黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

問題次々

研究室に戻ると、一足先にセルジオが来て待っていた。

「先生っ!!テレンス先輩来てました!?」
「ああ、居たよ。少し痩せたか?でも割と元気そうだった。」

今日はテレンスの復帰の日。
セルジオは朝からずっと昼休みが待ち遠しくて仕方がなかった。

「良かった…戻って来てくれて…」
「…アーネストから聞いた。王族と同じ手口を使われたようだってな。」


卒業間際に粛清を受けたアレックスは、長い間精神鑑定を受けていたが、最近ようやく間接的な魅了を受け、自身もそれを受け入れて同調していた事がわかった。
術者は不明のままだったが、光魔法による魅了であり、なんと自らも魅了の媒体となって犠牲者を増やしていたらしい。
どうやらその延長でテレンスも同じ術者の手にかかったようだ。

そのためアレックスは一族から隔離され、幽閉されたまま当面は社会と切り離された所で魔法治療を行うとのこと。
テレンスもそうなる一歩手前だったと言うのだから恐ろしい。
テレンスとアレックスの違いは、深層心理で魅了の魔力に抵抗していた事と、解呪者を信頼し、助けを求められた所にある。

「テレンス先輩、すごく謝ってくれたんです。危うく帝国の王子に得体の知れない魅了魔法を掛ける所だったって。処罰してくれって懇願されて、少し困りました。」
「国が国なら処刑対象になることもある。無罪放免じゃ本人が納得しねぇんだろうな。」

しかし、魅了を第三者によって無理矢理植え付けられていたという状況と、本人が何より深く反省と後悔をしている事、更にセルジオの嘆願により、テレンスはなんのお咎めもなく、家の立場も変わらずに済み、また学園に通えることになった。

「お前も、まさか他国に留学に来て襲われるなんて思ってなかったろう?本国はなんて言って来てる?」
「姉上からは「健闘を祈る」としか…」
「大丈夫なのかあの脳筋…?」

エルムの王族は元々戦闘種族。
多少のコバエが集った所で、実害がなければ動かないらしい。


「あ…あの…失礼します…」
「先輩!おめでとうございます!また会えて嬉しいです!!」

恐る恐るドア開けたテレンスに、セルジオが駆け寄った。

「セル…ジオ殿下…この度は…誠に…」
「先輩!ここは学園です!身分なんて関係ないんでしょう?またセルって呼んで下さい!僕、先輩の事ずっと待ってたんですから!」
「ありがとう…セル…君のおかげで僕は戻って来られた…本当にありがとう!!」

手を取り合うその背中を見ながら、廊下ではシェルリアーナが若干イライラしていた。

(早く退いてくれないかしら…)
(あの空気を壊すのはちょっと…)

エリックと2人、中の様子を見ているとヴィオラもやって来た。

(お取り込み中ですか?)
(テレンス君が復帰したので、セルジオ殿下と再会中なんですよ。)
(早く後ろに気付きなさいよね!)

部屋の中からは香ばしい匂いが漂って来る。
色々と料理が並んでいるようだが、話し込む2人に遠慮して中々入る事が出来ない。
それにようやく気が付いたデイビッドが先に声を掛けた。

「ほら、ひとまず座って落ち着けよ。後ろがつかえてるぞ?」
「あっ!すみません、シェルリアーナ様。気が付かなくて…」
「シェル!…リアーナ…先輩…先輩にもご迷惑おかけしました…」
「ええ、そうね。もしこの次なにかあったら、雷落として丸焦げにするから覚悟しなさいね!?」
「ヒィッ…は、はい!申し訳ありませんでした!!」

テーブルには鴨のローストのフルーツソースがけと、香草と和えた揚げ焼きのじゃが芋、ニンジンのグラッセ、チーズのラビオリ、そして肉詰めのトマト。
トマトを見てテレンスは思わず感動していた。

「そう…これ…食べたかったんだ!こっちに来てから一度も食べられなくて…でもなんで?!」
「穀倉地帯の西側じゃ良く作る家庭料理なんだってな。貴族も食べるらしいってんで作ってみた。」
「ズルいよ…そうやって餌で釣って自分の方に引きずり込むんでしょ?」
「人聞きの悪さ!!」
「本当のことじゃないか。しかもどれも美味しんだから、皆絆されちゃうに決まってる!」

そう言いながらテレンスの手は止まらない。
幸せそうに肉詰めを頬張るテレンスに吊られて、セルジオも隣で肉汁の溢れるトマトと鴨肉を口にした。

「君達も知ってるだろう?デイビッド…先生が王族を誑し込んでるなんて噂が出回ってるの。」
「政務科の特に貴族組の方では良く噂になってるそうですね。僕はほとんど聞かないんですけど…」
「淑女科も派閥によりけりですね。これ見よがしにワザと聞こえるように話す人達も居ますけども」
「魔法学棟ではほとんど聞かないわ。」
「本当に王族を誑し込んだりなんかしたら、それこそ大問題になるって言うのに!」
「でも実際集まっちゃってるんですから、仕方ないですよね。しょっちゅう大集合してりゃなんかあると思われるのは当然ですから。」

しかし王族側としては勝手な噂の一人歩きは、醜聞どころか不敬に当たる。

「対策してないわけじゃないんですよ。アリスティア殿下がその辺の噂に関してはひとつひとつ叩き潰して、首謀者まで根絶やしにしてやるって張り切ってましたし、いっその事デュロック先生をこちらの仲間にしてしまおうって話も出てました。」
「ヤメロ!」
「言うと思った…でも、実際アデラ側とは血縁ですし、アーネスト殿下と直々に話す仲なら、資格は充分ですよ?!」

それを聞いて考え込んでしまったのはヴィオラだった。

「デイビッド様が王族になっちゃったら…私はもう気軽に近づけなくなってしまいませんか…?」
「そんなこと無い!そもそも俺がここに来た理由がヴィオラのためなんだからな。」
「そうよヴィオラ、コイツが王族に末席に座るなら、貴女は準王族になるのよ?それこそ下手な噂なんて流したら、不敬で処罰できちゃうんだから。」

テレンスはまさにそれが気に入らないという態度で、鴨肉をフォークで突き刺した。

「そうだよ!それなんだよ!手はいくらでもあるのに!最善を尽くさないってなんなんだ?学園巻き込んで、王族に取り入って、他の貴族動員して、誰にも手出しできない状態も作れるはずなのに!なんでそれをしないのかって話だよ!」
したら、学園を出た後に問題が起こるんだよ…」
「現デュロック当主はをしてしまったが故に卒業後に王太子に捕まり、そこから20年も国に繋がれてしまったのですよ。逃げ場もなく、唯一の望みは次代の後継者に当主の座を託すより他無い状況で、この国の外交に尽力した人でしたからね。」
「そんな…」
「今は糸の切れた凧みたいになってっけどな…」

少なくともやられっ放しではないので、着実に敵の数は減らせている。
ただ、あとに残った強敵の姿が見えないのが煩わしい。

セルジオとテレンスは、また2人いつもの調子に戻り、この後は補講に備えて学習室へ予習をしに行くそうだ。

「また来ますね、先生!」
「次もトマト料理、楽しみにしてるから!」


2人がいなくなると、ヴィオラは大きなため息をついた。

「人の噂話より他に楽しいことがないのかしら?」
「人の噂話こそ楽しみって人間は割に多いものですよ?特に貴族は身動きが取りにくくなる分、お喋りから得られる情報は大きな娯楽の一つですからね。」

かと言ってそれを黙ってみているばかりでもいられない。
王都内でも一度崩した地盤はまた固まりつつある。
そろそろ反撃してもいいだろうか…
そんな事を考えていると、エリックがそろそろと手を挙げた。

「あの~ところで、僕もひとつ大きな問題を抱えてまして。」
「なにかあったの?」
「エリック様は先生としての噂話が多いですよね。」

この爽やか系見た目美男子は、誰と恋仲だの、何が好きだのと、女生徒達の話題に上がりやすい。

「あ、そうじゃなくてですね…まぁまずはこれを見て下さいよ。」

エリックがテーブルに置いたのは、例の星入りの黒曜魔石。
従魔ジェットの依代となっているヴィオラの魔力を込めた魔石だった。
感想 5

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