光彩濁りて愛となる

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四十二話

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 深優は静弥に自分に寄るように言い、スマートフォンを斜め上に構えた。
「え?」
「はい、撮るよー」
 スマートフォンの中の画面に居る沼黒 静弥と言う人間は、誰の目から見てもこの場で浮いている。
「みんなに、送ろ~」
 深優の表情は、いつもの笑顔に戻っていた。
 二人して、歩き出す。
 音楽も、人の波も、天井の光も遠くなっていく。
 外に一歩出た瞬間に、二人はクラブ「PENDULUM」に居た人間のことも、話した内容も、匂いも忘れてしまった。
 二人の身体の火照りを冷やすように、一筋の風が吹いたのだった。







 同時刻。天谷市にある、三階建の一軒家。クリーム色の壁に茶色の屋根と言う、オーソドックスな一軒家「立花家」に、蒼真はお邪魔していた。
「……本当に、信じられない」
 蒼真はスマートフォンの画面を握りしめたまま、呆然と立ち尽くしてくれる。
 今にも、後ろへ倒れかねそうな勢いだ。
「まあまあ、命はあったんだし」
 未来はそんな蒼真を宥めるように、持ち前の明るい笑顔を見せるが蒼真には効いてないようだった。
(背景に映ってる女の子の服装、明らかにパパ活じゃん……! 深優君も沼黒さんも、無茶し過ぎ!! 篠塚は今度会ったら、しばこう)
 未来は決意を固めて、部屋の真ん中に置かれたローテーブルに人数分のお茶やスプーンを配膳する。
 隼将は勉強する手を止め、静かに立ち上がった。そのまま未来からお盆を受け取り、ドリアやサラダやスープを配膳していく。
「ご友人の為とは言えど、深優さんは無茶ばかりする……」
 隼将は太い眉尻を下げて、目を伏せた。
 蒼真は「あら」と自身の口元に、手を添えた。
「おばちゃんか」
 未来はツッコミを入れ、座るように促す。
「一旦休憩にして、冷めないうちに食べよ。食べよ。頂きまーす」
「わあ、今晩はドリアか。嬉しいなあ……」
「お父さんか。いつも隼将の勉強見てくれて、ありがと」
「いえいえ。幼馴染より言葉も人間の道理も通じるから、教えやすいよ」
「蒼真君は、本当にあの三人をしばいていいよ」
 三人で「「「いただきます」」」とトリオして、手を合わせた。







  やっちょからVIPな芸能事務所のプロデューサーとか、web映像会社の営業マンとか、わんさか来るって聞いていたのに……。
 それっぽい人らは、芸能事務所に属してそうな女の子を囲って話している。
 聞いてた話と、違うじゃん。って一言くらい文句を言いたいけど、無料で招待して貰っている立場でそんな厚かましいこと言える訳がない。
 客の話し声を掻き消すようなボリュームの音楽も、値段と釣り合ってない飲み物も、異質な顔をした女達もーーみんな怖い。
 この場から、逃げ出したい。
 ……あれ? いつも、俺は、そんなことを思っていないか?
 俺は、一体、どこへ行きたいんだろう?
「ねぇ。コウくーん。しずく、コウ君と居ると、安心するの~」
 俺の横に座っている、地下アイドルのうたかた しずく? は酔っ払ったふりして、ずっと腕に抱きついて来てるし……ガチで、なんなんだ?
 コイツが匂わせしているのは知ってたけど、ネットだんまりを決め込んでたらコレだ。
 静弥の時と同じように、どう言ったって画面の向こう側の人間は自分が見たい「真実」しか受け入れないのだ。
 かと言って、女の子相手に「うっせえな! どっか行けよ!」っていつもの語気で吠える訳にはいかないし。
 ガチで、なんで俺なんだ……? 人気ならRuKIやぼんチ。のがあるし、お金も二人の方がある。
 仮に俺と付き合っても「え、あの、なんかよく炎上する子?」みたいな目で見られるだろう。
 自分で言ってて、悲しくなって来た。
 それに地下アイドルなら、俺と一緒で案件目当てなんじゃねえの?
「しずく、もっとコウ君のこと、知りた~い」
「あのさ。俺黒髪清楚厨でも、お前みたいなん好きじゃないの」
「え? 運動部系ってこと?」
「違う違う。面倒臭くて、泣き虫で、手間かかって、俺に無茶苦茶する癖に、純粋な奴が好き」
「どうゆうことぉ?」
「どぉーもー。ハードゲイですー。フォー!」
 そう言いながら俺は立ち上がって、腕を広げて腰を振って見せた。
 後ろから、包丁のような視線が突き刺さった。  
 振り返ると、やっちょが俺のことを般若のような形相で睨みつけている。
「お前、帰れ!」
「え? へ?」
 流石に、下品過ぎたか? いやいや、そもそも下品な場所だろ……。
 俺の首根っこを掴み、まるで荷物のように俺を引き摺るやっちょ。
「俺の機嫌を害した、バツです! バーツ!」
 い、意味分かんねえ……。困惑の感情と同時に、助かったと言う安堵の気持ちも生まれた。
 クラブ「PENDULUM」を出ると、すぐ近くの電柱の影に見覚えのある男女二人が居る。  
 百均で買ったとしか思えない玩具の日本刀を構える、ベリーショートの茶髪の薄い顔の男。
 玩具のぬんちゃくを構える、ふわふわの黒髪ロングヘアーの女の子。
「あみちゃん、いつ潜入しよう!?」
「雲雀丘君は、大丈夫って言ってるよ? もう少し、偵察しよ!」
「……夏野に、えーと、あみちゃん? 何やってんの?」






 夏野に言われるがままに、俺はスマホの通知を見た。
 大量に、通知来てんな。
 夏野を始め、廣笠や、雲雀丘や、沢井や、立花や、荻原まで……。
 夏野や廣笠は俺の安否を純粋に案じているような文面で、雲雀丘からは静弥との自撮りと「近くのタルーズコーヒーに居るから、来い」と言う呼び出しの内容だった。
 静弥……? 本当に、あの静弥!? え、てか、この背景……! PENDULUMに、居たのか!?
 父親は!? 奈良に、居たんじゃ!? 今まで、何やってたんだよ!! たくさんの疑問が無限に浮かび上がるが、それはコーヒースタンドで聞いたら良いだろう。
 沢井からは「心配だから、落ち着いたタイミングでメッセージを入れて」って言う大人な文面に対して立花からは「うちの従業員と、恋人を危険なことに巻き込んで何してんの!? どっかで、通話して!!」と言う怒りの文面だった。
 荻原からは「ヌマクロー、ゲットだぜ!」って言うサトシか! みたいな文面。
 え? コイツも、PENDULUMに居んのか!? 危な……くねえな。荻原が一番危ないわカスだから、大丈夫か。
「夏野、あみちゃん……わざわざ来てくれたん?」
「もち! なんか危ないクラブらしいし。廣笠はバイトらしいから、ペンデュラムのスタッフが下痢するよう呪いかけるって!」
「ほんと、気にしないでねー。お家デートで、ゴロゴロ『ズートピア』観てただけだし」
 ドがつく程、健全ッ……!! あの場所で濁り切った肺が、二人によって浄化されていく。
「てか、俺らもお茶混じっていい?」
「駿佑君、ガチKY。積もる話あるだろうし、帰ろ」
「あ、そっか! 映画良いシーンだったもんね! 動物達が、凶暴化したんだっけ?」
 そこで映画止めて、この地へ赴いてくれたんかよ……。聖人すぎだろ!!
 俺の感動に水を打つように、荻原から二件の通知が来た。
 エンスタのDM画面を開くと、とんでもない写真が送られていた。
荻原が子供が描いたような笑顔で、脚を組みながら座っている。
 問題は、写真の下部だ。冴えないおっさんを四つん這いにさせて、椅子にしているのだ。
『大学の椅子よりは、マシかな』
 お前は、野生の天竜人かよっ!!
 スマホの画面を夏野とあみちゃん二人に見せたら、トー横の路地裏でケツ出しながら寝る女を見るような視線を送って来た。
 三人でひとしきり笑った後、俺はタルーズ コーヒーへ向かった。







 タルーズコーヒーでアイスのカフェオレを注文して、雲雀丘と静弥を探す。
 お値段、約五百円。いかに俺が居た場所が、おかしいのか思い知る。
 時刻は夜七時前に、なっていた。
 時間が時間だからか店内の人間はまばらで、すぐに見つけられた。
「せ、静弥、ひ、久しぶ……」
「晄君……」
 静弥は勢いよく椅子を引いて、立ち上がった。
「……ごめん。俺が考えないせいで、巻き込んだ」
「……僕が勝手に、来た、こと、だし」
 雲雀丘は「座ったら?」と、俺に椅子へ座るのを促した。
「お前、今までどこ行ってたの?」
 なるべく刺々しくならないように。疑問の形を成すように、言葉を発する。
 静弥は俺を横目でチラリと見てから、視線を落とした。
「あの、慰めとか、同情とか、欲しい訳じゃなくって」
「……? う、うん」
「じ、自殺未遂起こして、そういう病院に入院してた」
 まるで服を全部剥ぎ取られた上で、冷凍庫に押し込まれたかのように身体がカチコチに凍った気がした。
 雲雀丘はいつもと変わらぬ顔付きで、ホットドッグを齧っている。
「……え」
「ひ、引いた、よね」
「ち、違う! お前が大変な時に、助けになれなかった自分にムカついてて……」
 咄嗟に口から「俺に言えよ!」と言いそうになったけど、自分が逆の立場ならきっと言えない。
 自分が出来ないことを、相手に要求するほど馬鹿じゃない。
「そ、そんなの、晄君が考えることじゃ……」
「考えるだろ、フツーに。付き合ってんだから」
 雲雀丘が釘を刺すように、はっきりと言い切った。
 コイツの客観性はこう言う場面で生きるけど、俺達にとったら凶器に近い。
「そ、それで、退院して、スマートフォンで、晄君のこと調べたら、良くない噂にヒットしたから、やって来ました……」
「え、まさかの今日? today?」
「う、うん。雲雀丘君には天谷駅で会って、電車怖いから、レンタカーで送って貰って」
 ロードムービーかよ! 来る前に、メッセージしろって! 内心そうツッコミを入れつつ、俺が素直に静弥の話を聞いたか? と聞かれたら、微妙だ。
 だけど……。三ヶ月間会ってない恋人に変な噂が流れてるってだけで、奈良から東京まで思いつきでやって来る奴、コイツくらいしか居ないだろう。
「はー……っ」
「え、あの」
「……俺さ。ケンカした時のことな? 勢いのまま言っちゃいけないこと、言っちゃったな。って後悔してたんだよな」
「僕も、晄君が立ってる場所や気持ち、考えてなかった。自分の中の正しさしか、見てなかった」 
 静弥の瞳は涙で潤んでいて、敵わないなぁ。と、思う。
「……家、来る?」
「うん」
「イチャつくなよ、人前で」
 雲雀丘は白けた視線を向けながら、長いため息を吐いた。
「え、てか、お前、どうすんの? 今から、帰んの?」
「やー。悩み中。疲れたから、ネカフェかビジホに一泊して帰ろうかなー。だけど、延滞料金がなー」
「ひ、雲雀丘君! うち、来る?」
 俺が言うよりも先に、静弥が声に出していた。
 うそぉん。いつの間に、そんな心開いたの? 移動中だろうけど、ちょっと不安になって来たぞ……。
「延長料金払ってくれんなら」
「払う払う。いくら?」
「二十万。pey peyに、送金しといてね」
「嘘吐け!」
 それから雲雀丘に静弥が贈ったダサいキツネのキーホルダーの話や、mbtiが同じと言う話で盛り上がりなら俺達はいつもの日常という名のシャバに戻っていく。
 待てよ。mbtiが、二人一緒ってことは……。
『雲雀丘君、きめ細やかで好き(ポチャーン)』
『でしょ! 俺、こう言うアートな作業得意なんだよ』
『素敵……。うさぎさんのぬいぐるみ、作って(ポチャーン)(ポチャーン)』
『え? まあ良いけど。どう言ううさぎ? 立ち耳? 垂れ耳?』
『最近垂れ耳うさぎさんも、可愛いって思ってるんだ……! とっても賢くて、雲雀丘君にそっくりなんだよ(ポチャーン)(ポチャーン)(ポチャーン)』
 雲雀丘は冷ややかな視線を、俺に送って来た。
「お前と違って気使えるから、コイツと付き合ったら脳細胞の負荷ヤバそうだし大丈夫だって」
 コイツ、エスパーか???
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