「帝都風か?帝国土風か?」
「何か違うんですか?」
「帝都風は前皇帝が持ち込んだ西国の貴族風。帝国土風は属国や吸収された小国の文化が色濃く残った伝統食が多い。どこの料理かハッキリしないと判断が難しいな。」
「うーん…確か、カラン地方…とか言ってた気がします。」
「カランなら、独特な発酵調味料が多い地域だな。作れなくはねぇけど、食いたいのか?」
「私じゃなくて、テオ君が…最近全然ご飯食べてなくて、聞いたら味付けが口に合わないって言ってたんです。」

テオは帝国から来た政務科の留学生の一人だ。
背が高く、がっしりした体格の青年だが、このところ元気がないらしい。
仲良くなった友人達は皆して心配しているそうだ。

「カラン料理か…できなくはないな。あんま種類は作れねぇけど、調味料が手に入らないか見て来る。週末にでもまた声掛けさせてくれ。」

新しい課題が手に入ると、直ぐに動きたくなるのは長所か短所か。

「ありがとうございます!ノール君に聞いたら先生に相談するのが一番だって聞いて。話してみて良かったです!」
「アイツ俺を何と思ってんだろう…」


教室で少しだけ授業の続きをして、予鈴と共に解散し廊下を歩いていると、後ろから誰かがついて来る気配がした。

「なんだ、お前か。なんか用か?!」

無表情のテレンスが、俯きがちに歩いてくる。
そして近くまで来ると、ボソボソ何か話し出した。

「…ちょっと、話があって…」
「いつでも話せばいいだろ?」
「あ…アレックスさんが…ノエルの前に、また何か考えがあるみたいで…」
「誰だそいつ?!」
「生徒会長だよ!何度も会ってただろう?覚えてないのか?」
「名乗られた事ねぇからな。」
「そんな…そこまで生徒に舐められてて悔しくないのかよ?!」
「別に?なんなら王都中の人間に舐められてるぞ?!」

テレンスは、それを聞いて絶望的な目でデイビッドを見つめた。

「なんだそれ…僕なら生きていけないな…」
「で?そのアレックスが何だって?」
「ノエルの前に、また絡んでくるかも知れない。気をつけろよ…って話…」
「お前からそんな話が出るとはな。どういう風の吹き回しだ?!」
「借りを返そうと思っただけだよ!!レオニードさんも戻って来るし…あの人狡猾だから、人を陥れるのは得意だぞ?注意しとけよ!…それだけ…」

そう言って、テレンスは背中を向けて行ってしまう。

「成長しましたねテレンス君。あれも彼なりの歩み寄りのつもりなんでしょうね。良かったですね懐かれて。」

横から現れたエリックが、デイビッドの背中をポンポン叩いて喜んでいる。

「アレは懐いたっつーより、群れからあぶれて拠り所探してるって感じだな。野良猫みたいな奴…」
「デレたらカワイイタイプですね。躾けてみます?」
「生徒相手にその発言はどうなんだ?!」

どこからどこまでが本気で嘘なのか、エリックについては未だに良くわからない。


今日は温室には寄らず、真っ直ぐ研究室へ。
昼前に仕込んだクロケットを油で揚げたら、ちょっと珍しいパン種を使って丸パンを焼き上げ、間引いた野菜でサラダを作る。

後ろからそろそろと近づいて来たヴィオラに気付かない振りをし、抱き着いてくるのかと思ったら何かを腹回りに通されて、まじまじと計測された。

「測るのは…ちょっと止めて欲しかったな…」
「どのくらいか気になって……」

メジャーを手にヴィオラがオロオロしている。

「測んなくてもこんだけ肉がついてりゃ一目でデブってわかるだろ?!数値化されると余計悲しくなるから止めてくれ!」
「そんなに太ってますか?!」

見慣れたせいで目がおかしくなってしまったのだろうか。
ヴィオラはデイビッドの腹の肉を見ても、それが贅肉と認識出来ていないようだった。

「太ってますが…?」
「だって、もっとブヨブヨでたぷたぷしてる人もいるのに。なんでデイビッド様だけそんなに言われるんですか?」
「目立つからだろ…?」
「本当に太ってるだけの人は、剣を振るったりファルコに乗ったりできませんよ!?デイビッド様はきっと骨太なんですよ!!」

「どんだけぶっとい骨が入ってる想定なのよ!?」

隣で聞いていたシェルリアーナが、我慢し切れずついに声を上げた。

「良く見て!少なくとも横にいるエリックの2倍の太さはあるでしょ?!」
「じゃぁ筋肉太り?」
「だったらあんな弾まないわよ!腹回りポヨポヨじゃない!?」
「でも確実にエリック様より力はありますよ?!絶対筋肉も入ってますよね!?」
「筋肉があっても、その周りにしっかり肉がまとわりついてるでしょ?!固太りよ!ガッツリ霜降りに決まってんじゃないの!」
「そしたらいつか痩せちゃいませんか…?」
「痩せない人間もいるのよ!どんなに動いても体型変わんないの!そういう体質なのよ!動けるデブって聞いたことない?」

謎の会話を聞かされながら、デイビッドはただひたすら無心でクロケットを揚げ続けていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

国王一家は堅実です

satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。 その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。 国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。 外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。 国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

処理中です...