黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

1年目

濃厚なスープは、脂をかなりしっかり抜いたが、獣臭さは残ったままで、特に女性や貴族の口に合うかはわからない。

「正直な話、ヴィオラの口に合うかわかんねぇんだけどな。」
「もう食べてますよ…」
「おいしいです!!」
「けっこう好みの分かれる味なはずなんだけどよ。」
「美味しいモノには身分も国境もないということで。」
「お肉おいひい!!」

喉越しの良い麺とスープが絡んで箸が止まらない。
蒸し籠の下の方にあった薄皮の肉入りダンプリングと合せて食べると絶品だ。

「そうだ、アレも入れたら合うかもな…」
「アレ?」

デイビッドが昼間作っておいた皿を持ち出し、布を剥がした瞬間、ドアが開いてシェルリアーナが顔を出した。

「っっ何持ってんの?!」
「……豚の脳味噌……」
「ドア開けていきなり脳味噌見せられた私の気持ちわかる?!アンタの頭もかち割って中身取り出してやろうかしら?!」
「美味いのに…」
「レディに脳味噌はちょっと冗談になりませんよ?」

やっと起き出してきたエリックも、皿の上の塊にドン引きしている。

「ウサギの脳とかレバーでもパテとか作るだろ!?」
「ビジュアルの問題ですよ!取り出した脳味噌まんま持ってくる人なんていませんからね?!」
「美味いのに…」

しかしそこへ助けが入った。

「あ、豚の脳ですか!なるほど、このスープにも合うと思いますよ!」
「ソテーにするとトロトロで美味しいですよね。領地でも食べました!」
「ほら見ろ!これもちゃんと食材なんだって!!」
「わかったからプルプル揺らさないでよ!気持ち悪いわね!!」

と言いつつ、外のテーブルに着くとシェルリアーナはおっかなびっくりスプーンで掬って口に入れていた。

「わ…まったり濃くて不思議な食感…」
「このスープともよく合いますよ。」
「スープ?貴女達何食べてるの?」

見慣れない器に残る麺と汁を見て、シェルリアーナがデイビッドに作れと目で合図する。
エリックも出て来て、器の数が更に増える。

「へぇ、小麦の麺なのにこっちのパスタと全然違いますね。ツルッとしてコシがあって、スープがとにかく美味しい!」
「デイビッド様、私おかわり欲しいです!」
「ミス・ヴィオラ…スープまで全部飲み干して、余程気に入ってもらえた様で安心しました。」
「お前も茹でるか?二杯目。」
「ッ下さい!」

テオとヴィオラがお代わりをしている横で、シェルリアーナはどうかというと、何も言わずに器と格闘していた。
絶え間なく麺が啜り込まれ、合間に肉とダンプリングが消えていく。

「…相当お気に召したようですね…」
「こんなに静かに食ってんの初めて見た…」
「このダンプリングもちもちジューシーで最高ですね!お肉もホロホロ!もっと塊で下さい!」
「うるさいのはエリックだけか…」

テオが持ってきてくれた麺はあっという間になくなり、今後は定期的に購入する必要がありそうだ。
すっかり満腹になったテオは、何度も礼を言いながら帰って行った。

デイビッドは洗い物を終えると、鍋底に残ったスープを浅い鍋に移し替え、寸胴鍋をタワシで擦る。

「今日もすごくおいしかったです!」
「良かった。しばらく豚肉料理が続くかも知れないから、嫌なら言ってくれよ?」
「イヤなんかじゃないですよ!そうだ、私ハム作りたいです!!」
「それもいいな!」

ヴィオラとデイビッドが仲良く外で片付けをしている間、シェルリアーナは室内でエリックと話をしていた。

「ねぇ…エリック。例えば昔自分を虐めてた奴が馴れ馴れしく声かけて来たらどう思う?」
「えー?程度によりますけど、内心ぶん殴りたくはなりますね。」
「やっぱりそうよね…」
「何かあったんですか?食事中から上の空でしたよ?」
「あれは本当に美味しくて…いいえ、そうじゃなくて…あの、エリック…少し話を聞いてくれるかしら…?」
「僕でよろしければ?」

そこでシェルリアーナは母から聞いた話と自分で思い出した過去について、まずはエリックに話してみることにした。

「アハハハハハハ!!」
「何笑ってんのよ!こっちは笑い事じゃないのよ!!」
「あーもーおっかしいの…そんな事ってあります?!」
「忘れてたのよ!なんならアイツだって忘れてんじゃない!」
「そうですよ。国の外に出る前の記憶なんて、ほんのひとつまみくらいしか残ってませんよあの人。もう忘れたままでいいんじゃないですか?」
「もし…思い出したら…?」
「そんなこともあったなぁーで終わりな気がしますけどね。」
「私のせいで同世代の友達が作れなかったのよ?!」
「それは自意識過剰ですよ。毎日何人相手にしてたと思ってんですか?同世代どころか大人にまで嫌われて、逃げ場の無い中大勢に後ろ指差されて、シェルリアーナ様1人に負わされた傷なんて、本当に指の先程度ですよ。」
「そんな…」

気にせず忘れてしまえばいいと言うエリックとは反対に、シェルリアーナは開いた傷口が痛んで自分で自分が許せなくなってしまっている。

「もし、それでも気が済まないと言うなら本人と話してみるのもいいかも知れませんね。でも、あの性格ですよ?」
「あの…性格…」
「大衆の面前で王族に断罪されてもケロッと忘れてどうでも良くなっちゃう様な人が、10年以上も前の子供の戯言を果たして気にしているかどうか?」
「お人好し過ぎるのよ…」

そんな昔のことを覚えているだろうか…思い出させる所から始めないと、話が進まなくなってしまう。

「そう言えば、もう1年経つんですね。」
「え?」
「デイビッド様がヴィオラ様を助けた夜会の日から、明後日で丁度1年経つんですよ。お2人が出会った最初の日です!」
「それすら忘れてるなんてことないわよね?!」
「そんな鶏じゃあるまいし…」


そんな鶏のような事はなく、実はデイビッドはずっとその事が頭から離れず、随分前から悶々としていた。
その日を記念日と言って良いのか否か。
それなら婚約書類にサインした日の方が余程記念日の様な気もする。
初めて会った日、ヴィオラはむしろ誰にも会いたくなかったに違いない。
話題に出したらいらない傷を広げてしまう事にならないか、思い出したくない記憶を突いていまうのではないか、そんな事をひたすら考えていた。

シェルリアーナ同様、どう切り出したら良いかわからず、本人に問う事もできないまま、日は沈みまた昇り、朗らかなヴィオラの笑顔に癒されながら現実逃避している内に更に時は過ぎ、あの日と同じ時間がやって来た。


「そう言えば、あの日はお一人でお城まで行かれたんでしたっけね。」
「……」
「僕はまだ旦那様に付いておりましたので、デイビッド様の様子は一切知らなかったんですよー!」
「………」
「観念しましょうよ。召喚状来ちゃったら仕方ないですよ…」
「大丈夫ですよデイビッド様!私も一緒に居ますから!」
「だから余計に腹が立ってんだよ!せめてヴィオラは呼んだら駄目だろ!!」

のんびりした昼下がり、デイビッドが喉元まで出かかっている言葉を口に出すか飲み込むか悩んでいると、王城から馬車が来て、緊急召喚の書状を持った使者に連れられデイビッドとヴィオラは馬車に詰め込まれてしまった。
侍従として付いてきたエリックは、どんな面白い展開が待っているかウズウズしている。

城に着くなり、デイビッドとヴィオラにはそれぞれ迎えが待っていた。

「ヴィオラ!!待っていたぞ!?今夜は私達だけの夜会だ!!存分に楽しむといい!」
「アザーレア様?!」

ハイカットの真っ赤なドレスで現れたアザーレアが、ヴィオラの手を取るとグイグイ連れて行ってしまう。

「おい!何勝手に…」
「失礼致します。こちらより今宵ホールは男子禁制となっております。」
「いきなり来て人の婚約者誘拐すんな!!」

メイド達に阻まれ、ドアを閉められてしまったデイビッドに、今度は別の使いが声を掛ける。

「デイビッド・デュロック様。オレアンダー様が奥のお部屋でお待ちです。」
「誰だそりゃ?」
「ベルダ先生のことですよ。知らなかったんですか?」
「名乗られた事ねぇからな…」
「なんだろうこの物凄い類友感…」

貴族に向いていない貴族の頂上決戦でも始まるのだろうか。
案内された奥の部屋では、ベルダとアンジェリーナが何やら話し込んでいた。
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