黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

動き出す世代

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「こんなのあんまりだよ!なんでこんなヒドいコトするの?!」
「え?これ、俺のせい…?」
「アンタ、お茶のブレンドに何入れたの?」
「何って…普通のハーブティーだって。リンデン、マートル、ニワトコにヤグルマソウと…あ、ドライアドとアルラウネの花入れたかも…」
「それよ。霊力が際立って抑えが効かなくなったのね。」
「どうしてくれるのさ!せきにんとってよぉぉぉ!!」
「責任て言われてもなぁ…」
「まずは食べてから!イヴェット、貴女も泣き言は後にして!食事が不味くなるわ!!」

料理を目前にイライラし出したシェルリアーナがテーブルを叩くと、イヴェットはグズグズ言いながら従った。

「それじゃ改めて、ご飯にしましょうか?」
「頂きまーす!」

まず先にエリック、ヴィオラ、シェルリアーナが各々好きなものに手を出すと、エリザベスとエドワードもそれに倣ってフォークをつかんだ。

「おーいしー!!なにコレ!すっごい!お肉はしっとりほろほろで野菜が甘ーい!」
「いやいやいや…デイビッド君て確か辺境伯家の次期当主だったよね?!なんの修行したらこうなるの?」
「んー…成り行き?」
「成り行きで探検や冒険はしないし、マンドラゴラとか食べないし、プロの料理人にはならないと思う…」
「仕事の都合上作ってるだけで、別にプロ目指してるワケじゃねぇんだけどな…?」

エドワードは納得いかない顔でスープを受け取り、パンを浸しながら考え込んでしまった。
イヴェットはというと、しゃくり上げながら鶏肉を咀嚼していたが、その内身体の猫部分が次第に広がっているように見えて来た。

「これ、本当に猫になっちまうんじゃねぇのか…?」
「そうね。最終的には猫になるわ。」
「戻れるんだよな…?」
「自分で変身したり解除する場合は直ぐ戻るけど、外部から干渉されると戻りにくいのよ。精神も猫に引っ張られるから扱い難いし、割と厄介よ?」
「どうすんだよ…」

温かいスープを飲み干したイヴェットは、もう顔も手足も制服を着た二足歩行の大きな猫になっていた。

「あぶないっっ!ほんきでネコになるとこだった!!」
「もう八割猫よ?」
「かぁわいい!!喉ゴロゴロいってるぅ!」
「あっ!ヤメて!なでないで!」
「ヴィオラも撫でてみる?」
「わぁ!ふわふわであったかい!猫ちゃんだぁ!」
「にゃぁぁぁんっ!!」

3人によってたかってコロコロ撫でられ、抵抗するイヴェットは、今まで見せていた強気で妖艶な雰囲気と打って変わって完全に猫になっていた。
エドワードとデイビッドは、入って行けない世界に背中を向けて洗い物に集中する事にした。

「大変だな、特殊血統ってのも…」
「ちなみに、僕は背中に蝙蝠みたいな翼が生やせるよ?」
「マジか!?飛膜だと飛びにくくねぇ?!」
「うん…飛びにくい。あれ高いところからしか羽広げられないんだよね。風の抵抗受けまくるし、遠くまで行けないし…でも羽毛の羽は難しくて…」
「構造どうなってんだ?」
「うーん…新しい腕が追加される感じ…かな…?そんな事聞かれたの初めてだけど。」
「蝙蝠だと実質腕4本になるって事か?!…肩が2対…?それだと支柱骨との接続部分はどうなんだ…??」
「君、着眼点面白いね…」

後ろでは尻尾に触ろうと手を出して引っ掻かれたエリザベスが騒いでいるが気にしない。
食後に淹れる茶のブレンドは気をつけようと悩んでいると、エドワードがベリー系を選んだのでベースの茶葉と一緒に湯を注ぎ、食事の合間に焼いておいたフルーツケーキを切って女性陣を待った。

「あーあ、だんだん戻って来ちゃった。」
「残念。もう油断はしてくれないかしら?」
「先輩ありがとうございました!」
「ハァッ…ハァッ…もう!ホントにヤメてよね!?」

残った猫耳の毛を逆立てながらイヴェットが威嚇する。

「でも珍しいね。イヴェットがちゃんとご飯食べるの。」
「いつも甘味か軽食くらいしか食べないからね。」
「シェリーの次に食べないんで心配してたけど、デビィのご飯は食べられるんだ?なんか魔法でもかかってるの?」
「確かに、シェルリアーナも信じられないくらい良く食べていたね。」
「魔法です!すっごく美味しい魔法がかかってるんですよ?
!」
「ヴィオラちゃんいーなー!毎日こんな美味しいご飯食べてるの?うらやまし~!」
「えへへ~!」

やや不機嫌なイヴェットはしっかりケーキまで完食し、耳が戻らないまま温室へ行ってしまったのでエリザベスとエドワードも慌てて追って行った。

「あの3人とは家が王家お抱えの魔法系統関係で、入学前から一緒にいるのよ。」
「幼馴染なんですね!?いいなぁ。ずっと仲の良い人がいるって素敵です!」
「しょっちゅうぶつかり合って喧嘩もするけどね。」
「いいですねぇ。それでも割れない繋がりなんて、羨ましいですよ?僕達にはそこまで長い付き合いの相手がいないので特に。」

エリックもデイビッドも、そしてヴィオラも、王都には長い時間を共に過ごした相手というものがいない。

「デイビッド様は彼等の仲間入りしたんですよね!?しかも生徒同士の仲でしょ?どうですか、友達のいる生活って?」
「素材のキープじゃなきゃ何でもいい…」
「なんて?」

クセの強い3人相手に、デイビッドは第一印象が余程ショックだったようだ。


次の日の領地経営科は、再び激論大会となった。
今日は密接する地域で共有するインフラと、ルミネラ公爵家に目を付けられて今まで動かせなかった流通と土木に関する事業を一気に進められないかの議論で白熱していた。

「ですからダムの建設をーー」
「ここに橋を掛けてですねーー」
「この街道の整備はーー」

「だからラムダに必要なのは鉄道なんだよ!!他国では既に新型の開発も行われているというのに、この国に無いのは絶対におかしい!!各領地を繋ぐ線路と駅、国中を巡る汽車の存在が今こそ必要不可欠なんだ!!」

立ち上がり声高に叫ぶテレンスに拍手が起こり、賛同者達が大勢集まった。

「じゃぁ、新学期の課題はそっからな。どうせ繰り上がりで顔ぶれ変わんねぇんだから、丁度いいだろ。まぁ俺が切られなきゃの話だけどな。それじゃ、授業終わり、解散!」


生徒が何か言う前に、スタコラ退散し部屋へ戻ると、昼食の支度と同時に日持ちのする焼き菓子のストックを増やしていく。
外の保冷庫はもう使えないので、冬の間育てていた氷水晶を出す時期が来たようだ。
キリフ特産の冷気を閉じ込めたこの変わった水晶は、ある程度の寒気に晒すと再成長するので、冬の間マメに出し入れしてかなりの大きさに育てることができた。
また次の冬まで世話になれそうだ。

「お手伝いします!」
「お、来たな?それじゃそっちで鶏ガラ茹でて出汁取ってくれるか?」
「はい!もうスープストックもひとりでできますよ!」

鶏ガラ、ニンジン、タマネギ、干しきのこを低温でグツグツ煮てからガラを取り出し、そこへ骨付きの鶏肉を更に投入してしばらく煮込んだら、貴族にはあまり好まれないウィングスープが出来る。

「これだけでもう美味しい!鶏肉スゴい!」
「次はじゃが芋を茹でといてくれるか?」

皮付きの芋を水から茹でて、ザルに上げたら熱と戦いながら皮を剥く。

「あちあちっ!熱いけどツルッと向けました!気持ちいい!」
「つぶしたら千切ったレタスとピンクペッパーで和えてくれ。ソースが保冷庫にあるからたっぷり混ぜて…」
「あのソース大好き!お野菜が何でも美味しくなる白いタプタプのソース!」

卵のリシュリュー風ソースはヴィオラだけでなく、シェルリアーナもエリックも好物だ。
最近は卵の黄身だけ使って濃厚に仕立て、酸味を調整して使い分けられるようになった。

暖かくなり、大砂鳥もよく卵を産むようになり、冬の間は1日数個だったのが、一気に10数個も手に入るので消費の方が心配な程だ。
気が付くと24羽に増えていて、もう小屋も拡張しないといけない。
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