光彩濁りて愛となる

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五十一話

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 帰宅するなり、成条高校に電話をかけた。
 やりたいこと、後片付けは自分達でやること。勿論ご迷惑になるなら、やめます。とも、言った。
 最初に話を聞いてくれた先生では「判断がつかない」と言うことで、教頭先生に電話が代わったのだ。
 平等を説いている教師も、縦社会なんだなあ……。
 教頭先生は渋くも温かみのある声で、とある条件をこちらが受け入れるのならばいいよ。と、言ってくれたのだ。
 その条件は、大人として先生として持つべき「意識」のものだった。
 それを思いつかなかった俺は、子供なのだと思い知ったのだ。
「大人って、なんだろうな……」
 ぽつりと独り言を、床に向かって吐く。
 俺が静弥卒業式でやろうとしていることは、余りにも作業量が多い。
 自分で言い出したことだけど、一人でやるのは余りに無理がある。
「借りますかー……友達の力!」
 メッセージを考えてから、みんなに一斉送信した。







 リビングのローテーブルに立てられた、百均のスマホスタンド。
 スマホスタンドには、静弥のスマホが起立している。
 スマホスタンドと向き合うように、静弥は正座しているのだ。
 俺は静弥の横に座り、静弥の様子を見守っていた。
 配信アプリ「リアティブ」の静弥のアバターは、真っ直ぐに前を向いている。
 アバターは初期の選べるパーツから、マッシュっぽい銀髪にグレーの瞳を選んだようだった。
 洋服も例に漏れず、初期から選べるワイシャツにスラックス。
 うーん。アバターの見た目に似合わず、服は清楚系ですなあ。
 てっきり髪色や目の感じに合わせて、パーカーとか選ぶと思っていた。
 静弥は深呼吸してから、配信を始める為のマイクのアイコンをタップした。
 配信が開始されたので、俺のスマホからアプリを開いて静弥の配信を見に行く。
 静弥のアプリでの、ユーザーネームは「ウルトラ ロイヤル いろはす」って、おい!!
 お前、勇気あんなぁ……。 
「あ、生肉さん。いらっしゃい。ウルトラ ロイヤル いろはすです」
 目の前に居るのに、配信アプリ上で話すのも変な感じだ。
 だけどアプリ上はあくまで、静弥が枠主で俺はリスナーだ。
 アプリのコメント欄に、文字を打つ。
『初めまして。ウルトラ ロイヤル いろはすさんは、何が好きですか?』
 静弥の口元が、緩んだ。
「あ、生肉さん。コメント、ありがとうございます。最近は漫画が、好きです。最近読んだ漫画だと『魔人探偵脳噛ネウロ』って言う、漫画がダントツで面白くて……」
 ああ。暗殺教室の人か。暗殺教室は、親父の本棚から読んだことがある。確かに、面白いことが出来る漫画家さんだと思う。
 なんて思って聞いていたら、静弥はあらすじやコマ割りの斬新さや構成について語り出した。
 コレ、めちゃくちゃ語り出すんじゃねえの。静弥さんのことだから。
 ウルトラ ロイヤル いろはすの枠に、ちらほらとリスナーがやって来た。
 みんなフレンドリーに挨拶から始まり、ウルトラ ロイヤル いろはすが話している「ネウロ」の話題に反応を示している。
 ああ……なんて、きれいなインターネットなんだ! こんな世界が、あったんだ!
 そりゃあ陰キャ村の村長が、あんなことを言う訳だ……。







 俺の予想通り、静弥さんは「ネウロ」の話をぶっ続けで二時間語っていた。
 その間に、俺は蛇口から水を八杯飲んだ。
 映画見れんじゃねーか! って配信が終わるなり笑い飛ばすと、静弥は「晄君がコメント打ってくれたから、安心して話せたんだよ」と言って来たのだ。
 静弥の可愛さで、日本の食糧自給率が上がるかもしれないー……(ポチャーン)。
 二人して、夕飯の支度を始める。
 今日は王将で、餃子を買って来た。
 フライパンに油を敷き、餃子を並べて、ティファールで沸かせた熱湯をフライパンに注ぐ。
 汁物は、インスタントの卵スープでいっか。
 と言うと、静弥は静かに頷いた。
 にんにくの鼻をさす匂いが、キッチンに広がる。
「生肉君の、配信も行く」
「ありがと。夕飯食って、皿洗ったらやろうかな」
「いいね」
 今日も生きれて、えらいですなあ。お互いに。







 二人で餃子を食べて、皿を洗った。
 今度は俺が配信する番が、やってきた。
 時刻は、夜七時半を回ったところだ。
 さっきとは逆で、静弥が俺の横に座っている。
 スマホスタンドにスマホを立てて、マイクのボタンをタップした。
 俺のアバターは普通の茶髪の、ボブっぽい髪型にパーカーにした。
「あ、あ。初めまして。生肉ですー。音、入ってるかな?」
 仮にも二十万数字を持っている、インフルエンサーが初心者の振りをするとは……皮肉なことだな。
 静弥もとい、ウルトラ ロイヤル いろはすさんは「初めまして。聞こえてます」と、コメントを送って来てくれた。
 改めて考えたら、シュールだな。すごく……。
 そんなことを考えていたら、俺の枠に新たなリスナーが入ってきた。
 たったの、二人。されど、二人。
 高校時代の俺を、思い出した。
 ソレソレの凸者が言ったように、インフルエンサーでもなんでもなかった俺。
 配信は友達か、ネットの相互さんが来てくれるくらいの小規模なスタイルだった。
 歩夢や智顕と組んだことで、身の丈にあってない数字を得たのがコウ君だ。
 今の俺は、火が通ってない生肉。
 数字とか、映えとか、気にせず、好きなことを話したら良いんだ。
「初めまして。生肉ですー。来てくれて、ありがとうー。自己紹介しようかな? 東京に住んでる大学生で、漫画とかうぃーつべが好きかなー」
 すぐさま、ウルトラ ロイヤル いろはすから、コメントが来た。
『魔人探偵脳噛ネウロを、読んでください』
 好きすぎて、圧!
「え、ネウロ~? 暗殺教室は、好きだったよ」
 目の前に本人が居るのに、なんだこの茶番は……。
 その後は、周りの友人(荻原とか、犬山とか)の面白エピソードを話した。
 配信時間は、一時間近く。
 聞きに来てくれた、リスナーは五人。
 ……うん。何者でもない俺なら、こんなもんだよな。







 それから卒業式の日まで、俺達は各自のペースでとある作業を進めていた。
 師走だけあって、時の流れが本当に早い。
 そして迎えた、卒業式の日当日。
「……ガチか」
 マンションを出た瞬間に、道端の端に居る雪を見て俺は声を上げた。
 東京でちらっとだけど積もってるってことは、地元はもっと積もってんじゃねえの。
 俺の予想に返事をするかのように、チーム山南男子や相澤から「こっちの地域、雪ヤバいよ」とメッセージが入った。
「……電車、動いてるかな」
「動いてなかったら、タクシー捕まえようぜ」
「う、うん」
 折角地元に帰るのとクリスマスが近いので、俺達は卒業式のあとに滋賀に旅行へ行くことになった。
 京都旅行のリベンジなのだが、冬にパフェは寒い。って言うのと、お互いの状態を考えて人混みは避けよう。と、言う話になったのだ。
 何故滋賀なのかと言うと静弥が好きな小説「鳴瀬は天下を取りに行く」の聖地らしく、聖地巡礼にミシガンに乗ることにした。
 クリスマスらしくもっと派手なクルージングでも良かったんだけど、静弥が「贅沢は、敵」と言い出したので滋賀旅行決定で~す。
 休職中に、お金なくなるのって不安だよな……。
 山南村民が言うのもだけど、滋賀って琵琶湖と彦根城とミシガン以外になにあんの?
 とりあえず、東京駅へ向かうことにしよう。
「ひ、晄君」
 歩きながら、静弥が言う。
「ん、なに?」
「折角滋賀県に行くんだし、滋賀県のラーメン屋さん調べたんだ」
 え、え、えー!! なにそれ、嬉しい!!
 俺の頬は、だらしなく緩む。具体的に言うと、うちの親父の腹みたいに。
「え、ありがと。なんて店?」
「秘密」
 口元に、人差し指を当てる静弥。
 か、かわいいー!! 静弥の可愛さで、コンビニのおにぎりが値下げされそう~!(ポチャーン)
 ヤバい。楽しみすぎる。滋賀なんて、滅多に行かないしな。
 サプライズのものは、今はキャリーケースに隠せてるけどーー現地着いてからが問題だよなあ。
 コイツ、変なところで鋭いから。
「何、そわそわしてるの? お手洗い?」
「違ぇよ!」







 電車に揺られること、約一時間。
 今は新幹線の指定席で、車窓からの景色を楽しんでいる。
「……ん」
 静弥さんの頭が赤べこのように、グラグラと動いてんな。
 緊張で、あんまり眠れなかったのだろう。
「寝てて、良いよ。近くなったら起こすし」
「……え。良いの?」
「折角の卒業式なんだから、ちょっとでも良い状態で出たいだろ」
「……ありがとう」
 静弥は瞼を閉じて、俺の肩に頭を預けて来た。
 山南村に居た時に、雲雀丘に聞かれたことを思い出す。
『しーたんはさ。ヌマクローに、ただ生きてて欲しいの? それともーー生きる理由になった、恩人になりたいの?』
 あの時は、雲雀丘の言葉の意味がいまいち分かってなかった。
 だけど、今なら分かる気がする。
 この夏から秋にかけて、俺は自分が「何者」でもないことを知った。
 だから、静弥の恩人になんてなれない。
 静弥が、静弥なりに、生きていてくれたら良い。
「……ひかる君」
 静弥の口が、もぞもぞと動く。
 え。夢にまで、俺のこと見ちゃってんの!?
 かわいい!! 静弥の可愛さで、地球から「争い」って概念ごとなくなりそうー……(ポチャーン)。
 俺は満面の笑みで、静弥の言葉を待つ。
「給食のコッペパン、机に隠しちゃダメだよ……」
「おい。いつの話だ。叩き起こすぞ」
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