黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
137 / 512
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

王子の仕事

場所を移して、アザーレアは改めて語り始めた。

「さっき、私とデイビィが一緒に賊とやりあった事は話しただろう?その時、救援に私の兄、当時だだの第一王子だった今の王太子が駆けつけて来てな。倒れた賊の回収なんかを手伝ってくれたんだが、城に帰ってから様子がおかしくて、聞いたら流浪の民に一目惚れしてしまったと言うんだ。その時は復興に助力してくれた商団にも何人か女性はいたんで、それだと思ってあまり深くは考えなかったんだが…」

砂漠化の進む地域の立て直しに尽力した流浪の商団を、国王は国を上げて歓迎し労いの宴を催すと言い出した。
王子の探し人も、城の宴に招待した客の中に居るのならまた会えるだろうと誰もが疑わずに特に探しもしせず、王子も宴に出れば必ず会えると信じて、多くは語らなかった。

「それが悲劇の始まりだったんだ…」
「悲劇?」

王子の思いつきで、招待客の女性に即興でダンスを教えることになり指導者を集めていたら、王子が黒髪の者には必ずアザーレアが教えるようにと言い出した。
ここで違和感を覚えれば良かったものの、大雑把な性格のアザーレアは、何も考えず商団の中にいた唯一の黒髪、デイビッドにも同じダンスの指導をしてしまったという。

「あらかた様になって来たところで気になって聞いてみたんだ。なんで男のくせに女性のステップなんか覚えたいんだって…そしたら余興で踊れるようになれと言われただけで、ステップは本気で知らずに覚えていたと言われて…普通無いだろそんな事!だから急いで専門講師に頼んで改めて一から叩き込んでもらったんだ。」

ところが、いざ宴の席になってみると、長身者の多いエルムでは身長差があり過ぎて女性相手でもデイビッドでは背が足りなくなってしまう。
仕方なく12歳だった末の姫君と踊ることになったが、相手はなんと目が見えないと来た。

「末のルルーは喜んでいたんだ…目の事には一切触れず、楽しい話をしてくれたと。会場のテーブルでグラス集めてグラスハープなんか始めてな。音階を作って2人で楽しそうだった。人の集まる場所でルルーが初めて笑ったのを見て、改めて感心させられた…まぁその話は置いておくとして…」

この時、デイビッドは損な役割とまで言われた末姫の相手をしてくれる貴重な人材程度にしか思われていなかった。

王子が目当ての女性が居ないと騒ぎ出したが、どれだけ探しても該当する女性は見つからず、夜も更けて宴もお開きになる頃、姫はとっくに部屋に帰されていて同時にデイビッドも下がってしまっていた。

翌朝、再び捜索が開始されたが、その間に商団は国王への挨拶を済ませ帰り支度を始めていた。
兄が使い物にならないので、アザーレアが改めて詳しく話を聞くと、アザーレアの横で賊を相手に剣を振るう黒髪に鋭い切れ長の小麦色の肌の女が確かにいたと言う。

「なんか嫌な予感しかしませんね…」
「その通り、兄が惚れた女なんて始めから居なかったんだ…兄はずっとデイビッドを女と思い込んで恋焦がれていたんだからな!」
「「どっかで気づけよ!!」」
「なんて不幸な…」
「誰も知らなかったんだ!兄がふくよかで頼り甲斐のある女性が好みだったなんて!」

度重なる戦乱を越えて大きく発展した帝国だからこそ、王の隣はただ守られるだけの細君では務まらないのだろう。
それにしてもあまりにも残念な話である。

「あの…ひとついいですか?」
「なんだ?エリック。」
「どうやってアレを女性と間違えたんですか?!」
「そこなんだよ!」

砂漠側は砂塵が多いので、皆厚手のローブを羽織っていて体格が分かりにくい。
おまけにデイビッドは当時から既に髪もそこそこ長かった。
王子が見たのは丁度戦い終わってフードを払い、解いた髪を結い直そうとかき上げた瞬間だったらしい。
王子は目が合ったと言っていたがそれも定かではない。

「それに、14の時はもう少し幼い顔立ちだったんだ。」
「まぁ…それはそう?」
「ずっとあの顔な訳ないですもんね。」
「全然想像つかないけど。」

情報を繋ぎ合わせてやっと判明した事実は、王子の盛大な勘違い。
もうこの際男でもいいから連れて来いと言い出した頃には、商団はとっくに帝国を出た後だった。

「そこから兄は三月は使い物にならなくなった。」
「よっぽどショックだったんでしょうね…」
「信じられない事に、兄はその時脳裏に焼き付いたアイツの姿が未だに理想の女性像のままなんだ。」
「まさか…それでご結婚されていないのですか…?エルムの王太子殿下は…」
「……そうだ……」
「不幸を通り越して最早地獄ね。」

そういう理由もあって、エルムの王太子はラムダ国と友好関係は保とうとするものの、気恥しさから本人は決して国境を越えては来ないそうだ。

「そりゃ気まずいわ…」
「惚れた相手がただの巨漢だったなんて事ありますか普通?!」
「壮大なコメディを一冊読んだ気分ですね。」
「そもそも流浪の女性と王子様で一緒になれるものなんですか?」
「帝国は側妃も多いんだ。私の母も諸国を巡る剣士で、帝国に雇われたところ王に見初められて召し上げられた口だからな。何も珍しいことではないのさ。」
「帝国は自由な国風なのですね。」

ヴィオラは納得したようだったが、自由で括るには少し荒っぽ過ぎはしないかと思う3人だった。


「なんか…あっちは楽しそうな話してるぞ?!行ってみないか?!」
「あ゙ぁ?楽しくねぇよ!」
「アザーレア様にアリスティアもいるし…外交も必要…」
「今してきたろうがよ!?」
「あれは外交じゃなくて粛清では…」
「検問が仕事しねぇで賄賂が動いてりゃそうなるだろ!」
「だって…せっかくのパーティーなのに…」
「主役は妹だろ?!お前はここで王女の露払いくらいしてみせろ!」

アーネストを捕まえたデイビッドは、アザーレアから受け取った帝国側で検問に関わる貴族と、周辺の金の流れの調査結果から、ラムダ国内で怪しい動きのあった家門と決定的な証拠の上がった人物を、片っ端から引っ張って来ては容赦無く叩き潰していた。

「だいたい、あの程度が粛清なもんかよ。たかが6人、実際しょっ引いたのは2人だけで、後は全員釘刺して開放したろ?!」
「急所に一撃叩き込んだの間違いでは…?」
「口先だけで手は出してねぇんだから大した事ねぇよ!本来はお前の部下がする仕事だ!もっと周り固めとけよ。現国王はそこんとこ人材だけは揃えてるぞ。」
「そんなに言うなら…デイビッドが…」
「それ以上口にしたら、ここで縁を切る。」
「イヤだぁ…」

休憩用の個室で、デイビッドが集めた証拠を見返しながら関係者を洗い直している間、アーネストはひたすら泣き言をこぼしていた。

「残りは大した相手でもねぇだろうな。見落とした事にすら気付かなかったアホ役人共にでも押し付けちまえ。」
「なぁ…なんで城仕えは嫌がるのに、僕の仕事は手伝ってくれるんだ?」
「俺は自分の周辺被害の収拾に来ただけだ。」
「お前、凄いな!ここまで私利私欲で動いてるくせに、どうやったら国家交流と交易汚職事件の解決になるのかむしろ謎だ!」
「一石二鳥でいいだろ!ちょっと黙ってろ!」

絶え間なく動く友人の手元を眺めながら、アーネストは何か言いたそうにずっと下を向いていた。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。