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三十六話
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翌日。静弥は朝早くから、バイトに出掛けて行った。
昨日休んでしまったから、誰よりも早くに行って掃除でもしておきたいらしい。
こういう真面目で優しいところが、好きだなあ。と、思う。
俺はと言うと、静弥は誕生日パーティー準備会の司令塔をしていた。
「蓮! お前なんでサンタクロースの飾りなんて、持って来たんだよ!」
「オーナメント、クリスマスのしか家になかったから」
「まだボールのとか、あるだろ」
「どれも、クリスマスカラーだよ。晄お兄ちゃん」
奈々にも冷ややかな目を向けられ、小さく謝る。
気のせいだろうか……? 蓮が生ゴミを見るような目で、俺を見ているのは。
落ち着いてからでも、アライブの雑貨屋にそれっぽいのを買いに行くか……?
めちゃくちゃ今更だけど、静弥が好きなモチーフを知らないことに気が付く。
動物なら、何が好きなんだろうか? 犬派? 猫派? あいつ、やまにゃん殺してるから犬派か? 動物なら、鳥派とかかもしれない。いや、爬虫類系か……?
蓮に聞いてみたら「プリウスのこと、可愛い。って言ってた」と、返事が返って来た。
メンヘラは何故、兎が好きなのか? その答えを解明すべく、俺はアマゾンの奥地へ向かった。
蓮と奈々のみならず、篠塚家の兄弟が全員沼黒家に集合している。
朝一に実家に電話をかけて、静弥の誕生日パーティーしたいから誰か来てくれない? アイスとジュース奢るから。と、電話に出た奈々に言ったらまさかの兄弟全員が沼黒家にやって来てしまった。
折角の土曜日なのに、お前らみんな暇なの? こちらとしては、助かるけどさ。
ここで、篠塚家の七人兄弟を紹介しようと思う。
長男俺、大学三年生。次男蓮、今年で二十歳。長女奈々、高校二年生。三男彗(けい)、中学二年生。四男絢也(じゅんや)、小学五年生。次女結愛(ゆめ)、小学一年生。三女兼今は末っ子真凜、三歳。
改めて名前を挙げると、兄弟多いな。と、思う。
こんだけ人数が居ても、誰一人俺と同じ顔をした人間も同じ性格をした人間も居ない。
真凜と結愛に折り紙の輪つなぎを作って貰い、絢也と彗に風船を膨らませるように命じたのだが絢也一人で膨らませている。
彗の方は黙々と、ポップアップカードを作っている。
土台となる黄緑の厚紙に緑や茶色の画用紙を貼り終えて、森を作り終えたばかりのようだった。
今は作り終えた土台となるカードに、茶色やオレンジの画用紙を重ねて吟味している。
「何、作ってんの? 猫のポップアップカード?」
「恐竜」
彗は作業の手を止めずに、言う。
兼は昔から何かを創るのが好きで、暇さえあれば何かを創っている。
クリスマスカードに、ホウ砂や食紅や工作用モールを使った手作り宝石に、ステンドグラスで出来たランプなど、小遣いは物作りの材料に使っているようだった。
少なからず、親父の血を引いていると思う。
年齢が上がるにつれて、出来ることは増え、やりたいことのレベルは当然上がる。
最近は小遣いだと材料費が足りないらしくて、八木商店でお手伝いをしてお小遣いを貰っているらしい。
下手したら児童労働だろ、それ……。
「あいつ、恐竜好きなのかな」
「Rukiが『ギャルと恐竜、嫌いな男居る? いねえよなぁ!?』って言ってた」
タイムリープもんのヤンキー漫画の金髪のセンターパートの前下がりボブかよ。
あと、せめて君をつけろよ。
絢也は文句を言いながらも、口でゴム風船を膨らませている。
絢也は篠塚家から生まれたことが不思議なアウトドア少年で、山南村の山でソロサバイバル訓練をしては彗に連れ戻されている。
なんの用具も持たずに身一つで山に入っては、木からナイフを作ったり葉っぱのベッドを作ったり焚き火を起こしたりしているそうだ。
時代が時代ならば、山賊になれるだろう。
俺は俺で掃除をしていて、はっきり言って終わるか不安だ。
自分の家より、綺麗にしてるってどういうことだよ。どうせパーティーするなら、綺麗にしたいじゃないですか。
二つの気持ちがあるけど、後者の方が割合的に大きい。
「なんだ、コレ」
テレビ台の下から、出て来た一枚のコピー用紙。
もしかして、またおっさんからのラブレターか?
俺はコピー用紙を表に向けて、恐る恐る内容を確認する。
コピー用紙に印刷されていたのは、WeeTubeの画面だった。
左には動画の画面、右にはコメント欄が写っている。
配信画面に映っているのは、本棚の前に立っている静弥だった。
部屋をスマホのビデオで撮影したような、画面の暗さだ。
印刷の色味もあるだろうけど、それにしたって暗い。
ライトで部屋を照らしたり、加工したりはなくそのままの静弥がコピー用紙の画面の中に居た。
え。あいつ、配信してんの?
撮影された日付は五年近く前のもので、高校時代に撮影したようだった。
日付的に、高校一年生の夏休みだろう。
チャンネル名は【沼黒の読書チャンネル】で、インターネット黎明期のホームページを連想させた。
あのやたらとカラフルで、画像は信じられないくらい粗くて、横スクロールで「ようこそ○○のホームページへ」とか、文字が流れて来る古のホームページ。
なんで詳しいのかって?
親父が作った「山南科学館」のホームページが、そんなんだからだ。
プリントアウトされた、静弥の読書感想の動画についたコメントはたったの三件。
動画配信を始めたばかりの、高校時代のことを思い出した。
俺にも、そんな時代あったな。
チャンネル登録者が身内含めて三十人くらいで、再生数が百超えたら大歓喜していた時代が。
あの頃の俺は、いいねが一つつくだけで舞い上がっていた。
それが今は、どうだろう。
数字にばかり囚われて、いかにバズるかいかにウケるかだけ考えてる気がする。
今の景色は、本当に俺が見たかった景色なのだろううか?
静弥の動画についたコメントは
『うぽつ』
『なるほど。そういう着眼点も、ありますね』
『感想面白い。好き』
あの老人が「アップロードお疲れ様です」を略して「うぽつ」と言うなんて、知らないと思うぞ。
「面白い」と「好き」は、配信者にとって魔法の言葉だ。
その言葉があるだけで、また新しい動画を撮ろう! と言う糧に、なる。
なんだ。一緒だったんじゃん。もっと早くに、言えよ。
*
沼黒家のダイニングキッチンと玄関を何とか飾り付け(結局アライブの雑貨屋まで買いに走った)た。
HAPPY BIRTH DAYの文字が出来上がるシルバーの風船に、三角旗のガーランドに、フェイクグリーンガーランドを壁に貼り付けた。
真凜と結愛に作って貰ったピンクと紫と水色の輪つなぎも、天井に貼り付けた。
兎と静弥の年齢「21」のバルーンも、土間に入ってすぐ目に入るところに置いてみた。
俺もバースデーカードに兎でも描くか……と鉛筆を握ったが、兄弟全員から非難轟々の嵐を受けてそっとゴミ箱に捨てた。
奈々に手伝って貰いながらバースデーケーキに抹茶と小豆のバスクチーズケーキを焼いた。
夕飯にはグラタンを作り、ゆで卵とトマトと紫キャベツときゅうりの彩りサラダを作り(ドレッシングもサラダ油と酢とすり下ろし玉ねぎで、薄口目に作った)、かぼちゃスープと静弥が育てた苺も添える。
グラタンは焼かずにラップをかけて、冷蔵庫にしまっておいた。
どうせ食べてもらうなら、熱々のを食べて欲しいし。
奈々には「この時期に、グラタン!? マジで言ってる!?」って聞かれたけど、焼肉屋で初手でご飯とか卵スープとかナムル頼む男だぞ。
季節感なんか、気にしないだろう。
本当はプレートに盛り付けたかったけれど、沼黒家にそんなものはないので、比較的おしゃれなお皿に盛り付けようと思う。
写真をコウのアカウントにあげたいけど何処で嗅ぎ付けられるか分からないので、食べ終わってから身内用のエンスタにあげようと思う。
料理中の奈々は母親のように
「野菜の切り方が、荒い!」
「待ち時間に、別の作業をやるの!」
「レシピ通りの分量で、作るの!」
と、俺を誇張抜きに十分に一回は叱って来た。
家事スキルが低い兄で、ごめんなさい。伸び代しかないので、これから頑張ります。
あとお前はいい嫁になるよ、マジで。
そうこうしている内に、あっという間に村役場から夕方六時を告げる音楽が流れ出す。
奈々より下の兄弟全員が手を振って、家に帰って行った。
聞き分けが良くて、お兄ちゃん大変助かります。
蓮は居間のローテーブルに座りながら、俺を見上げている。
「この間は静弥を拾ってくれて、ありがとう。拾われたんが、お前で良かったわ。マジで」
変態オヤジとかに拾われていたら、静弥は山南村に帰って来ていないかもしれない。
昼間は羽虫に襲われて、夜は蛙が大合唱して、住民のプライバシーの概念がゼロなクソみたいなド田舎でも故郷なんだ。
俺もあんな気持ちのまま、お別れなんてしたくないし。
「いいよ。沼黒君とSMプレイしたからには、責任取りなね」
「SMプレイ……?」
蔵に閉じ込められてアナルビーズを、後ろにぶち込まれたことか? どっちかって言うと、放置プレイじゃね?
そもそもなんで、知っているんだ?
「沼黒君の首を、縄かなんかで縛ったんじゃないの?」
「してねーわ! あと、俺される側だから!!」
「えっ、ごめん……。それはそれで、気をつけた方が良いんじゃ」
ネットなんて、己の憶測をさも真実のように書き込まれる場所だし。蓮は嘆息まじりに、そう言った。
待てよ。俺は重大な見落としを、している気がする。
静弥の首の痕は、いつ、どこで、誰が、静弥の首に、何故、どのようにして傷をつけた……? 5W1Hが、まさかここで役立つと思わなかった。
お母さんの生前か、死後か。
千人滝に飛び込む前か、飛び込んだ後か。
勝本達に沢井とのセックス動画を撮られる前か、撮られた後か。
場所の特定は、今の情報だけでは不可能に等しい。
誰が首を絞めたのかは、自傷行為の可能性も第三者にやられた可能性も充分にある。
何故なのかは自殺を図っても考えられるし、勝本達が面白がっても考えられる。
どのようには、縄が有力だけど他の可能性もあると思う。
そこまで考えて、俺はやめた。
気にはなるけど、真実を知ることだけが愛じゃない。
静弥が話したくて仕方なくなったら、聞くことにしよう。
俺は探偵でもなければ、記者でもない。
与えられ過ぎた情報はフィルターをかけるだけじゃなくって、感覚を鈍らせる。
蓮は言うだけ言って、帰って行った。
相変わらず、自由な奴……。
蓮と入れ替わるように、静弥が帰って来た。
玄関の扉を開くなり、フリーズして立ち尽くしている。
静弥の顔色は赤くなってて、気恥ずかしそうに手の甲で唇を覆った。
「ごめん。準備、大変だったでしょう」
「そこは、ありがとうで良くね? 兄弟に手伝って貰ったから、そんなだぞ」
静弥の手を引き、ダイニングキッチンまで連れて行く。
ダイニングテーブルに並べられた料理を見て、静弥は感嘆の息を漏らす。
生で蛍を見たかのような反応なので、こちらも照れてしまう。
「そんな大したもんじゃないから、変に期待しないで」
俺は鍋に入ったかぼちゃスープを温め直しながら、グラタンのラップを外して電子レンジに入れた。
静弥はソワソワしながら、俺を見ている。
なんだよ。そんなすぐには、出来ないぞ。
「えっと……僕が言ってた、ご褒美出して良い?」
「えっ! 見たい見たい!」
昨日はバタバタして、見れず仕舞いだったんだよな。
いや、待てよ? こいつのことだから、テレビ通販で紹介されてそうなポータブルDVDプレイヤーとか、偽物のブランドバッグとか渡して来そうだな……。
静弥はお仏壇が置いてある大部屋まで行き、大手家電量販店の袋を持って来た。
うわ、しかも、なんか、デカいし……。
静弥が袋から、ゲーム機のハード本体の箱を取り出す。
「……え?」
Switchなら、俺持ってるし。そんな意気揚々と、渡されても。
あ。もしかして……。
「お前、2だと思って買った……?」
「え? うん」
「これ、ずっと前から売ってるやつ。2はまだ抽選中で、店に並んでないよ」
「嘘……」
目に見えて落ち込む、静弥。
そうだよなぁ。金額が、金額だもんなぁ。
「あー。返金も出来ると思うけど、静弥が良かったら、静弥のにしたら? 一緒に、通信プレイとかしようよ」
Switchのソフトなら、ゲーム初心者でも楽しめるソフト沢山あるしさ。と言うと、静弥の顔が輝いた。
ゲームソフト、明日買いに行く! と言い出したので、ダウンロードも出来るけど。って言ったら、首を傾げていた。
うん。そんな反応すると思った。
グラタンが焼き上がるまでの時間、ハードの初期設定をしたりソフトのダウンロードをした。
静弥が選んだソフトは、動物達と島でスローライフを送る有名なシミュレーションゲームだ。
島の名前は「ひかるくんとのあいの島」に、決めたらしい。
エンスタのユーザーネームを、彼氏と自分の名前を入れてLOVEとかに設定する女子中学生か。
今からでも同じゲームをダウンロードして「せいやくんとのあいの島」って、名付けるべきなんか? バカップルかよ!!
静弥がどうしてもと言うなら、してあげないこともない。
昨日休んでしまったから、誰よりも早くに行って掃除でもしておきたいらしい。
こういう真面目で優しいところが、好きだなあ。と、思う。
俺はと言うと、静弥は誕生日パーティー準備会の司令塔をしていた。
「蓮! お前なんでサンタクロースの飾りなんて、持って来たんだよ!」
「オーナメント、クリスマスのしか家になかったから」
「まだボールのとか、あるだろ」
「どれも、クリスマスカラーだよ。晄お兄ちゃん」
奈々にも冷ややかな目を向けられ、小さく謝る。
気のせいだろうか……? 蓮が生ゴミを見るような目で、俺を見ているのは。
落ち着いてからでも、アライブの雑貨屋にそれっぽいのを買いに行くか……?
めちゃくちゃ今更だけど、静弥が好きなモチーフを知らないことに気が付く。
動物なら、何が好きなんだろうか? 犬派? 猫派? あいつ、やまにゃん殺してるから犬派か? 動物なら、鳥派とかかもしれない。いや、爬虫類系か……?
蓮に聞いてみたら「プリウスのこと、可愛い。って言ってた」と、返事が返って来た。
メンヘラは何故、兎が好きなのか? その答えを解明すべく、俺はアマゾンの奥地へ向かった。
蓮と奈々のみならず、篠塚家の兄弟が全員沼黒家に集合している。
朝一に実家に電話をかけて、静弥の誕生日パーティーしたいから誰か来てくれない? アイスとジュース奢るから。と、電話に出た奈々に言ったらまさかの兄弟全員が沼黒家にやって来てしまった。
折角の土曜日なのに、お前らみんな暇なの? こちらとしては、助かるけどさ。
ここで、篠塚家の七人兄弟を紹介しようと思う。
長男俺、大学三年生。次男蓮、今年で二十歳。長女奈々、高校二年生。三男彗(けい)、中学二年生。四男絢也(じゅんや)、小学五年生。次女結愛(ゆめ)、小学一年生。三女兼今は末っ子真凜、三歳。
改めて名前を挙げると、兄弟多いな。と、思う。
こんだけ人数が居ても、誰一人俺と同じ顔をした人間も同じ性格をした人間も居ない。
真凜と結愛に折り紙の輪つなぎを作って貰い、絢也と彗に風船を膨らませるように命じたのだが絢也一人で膨らませている。
彗の方は黙々と、ポップアップカードを作っている。
土台となる黄緑の厚紙に緑や茶色の画用紙を貼り終えて、森を作り終えたばかりのようだった。
今は作り終えた土台となるカードに、茶色やオレンジの画用紙を重ねて吟味している。
「何、作ってんの? 猫のポップアップカード?」
「恐竜」
彗は作業の手を止めずに、言う。
兼は昔から何かを創るのが好きで、暇さえあれば何かを創っている。
クリスマスカードに、ホウ砂や食紅や工作用モールを使った手作り宝石に、ステンドグラスで出来たランプなど、小遣いは物作りの材料に使っているようだった。
少なからず、親父の血を引いていると思う。
年齢が上がるにつれて、出来ることは増え、やりたいことのレベルは当然上がる。
最近は小遣いだと材料費が足りないらしくて、八木商店でお手伝いをしてお小遣いを貰っているらしい。
下手したら児童労働だろ、それ……。
「あいつ、恐竜好きなのかな」
「Rukiが『ギャルと恐竜、嫌いな男居る? いねえよなぁ!?』って言ってた」
タイムリープもんのヤンキー漫画の金髪のセンターパートの前下がりボブかよ。
あと、せめて君をつけろよ。
絢也は文句を言いながらも、口でゴム風船を膨らませている。
絢也は篠塚家から生まれたことが不思議なアウトドア少年で、山南村の山でソロサバイバル訓練をしては彗に連れ戻されている。
なんの用具も持たずに身一つで山に入っては、木からナイフを作ったり葉っぱのベッドを作ったり焚き火を起こしたりしているそうだ。
時代が時代ならば、山賊になれるだろう。
俺は俺で掃除をしていて、はっきり言って終わるか不安だ。
自分の家より、綺麗にしてるってどういうことだよ。どうせパーティーするなら、綺麗にしたいじゃないですか。
二つの気持ちがあるけど、後者の方が割合的に大きい。
「なんだ、コレ」
テレビ台の下から、出て来た一枚のコピー用紙。
もしかして、またおっさんからのラブレターか?
俺はコピー用紙を表に向けて、恐る恐る内容を確認する。
コピー用紙に印刷されていたのは、WeeTubeの画面だった。
左には動画の画面、右にはコメント欄が写っている。
配信画面に映っているのは、本棚の前に立っている静弥だった。
部屋をスマホのビデオで撮影したような、画面の暗さだ。
印刷の色味もあるだろうけど、それにしたって暗い。
ライトで部屋を照らしたり、加工したりはなくそのままの静弥がコピー用紙の画面の中に居た。
え。あいつ、配信してんの?
撮影された日付は五年近く前のもので、高校時代に撮影したようだった。
日付的に、高校一年生の夏休みだろう。
チャンネル名は【沼黒の読書チャンネル】で、インターネット黎明期のホームページを連想させた。
あのやたらとカラフルで、画像は信じられないくらい粗くて、横スクロールで「ようこそ○○のホームページへ」とか、文字が流れて来る古のホームページ。
なんで詳しいのかって?
親父が作った「山南科学館」のホームページが、そんなんだからだ。
プリントアウトされた、静弥の読書感想の動画についたコメントはたったの三件。
動画配信を始めたばかりの、高校時代のことを思い出した。
俺にも、そんな時代あったな。
チャンネル登録者が身内含めて三十人くらいで、再生数が百超えたら大歓喜していた時代が。
あの頃の俺は、いいねが一つつくだけで舞い上がっていた。
それが今は、どうだろう。
数字にばかり囚われて、いかにバズるかいかにウケるかだけ考えてる気がする。
今の景色は、本当に俺が見たかった景色なのだろううか?
静弥の動画についたコメントは
『うぽつ』
『なるほど。そういう着眼点も、ありますね』
『感想面白い。好き』
あの老人が「アップロードお疲れ様です」を略して「うぽつ」と言うなんて、知らないと思うぞ。
「面白い」と「好き」は、配信者にとって魔法の言葉だ。
その言葉があるだけで、また新しい動画を撮ろう! と言う糧に、なる。
なんだ。一緒だったんじゃん。もっと早くに、言えよ。
*
沼黒家のダイニングキッチンと玄関を何とか飾り付け(結局アライブの雑貨屋まで買いに走った)た。
HAPPY BIRTH DAYの文字が出来上がるシルバーの風船に、三角旗のガーランドに、フェイクグリーンガーランドを壁に貼り付けた。
真凜と結愛に作って貰ったピンクと紫と水色の輪つなぎも、天井に貼り付けた。
兎と静弥の年齢「21」のバルーンも、土間に入ってすぐ目に入るところに置いてみた。
俺もバースデーカードに兎でも描くか……と鉛筆を握ったが、兄弟全員から非難轟々の嵐を受けてそっとゴミ箱に捨てた。
奈々に手伝って貰いながらバースデーケーキに抹茶と小豆のバスクチーズケーキを焼いた。
夕飯にはグラタンを作り、ゆで卵とトマトと紫キャベツときゅうりの彩りサラダを作り(ドレッシングもサラダ油と酢とすり下ろし玉ねぎで、薄口目に作った)、かぼちゃスープと静弥が育てた苺も添える。
グラタンは焼かずにラップをかけて、冷蔵庫にしまっておいた。
どうせ食べてもらうなら、熱々のを食べて欲しいし。
奈々には「この時期に、グラタン!? マジで言ってる!?」って聞かれたけど、焼肉屋で初手でご飯とか卵スープとかナムル頼む男だぞ。
季節感なんか、気にしないだろう。
本当はプレートに盛り付けたかったけれど、沼黒家にそんなものはないので、比較的おしゃれなお皿に盛り付けようと思う。
写真をコウのアカウントにあげたいけど何処で嗅ぎ付けられるか分からないので、食べ終わってから身内用のエンスタにあげようと思う。
料理中の奈々は母親のように
「野菜の切り方が、荒い!」
「待ち時間に、別の作業をやるの!」
「レシピ通りの分量で、作るの!」
と、俺を誇張抜きに十分に一回は叱って来た。
家事スキルが低い兄で、ごめんなさい。伸び代しかないので、これから頑張ります。
あとお前はいい嫁になるよ、マジで。
そうこうしている内に、あっという間に村役場から夕方六時を告げる音楽が流れ出す。
奈々より下の兄弟全員が手を振って、家に帰って行った。
聞き分けが良くて、お兄ちゃん大変助かります。
蓮は居間のローテーブルに座りながら、俺を見上げている。
「この間は静弥を拾ってくれて、ありがとう。拾われたんが、お前で良かったわ。マジで」
変態オヤジとかに拾われていたら、静弥は山南村に帰って来ていないかもしれない。
昼間は羽虫に襲われて、夜は蛙が大合唱して、住民のプライバシーの概念がゼロなクソみたいなド田舎でも故郷なんだ。
俺もあんな気持ちのまま、お別れなんてしたくないし。
「いいよ。沼黒君とSMプレイしたからには、責任取りなね」
「SMプレイ……?」
蔵に閉じ込められてアナルビーズを、後ろにぶち込まれたことか? どっちかって言うと、放置プレイじゃね?
そもそもなんで、知っているんだ?
「沼黒君の首を、縄かなんかで縛ったんじゃないの?」
「してねーわ! あと、俺される側だから!!」
「えっ、ごめん……。それはそれで、気をつけた方が良いんじゃ」
ネットなんて、己の憶測をさも真実のように書き込まれる場所だし。蓮は嘆息まじりに、そう言った。
待てよ。俺は重大な見落としを、している気がする。
静弥の首の痕は、いつ、どこで、誰が、静弥の首に、何故、どのようにして傷をつけた……? 5W1Hが、まさかここで役立つと思わなかった。
お母さんの生前か、死後か。
千人滝に飛び込む前か、飛び込んだ後か。
勝本達に沢井とのセックス動画を撮られる前か、撮られた後か。
場所の特定は、今の情報だけでは不可能に等しい。
誰が首を絞めたのかは、自傷行為の可能性も第三者にやられた可能性も充分にある。
何故なのかは自殺を図っても考えられるし、勝本達が面白がっても考えられる。
どのようには、縄が有力だけど他の可能性もあると思う。
そこまで考えて、俺はやめた。
気にはなるけど、真実を知ることだけが愛じゃない。
静弥が話したくて仕方なくなったら、聞くことにしよう。
俺は探偵でもなければ、記者でもない。
与えられ過ぎた情報はフィルターをかけるだけじゃなくって、感覚を鈍らせる。
蓮は言うだけ言って、帰って行った。
相変わらず、自由な奴……。
蓮と入れ替わるように、静弥が帰って来た。
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静弥の顔色は赤くなってて、気恥ずかしそうに手の甲で唇を覆った。
「ごめん。準備、大変だったでしょう」
「そこは、ありがとうで良くね? 兄弟に手伝って貰ったから、そんなだぞ」
静弥の手を引き、ダイニングキッチンまで連れて行く。
ダイニングテーブルに並べられた料理を見て、静弥は感嘆の息を漏らす。
生で蛍を見たかのような反応なので、こちらも照れてしまう。
「そんな大したもんじゃないから、変に期待しないで」
俺は鍋に入ったかぼちゃスープを温め直しながら、グラタンのラップを外して電子レンジに入れた。
静弥はソワソワしながら、俺を見ている。
なんだよ。そんなすぐには、出来ないぞ。
「えっと……僕が言ってた、ご褒美出して良い?」
「えっ! 見たい見たい!」
昨日はバタバタして、見れず仕舞いだったんだよな。
いや、待てよ? こいつのことだから、テレビ通販で紹介されてそうなポータブルDVDプレイヤーとか、偽物のブランドバッグとか渡して来そうだな……。
静弥はお仏壇が置いてある大部屋まで行き、大手家電量販店の袋を持って来た。
うわ、しかも、なんか、デカいし……。
静弥が袋から、ゲーム機のハード本体の箱を取り出す。
「……え?」
Switchなら、俺持ってるし。そんな意気揚々と、渡されても。
あ。もしかして……。
「お前、2だと思って買った……?」
「え? うん」
「これ、ずっと前から売ってるやつ。2はまだ抽選中で、店に並んでないよ」
「嘘……」
目に見えて落ち込む、静弥。
そうだよなぁ。金額が、金額だもんなぁ。
「あー。返金も出来ると思うけど、静弥が良かったら、静弥のにしたら? 一緒に、通信プレイとかしようよ」
Switchのソフトなら、ゲーム初心者でも楽しめるソフト沢山あるしさ。と言うと、静弥の顔が輝いた。
ゲームソフト、明日買いに行く! と言い出したので、ダウンロードも出来るけど。って言ったら、首を傾げていた。
うん。そんな反応すると思った。
グラタンが焼き上がるまでの時間、ハードの初期設定をしたりソフトのダウンロードをした。
静弥が選んだソフトは、動物達と島でスローライフを送る有名なシミュレーションゲームだ。
島の名前は「ひかるくんとのあいの島」に、決めたらしい。
エンスタのユーザーネームを、彼氏と自分の名前を入れてLOVEとかに設定する女子中学生か。
今からでも同じゲームをダウンロードして「せいやくんとのあいの島」って、名付けるべきなんか? バカップルかよ!!
静弥がどうしてもと言うなら、してあげないこともない。
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