61 / 62
五十話
しおりを挟む
あっという間に、十二月になった。
街中のそこらかしこから、クリスマスソングが流れて来てなんだか物悲しい気持ちになる。
俺は処方された睡眠導入剤のおかげで、眠りやすくなった。
この対価と引き換えに、日中の眠気や頭が働かないようになってしまった。
そのことは歩夢や智顕に話して、二人はすんなりと「配信、休む?」と言ってくれたのだ。
完全な引退ではなく、二人が配信する時に行けそうだったら行く。
個人の配信は、やれそうな時にやる。
ユニット・個人共にやっている配信は、就職活動を理由に不定期にします! と、歩夢がRuKI君としてスマートに言ってくれた。
流石、歩夢さんだぜ。感謝感謝。
tmitterを余り見なくなったからか、通知は香ばしいアカウントのものばかりになってしまった。
具体的に言うと、パキたんや、嘘松ネネちゃんや、滝沢ガレツや、夜職女の振りしたネカマ垢。
だからこそ、今日通知に上がって来た投稿は、目を引いてしまった。
投稿内容は、有名配信者事務所のお知らせだった。
なんでも、年明けに面白い女の子の配信者がデビューするらしい。
パチ屋のフォントかのように、金色の文字で「期待の超新星! デビュー!」なんて、画像に書かれていた。
超新星って、すぐ消えるじゃねーか。
乾いた笑みを浮かべている俺に対して、リプ欄は
「把握しました」
「お知らせありがとうございます」
とか、インプレゾンビ推し活女子版だった。
自分もリプされていたけど、無関係な立場からしたら怖いな。
*
師走ということで、自宅を大掃除中である。
メルカルに出品するも、売れなかった食玩のグッズ。穴空いてる靴下、毛玉だらけのヒートテック。
全部、燃える……よな? 燃えるだろ! よし!
市が指定しているゴミ袋に、ポイポイと捨てていく。
ずっと自室に居るのも飽きるので、リビングへ行った。
リビングの窓の桟に置かれた、ピンクの千羽鶴。
「……静弥。これ、要る?」
換気扇の下に、スーパーで貰ってきた新聞紙を広げている静弥。
「……要らないけど、他人から貰ったものだし、捨てにくい」
言いたいことは、めちゃくちゃ分かる。
高校時代に、コンビニでバイトしていた時。パートのおばさんから、手作りのがま口財布を貰ったことがあった。
色は緑で、模様は白のうずまき模様。
おばさんなりに、男の子を好みを考えてくれたのは分かる。
分かるんだけども、今時こんな財布使ってる男子高校生居ないって……。
俺はそう思いながら、がま口財布を受けとり家に帰るなり財布にお礼と謝罪を言ってから捨てた。
俺が捨てる選択肢を取れる人間でも、静弥がそうとは限らないよな。
なんかに使えたら、良いんだけど……。
結局、今週も放置してしまった。
それにしても、なんでピンク一色なんだよ。
女にあげるならまだしも、相手は男やぞ。
みんな、何かしらズレてんのかもしんねえなあ。
*
静弥の卒業式は、十二月の二十二日になった。
その日成条高校は終業式らしくて、午前中のみらしい。
午後三時くらいなら都合が良いけど、どうかな? と、静弥の元担任の帯解先生は電話で言っていた。
手を握りながら様子を見守っていたが、優しそうな先生だった。
静弥の声を聞くなり、聞く者を安心させる声で「沼黒君、久しぶりですね」と、街中でたまたまばったり会ったかのように朗らかな声で話して来たのだ。
そりゃあこの先生が差し伸べてくれた手を、事情が事情だったとは言え、振り払ってしまった自分自身に嫌悪するよな……。
痛々しいほどに、分かってしまった。
そんな訳で。正月より早いけど、静弥と地元に帰ります!(ドンッ!!)
折角なので、チーム山南男子に会えないか聞いたら二つ返事で了承してくれた。
沢井は「冬に卒業式って、雅だねえ」とか言っていた。
どこの俳句家だよ。
雲雀丘は「確かに、卒業式イコール春で桜だよね。こっちの地域は、桜咲くの五月だけど」
なんて日本人誰もが思うイメージと、通用しない地域もあると思い知る。
桜と言ったら、真っ先に思い出すのは宝桜の桜だろうか。
一年、早過ぎる……。今年は、色々あったな。
アレから静弥は結局サブスクを契約して、色々な漫画を読んでいるようだ。
ONE PIECEも読み進めてくれて、俺が言ったキャラは大体好きになってくれたらしい。
中でも、チョッパー編に感動したようだった。
うん、泣くよな。アレは。分かる。
俺の親父におすすめ漫画を聞いているのが、若干ムカつくけどな……。
俺はゴミ出しを一旦ストップして、静弥のフィルター掃除を手伝う。
「もう夕方だしそれ終わったら、今日は終わりにしようぜ」
「……うん」
「疲れたから、夕飯はレンチンちゃんぽんでいっか」
「うん。ちゃんぽん、好き」
特に何もないけど、ゆっくり日常が続いているのが何より嬉しい。
「あのね、晄君。僕、ちょっとやってみたい配信アプリがあって」
「お? なんてやつ?」
「リアティブって言う、アバターで顔出しなしで出来るアプリ。読者垢の相互さんがしていて、やってみないか?って」
やったことはないけど、知ってはいるな。誰でも簡単にスマホ一台で、Vチューバーみたいに配信出来るアプリだ。
雑談は勿論のことスマホの画面録画機能を使って、スマホゲームの配信も出来るから若年層に人気がある。
「いいな。俺も、配信しようかな」
アプリが定めている条件を満たして、インフルエンサー枠に居続けるのはしんどいだろう。
だけど評価とか気にせず、ダラダラ配信するのは良いかもしれない。
「うん。一緒に、やろ」
静弥ははにかみながら、ゆっくりと頷いた。
*
寝る前。俺は部屋で、あの千羽鶴のことを考えていた。
今年はまあ置いとくとして、下手したらずっとあそこに座っているかもしれないよなぁ……。
何処かで静弥が区切りをつけて「もういいや。捨てよう」ってなったタイミングで、捨てるのが一番だろうけどーー状態が状態だし、いつになるか分からない。
口には出さないように努力してるけど、俺もメンクリ通っててしんどいのだ。
どこかのタイミングで「要らないなら、捨てろよ!」ってキレる可能性は充分にある。
なんか、良い使い方ねえかなあ。折り紙を解いて何かを作るにしても、折った線の跡で汚くなるからゴミ同然だろう。
仮に作っても、要らないのに置いてる矛盾は解消されないしなあ。
頑張って待つしか、ないんかなあ……。
*
早くも一週間が、過ぎた。
日付を超える度に、子供達はサンタクロースを楽しみにしているのだろう。
……かくいう俺も、リアルタイムでサンタ業務をしております。
「ガチで、シールって人気なんだ」
明郷大学経済学部三年生四人組は、LOFTの文房具コーナーをうろついている。
平日にも関わらず、店内は人通りが多い。流石、東京である。
夏野の感想に、荻原は聞かせるようなため息を吐いた。
「自分の好き嫌いもなく流行に流されてる、物語を理解出来ない低脳女がハマってんでしょ」
「荻原君が付き合ってる女の子、その手のばっかりだけどね」
夏野の指摘に、荻原は笑顔のまま頭突きを喰らわせた。
しねどすスプレー、お役御免かあ……。
コイツのスピードなら、秒で使い終わってそうだもんな。
「ヌマクローに、どんなシールあげたいん?」
「手帳デコしたいらしいから、それっぽいの。あいつズレててダサいから、汎用性あって組み合わせやすいナチュラル系で統一しようと思ってる」
「本当に、ヌマクローのこと好きなんか?」
三人の視線が、突き刺さる。
百均でもシールは店舗を変えて大量買いしたけど、折角のクリスマスだしちゃんとした店のも混ぜてあげたい。
……お。このシール、可愛いな。
コラージュに使えそうな、窓枠型のシールや花のシールや、切手型のシールや鳩型などがたくさん入ってる。
お値段は、五百五十円。百均のシールが、五つ買えます!
いや、このデザインは百均にはなかった。買っても、よし。
あとこの夜空の喫茶店みたいな、フレークシールも買ってもよし。
「つまんないから、帰るわ~」
そう言って、エレベーターの方へ歩み出す荻原。
終わってんなあ……。人として。
せめて「用事あるから、帰る」とか言っとけよ……と、思うけど荻原だもん。
人間の道理が、通じる訳ない。
廣笠が「あ」とデカい声を出して、荻原を呼び止めた。
ゼミのことで、伝えないといけないことでもあるんだろうか?
荻原は「なに?」と言いながら、戻って来た。
「お前、下の名前なに?」
「……今更?」
荻原の疑問は尤もだけど、俺も忘れちまった。
夏野が、閃いたように口を開いた。
「分かった! 亜久(あく)だ!」
「俺、爆裂炎拳(ばくれつえんけん)だと思う」
「ジャンプの技名か!」
いつの間にか、夏野と廣笠が荻原の名前当てゲームを始めてる。
「……あ! なんか、奏でるの字入ってたよな」
夏野の言葉に、俺と廣笠は笑い転げる。
「似合わなさすぎ!」
「そんな情緒、ないよなあ」
「お前らには、絶対教えねー」
*
帰り道。俺は、静弥の卒業式のことを考えていた。
今日はやたら、信号に捕まってしまう。
信号待ち中に、ちょっと考えをまとめるか。
多分だけど急遽行われることになったから、卒業式と言っても簡素なものになるだろう。
沢井が言うからには、成条高校にはボランティア部があるらしい。
在校生の代わりに、ボランティア部がお見送りはすると思うんだけど……。学校側でお知らせ出して、招集もかけるかも?
なんて、言っていた。
俺が在校生の立場だったとして、被っていない先輩の「卒業式」なんて言われても、出ようとは思わないなあ。
だって、終業式の後だぜ? 一分一秒でも早く家に帰って、遊ぶんだー!! って、ならないか?
成条みたいな、進学校は違うんかなあ。
なんか俺達だけで、出来るサプライズやりたいよなあ……。
花火打ち上げたり、キャンプファイヤーやったり、太鼓を鳴らしたり、近隣の方の迷惑になることは当然しないけども。
形には残らなくても、思い出に残ることはしたい。
合唱とか演奏は、今から練習は時間的にも距離的にも無理だろう。
サプライズって言えば、あの千羽鶴もじいさんからしたらサプライズだったんだろうな……。
……うん? 卒業式? ピンクの千羽鶴?
「見えたぞ!」
俺はあの探偵の声で、叫び出した。
運命の女神様が微笑むかのように、信号を青く照らしてくれた。
走り出そう。自分に出来る、最善かは分からないーーサプライズと、未来のために。
街中のそこらかしこから、クリスマスソングが流れて来てなんだか物悲しい気持ちになる。
俺は処方された睡眠導入剤のおかげで、眠りやすくなった。
この対価と引き換えに、日中の眠気や頭が働かないようになってしまった。
そのことは歩夢や智顕に話して、二人はすんなりと「配信、休む?」と言ってくれたのだ。
完全な引退ではなく、二人が配信する時に行けそうだったら行く。
個人の配信は、やれそうな時にやる。
ユニット・個人共にやっている配信は、就職活動を理由に不定期にします! と、歩夢がRuKI君としてスマートに言ってくれた。
流石、歩夢さんだぜ。感謝感謝。
tmitterを余り見なくなったからか、通知は香ばしいアカウントのものばかりになってしまった。
具体的に言うと、パキたんや、嘘松ネネちゃんや、滝沢ガレツや、夜職女の振りしたネカマ垢。
だからこそ、今日通知に上がって来た投稿は、目を引いてしまった。
投稿内容は、有名配信者事務所のお知らせだった。
なんでも、年明けに面白い女の子の配信者がデビューするらしい。
パチ屋のフォントかのように、金色の文字で「期待の超新星! デビュー!」なんて、画像に書かれていた。
超新星って、すぐ消えるじゃねーか。
乾いた笑みを浮かべている俺に対して、リプ欄は
「把握しました」
「お知らせありがとうございます」
とか、インプレゾンビ推し活女子版だった。
自分もリプされていたけど、無関係な立場からしたら怖いな。
*
師走ということで、自宅を大掃除中である。
メルカルに出品するも、売れなかった食玩のグッズ。穴空いてる靴下、毛玉だらけのヒートテック。
全部、燃える……よな? 燃えるだろ! よし!
市が指定しているゴミ袋に、ポイポイと捨てていく。
ずっと自室に居るのも飽きるので、リビングへ行った。
リビングの窓の桟に置かれた、ピンクの千羽鶴。
「……静弥。これ、要る?」
換気扇の下に、スーパーで貰ってきた新聞紙を広げている静弥。
「……要らないけど、他人から貰ったものだし、捨てにくい」
言いたいことは、めちゃくちゃ分かる。
高校時代に、コンビニでバイトしていた時。パートのおばさんから、手作りのがま口財布を貰ったことがあった。
色は緑で、模様は白のうずまき模様。
おばさんなりに、男の子を好みを考えてくれたのは分かる。
分かるんだけども、今時こんな財布使ってる男子高校生居ないって……。
俺はそう思いながら、がま口財布を受けとり家に帰るなり財布にお礼と謝罪を言ってから捨てた。
俺が捨てる選択肢を取れる人間でも、静弥がそうとは限らないよな。
なんかに使えたら、良いんだけど……。
結局、今週も放置してしまった。
それにしても、なんでピンク一色なんだよ。
女にあげるならまだしも、相手は男やぞ。
みんな、何かしらズレてんのかもしんねえなあ。
*
静弥の卒業式は、十二月の二十二日になった。
その日成条高校は終業式らしくて、午前中のみらしい。
午後三時くらいなら都合が良いけど、どうかな? と、静弥の元担任の帯解先生は電話で言っていた。
手を握りながら様子を見守っていたが、優しそうな先生だった。
静弥の声を聞くなり、聞く者を安心させる声で「沼黒君、久しぶりですね」と、街中でたまたまばったり会ったかのように朗らかな声で話して来たのだ。
そりゃあこの先生が差し伸べてくれた手を、事情が事情だったとは言え、振り払ってしまった自分自身に嫌悪するよな……。
痛々しいほどに、分かってしまった。
そんな訳で。正月より早いけど、静弥と地元に帰ります!(ドンッ!!)
折角なので、チーム山南男子に会えないか聞いたら二つ返事で了承してくれた。
沢井は「冬に卒業式って、雅だねえ」とか言っていた。
どこの俳句家だよ。
雲雀丘は「確かに、卒業式イコール春で桜だよね。こっちの地域は、桜咲くの五月だけど」
なんて日本人誰もが思うイメージと、通用しない地域もあると思い知る。
桜と言ったら、真っ先に思い出すのは宝桜の桜だろうか。
一年、早過ぎる……。今年は、色々あったな。
アレから静弥は結局サブスクを契約して、色々な漫画を読んでいるようだ。
ONE PIECEも読み進めてくれて、俺が言ったキャラは大体好きになってくれたらしい。
中でも、チョッパー編に感動したようだった。
うん、泣くよな。アレは。分かる。
俺の親父におすすめ漫画を聞いているのが、若干ムカつくけどな……。
俺はゴミ出しを一旦ストップして、静弥のフィルター掃除を手伝う。
「もう夕方だしそれ終わったら、今日は終わりにしようぜ」
「……うん」
「疲れたから、夕飯はレンチンちゃんぽんでいっか」
「うん。ちゃんぽん、好き」
特に何もないけど、ゆっくり日常が続いているのが何より嬉しい。
「あのね、晄君。僕、ちょっとやってみたい配信アプリがあって」
「お? なんてやつ?」
「リアティブって言う、アバターで顔出しなしで出来るアプリ。読者垢の相互さんがしていて、やってみないか?って」
やったことはないけど、知ってはいるな。誰でも簡単にスマホ一台で、Vチューバーみたいに配信出来るアプリだ。
雑談は勿論のことスマホの画面録画機能を使って、スマホゲームの配信も出来るから若年層に人気がある。
「いいな。俺も、配信しようかな」
アプリが定めている条件を満たして、インフルエンサー枠に居続けるのはしんどいだろう。
だけど評価とか気にせず、ダラダラ配信するのは良いかもしれない。
「うん。一緒に、やろ」
静弥ははにかみながら、ゆっくりと頷いた。
*
寝る前。俺は部屋で、あの千羽鶴のことを考えていた。
今年はまあ置いとくとして、下手したらずっとあそこに座っているかもしれないよなぁ……。
何処かで静弥が区切りをつけて「もういいや。捨てよう」ってなったタイミングで、捨てるのが一番だろうけどーー状態が状態だし、いつになるか分からない。
口には出さないように努力してるけど、俺もメンクリ通っててしんどいのだ。
どこかのタイミングで「要らないなら、捨てろよ!」ってキレる可能性は充分にある。
なんか、良い使い方ねえかなあ。折り紙を解いて何かを作るにしても、折った線の跡で汚くなるからゴミ同然だろう。
仮に作っても、要らないのに置いてる矛盾は解消されないしなあ。
頑張って待つしか、ないんかなあ……。
*
早くも一週間が、過ぎた。
日付を超える度に、子供達はサンタクロースを楽しみにしているのだろう。
……かくいう俺も、リアルタイムでサンタ業務をしております。
「ガチで、シールって人気なんだ」
明郷大学経済学部三年生四人組は、LOFTの文房具コーナーをうろついている。
平日にも関わらず、店内は人通りが多い。流石、東京である。
夏野の感想に、荻原は聞かせるようなため息を吐いた。
「自分の好き嫌いもなく流行に流されてる、物語を理解出来ない低脳女がハマってんでしょ」
「荻原君が付き合ってる女の子、その手のばっかりだけどね」
夏野の指摘に、荻原は笑顔のまま頭突きを喰らわせた。
しねどすスプレー、お役御免かあ……。
コイツのスピードなら、秒で使い終わってそうだもんな。
「ヌマクローに、どんなシールあげたいん?」
「手帳デコしたいらしいから、それっぽいの。あいつズレててダサいから、汎用性あって組み合わせやすいナチュラル系で統一しようと思ってる」
「本当に、ヌマクローのこと好きなんか?」
三人の視線が、突き刺さる。
百均でもシールは店舗を変えて大量買いしたけど、折角のクリスマスだしちゃんとした店のも混ぜてあげたい。
……お。このシール、可愛いな。
コラージュに使えそうな、窓枠型のシールや花のシールや、切手型のシールや鳩型などがたくさん入ってる。
お値段は、五百五十円。百均のシールが、五つ買えます!
いや、このデザインは百均にはなかった。買っても、よし。
あとこの夜空の喫茶店みたいな、フレークシールも買ってもよし。
「つまんないから、帰るわ~」
そう言って、エレベーターの方へ歩み出す荻原。
終わってんなあ……。人として。
せめて「用事あるから、帰る」とか言っとけよ……と、思うけど荻原だもん。
人間の道理が、通じる訳ない。
廣笠が「あ」とデカい声を出して、荻原を呼び止めた。
ゼミのことで、伝えないといけないことでもあるんだろうか?
荻原は「なに?」と言いながら、戻って来た。
「お前、下の名前なに?」
「……今更?」
荻原の疑問は尤もだけど、俺も忘れちまった。
夏野が、閃いたように口を開いた。
「分かった! 亜久(あく)だ!」
「俺、爆裂炎拳(ばくれつえんけん)だと思う」
「ジャンプの技名か!」
いつの間にか、夏野と廣笠が荻原の名前当てゲームを始めてる。
「……あ! なんか、奏でるの字入ってたよな」
夏野の言葉に、俺と廣笠は笑い転げる。
「似合わなさすぎ!」
「そんな情緒、ないよなあ」
「お前らには、絶対教えねー」
*
帰り道。俺は、静弥の卒業式のことを考えていた。
今日はやたら、信号に捕まってしまう。
信号待ち中に、ちょっと考えをまとめるか。
多分だけど急遽行われることになったから、卒業式と言っても簡素なものになるだろう。
沢井が言うからには、成条高校にはボランティア部があるらしい。
在校生の代わりに、ボランティア部がお見送りはすると思うんだけど……。学校側でお知らせ出して、招集もかけるかも?
なんて、言っていた。
俺が在校生の立場だったとして、被っていない先輩の「卒業式」なんて言われても、出ようとは思わないなあ。
だって、終業式の後だぜ? 一分一秒でも早く家に帰って、遊ぶんだー!! って、ならないか?
成条みたいな、進学校は違うんかなあ。
なんか俺達だけで、出来るサプライズやりたいよなあ……。
花火打ち上げたり、キャンプファイヤーやったり、太鼓を鳴らしたり、近隣の方の迷惑になることは当然しないけども。
形には残らなくても、思い出に残ることはしたい。
合唱とか演奏は、今から練習は時間的にも距離的にも無理だろう。
サプライズって言えば、あの千羽鶴もじいさんからしたらサプライズだったんだろうな……。
……うん? 卒業式? ピンクの千羽鶴?
「見えたぞ!」
俺はあの探偵の声で、叫び出した。
運命の女神様が微笑むかのように、信号を青く照らしてくれた。
走り出そう。自分に出来る、最善かは分からないーーサプライズと、未来のために。
10
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~
春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』
アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。
唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。
美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。
だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。
母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。
そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。
——カイエンが下す「最後の選択」とは。
ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
モブなんかじゃ終わらない!?
MITARASI_
BL
気がつけばそこは、人気BLゲームの世界。
けれど与えられた役割は、攻略対象でも悪役でもない――ただのモブ。
本来なら物語の外でひっそりと生きていくはずだった。
だが、そんな彼の存在が、少しずつ“運命のルート”を揺さぶっていく。
選ばれないはずのモブが紡ぐ、新たな恋の物語。
ゲームの定めを超えて、彼が辿り着く未来とは――。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
【連載中/BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
架月ひなた
BL
異世界に召喚されたけど、即クビ!?
しかも壊した魔法陣を直せと無茶振りされ、住む場所として案内されたところも廃墟のような別邸。
食事は小さなパンのカケラにグラスに三割しか入っていない水のみ。
帰還手段もなくどうやって生きていこうか悩んでいた千颯の前に現れたのは、もふもふ癒し系のホワイトタイガーだった(のち超絶イケメンに変化)。
「名をくれたお前をこれから先ずっと守ると誓おう」
溺愛MAXのもふもふイケメン精霊獣に「駆け落ちするぞ」ともちかけられ、元の世界へ戻る為に旅をする事になった平凡社会人(無自覚チート精霊術師)の契約異世界BLファンタジー。
行方不明になっていた祖父がこの世界で聖女に拉致されたのを知り、探し出して一緒にニホンへと帰るつもりだったが!?
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
※ざまあ展開にもなりそうな予感。
※想定文字数10万〜13万文字くらい。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる