泥中の光

RRMR

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四十話

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※リバ描写。今までの受けによる攻めへの、挿入描写がございます。
苦手な方は閲覧を、ご遠慮ください。

 どうしてこうなってしまったのか、分からない。
 小学校からの帰り道は、楽しく話していた。
 昔見た男の子が林業をやる映画が田舎の解像度が高くて面白かったこと、ピカキンがプロデュースしたカップラーメンを未だに食べられてないこと、喫茶ソレイユでブレンドがホットコーヒーって、思わなかったおばはんが来て十五分くらい静弥が説教されたこと、智顕が期間限定のシロノワール食べたい! と言うから、イナダ珈琲に行ったのにサンドイッチを食べ出したこと。
 誰が聞いても雑談と言うカテゴリーに入る、他愛もない話をした。
 空はびっくりするくらい綺麗な水色で、澄み切っていた。
 それこそ写真を撮って、適当なポエムでもネオン色のペンで書いたら「平成レトロ」とバズりそうなくらい、きれいな空。
 空は、自然が、予感していたのかもしれない。俺達が、こうなるのを。
 何がきっかけだったか思い出せないけど、俺は静弥に口付けた。
 静弥は嬉しそうに目を開いてから、違和感を感じたのか首を傾げたのだった。
 相変わらず、鋭い奴……。
 そう思いながらも雑談を続けて家に帰り、家に着いて静弥がシャワーを浴びている時に静弥の違和感は異変に変わったのだった。
 そう。キスした時に、睡眠導入剤を静弥に口移しで飲ませたのだ。
 あんな張り紙がしてあるくらいだからてっきり睡眠導入剤なんて買えないかと思ったけど、買う量が少なかったから店員が面倒臭がったのか何も言われなかった。
 ずっと一緒に居ようね。
 静弥の激情をギュッと押し込めた、たった一言の願い事がリフレインする。
 その願いは、俺が叶えるよ。
 静弥がもう悲しい思いとか、怖い思いとか、辛い思いをしなくてもいい場所に行こう。
 静弥は正しいことは、相手が望むことをすることだって言っていた。
 俺は今度こそ、間違えない。






 目を覚まして一番に視界に飛び込んで来たのは、鉄格子だった。
 幅は小学生一年生の身長くらい、奥行は成人男性にフィットする机の高さくらいで、高さは奥行より十センチ長いくらいだろうか。
 このゲージは、虎婆さんが飼っていたチョコちゃんのだろうな。
 鉄柵のペンキがところどころ剥げていたり、扉の鍵穴が少し歪んでいたり、経年劣化が見られる。
 僕の首を囲むようにつけられた黒い首輪は、真新しい。
 首輪にはローマ字で「Seiya」と刻印されていて、いつこんなものを頼んだのか怖くなった。
 首輪にはリードも当たり前のように繋がれていて、リードの先は鉄格子の間を通り晄君が打ちつけたと思われる木杭に巻きつけられていた。
 僕の服装は下着の上に晄君の大きめのサイズのTシャツだけ着せられていて、いよいよ奴隷めいて見える。
 不幸中の幸いか、手錠とか足枷はつけられていない。
 当たりを見渡して、情報を集める。
 まずゲージの外ですら、天井が低い。女性の平均身長くらいの高さしか、ないんじゃないだろうか?
 ゲージの下は砂利や落ち葉や虫の死体が転がっていて、酷く不衛生だ。
 建物と言うよりはトンネルの中とか、壕の中って感じがする。
 全体的に湿った土とか草の匂いがして、むせ返りそうだ。
 場内は薄暗くて、地面に置かれたランタンで薄橙に照らされている。
 壁は石造りで、洞窟っぽい。
 印象を一言で片付けるなら、不衛生な場所だろうか。
 分かった。多分、ここ防空壕跡だ。山南村の東側にある山の中にある、防空壕。
 僕達の世代は小学校の平和学習でこの防空壕に入って、どう思った? なんて担任の先生に聞かれたけど、今はそう言った平和学習をしていない。と、風の噂で聞いた。
「静弥! やっと、起きた~。何して、遊ぶ? あやとり? お手玉? トランプ? オセロ?」
 晄君は子供の頃と寸分違わない、無邪気な笑顔でそう言った。
「だ、駄目だよ。晄君。お家に、帰ろうよ」
「何、言ってんだよ。ここが、俺達の家じゃん」
 まるで父親と話しているかのような、錯覚を覚えた。
 まずい。こちらの言葉が、通じていない。
 言葉選びを失敗したら、爆発しかねない勢いを感じる。
 僕の言葉は、晄君の導火線に火を点けてしまったのだから。
 世界が、ひっくり返った気がした。黒と白が入れ替わり、天地がひっくり返り、善と悪の概念が丸々入れ替わったような、そんな気がしたんだ。
 僕が晄君にしたのも、同じことじゃないか……?
 そうだ。僕は罰を、受けなければならない。
 生きているだけで、他人を振り回して疲弊させて破滅へ向かわせる。
 テロリストや殺人鬼と、なんら変わらないじゃないか。
「ヒカル君と、エッチしたい……」
 どうしてこんなことを言ったのか、自分でも分からない。
 ヒカル君が望んでそうだから? 隙をつく為? 己のないに等しい、存在価値だから?
 共通して言えることは、結局こうなってしまうんだ。仕方ないよね。と、いうことだった。







 ゲージの鍵を開錠して貰って、僕は一時的に外に出して貰えた。
 ヒカル君は大きなレジ袋から、昨日と全く一緒のコンドームとローションを取り出す。
 レジ袋の中には、サンドイッチとかお惣菜のお弁当とかニリットルのペットボトルの麦茶等の食料品や歯ブラシや綿棒とかタオルとかの日用品とかトランプとかの玩具を詰めれるだけ詰めました。と言う感じで、カテゴリー問わずに入れられている。
 食料品と歯ブラシや綿棒を一緒に入れられてるのは、ちょっと耐えられないかも。
 ヒカル君は僕を四つん這いにさせて、躊躇いもなく下着を脱がした。
 彼は、使い切りタイプのローションの封を開ける。
 開封音が、壕の中でいやに響いた。
 昨日僕が君にしたように、僕のアナルをまさぐる。
 ぬるっと滑りながら入って来るヒカル君の指の感触は、月並みな表現だけど恐怖でしかなかった。
 勝本君達とおじさん達にされた時も、ここまでの恐怖心を覚えなかったのに。
「やめて」と一言言えば、優しいヒカル君だからやめてくれるのは分かっている。
 だけど「やめて」とか否定する言葉を使うと、ヒカル君自身の否定と捉えられかねない。
 不安定な彼を、刺激しない方がいい。
 追いつめられているのは、篠塚 晄君の方だった。
 インターネットの有名人。SNS映え。大家族の長男。
 求められてることを、求めるお人形さん。
 僕が彼の立場なら、どれが本当の自分なのか分からなくなってしまう。
 そう思うと、僕の中で不規則に動くヒカル君の指すら恐怖心を感じる。
 根元まで埋まった指先が、僕の内壁を引っ掛けられる度に声が漏れる。
 身体と心がチグハグなのは、僕も一緒か。
 沼黒 静弥を赦せるのが篠塚 晄しか居ないように、篠塚 晄を赦せるのは僕しか居ない。
 彼の緩慢な指の動きに身をよじらせていると、僕の弓なりにしなったペニスをヒカル君の大きな手で扱かれる。
 大好きな篠塚 晄君に、一番汚いところを触ってもらえて嬉しい筈なのに。
 どうして、こんなに悲しいんだろう。
 まるで流れ作業のように、ヒカル君の指の本数が増えて、彼のペニスが僕の中に挿って来た。
 なんの感動もなくて、心身がただ痛いだけだった。
 小さい頃。お母さんとした、お砂場遊びを思い出した。
 砂で山を作って、山の両側に穴を開ける。
 穴の向こうにはお母さんの手があって、僕の手の手をギュッと結んでくれる。
 子供心ながらにお友達と遊んで楽しいって思うのは、お砂場遊びみたいに繋がっているからかな? なんて、思っていた。
 大好きな篠塚 晄君と繋がった筈なのに、昨日と打って変わってただ虚しいだけ。
 昨日は受け入れて貰えた多幸感で、死んでもいい。と、思ったのに。
 一層のこと、死なせてくれたら良かったのに。
 神様は遠回しに「死ぬ価値すらない」と、言っているのだろうか。
 僕なんかより世の中にはどんな手を使ってでも生き延びたい人とか、何を犠牲にしてでも成し得たいことがある人とか居るのに。
 どうして何の価値もなく生きる価値すらない僕が、生き延びてしまうのか。
 今からでもここで舌を噛み切ったら、良いのかな。
 そうしたら、ヒカル君はきっと悲しむ。僕の後を追うまではなくても、引き摺ると思う。
 ヒカル君が悲しんだら、みんな悲しむよね。
 ヒカル君がコウ君になれなくなったら、州崎さんや宇宙人やファンの子はきっと悲しむんだ。
 ヒカル君はきっと僕の考えてることなんて、分かっていない。
 近くに居ても身体を重ねても、心が繋がってないなら他人と一緒なんだね。
 こんな思いをするくらいならば、繋がらなければ良かった。
 身の丈を弁えて、沼底に居続けるべきだったんだ。
 太陽を見たいとか、光に触れてみたいとか、みんなの居る場所へ行きたい。なんて思わなければ、良かった。
 深海魚は色を知らない方が、幸せだったんだろう。
 色を知らなければ、自分の醜さに気付くことも無かったんだから。
「静弥。すごい、気持ち良かったよ。俺達身体の相性、ピッタリだよな」
 なんで、今、そんなことを言うの?
 僕が知ってる篠塚 晄君は、優しくて暖かくて強くてすごい子なんだ。僕の痛みを、理解してくれる子なんだ。
「言わないでしょ。そんな事ッ!」
 僕はシノヅカ ヒカルの首を、絞めた。
 明確な殺意があったのか、無意識だったのかは分からない。
「言わないよねェッ!」
 手の力を強めて、首の締め上げもキツくしていく。
 ヒカル君の顔色は、僕の首の痣のように紫色へと変わり息はヒューヒューとすきま風のように抜けていくだけ。
 とうとうヒカル君は、動かなくなってしまった。
 僕はまた、間違えてしまった。







 ヒカル君に攫われてから、何日が過ぎたのだろうか。
 今が朝なのか昼なのか夜なのかすら、分からない。
 僕は相変わらずゲージの中へ入れられていて、性行為とかお手洗いの時だけ壕の中へ出して貰える。
 怖いとか、辛いとか、お腹空いた。そう言った当たり前のことを、感じなくなって来たように思う。
 それって、生きているって言えるのかな?
 アルバイトは何日も無断欠勤しているし、今度こそ本当に首を切られるかもしれない。
 あれからヒカル君は、すぐ意識を取り戻した。
 僕が動転している内に目を覚まして、怒られる! と身構えたんだけど、据わった目で
「俺も静弥みたいな痕が、欲しい。つけてよ」
 と、スペアのリードを渡されてしまった。
 ヤバい人って、こういう人のことを言うのかなぁ。なんて、ぼんやりと思う。
 ヒカル君は僕が逃げ出すことを恐れているのか、手錠や足枷を僕につけた。
 そんなものをつけなくても、逃げ出さないのに。
 行く場所なんて、何処にもないのに。
 生きていれば当然お腹は減るし、排泄欲もある。
 キャンプ用品か何かの簡易トイレでヒカル君に見られながら、用を足すのは閉鎖病棟を連想してしまった。
「ヒカル君。みんな心配してるよ、帰ろうよ」
「最悪なことが起きても、何も出来なかった奴らが?」
 今この状況が、最悪なんだけど。とは、言わないでおこう。
「うん。そうだね。ヒカル君、おっぱい吸う?」
「吸う。静弥のおっぱい吸うと、落ち着くし嫌なこと全部忘れられるんだー……」
 そう言って、ヒカル君はゲージを開けてくれた。
 僕は匍匐前進で、ゲージから出る。
 勿論僕の乳首に、そんな効能はない。あったなら、脱法薬物だ。
 僕は服を肩まで捲り上げ、薄くて白い胸板をヒカル君の前に晒す。
 彼は目を輝かせながら、僕の左の突起を舐めた。
 舌全体を使っておうどんの生地を捏ねるかのように、突起を押し潰される。
 赤くなったそれを口をすぼめて吸い上げて「静弥のおっぱい、美味しい」と、言いながら悦に浸っている。
 もう片方の突起は、ヒカル君の指の腹でタッチパネルを押すように押されたり、つままれたり、つままれたまま上下に動かされたり。
 なんか、援助交際の相手みたいだな。
 やだな。恋人に、篠塚 晄君相手に、こんなこと思うの……。
 壕の入り口の上から、人の話し声がする。
 誰の話し声かまでは分からないけれど、声が低いから男の人かな……。
 やっと警察が、動いたのかもしれない。
 そんなことを思っているうちに、地上から足音が降って来る。
 降り出したばかりの小雨のような、足音が。
「静弥……お前こんなイジメに遭ってるなら、俺に言えよ」
 一番僕に近くて一番他人で、一番大嫌いで思考が誰よりも分かりやすい人がそこには居た。
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