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紅湖に浮かぶ月3 -惨映-
4章 揺らがぬ過去と意思
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1.「起きた惨劇に目を瞑れるのは、人の身であるからだ。何故ならその惨劇を
引き起こすのも人だけなのだから。」
円形状で高さ二メートル程の外壁に囲まれた敷地内には、三つの大きな屋敷が
立ち並んでいた。広大とは言えないが、町の中心にあるその敷地は町を治める
貴族が住んでいる。三つのうち中央にある一際大きい屋敷に、当主が住んで居
る事は町民ならば周知の事実となっている。
正門と各屋敷を繋ぐ道は綺麗に舗装され、それ以外は樹木や花園が手入れされ
優美さを魅せている。敷地内に設けられた薔薇園は解放され、町の人も憩いの
場として利用できる名所となっている。
人口一万にも満たないその町は活気に溢れ、日々行き交う人々にも生気が感じ
られる。緑豊かなその町は、水路も至る所にあり公園も多く都会に比べると澄
んだ景色をしていた。
かと言って現代に迎合しないわけではなく、むしろ呪紋式技術には特化してお
り、小銃の生産も有数な町の一つであった。そのため町の資金も潤沢で、施設
なども整えられており、住む人にとっては概ね不自由の無い生活が送れている。
町の設備も都会と遜色なく、道路も整備され電車などの公共の乗り物も設けら
れている。
夜の帳が降り、昼間の喧騒が去り、町から生活の灯が落ちていく頃、闇夜を切
り裂いて閃光が町全体を駆け抜けた。一瞬のその閃光は、寝静まった人々には
気付かれず、幾ばくかの起きている人間が何事かと訝しんだ程度の瞬光だった。
だが続く暴風が建造物を殴る激震に、眠りに付き始めた町が叩き起こされた。
窓が粉砕され、壁が打ち砕かれ、街路樹が薙ぎ倒され根が抜けると宙に舞う。
水路の水が撒き上げられ散弾となって家屋の穿つ。外に居た人間は抗う事も出
来ずに吹き飛ばされ、障害物に激突すると諸とも砕け散って、新たな瓦礫と血
が、肉が、内臓と骨が散弾として生まれる。
造りが弱い、または軽い建造物が暴風によって瓦解していく中、新たな閃光が
駆け抜け、次いで爆音と熱波が追いすがる。超高熱の波頭は水路を蒸発させ、
樹木を炭化させ、建造物を溶解していく。人体は皮膚が溶け血が一瞬で沸騰し
て蒸発、肉が焼け炭化していく。木造の家屋や家具は一瞬で発火すると、瞬く
間に炭化していった。
火災すら起きる余地もなく、人口一万にも満たない町は廃墟どころか、瓦礫が
点在する荒れ地と化した。何が起きたかも分からず、一夜ですらない夜の一時
の中で、住民共々町は消滅した。
「あああああああああああああああああああっっ!!」
「ミリア!」
絶叫と共に跳ね起きた私の部屋に、悲痛な顔でリュティが飛び込んで来ていた。
全身に汗がねっとりと絡み付き、荒い呼吸と共に不快感を私は吐き出していた。
「大丈夫?」
リュティが心配している様だったが、駆け抜ける憎悪と不快感で埋め尽くされ
た私の心は、相手にしている余裕など無い。続く嫌悪感に寝台から飛び起きる
と、リュティを突き飛ばしてトイレに駆け込む。
「うっ・・・おえぇぇっ・・・」
込み上げた吐き気と共に、胃液を吐き散らす。乱れる呼吸の中で、夢に見た惨
映が思考を掻き乱す。呼吸が落ち着かないまま、洗面台に行くと口の中を濯い
で水を頭から被った。水の冷たさを感じ、少し気分が落ち着いて来ると、リュ
ティが背中を擦ってくれているのに気付いた。
「ごめん。」
流れる水に頭を晒したまま、私はリュティに謝った。冷水に晒された頭は、体
温を徐々に奪い寒さを感じ始める。
「私の事は気にしなくていいわ。」
と言われても気にしてしまうのだけど。少し落ち着いた私は流水から頭を離し
た。
「シャワー、浴びるわ。」
「分かったわ、何かあったら呼んでね。」
リュティはそれだけ言うと、台所へ行った。私は髪から滴る水を無視してその
場で服を脱ぎ捨て、浴室に入る。冷えきった身体を、お湯がゆっくりと温め、
同時に気分が落ち着いてくる。リュティにみっともないところを見られた以上
に、自分への嫌悪とその弱さが情けない。
シャワーを浴び終わった私が居間に行くと、朝食が並べられていた。席に着い
た私にリュティが心配そうな目を向けてくる。
「迷惑かけちゃったね。」
「それは気にしなくていいのよ。それより食べられる?」
「うん。」
コンソメスープを飲むと、胃の中に熱が広がり身体がほっとする様な気がした。
ベーコンを一切れ口に入れるとブールパンを囓る。
「今日の弁護士の件、延期する?」
そうか、今日だったわね。リュティに言われるまで不快感から、その大事な事
すら吹っ飛んでいた。お店の事を考えれば、受けてくれるにしろ断られるにし
ろ早い方がいい。断られた場合、王都アーランマルバから戻った時に、すぐ別
の弁護士探しに動けるし。それ以前に、わたしは体調が悪いわけでもない。
「大丈夫よ、予定通りで。」
「分かったわ。」
リュティの顔から心配の色は無くならなかったが、それでも微笑んでそう言っ
た。
「これが無事に終わったら、いよいよ王都アーランマルバね。」
短い期間で色々あったが、当初断ろうと思っていた司法裁院からの依頼も、今
ではむしろ終わらせたいと思っている。グラドリア国と法皇国オーレンフィネ
アの関係なんか知った事じゃないけど。
「無理はしないでよ。」
一緒に来てくれるリュティは巻き込んだ形になったけど、いや無理矢理巻き込
んだのか。おそらく察しているのだろう、私の気持ちの変化くらいは。
「もちろん。アーランマルバにお店を出すんだから、こんなところで爪付いて
なんかいられないわ。」
まあ、考えているのはそれだけじゃないのだけど。何れ現実的になって来たら、
着手したいと考えている。
「ヴァールハイア家の事、あなたには関係の無いことだから気負う必要は無い
のよ。」
話してしまった負い目もあるのかリュティはそう言ったが、それとは関係なく
個人的にアールメリダに対して思うところは色々あるのだけれど。
「大丈夫、ヴァールハイア家とか、関係ないから。単にウェレスが許せないだ
けよ。」
確証が在るわけじゃない。ザイランからもその後連絡は無いし。まあ、情報を
教えたのが昨日だから、そんな直ぐ判るとは思えない。むしろウェレスは尻尾
なんか掴ませない気がする。でも私は決めつけている。それは司法裁院からの
依頼がある事が、後押ししているからかも知れないが。
「なら、いいのだけれど。」
今一つ納得いっていない様にリュティが言った。
「本当に大丈夫だから。私は司法裁院の依頼をするだけよ。」
自分の範疇を超えるような事はしない様にと思っているけれど、感情が絡むと
人間そうはいかない、難しいところよね。大丈夫とは言ったけれど、実際ウェ
レスと対峙した時にどうなるかまではわからない。司法裁院の仕事をする上で、
私みたいに感情的なのは向いていないのかな。
「そろそろ開店の時間ね。」
私は時計に目をやって、十時五分前を指す針を見て言った。
「そうね。」
リュティは頷くと、テーブルに並んでいる空いた食器類を片付け始めた。
「時間を頂きありがとうございます。」
十三時過ぎに現れたハミニス弁護士は、店内に入ってまず挨拶を済ませるとそ
う言ってきた。私の我が儘で時間を作ってくれたのはハミニスの方なのに。
「私の方こそ。」
ネクタイまで絞めたダークグレーの背広は皺が無いほど整っており、黒の手提
げ鞄は何が入っているのか不明だけど、通常より膨らんで見える。そもそも男
性でこれ以上入りませんってくらいに膨らんでいる人は何を入れているのかし
ら。化粧品持ち歩いていた私でさえそんなに膨らまなかったわ。と、普通に仕
事していた時に見かけた光景を、ハミニスの鞄を見て思い出した。
「早速で申し訳ありませんが、奥の方を含めて店内を拝見させてください。」
ハミニスはそう言うと鞄を床に置き、用紙とクリップボードを取り出した。ク
リップボードに用紙を固定するとペンを持って準備が出来たようだ。色々確認
したことをあれに記入していくのだろうか。仕事を受けるに値するのかどうか
の確認項目でも書いてあって、査定していくのかな。緊張する。
「どうぞ、奥からでいい?」
「ええ、どちらでも。質問があればしますので、普通に営業して頂いて構いま
せん。ただ、薬莢の受注履歴だけ用意頂けますか。」
「分かったわ。」
正直、作業場まで見られるのは、プライベートを覗かれる様で複雑な気分だけ
れど、あの時のような苦汁を今後舐めさせられたくないので素直に頷く。今後
の王都アーランマルバへの出店を考えれば、想定外の出費は極力抑えたい。想
定外と言うよりはもう事故なのだけど。あ、そうだ。
「今回の事と関係ないのだけれど、質問してもいいかしら?」
「私で答えられる事でしたら。」
ハミニスは作業場を見て用紙に記入する動作を中断することなく応えた。
「今後、新しいお店の開店を考えているのだけど、相談とか乗ってくれたり出
来ないかしら。」
弁護士であれば色々な案件を扱って来ただろう。当然、経営や業務内容に雇用
問題等、様々な案件を見てきたに違いない。だったら、お店を出すにあたり助
言とか貰えるんじゃないだろうかと考え聞いてみた。
「可能ですが、相談料は頂きますよ。」
お、やった。
「それはもちろん。相談は今回の件とは関係なく可能?」
今回の件、つまりお店の専属弁護士にならなくても可能かどうか確認しておき
たい。
「ええ、また別の話しですから。」
ハミニスはそこで手を止めると、笑顔で答えてきた。営業なのだろうか分から
ないけれど、私にとって有益ならば問題ない。他に伝手も無いし、ザイランが
紹介してくれた弁護士だから、信用も出来ると思うし。自分で探した弁護士に
相談して、足元見られたり騙されたりするよりはましでしょう。今回の件とは
別に、アーランマルバに出店の時は相談してみよう。
「ここは終わりましたので、次は店内をお願いします。」
「ええ。」
ハミニスは店内に戻ると、薬莢記述の認定証にまず目を止めた。
「これ、ケースから出して頂いてもいいですか?あまり数は無い認定証ですが、
それでも偽造する人はいるのですよ。なまじ記述が出来てしまうと、悪用や金
儲けの為に利用する人がいるのですよ。」
うっ。そのつもりは無いが、資格を取る前の私は同じ状態に見られていたのか
も知れない。
「ちょっと待って。」
私はそう言って、硝子で挟んで立てかけているケースを取り、認定証を取り出
しに掛かる。その間、ハミニスは店内を色々見て回っては用紙に何か書き込ん
でいた。私は認定証を取り出すと、先程言われていた薬莢の注文票を綴じてあ
る帳簿も用意する。
お店はリュティに任せてあるが、カウンターで暇そうにしていた。まあ、ハミ
ニスが来てから入って来たお客さんは一人、店内を一周見て回るとそのままお
店を出て行った。お客さんの大半は、いつもそんな感じなのだけど。
「では、拝見します。」
店内を見終わったハミニスが私の前に来ると、用意しておいた認定証と帳簿を
早速手に取って見始めた。認定証に関しては、ちゃんと試験を受けて発行して
もらったものだから心配無いけど、注文票に関してはありきたりの物を改良し
て使っているから不安になってしまう。
しかし、この状況で普通に営業をしていていいと言われても、出来るわけが無
い。落ち着かない事この上ない。何か言われるんじゃないだろうか、結果やは
り駄目なんじゃないかと、見ている方はそんな事ばかり考えてしまう。
「ありがとうございます。」
そんな事を考え悶々としていると、見終わったハミニスがそう言って帳簿を返
して来た。結果がどうなのか、緊張で言葉が出ない。
「では、今日の内容で戻ってから考慮しますので、後日正式に連絡します。」
「今日じゃないんだ・・・」
ハミニスの言葉に気が抜けて、思わずそんな言葉を漏らしてしまう。別にがっ
かりしたわけではない。
「そんな直ぐに結論は出ませんよ。私も進退に関わる問題となりますので、時
間を頂きます。」
そうよね。慎重になるのも当然か、むしろそこまで考えてもらってありがたい
ような、時間を取らせて申し訳ないような。
「結論はまた連絡します。」
ハミニスは鞄にクリップボードを仕舞いながらそう言った。
「期待させるつもりは無いですし、過度な期待はして欲しくないですが、悪い
結果にはならないと思いますよ。」
一瞬、喜びに笑顔になりそうになるが、言われたとおりにしておく。可能性が
存在するならば、望んでいない結果になるのも不思議ではないのだから。
「期待しないで待ってるわ。」
「それでは失礼します。」
私の言葉を笑顔で流すと、ハミニスはそう言ってお店を出て行った。
「はぁ、緊張したわ。」
カウンターで暇そうにしているリュティが、私より先にその言葉を漏らした。
おい。
「それ私の台詞よ。」
暗い地下通路をローブを来た三人組が移動していた。地下通路内の空気は湿っ
ていてまとわり付いて来るようにねっとりしている。空気が淀み、何処か腐臭
のようなものが漂い気分を陰鬱とさせる。
呪紋式で灯した灯りが、杖がわりにした棒の先端で輝いているが、数メートル
先は何も見えない闇となっている。先頭に二人、後ろに一人と三人が並んで歩
くほどの幅は地下通路にはない。
湿気で天井に貼り付いた水滴が、時折落ちて来ては三人に不快感を与えていた。
最初は驚きもしたが、今では身体が濡れる不快感しか齎していない。地下通路
内は動かなければ寒くなるくらいにはひんやりしていたが、服の上にローブを
着て歩いていると、高湿度からか身体はじんわり汗ばみ、額には汗が浮かんで
くる。落ちてくる水滴と合わせて、不快感を増す原因となっていた。
ペンスシャフル国の市街地から、地下水路施設に入り、更に地下に潜って通路
を進んでかれこれ二時間は歩いている三人だが、真っ暗な通路なうえ地図も無
いので現在地が分からない。地下水路施設には多少の灯りはあったが、管理さ
れていないこの場所はそれすら無い。
城郭を囲む様に流れる川を越えたのかどうかも分からない現状は、心身共に疲
弊への拍車をかけていた。地図が無いため、この行程で目的の場所に辿り着か
なければ引き返し、新たな地図をまた描かなければならない。徒労に終わるか
も知れない工程を何日繰り返しただろうか。地下通路を見つけた時の高揚感と
使命感は、三人からは既に欠如していた。
故郷、法皇国オーレンフィネアより命を受け探索しているが、その命すら今は
疎ましく感じる程に。話しによれば何百年も前に作られた通路を歩く事も、三
人にとっては恐怖を感じる対象だった。何時崩落してもおかしくないのではな
いかと。
連日の心身に対する疲労、法皇国オーレンフィネアに対する不信、古い地下通
路の崩落への恐怖、合わさる状況に三人は極限を迎えても不思議ではない精神
状態に陥っていた。
「本当に、剣聖の館の地下に繋がっているのか・・・」
誰にともなく、一人が口を開く。若さのある声だがはっきりと疲労が混じって
いる。
「わからん。少なくとも館からは繋がっていないらしいからな・・・」
別の一人が太い声で力なく応える。
「そんなもの、ましてや他国の施設の事を何故我が国が知っておるのか。眉唾
もいいところではないか・・・」
最後の一人が嗄れた声で辟易したように吐き捨てる。
「国の為と言われ志願したのは失敗だったかもな・・・」
最初に言葉を発した男が後悔を口にする。
「報酬に吊られたのだ、今更言っても仕方あるまい・・・」
力無い太い声が諦め発する。
「後には退けんな、それこそ無駄骨もいいところじゃ・・・」
嗄れた声がまた吐き捨てた。三人は不平を零すと、無言のまま歩みを続けた。
たまに落ちる水滴の音は、三人の足音に掻き消され通路内にはその音だけが反
響し続ける。体力を奪う湿度と暗闇は、疲弊した三人に変わらず押し掛かる。
「そういえば、暫く前から分岐が無いな・・・」
若い声が気付いた事を、覇気の無い声で呟いた。
「言われてみれば・・・」
太い声は相も変わらず力なく同意した。
「もしかすると、もしかするかもしれんな・・・」
嗄れた声は言った言葉とは裏腹に、期待などしていない様に吐いた。それ以上三
人は、会話をする気力も無いのか無言で歩き続けた。だが、疲弊し不平を零そう
とも誰一人として戻る事に関しては口にしなかった。可能性という期待が何処か
に在ったからか、ここで引き返してはただの徒労に終わるという強迫観念が在る
からなのか、分からない。
黙々と進んでいると、三人は多少開けた場所に出た。正面には三人並んでも裕に
通れる程の幅がある上り階段があった。左右には今まで通って来た通路と同じ様
な通路が薄っすらと見える。階段は以外と短く、十段も無いようだった。三人は
顔を見合せ頷くと、階段を上って上に向かった。十段も無いとはいえ、疲弊した
身体は重く、膝の間接は今までより大きい稼働範囲に痛みを訴える。それでも階
段を上りきると小さな広場となっており、正面には高さ二メートル、一枚が幅一
メートル程の観音開きの鉄扉が存在した。
「これは・・・」
若い声が唸る様に声を漏らす。
「この先、なのか・・・」
同様に太い声も続いた。
「だといいんだが・・・」
嗄れた声は吐き捨てたが、今までと違い若干声が軽かった。三人は鉄扉に近づい
て行く。これまでの苦労が報われる時がきたのだと。この地下から抜け出せばも
う、苦痛と疲弊に苛まれ暗闇を歩き続けなくていいのだと。約束された故郷から
の手当てを受け取り、今までより多少ではあるものの裕福に暮らせると。
「そこから先の立ち入りは許可出来ぬな。」
鉄扉に手を伸ばしていた三人はその姿のまま硬直した。疲弊から動かなかったの
もあるが、突然の声に恐怖も覚えた。何より誰もいないとの思い込みが、空耳で
はないかと思わせ、誰何の声すらも上げる事なく止まっていた。だが、三人共同
じ行動をしていたことから、現実だと認識させられ三人はゆっくりと振り向く。
「何処で知ったか分からぬが、此処は禁足の領域。」
そこに腕を組んで立っていたのは、髪を全て後ろに流し、鋭い眼光を三人に向け
ている長身の男だった。その眼光に射竦められ、三人は振り向いたところで硬直
し、更に男が背負った二メートル近い剣に恐怖した。
「何奴・・・」
辛うじて嗄れた声が誰何の声を上げた。恐怖からか先程までとは違い、声に震え
が混じっている。
「此処は建国時より国の主が護りし場所。余人が立ち入る場所ではない。」
男の鋭い眼光は三人の後ろにある鉄扉に向けられていた。
「剣聖オングレイコッカ・・・」
太い声が苦鳴の様に言葉を漏らした。その名前で認知せざるを得なくなった三人
は、自分達の辿り着いた場所は本国の指示通りに存在し、眉唾では無いと確信に
変わった。同時にこの場から生きて戻る事も不可能だと思い知らされる。
ただ、剣聖の館から繋がっていないという情報は、現状への焦燥感からか三人共
頭から抜け落ちており、何故ここにオングレイコッカが居るのかと言及出来る状
態では無かった。
「一人でも抜けられれば・・・」
苦渋を含んだ若い声が、使命を全うしようと策にも成らない事を口走った。
「ふん、出来ればいいがな・・・」
嗄れた声は諦めを含んで吐き捨てる。目の前に約束された死があろうと、敢えて
自ら犠牲になる気など無いというように。
「では、それぞれ適当に逃げようか・・・」
太い声も自己犠牲を拒否するように力なく漏らした。
「我も暇では無いのでな、談議は別の場所で続けるといい。」
オングレイコッカはそう言うと、三人に向かって歩き始める。足音すら立てず踏
み出したその歩みは、その巨躯からは想像も出来なかった。
自分達が戻らなければ少なくとも、存在の証明に波紋を立てるだろう等と三人は
考えもしなかった。目の前から歩み寄る死への恐怖と、我先に逃げ出そうという
思いから。そもそも探索だけと言われ報酬に吊られた三人に、愛国意識も任務遂
行意識も無かった。
「儂が、何とかしよう・・・」
嗄れた声が発した思いもよらない言葉に、他の二人は思考が硬直する。自分達に
は自己犠牲など欠片も無いと思っていたから。当然、嗄れた声に含まれた思惑に
も気付くことは無かった。が、それには直ぐに気付く事になる。
「なっ!?・・・」
太い声が何が起きたか分からないと疑問の声を発し驚愕に目を見開く。階段を転
げる様に駆け降りながら自分は蹴り落とされたのだと認識すると、憎悪の視線を
嗄れた声の主に向けた。だがその視界は一瞬で暗闇を映す。しかし実際は、オン
グレイコッカの拳で頭部が粉砕されたため映す事が出来なくなっただけだった。
崩れ行く太い声の身体の横を、何処にそんな体力が残っていたのかと思わせる勢
いで、嗄れた声の主が駆け抜ける。オングレイコッカが近付いた瞬間、背後から
の衝撃に嗄れた声の主は驚愕した。若い声の男が体当たりで嗄れた声の主を、オ
ングレイコッカに向かって突き飛ばして駆け抜けて行ったからだ。嗄れた声の主
は怨嗟の念を、若い声の男に向け声にして吐き捨てようとしたが、やはりオング
レイコッカの拳で頭部を粉砕され叶わなかった。
オングレイコッカを抜けた若い声の男は、誰か一人でも抜けられればと言った事
を思いだし、その一人に自分がなれるとは思っていなかったため、この現状は僥
倖だと感じていた。嗄れた声の主が仲間を見捨て、いや仲間等では無かったが同
僚を犠牲にする蛮行に辟易しながらも、咄嗟に若い声の男もそれを利用しようと
考えての行動だった。
薄明りの中、若い声の男が入って来た通路に向かって一目散に駆け抜ける。その
通路に飛び込んだのは眼球と脳漿と血だった。オングレイコッカの拳により粉砕
された頭部から飛び散ったそれらに、追いつくように慣性のまま身体が前のめり
に倒れ込んでいく。上半身の半分が通路に入った所で、若い声の男も還らざる物
体となった。
オングレイコッカは何事も無かったかの様に鉄扉に目を向ける。途中に転がって
いる二人分の物体は視界に入っていない様だった。
「これは世に出すべきものでは無い。メーアクライズの二の舞になど、なりたく
は無いのだから。」
オングレイコッカの言葉は血臭漂う薄暗い広間で、響くことも無く虚しく消えた。
調光で灯りを落とされた部屋で、ウェレスは紫煙を吐き出す。薄暗い部屋で葉巻
を吸うと火種が煌々とし、吐き出された紫煙は香の様に部屋の中に広がり、靄が
かかっているようになる。
ウェレスは机を挟んで向かいに立つ男ふたりに、鋭い眼光を向ける。
「回収の見込みは無さそうですね。」
「はい。本人が見ている中、家捜しをしましたが。」
ウェレスの退屈そうな物言いに男の一人が答え、もう一人の男が報告を引き継ぐ。
「金、銀行の残高は共に無く、金目の物も在りませんでした。」
交代制の様に報告する男が入れ替わる。
「家財類も少なく確認したところ、売っては生活費と借金の返済金に充てていた
ようです。」
「家は賃貸ですし、限界ですね。」
また入れ替わったところで報告が終わる。聞き終わったウェレスの瞳は何も映さ
ない闇を纏った様になり、能面の表情が現れる。
「返す当てがあって借りるものだと思うのですがね、此れでは詐欺だと思いませ
んか?」
ウェレスの問いに男二人は硬直して、返事すら出来ずにいた。ウェレスがこの表
情になった時は同意も反論も下手に出来ない事を男達は知っていたからだった。
この場合は沈黙を保ち、下された指示を全うするのが一番の解だと。
「まあ、払ってもらいますがね。」
ウェレスは気にした風もなく続ける。
「残り一千二百万でしたか。母親は解体して臓器を売りましょう。娘は売れるで
しょう、買う好事家なら居るでしょうから。」
能面の表情から発せられる言葉に、男達は背筋に寒いものを感じる。
「同様に息子も売りましょう、娘以上に好事家が金を払いますよ。」
十代半ばの姉とまだ十歳にも満たない息子、その末路はいくら借金の肩とは言え、
ウェレスの態度に寒いどころか氷つく思いに男達はなる。
「売りをやらせるとね、足が付きやすいし逃走の恐れもあり、管理にもお金がか
かりますからね。後腐れなく捌いた方がいいんですよ。」
まるで不要になった商品を叩き売るような酷な話しに同意など出来ないが、ウェ
レスの言葉に同意する事が禁忌になっている現状が、男達にとって幸いとなって
いた。
「自分の状況を理解させる為、本人には手を出さないで下さいよ。どうしても足
りない場合は、心苦しいですが自業自得という事で本人を解体して売るしかあり
ませんね。」
残忍以上だと思わせる事を、何でもないかの様に語る能面の表情は、配下である
男達も恐怖し吐き気が込み上げる。だがこの後に続く言葉は、実行するのは自分
たちだと分かっている為、陰鬱にならざるを得ない。
「では、私がアーランマルバから戻ってくるまでには片付けておいてください。」
予想通りの言葉よりも、アーランマルバから戻って来るまでにという期限に男達
は戦慄した。数日しか猶予が無い状況で、子供二人の人身売買まで終えられるだ
ろうかと。ただ、やらなければ自分の身に降りかかる恐怖から逃れる方法は無い
と分かっているので、男達は「はい。」とだけ揃って言うと、ウェレスの部屋を
足早に去った。
「リンハイア様。」
執政統括の部屋の扉を叩き、入る事を促されるとアリータは飛び込む様に部屋に
入って声を上げた。普段は見せない焦りを見せているアリータを見ても、リンハ
イアは普段通りの微笑を向ける。
「ユリファラの件かな?」
アリータは驚いて、リンハイアの机の前に向かっていた足を止める。未だ何も言
っていないのにと思いつつも、気を取り直して歩みを再開した。
「はい。報告がありまして。」
机の前まで来ると、リンハイアの疑問を肯定する。その間にリンハイアは、水差
しからグラスに水を注いでいた。それを口に含みながら先を促す。
「カーダリア卿が動いたとの連絡でしたが、その・・・」
アリータはそこで言葉に詰まった。
「夫妻に捕まった、かな。」
「え?」
リンハイアの言葉に呆気に取られ、アリータは思わず間抜けな声を出す。だが自
分の抜けた態度よりも、リンハイアがその事実を知っていた事に驚きを隠せない
方が上回っていた。しかもカーダリア卿ではなく、夫妻と言った事が一番の驚き
だった。事実、その通りだったのだから。
「ご存知だったのですか?」
「いや、夫妻ならやりかねないと思っただけだよ。」
そう言うとリンハイア苦笑してみせる。
「大丈夫、夫妻は決してユリファラに危害を加えるような真似はしない。」
アリータの心配を見透かした様にリンハイアは言葉を継いだ。カーダリア卿と知
り合いとは言え、そこまで人の動きが分かるものだろうか、まして他国の人間で
普段から会っているわけでもないのにと、アリータは畏怖すら感じた気がした。
「それは、何時もの調子でユリファラも言っていたので彼女の身は心配しており
ませんが。」
報告してきた当の本人は何時もの態度だったため、カーダリア本人が通信に入っ
て来なければ信用すらせずに、自分はユリファラに小言を言っていたところだと
アリータは思い起こしていた。ユリファラの様子から心配していない風を装って
みたが、見透かされた事に感じた畏怖を気取られないのはおそらく無駄だろうと
思った。
「ユリファラはこのまま夫妻に同行させておこう。もとよりその監視が仕事なの
だから。」
「よろしいのですか?」
捕まったうえにそのまま同行、身の安全は問題無いとしても他国の枢機卿である
カーダリアとの同行を放置する事に、アリータは不安を感じた。
「構わないよ、ユリファラ独りより安全だろうしなにより、夫妻の目的地はこの
グラドリアなのだから。」
独りより安全という点は不明だが、リンハイアがそう言うのであればそうなのだ
ろう。ただ、目的地がグラドリアという事は以前リンハイアが言っていた復讐の
ためだというのは分かった。それが確定してしまう事が、アリータに切なさを感
じさせる。カーダリア卿は本当に、アールメリダ嬢の仇に動いたのだと思えば。
「ユリファラに心配がなければ今後の通信を待つとして、イリガートからも連絡
が来ております。」
自分が心配したところで現状が変化するわけでは無い。アリータはそう思い、気
持ちを切り替えられたわけではないが、職務を全うする事でその憂いを隅に追い
やった。
「それで。」
若干の葛藤をしている間にリンハイアが促す。
「オーレンフィネアの人間が朝方、例の市街地から地下に入って行ったそうです
が、二十時時点で出て来ていないそうです。今までであれば、夕方には出て来て
いたそうですが。」
アリータの報告にリンハイアは考える素振りをする。
「目的の場所に辿り着いたか、若しくは別の出入口があるのでしょうか?」
リンハイアの言葉を待つより先に、アリータは疑問を口にした。普段より遅いと
言うことは成果があったのか、そもそも出入口そのものが一つとは限らないので
はないかと。
「半分正解、かな。」
リンハイアの言葉の半分とは一体どういう事だろうかと考えるが、直ぐに答えを
知る事になる。
「目的の場所には辿り着いたが、彼等が戻ってくる事はない。」
「あ・・・」
つまり死んだという事なのだろうと察して、アリータは一瞬声が漏れてしまう。
死ぬという事を考慮していなかったわけではないが、探っているという事で何処
か考えが甘かったと自分の浅慮を悔やむ。
「何れ見つかるものだ。としても、これは法皇国オーレンフィネアにとって信憑
性の高い情報になってしまったね。」
マールリザンシュは確信したと言っても過言ではないな、とリンハイアは思った
が内心に留めておく。
「探索に出ていない人間が報告すれば、間違いないと思っても不思議ではなさそ
うですね。」
リンハイアは頷いて肯定した。話しの流れからそう言ったアリータだったが、オ
ーレンフィネアの状況を言っただけであって、核心であるペンスシャフルの地下
に何が在るのかは知らない。リンハイアもその存在については言っていないので、
自分から聞くことではないと思っていた。
「イリガートには監視を継続してもらうが、報告以外の動向は暫く見られないだ
ろうね。」
リンハイアはそう言うと椅子の背もたれに背を預け、足を組むとグラスの水に口
を付けた。
「それはそうと、もうすぐアーランマルバに出来た大型総合ビル、エクリアラの
開店式典があるね。」
リンハイアが話題を切り替えた事で、オーレンフィネアとペンスシャフルについ
てはこれ以上会話に進展はないと察すると、アリータも気持ちを切り替える。
「はい。リンハイア様も貴賓として呼ばれていますので、式典には出席予定です
。」
王都アーランマルバの主要駅オレンティアから徒歩五分の場所に建設された巨大
施設エクリアラは、その開店が近いことから連日注目と期待で話題になっている。
当然報道でも毎日事前情報が絶えない。
「あまり出席したくは無いのだが。」
リンハイアは苦笑して言った。
「アーランマルバでも久しぶりの一大事業になります。グラドリアの中心である
王都で、執政統括が顔を見せる事に意味があるのですよ。」
国の中心に出来る巨大ビルは話題になる、近隣からも訪れる客も増え活気に湧く
だろう。公人としても参加する事に意味がある。ただ、アイキナ市を拠点とする
ネヴェライオ貿易総社が更なる富を得る事が懸念なのではないかとアリータは思
うが、市政の人間には関係ないところが悩ましいのではないかと。
「分かっているよ。」
リンハイアは何時もの微笑で言った。
「ロンカット商業地区での業績を見れば、有益なのは明白だからね。アーランマ
ルバでも名物になるだろう。」
リンハイアはそこまで言うと、微笑から笑みに表情を変える。
「ちなみに中に入る店舗の中には、アンパリス・ラ・メーベの分店があるらしい
よ。」
アリータは少しだけ目を大きくする。それを見たリンハイアの笑みには若干意地
の悪さが浮かんだ。
「しかもエクリアラ限定濃厚ミルククリームが販売されるのだとか。」
アリータはその情報に顔を緩ませる、是非とも食べたい気持ちから。同時に自分
の反応を楽しんでいるリンハイアに対して、式典には出席したくないと言いなが
らも、ビルに出店する店舗はしっかり確認していた事が腑に落ちなかった。
「まあ、当日はそれが楽しみだから行くんだけど。」
「はっきり言わないでください。今の発言は問題ですよ、ちゃんと仕事してくだ
さい。」
アリータは何時もの態度に戻って小言を言った。リンハイアは肩を竦めてみせる
が、その態度は何気ないものだったのか、自分を気遣ってのものだったのか分か
らなかったが、気遣ってもらったと感じるのは自分の願望が混じったかと思うと
アリータは内心で自嘲した。
2.「遺伝情報では無い、人の意思は時を超えて旅をする。」
いよいよ明日は王都アーランマルバに行くので、準備をと思ったが朝からする必
要は無いので、夜でいいかと思い居間に向かう。前日の寝起きを思い出すと昨夜
は眠ることに躊躇いを感じていたが、気付いたら朝だったので安堵した。躊躇い
なんて可愛いものじゃなく、恐怖でしかなかったのだけれど。
「さて、今日もお店頑張るか。」
私は軽く伸びをしながら呟いて食卓に着いた。
数人の男女が集まって金糸銀糸が豪奢を演出する円卓に着いている。法皇国オー
レンフィネアの中央庁にある会議用の円卓には、未だボルフォンから戻っていな
いグーダルザとゾーミルガの姿は無い。
「今朝がた連絡役のグーダルザ卿から報告があった。」
マールリザンシュが口火を切る。その内容に一同は緊張した面持ちになる。カー
ダリアに会いに行っていたグーダルザからの報告であれば、それについて何か動
きがあったのだろうと期待して。だがマールリザンシュはその期待を振り払う様
に首を左右に振った。
「連絡役と言っただろう。内容はペンスシャフルに入っていた者からの方だ。」
「そちらかよ。」
アーリゲルが紛らわしい言い回しは止せとばかりに吐き捨てた。だが、ペンスシ
ャフル国の件も重要であるため、その内容にも一同は続きを促す様にマールリザ
ンシュに視線を向ける。
「昨日地下に潜った探索役が、今朝になっても戻らないらしい。」
「道に迷ったとは考えにくいわね。」
地図を作りながら無理をせず、時間を見ては切り上げていた筈だ。迷子は無いと
考えれば何か想定外の問題が在ったと考えるのが自然だと思いセーラミルは言っ
た。それは此処に集まっている者が同じ考えだったので、セーラミルが代表して
言った形になった。
「私は殺された可能性が高いと考えている。」
セーラミルの言葉にマールリザンシュは頷いて言った。
「それは存在したと都合よく考えたいからじゃないのかよ。」
それを否定するようにアーリゲルが吐き捨てた。確かにその考えは都合が良すぎ
ると、他の者も懸念を顔に表す。
「では、現実的な考えはどのようなものかな、アーリゲル卿よ。」
マールリザンシュに問われると、アーリゲルは眉間に皺を寄せて言葉に詰まる。
マールリザンシュは他の出席者にも視線を回すが、答えを返す者は居なかった。
「都合が良いように聞こえようと、それを覆す事が出来ないのであれば、今はこ
れが現実だと思うのだが。」
マールリザンシュは口を開かぬ一同に、畳み掛けるように言って見回すが、無言
は変わらずに顔をしかめるだけだった。
「それを仮定とするならば、ペンスシャフル国のあれを手に入れるのは難儀と考
えねばならない。」
「何故じゃ、兵を使えば良かろうよ。」
マールリザンシュの言葉にアーリゲルは間髪入れずに言った。
「それこそ愚の骨頂よ。」
それに対しセーミラルが冷めた視線を向けて言った。
「何を!やるのかよ。」
「やめよ。」
今にも飛び掛かりそうなアーリゲルをマールリザンシュが諌める。何故止めると
ばかりにアーリゲルは敵意の矛先をマールリザンシュに向けた。
「戦争をするつもりは無い。人数が多ければ目立つだろう、それでぞろぞろと地
下に入るのか?」
マールリザンシュに問われ、アーリゲルは苦い顔をして目を逸らした。
「それに相手は剣聖オングレイコッカだ、いくら送り込もうと烏合の集にしかな
らない。」
「それで大層な事を言ってたくせに、諦めるのかよ。」
アーリゲルが鼻を鳴らして吐き捨てた。
「現状、ペンスシャフル国に対して打つ手は無い。今は。」
アーリゲルの挑発にも乗らず、マールリザンシュは肯定した。物が物だけに剣聖
オングレイコッカ自ら出たと考えるざるを得ない。今すぐに策があるわけでもな
い現状は静観しか無いことに歯噛みする。
「ペンスシャフル国については、確度が上がっただけでも僥倖とするしかない。」
マールリザンシュの顔に浮かんだ苦渋も気にせず、アーリゲルは鼻で笑い嘲った。
「では先に国内から、という事ですか?」
アーリゲルの態度に辟易して見ていたくも無いセーミラルは、話しを進めようと
自国の話しへと切り替えた。
「それについてだが、現地に残っているゾーミルガの報告によれば、カーダリア
卿は昨日奥方と出掛けて行ってから戻っていないらしい。」
苦い顔のままマールリザンシュは言った。
「グーダルザ卿は何をしているの?」
同じくボルフォンに居る筈のグーダルザについて、セーラミルは言及した。
「グーダルザ卿は朝一でこちらに向かっている、もうすぐ中央に到着するだろう。
ついでに言えばカーダリア卿の説得は出来なかったらしい。」
セーミラルは現地に残っているゾーミルガに疑問を感じ、グーダルザの動向につ
いて確認したが、マールリザンシュから出た言葉は状況の悪さを思い知らされた
だけだった。
「はっ。何一つ進展は無いのかよ。」
既に呆れ果てていたアーリゲルは興味を失ったのか、何もない中空に目を向けて
小指で耳掃除をしながら言った。
「歴史の語り部っちゅうてもよ、単に歴史を知ってるってだけの話しよ。夢物語
なんぞ語っておらんで歴史のみ語っとりゃぁ良かったんじゃないのかよ。」
「ちょっとアーリゲル卿!」
続けて言ったアーリゲルの言葉を、言い過ぎだとばかりにセーミラルが声を荒げ
る。
「いや、アーリゲル卿の言うとおりだ、結果が無いのであれば同じ事。」
マールリザンシュは歯痒い思いでアーリゲルの言葉を受け止めた。それはアーリ
ゲルの言うとおり歴史を知っていたからなんだとういう現実と、存在の証左にも
ならない事実を思い知らされたからだった。歴史が証明するのではなく、存在が
歴史を証明する事に悔しさを感じていた。何故ヴァールハイア家と自分のコーレ
リフ家が継ぐものが逆ではなかったのかと。
「これからどうしますか?」
苦渋の表情を浮かべているマールリザンシュに、セーミラルが確認する。
「カーダリア卿の事はゾーミルガ卿に任せるとして、グーダルザ卿が合流してか
ら方針を模索する。」
「木偶が一人増えたところで何が変わるかよ。」
「アーリゲル卿は黙ってて。」
マールリザンシュの提案を一蹴したアーリゲルに、セーミラルが辟易して言った。
「私はカーダリア卿の次女、ユーアマリウ嬢に会ってみようと思う。確か勉学の
ため中央に居る筈だ。」
「小娘が知ってるとは思えんがよ。」
マールリザンシュの提言に水を差すアーリゲルを、セーミラルがいい加減にして
と睨み付ける。アーリゲルは五月蝿い女だとばかりに肩を竦めて目を明後日の方
に向けた。
「カーダリア卿には娘が二人しか居ない。アールメリダ嬢はグラドリア国で生活
している故、ユーアマリウ嬢が受け継いでいる可能性が無いわけではない。」
その言葉にセーミラルが憂いの顔をした。
「マールリザンシュ卿、もしかしてご存知無いのですか?」
「何の事だ?」
突然のセーミラルの態度に、マールリザンシュは若干困惑を浮かべて問い返す。
「アールメリダ嬢は、グラドリア国で殺害されましたよ。」
「なんだとっ!」
セーミラルが言った内容に、マールリザンシュは顔を険しくして円卓に両手を叩
き付け立ち上がる。その豹変した態度に一同が驚き視線を集中させた。
「どう・・・」
「セーミラル卿、ゾーミルガ卿に戻るよう伝えてくれ。」
セーミラルの疑問の声を遮ってマールリザンシュは荒々しげに言った。
「どういう事か説明は無いのかよ。」
慌てるマールリザンシュを、アーリゲルは睨めつけて問いただした。
「おそらくカーダリア卿はオーレンフィネアにはもう居ない。」
「一体どういう事ですか?」
「旧知の仲だから分かるって事かよ。それじゃ説明になっておらんがよ。」
二人に言われマールリザンシュは顔をしかめる。
「カーダリア卿はアールメリダ嬢の復讐に向かったのだろう。枢機卿の立場を捨
ててでも、あれはそうする。」
「何て事かよ。」
「そんなっ!」
アーリゲルは苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨て、セーミラルは驚愕に目
を見開いた。
「止める事は?」
「無理だ。」
セーミラルの問いをマールリザンシュはきっぱりと否定した。
「口伝は絶される事なく継がれて来た。そう考えればユーアマリウ嬢が継いでい
る可能性は十分にある。やはり会う必要が在るようだ。」
マールリザンシュは瞳に光を宿らせた。カーダリアが言うことは無いと分かって
いたが、若輩の娘が継いでいるのであれば可能性が出てきたと。
「事実上穏健派の中核が抜けたんなら、娘が情報を知っとりゃ一気に風向きが変
わるってことよ。」
状況を察したアーリゲルが、今までとは違い口の端に笑みを浮かべて言った。
「それで、我々はどうすれば?」
口にはしなかったが、セーミラルも同様の思いを抱かずにはいられなかった。そ
の為、次の行動を確認する声に若干期待が混じった。
「今まで通り推進派の拡充に動いてくれ。くれぐれもあれの存在は伏せて。確認
出来た時に本格的に動き出す。」
「分かりました。」
「結局またそれかよ。」
呆れ顔で言ったアーリゲルをセーミラルはまたも睨み付けるが、アーリゲルは知
らん顔をして会議室を出ていった。
「困ったご老人ね。」
セーミラルは溜め息混じりに零した。
「良い、アーリゲル卿は顔が広いうえに推進派からの人望もある。今後推進派を
拡大するには必要な人材だ。」
口は悪いが必要であるとマールリザンシュは考えていた事を口にする。
「仰る通りですが、あの口は何とかして欲しいですね。」
溜息混じりにセーミラルが言うと、マールリザンシュは苦笑した。
法皇国オーレンフィネアで一般的に中央と呼ばれる場所は、法皇が拠点とする中
央庁を中心に同心円状に広がる街、セーティオラ・ウヌラト・ロアーの事を示す。
大多数の住民はその名前を短縮してすら使わず、中央と呼ぶ。名前が長いのか、
中央と言った方が利便性が良いのかは不明であるが。
中央庁の少し西側にセーティオラ・ウヌラト・ロアーを分断するように流れる、
ナールケデフ河はこの街の重要な水源であり、中央で食される魚介の大半もこの
河から揚げられたものが殆どである。ナールケデフ河はこのまま南下していくと、
バノッバネフ皇国に入るが、国境に設けられた水門は許可が無い限り通過する事
は出来ない。
セーティオラ・ウヌラト・ロアーでは、河が東西に街を分断しているからと言っ
て、東西で貧困の差は存在せず、どちらに行っても似たような景色と人間が生活
している。ただ、中央庁のある東側の方が栄えている程度の差しか感じない程度
である。法皇国オーレンフィネアでは、他国同様一般的な大学が存在する。国内
でも有数であるセーティオラ・ウヌラト・ロアー学院大学は、街の名前を冠して
いるだけあり、オーレンフィネアの中でも一番歴史のある大学となっている。
中央庁が資本となっている大学や、他にも有名大学はあるが、セーティオラ・ウ
ヌラト・ロアー学院大学が歴史の古さでも他国での知名度でも一番有名な大学と
なっている。
その大学にカーダリア・ヴァールハイアの次女であるユーアマリウ・ヴァールハ
イアは通っていた。十七歳の時より、中央から北東に位置するボルフォンの実家
を離れ、セーティオラ・ウヌラト・ロアーで賃貸の物件を借りて通っている。
賃貸と言っても小さいが一邸宅であり、カーダリアの配慮と言うよりは、学寮や
集合住宅をカーダリアが嫌ったためだった。時折、中央に住んでいるラーンデル
トに様子見を押し付けている事からも、カーダリアの心配が窺えた。
「ユーアマリウお嬢様、カーダリア卿からの連絡は来てますか?私は今朝がた、
奥方のサーマウヤ様から連絡を頂き心配で来たのですが。」
そのユーアマリウが住む邸宅を、ラーンデルトが訪れていた。応接間などは無い
ので、ユーアマリウが普段利用している食卓を挟み、向かい合わせに座っている。
「はい、私も母様から文書通信を貰っています。」
ラーンデルトは沈痛な面持ちで聞くと、行き場の無い怒りからか身体を小刻み
震わせる。
「アールメリダ様の件は何と言っていいか。」
「私も姉様の事は憤激を押さえられません。」
今は気丈に振る舞っているが、その思いはラーンデルトには計り知れなかった。
充血して泣き腫らした目より、深い悲しみと怒りに囚われているのだろうという
事くらいしか想像できない。
「私もこの行き場の無い怒りと悲しみをどうしていいか分かりません。」
ラーンデルトは震える声で、静かに言った。抑えなければ、叫んでしまいそうな
感情を。
「その連絡以降、両親とは連絡が取れません。」
「やはり、ユーアマリウお嬢様も同じですか。」
ユーアマリウの言葉に、ラーンデルトは肩を落として現状を再確認させられた。
同時にユーアマリウも、ラーンデルトも連絡が取れないのだと察した。
「これからどうなさるおつもりですか?」
心配から今後の身の振りをラーンデルトは聞いた。サーマウヤからも面倒を見て
くれと頼まれた、というより押し付けられたのだが、ヴァールハイア家に世話に
なった身としては汲んでおきたいと考えていた。
「どうも致しません。」
「それは・・・」
ラーンデルトはこの状況でそう言ったユーアマリウに驚き何かを言おうと思った
が、首を振るユーアマリウを見て言葉を詰まらせる。
「私はヴァールハイア家の娘。父様が後は任せたと言ったのならば、私はそれに
従うまでです。」
充血した目は変わってないが、瞳には決意が見て取れた。それを見たラーンデル
トは、カーダリアが持っていた光を思い起こしていた。いくらヴァールハイア家
の人間とはいえ、二十歳の娘が決断するには酷ではないかと思わずにはいられな
かった。
「サーマウヤ様から、ユーアマリウお嬢様の事はお願いされております。私に出
来る事があれば言ってください。」
本音は止めたかったラーンデルトだが、ユーアマリウの決意に水を差すまいとそ
の思いは飲み込んだ。何より、それがカーダリアの意思なのだからと。
「お気遣いありがとうございます、ラーンデルト卿。」
ユーアマリウは弱々しいが笑顔を浮かべてそう言った。
「それと提案なのですが。」
ラーンデルトはユーアマリウの笑顔に頷くと、今後の話しをしようと切り出した。
「サーマウヤ様から託されてる身としては心配ですので、大学を出られるまで私
の屋敷に引っ越されてはどうでしょう。」
突然のラーンデルトからの申し出にユーアマリウは困惑した。ラーンデルトとカ
ーダリアの付き合いは子供の頃から知っているが、サーマウヤが言ったからとい
ってそこまで世話になって良いのだろうかと。
「カーダリア卿が戻られる時まで、ボルフォンの屋敷の方も私の方で維持する予
定です。」
ラーンデルトがそこまでする理由はユーアマリウには分からなかったが、おそら
くカーダリアとの間の話しだろうと思い聞こうとは思わなかった。話す機会があ
れば話すだろうし、自分が割って入る事ではないと。
「そこまで仰られるなら、お言葉に甘えようかと思います。この家の支払いも、
父様が居なくなった今は馬鹿になりませんし。」
無下にする事もない、むしろ有難い申し出だったが、両親がラーンデルトに無理
を言ったことは申し訳ないと思うユーアマリウだった。ただ、現状は素直に好意
を受け取っておこうと。
「良かった。引っ越しはユーアマリウ様の都合の良いときを言ってください。家
から手伝いと車を用意します。」
ラーンデルトは安堵の表情になり言った。
「何から何までお世話になります。」
ユーアマリウは頷いて言うと、頭を下げた。
「カーダリア卿の行方も、私の方で探して見ます。」
ラーンデルトの申し出を聞くと、ユーアマリウは眼を鋭くした。
「両親は、あの二人はあの二人の道を歩んでいます。娘の私だから分かります、
言い方は悪くなりますが無粋な真似はお止めください。」
一瞬呆気に取られたラーンデルトだったが、直ぐに微笑むと頷いた。やはり、ヴ
ァールハイア家の御息女だとの思いから。
「分かりました、ユーアマリウお嬢様が言うのであればそうしましょう。」
「ありがとうございます。」
ユーアマリウは表情を緩めて言った。
「では私は一度屋敷に戻りますので。」
言いながらラーンデルトが椅子から立ち上がった時、玄関に来訪を知らせる呼鈴
が鳴った。ユーアマリウは怪訝な顔をして立ち上がる。
「今日は何方とも会う約束はありませんが。」
それを聞いたラーンデルトが表情を厳しくする。
「私が出ましょうか?」
玄関に向かおうとしているユーアマリウに、ラーンデルトが確認する。
「いえ、大丈夫です。」
ユーアマリウは軽く首を振るとラーンデルトの申し出を断った。
「では、後ろに控えております。」
ラーンデルトの言葉にユーアマリウは頷くと玄関に向かった。玄関を開けるとそ
こには背広を着た身なりの良い青年が佇んでいた。歳の割には何処か貫録のある
風貌にユーアマリウは訝しむ。
「マールリザンシュ枢機卿!」
ユーアマリウが誰何の声を上げるより早く、後ろからラーンデルトが驚きの声を
上げる。マールリザンシュも驚いたようで、ラーンデルトを目にすると一瞬硬直
した。
「お主は、ラーンデルト卿・・・そうか、お主もカーダリア卿の事を知って。」
マールリザンシュは何故ラーンデルトが此処に居るのかを察すると、悔やむ様に
言った。それは邪魔者が居るという意味だったが、二人にはその真意が分かって
いなかった。
「何故推進派の枢機卿がここに居られるのか?」
それでも此処を訪れる理由は無いと、訝しんだラーンデルトは疑問を口にした。
「先ずは、此度の姉君の件、御悔やみ申し上げます。」
マールリザンシュはラーンデルトの問いは無視して、ユーアマリウに言うと深々
と頭を下げる。
「ありがとうございます。」
ユーアマリウも言って一礼すると、後ろで心配そうに見ているラーンデルトを横
目で見ると、大丈夫という様に頷いてみせる。
「マールリザンシュ卿の事は父様から聞いています。ただ、ボルフォンに引っ越
す前の話しと言っておりましたので、詳細は存じ上げません。」
ユーアマリウはマールリザンシュを見据えて、言葉を続ける。
「二十年も会っていなかった現状、何故今私を訪ねて来られたのでしょう?」
射抜く様に見据えてくるユーアマリウの瞳を見て、マールリザンシュは悔やんだ。
二十歳の娘と侮っていたが、根はヴァールハイア家なのだと。カーダリアと同じ
意思を見せるその瞳に、カーダリアを知っているからこそ、出向いた事を徒労だ
ったと感じ始めていた。
「姉君が不幸に遭った、それを聞いた時カーダリア卿はこの国には居ないだろう
と分かった。会っていないとは言え、昔の誼みで心配したのだよ。」
取り繕ったわけでは無いが、マールリザンシュはふと思った事を口にしていた。
それは長年会っていなかった事に対する、懐かしさからだったのか自分でも分か
らなかったが。
「父様の事を良くご存知で。しかし心配には及びません。」
ユーアマリウの気丈な態度に、マールリザンシュは懐かしむ様に笑みをこぼした。
「今のユーアマリウ嬢を見てはっきり分かった。貴女はカーダリア卿にそっくり
で、紛れもなくヴァールハイア家の人間だと。」
「そう見えるなら、光栄な事です。」
ユーアマリウは微笑むとそう言ってみせた。マールリザンシュはそれが明確にな
った事で、目的は果たされないと悟った。だが、それでは立場上示しがつかない
のも分かっていた。
「ところで、カーダリア卿から何か聞いていないだろうか?」
故に、足を運んだ意味を成そうとする。
「何の事でしょう?」
しかしユーアマリウは間髪入れずに、マールリザンシュの問いを聞き返した。問
いの内容を分かっていて聞き返したのだと察すると、遠回しでは駄目だとマール
リザンシュは意を決する。
「では単刀直入に聞こう、口伝の事だ。」
「はい、聞いております。」
ユーアマリウはゆっくり頷くと、素直に答えた。
「私はその内容を知りたいのだ。」
下手な誤魔化しは無駄だと分かったマールリザンシュは、率直に聞いた。それこ
そが本題だと、ユーアマリウにも分かっただろうが、形振り等構っていられる状
況ではないとの思いから。
「ではお答えします。」
ユーアマリウはそう言うと、鋭い視線を向ける。言葉通りに受け取ったマールリ
ザンシュは期待したが、その視線に射抜かれ多少困惑する。
「口伝と共に受け継ぐものがあります。それはヴァールハイア家の在り方、意思、
務め。つまり、これが答えです。」
マールリザンシュは驚愕した。口伝はただ伝えられていたのではない事に。同時
にその内容を聞く事が叶わない事も知った。
「この場に居る者がどうなろうとも、か?」
未だ引き下がるわけにはいかないと、マールリザンシュは苦い思いで脅迫に出る。
「ラーンデルト卿が殺されようと、私が辱しめられようと、身体を千々にされよ
うと決してヴァールハイア家の意思は揺らぎません。」
一切揺らがない瞳を見て、マールリザンシュは過去のカーダリアを思い出してい
た。ユーアマリウの姿が当時のカーダリアに見えたと言っても過言ではなかった
ほどに。
「分かりました。ここは引きましょう。」
落胆は見せずにマールリザンシュは、一礼して踵を返した。
「紛れもなくヴァールハイア家の人間だと仰ったのは貴方ですよ、マールリザン
シュ卿。」
背中に掛けられたユーアマリウの言葉に、マールリザンシュは苦笑した。自分で
無駄だと言ったではないかと、初めから分かっていた事だと含んだその言葉に。
一瞬足を止めたマールリザンシュだったが、敵わぬと思うと苦笑した顔は見せず
にその場を立ち去った。
「ユーアマリウお嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ。」
ラーンデルトとしても初めて聞く話しに興味が無いわけでは無かったが、ユーア
マリウの態度から聞くべきではないと感じた。それをしては、カーダリアに矛先
を突き付けるような気がしたから。
「今回の事を考えれば、早めの引っ越しを考慮してください。」
何事も無かったように頷いたユーアマリウに、マールリザンシュに対する懸念か
らラーンデルトは早急に此処を引き払うよう提言した。
「マールリザンシュ卿はきっと、二度と来ませんよ。」
ユーアマリウはそう言うが、事情が分からないラーンデルトにとって、その確信
は何処から来ているのか不明だった。ただ、嘘ではないだろうと思ったが、推進
派は何もマールリザンシュだけではない、それを懸念した。
「マールリザンシュ卿は来ないとしても、推進派は他にも居ます。強行に出ない
人間が居ないとも限りません。」
「そうですか、では考慮してみます。」
ラーンデルトの先の提言にその意が含まれていると理解すると、ユーアマリウは
頷いてそう言った。
「では、私もこのまま失礼します。何かあれば、直ぐに連絡をください。」
「はい、わかりました。」
ユーアマリウの返事を聞くと、ラーンデルトは玄関を出て邸宅を後にした。
三日間くらい休業します。その貼り紙をお店の扉に貼り付ける。順調に行けば三
日ですむ予定なのだけど、順調にいかなかった時の事を考慮して、「くらい」を
付けておいた。それと最後に明日の日付をいれてあるので、何時から三日か分か
るでしょう。
「お店も閉めたし、明日の準備をしなければ。」
二十二時の閉店時間を迎えた私は、お店の硝子扉の鍵を閉める。
(ん、その前にマリノで麦酒を飲んでからにするか。)
閉めたばかりだが麦酒の誘惑に勝てず鍵を開けて外に出ると、また鍵を掛けて向
かいのカフェ・マリノに私は向かう。
グラスから麦酒を一口飲んで、一緒に頼んだ生ハムを一切れ食べる。テラス席に
着いた私は明日からの不安を吐き出すように、上空に向かって溜め息を吐いた。
マリノの灯りがあっても、夜空に星が在るのが視認できる。少しの間眺めて麦酒
を飲もうと視線をテーブルに戻すと、テーブルの向かいにいつの間にかリュティ
が座っていた。
「帰ったんじゃないの?」
「明日の準備はどうしたのかしら?」
私の問いには答えずリュティも問いを発した。
「一息ついたらやるわよ。」
「そう。」
私の答えにリュティは短く相槌を入れると席を立ってマリノの中に入っていった。
私の問いを放置したまま。私はリュティが現れたせいで中断してしまった、麦酒
を飲む続きを再開する。空を見上げるが短時間で何が変わるわけでもない。
そこで店内から戻ってきたリュティがまた向かいに座る。無言で私の前に麦酒が
入ったグラスを置くと、自分にも用意した麦酒のグラスに口を付けた。
「やっぱり、美味しくないわ。」
一口飲むとリュティは少しだけ顔を顰めてそう言った。そう言えば麦酒を飲んだ
のは初めて見た。いや、お酒を飲んだところか。
「何となくマリノに行く気がして、私もたまには飲んでみようかと思ったのよ。」
ここで私の問いは解消された、本当かどうかは分からないがどうでもいい。
「ふーん。」
意識したわけではなかったが、私の返事は素っ気なかった。疲れているのだろう
か、分からない。リュティは気にした風もなく、何時もの微笑で麦酒の続きを口
にした。私もグラスに残った麦酒に口を付け、飲み干すとリュティが置いたグラ
スを掴む。
「貰っていいんでしょ?」
「どうぞ。」
リュティの返事を聞くと私は生ハムを口にして、新しいグラスから麦酒を口に流
す。
「生きて戻るんでしょう?」
さして会話もない現状で、話題を作るかの様にリュティが言った。何処か憂いの
ある眼差しを私に向けて。
「当然。弁護士問題も一先ず落ち着いたし。これからだもの。」
「そうよね。」
リュティはそう言うが憂いは消えていない様だった。
夕方ハミニス弁護士から文書通信があり、お店の弁護を引き受けるとの回答だっ
た。但し、優先度は低めらしい。期日が短いものや緊急のもの、お得意様などの
依頼は優先したいとの事だったが、弁護士も商売だからしょうがない。むしろは
っきり言ってくれて良かったわ、そういう事情が在るにも関わらず、対応を先延
ばしにされたりするよりは。それでも何かあった場合に頼れる弁護士の伝手が出
来たのは嬉しい事よね。
「弁護士が決まって、憂いが一つ消えたかしら。」
「まあね。」
とは言ったが、実際のところは複雑な思いも多少ある。決まった数日後に死にま
したなんて事になったら、申し訳ないと思ってしまっているから。
司法裁院、しかも高査官からの依頼は前回苦汁を舐めさせれたから、今回もいい
予感はしない。ウェレスの存在が胸糞悪いのもそうだが、ハドニクスみたいな手
練れだと私の身も危ない。こんなのばかりだと思いたくは無いけれど、連続で命
の危険に晒されるのであれば次からは考慮しないとならないわね。生きていたら
の話しだけれど。
「不安?」
私の思いを察した様にリュティが聞いてくる。
「そりゃ何時だって不安よ。」
私は苦笑して返す。司法裁院の仕事もそうだけど、お店の事だって不安ばかりだ。
持てた時は嬉しさが大きかったけれど。当時の期待と不安は漠然としたものだっ
たけれど、その不安は時間が経つと明確にになり押し掛かって来る。死んだとき、
資金不足になったとき、この前の裁判院からの支払い命令もそうだ。
「あまり思い詰めない方がいいわよ。人は何時か思いの重責に潰されるわ。」
私に向けられたリュティの瞳は、私ではなく何処か遠くにその憂いを向けている
様だった。私とそんなに変わらない見た目のリュティは、一体何を観て来たのだ
ろうか。今の私にそれを知る事は叶わない。
「大丈夫。これでも楽観的な方だと思ってるのよ。」
「それならいいのだけど。」
私が苦笑して言うと、何処か遠くを観ていたリュティの瞳は私を映して微笑んだ。
「さて、そろそろ準備しないと。」
私はそう言うと残りの麦酒を飲み干した。
「明日は何時も通りの時間にお店に来ればいいのよね。」
「ええ。」
一度話しているが、リュティが再確認するように言ったので私もいよいよかと思
い頷いた。確認が終わると、お互い空いたグラスを所定の場所に片付けてマリノ
を出る。空をまた見上げるが、相も変わらず景色に変化は無い。
(私の未来も変わらず在ったらいいのだけど。)
そう思うが、この空に輝くような星は存在せず、ただ闇だけの世界でしょうね。
私が歩む道は、とうの昔からそうだったのだから。
(先ずはニーザメルベアホテルの情報よね。)
マリノから戻った私は、早速明日の準備を始めた。今日はもう怠いから明日の朝
やればいいかとは思わないように努力する。出掛けに慌てるのは好きじゃない。
好きな人は居ないだろうけれど、結局そうなってしまう人も少なからずいるでし
ょう。ただ、私はそうならないようにしているつもり。
小型端末で調べた情報を端末に保存する。と言っても一般公開されている情報な
ど高が知れている。利用可能な施設、店舗等に各階の客室の部屋番号程度だ。そ
の中でも私が気になるのはレストランだ。きっと美味しいのだろう。高そうだけ
ど。
二十階建てとかなり大きな建物だけど、最上階は一部屋しかない、どんな人物が
泊まるのだろうかと考えたが直ぐに止めた。どうせ国賓とかなのよね。ただ金額
は二百万からと記載が在ることに驚いた、つまり一般客でも利用できると言う事
だろうか。阿呆くさ。
その下二階分は中央で区切られ、一部屋ずつ。こちらも豪勢なのだろう。
(ウェレスが泊まるとしたらこのあたりだろうか。)
護衛や付き人等が居そうな事を考えれば、そうなのかなって思う。私が予約した
のは十二階以下の一般客用の部屋だが、上の階に散歩で行けるだろうか。様子く
らいは見ておきたい。
しかし十三階以上の良い部屋なんか一般客用とか認めないわ、庶民が泊まれる金
額じゃないもの。
(せめて泊まる部屋がわかったらなぁ。)
あ、顔は判ってるのだから、ホテルに来た時に乗る昇降機と階数を確認すればい
いのか。よし、それで行こう。浮かんだ疑問を自己解決する、名案とは言えない
が、有効な手段ではあるはず。
呆と考えている場合じゃなかった、着替えとか用意しないと。私はそう思い旅行
鞄に衣類等を詰め込む。
(後は仕事用ね。)
既に呪紋式を記述済みの薬莢を用意していると、ある薬莢で暗澹とした気分にな
る。それはラウマカーラ教国の人間を何万と焼き殺し、ハドニクスを屋敷ごと全
焼させた呪紋式が記述された薬莢だ。リンハイアが齎した産物とは考えない、私
自身が手にして記述して使用したのだから。
しかし、いざという時の為とそれに縋っている自分がいて、そんな自分に嫌気が
差す。それでも私は前に進みたいという思いに葛藤し、辟易する。ついでに言え
ば、リュティから教わった呪紋式だって抵抗は拭えない。
結局過去に囚われて続けて後ろ向きな事ばかりだ。前に進むことを理由に向き合
う事から逃げている。そして囚われる内容は今の生き方をしている以上、増えつ
づけるだろう。でも、私は向き合いたくなんかない。きっと耐えらない、逃げ出
したい、受け止められない、嫌だ。自分勝手過ぎるのは分かってるけど、心が疲
れるのは嫌だ。
荷物の準備をしていた私は嫌な思考で手が止まったままの状態で、何時の間にか
眠りに落ちていた。
引き起こすのも人だけなのだから。」
円形状で高さ二メートル程の外壁に囲まれた敷地内には、三つの大きな屋敷が
立ち並んでいた。広大とは言えないが、町の中心にあるその敷地は町を治める
貴族が住んでいる。三つのうち中央にある一際大きい屋敷に、当主が住んで居
る事は町民ならば周知の事実となっている。
正門と各屋敷を繋ぐ道は綺麗に舗装され、それ以外は樹木や花園が手入れされ
優美さを魅せている。敷地内に設けられた薔薇園は解放され、町の人も憩いの
場として利用できる名所となっている。
人口一万にも満たないその町は活気に溢れ、日々行き交う人々にも生気が感じ
られる。緑豊かなその町は、水路も至る所にあり公園も多く都会に比べると澄
んだ景色をしていた。
かと言って現代に迎合しないわけではなく、むしろ呪紋式技術には特化してお
り、小銃の生産も有数な町の一つであった。そのため町の資金も潤沢で、施設
なども整えられており、住む人にとっては概ね不自由の無い生活が送れている。
町の設備も都会と遜色なく、道路も整備され電車などの公共の乗り物も設けら
れている。
夜の帳が降り、昼間の喧騒が去り、町から生活の灯が落ちていく頃、闇夜を切
り裂いて閃光が町全体を駆け抜けた。一瞬のその閃光は、寝静まった人々には
気付かれず、幾ばくかの起きている人間が何事かと訝しんだ程度の瞬光だった。
だが続く暴風が建造物を殴る激震に、眠りに付き始めた町が叩き起こされた。
窓が粉砕され、壁が打ち砕かれ、街路樹が薙ぎ倒され根が抜けると宙に舞う。
水路の水が撒き上げられ散弾となって家屋の穿つ。外に居た人間は抗う事も出
来ずに吹き飛ばされ、障害物に激突すると諸とも砕け散って、新たな瓦礫と血
が、肉が、内臓と骨が散弾として生まれる。
造りが弱い、または軽い建造物が暴風によって瓦解していく中、新たな閃光が
駆け抜け、次いで爆音と熱波が追いすがる。超高熱の波頭は水路を蒸発させ、
樹木を炭化させ、建造物を溶解していく。人体は皮膚が溶け血が一瞬で沸騰し
て蒸発、肉が焼け炭化していく。木造の家屋や家具は一瞬で発火すると、瞬く
間に炭化していった。
火災すら起きる余地もなく、人口一万にも満たない町は廃墟どころか、瓦礫が
点在する荒れ地と化した。何が起きたかも分からず、一夜ですらない夜の一時
の中で、住民共々町は消滅した。
「あああああああああああああああああああっっ!!」
「ミリア!」
絶叫と共に跳ね起きた私の部屋に、悲痛な顔でリュティが飛び込んで来ていた。
全身に汗がねっとりと絡み付き、荒い呼吸と共に不快感を私は吐き出していた。
「大丈夫?」
リュティが心配している様だったが、駆け抜ける憎悪と不快感で埋め尽くされ
た私の心は、相手にしている余裕など無い。続く嫌悪感に寝台から飛び起きる
と、リュティを突き飛ばしてトイレに駆け込む。
「うっ・・・おえぇぇっ・・・」
込み上げた吐き気と共に、胃液を吐き散らす。乱れる呼吸の中で、夢に見た惨
映が思考を掻き乱す。呼吸が落ち着かないまま、洗面台に行くと口の中を濯い
で水を頭から被った。水の冷たさを感じ、少し気分が落ち着いて来ると、リュ
ティが背中を擦ってくれているのに気付いた。
「ごめん。」
流れる水に頭を晒したまま、私はリュティに謝った。冷水に晒された頭は、体
温を徐々に奪い寒さを感じ始める。
「私の事は気にしなくていいわ。」
と言われても気にしてしまうのだけど。少し落ち着いた私は流水から頭を離し
た。
「シャワー、浴びるわ。」
「分かったわ、何かあったら呼んでね。」
リュティはそれだけ言うと、台所へ行った。私は髪から滴る水を無視してその
場で服を脱ぎ捨て、浴室に入る。冷えきった身体を、お湯がゆっくりと温め、
同時に気分が落ち着いてくる。リュティにみっともないところを見られた以上
に、自分への嫌悪とその弱さが情けない。
シャワーを浴び終わった私が居間に行くと、朝食が並べられていた。席に着い
た私にリュティが心配そうな目を向けてくる。
「迷惑かけちゃったね。」
「それは気にしなくていいのよ。それより食べられる?」
「うん。」
コンソメスープを飲むと、胃の中に熱が広がり身体がほっとする様な気がした。
ベーコンを一切れ口に入れるとブールパンを囓る。
「今日の弁護士の件、延期する?」
そうか、今日だったわね。リュティに言われるまで不快感から、その大事な事
すら吹っ飛んでいた。お店の事を考えれば、受けてくれるにしろ断られるにし
ろ早い方がいい。断られた場合、王都アーランマルバから戻った時に、すぐ別
の弁護士探しに動けるし。それ以前に、わたしは体調が悪いわけでもない。
「大丈夫よ、予定通りで。」
「分かったわ。」
リュティの顔から心配の色は無くならなかったが、それでも微笑んでそう言っ
た。
「これが無事に終わったら、いよいよ王都アーランマルバね。」
短い期間で色々あったが、当初断ろうと思っていた司法裁院からの依頼も、今
ではむしろ終わらせたいと思っている。グラドリア国と法皇国オーレンフィネ
アの関係なんか知った事じゃないけど。
「無理はしないでよ。」
一緒に来てくれるリュティは巻き込んだ形になったけど、いや無理矢理巻き込
んだのか。おそらく察しているのだろう、私の気持ちの変化くらいは。
「もちろん。アーランマルバにお店を出すんだから、こんなところで爪付いて
なんかいられないわ。」
まあ、考えているのはそれだけじゃないのだけど。何れ現実的になって来たら、
着手したいと考えている。
「ヴァールハイア家の事、あなたには関係の無いことだから気負う必要は無い
のよ。」
話してしまった負い目もあるのかリュティはそう言ったが、それとは関係なく
個人的にアールメリダに対して思うところは色々あるのだけれど。
「大丈夫、ヴァールハイア家とか、関係ないから。単にウェレスが許せないだ
けよ。」
確証が在るわけじゃない。ザイランからもその後連絡は無いし。まあ、情報を
教えたのが昨日だから、そんな直ぐ判るとは思えない。むしろウェレスは尻尾
なんか掴ませない気がする。でも私は決めつけている。それは司法裁院からの
依頼がある事が、後押ししているからかも知れないが。
「なら、いいのだけれど。」
今一つ納得いっていない様にリュティが言った。
「本当に大丈夫だから。私は司法裁院の依頼をするだけよ。」
自分の範疇を超えるような事はしない様にと思っているけれど、感情が絡むと
人間そうはいかない、難しいところよね。大丈夫とは言ったけれど、実際ウェ
レスと対峙した時にどうなるかまではわからない。司法裁院の仕事をする上で、
私みたいに感情的なのは向いていないのかな。
「そろそろ開店の時間ね。」
私は時計に目をやって、十時五分前を指す針を見て言った。
「そうね。」
リュティは頷くと、テーブルに並んでいる空いた食器類を片付け始めた。
「時間を頂きありがとうございます。」
十三時過ぎに現れたハミニス弁護士は、店内に入ってまず挨拶を済ませるとそ
う言ってきた。私の我が儘で時間を作ってくれたのはハミニスの方なのに。
「私の方こそ。」
ネクタイまで絞めたダークグレーの背広は皺が無いほど整っており、黒の手提
げ鞄は何が入っているのか不明だけど、通常より膨らんで見える。そもそも男
性でこれ以上入りませんってくらいに膨らんでいる人は何を入れているのかし
ら。化粧品持ち歩いていた私でさえそんなに膨らまなかったわ。と、普通に仕
事していた時に見かけた光景を、ハミニスの鞄を見て思い出した。
「早速で申し訳ありませんが、奥の方を含めて店内を拝見させてください。」
ハミニスはそう言うと鞄を床に置き、用紙とクリップボードを取り出した。ク
リップボードに用紙を固定するとペンを持って準備が出来たようだ。色々確認
したことをあれに記入していくのだろうか。仕事を受けるに値するのかどうか
の確認項目でも書いてあって、査定していくのかな。緊張する。
「どうぞ、奥からでいい?」
「ええ、どちらでも。質問があればしますので、普通に営業して頂いて構いま
せん。ただ、薬莢の受注履歴だけ用意頂けますか。」
「分かったわ。」
正直、作業場まで見られるのは、プライベートを覗かれる様で複雑な気分だけ
れど、あの時のような苦汁を今後舐めさせられたくないので素直に頷く。今後
の王都アーランマルバへの出店を考えれば、想定外の出費は極力抑えたい。想
定外と言うよりはもう事故なのだけど。あ、そうだ。
「今回の事と関係ないのだけれど、質問してもいいかしら?」
「私で答えられる事でしたら。」
ハミニスは作業場を見て用紙に記入する動作を中断することなく応えた。
「今後、新しいお店の開店を考えているのだけど、相談とか乗ってくれたり出
来ないかしら。」
弁護士であれば色々な案件を扱って来ただろう。当然、経営や業務内容に雇用
問題等、様々な案件を見てきたに違いない。だったら、お店を出すにあたり助
言とか貰えるんじゃないだろうかと考え聞いてみた。
「可能ですが、相談料は頂きますよ。」
お、やった。
「それはもちろん。相談は今回の件とは関係なく可能?」
今回の件、つまりお店の専属弁護士にならなくても可能かどうか確認しておき
たい。
「ええ、また別の話しですから。」
ハミニスはそこで手を止めると、笑顔で答えてきた。営業なのだろうか分から
ないけれど、私にとって有益ならば問題ない。他に伝手も無いし、ザイランが
紹介してくれた弁護士だから、信用も出来ると思うし。自分で探した弁護士に
相談して、足元見られたり騙されたりするよりはましでしょう。今回の件とは
別に、アーランマルバに出店の時は相談してみよう。
「ここは終わりましたので、次は店内をお願いします。」
「ええ。」
ハミニスは店内に戻ると、薬莢記述の認定証にまず目を止めた。
「これ、ケースから出して頂いてもいいですか?あまり数は無い認定証ですが、
それでも偽造する人はいるのですよ。なまじ記述が出来てしまうと、悪用や金
儲けの為に利用する人がいるのですよ。」
うっ。そのつもりは無いが、資格を取る前の私は同じ状態に見られていたのか
も知れない。
「ちょっと待って。」
私はそう言って、硝子で挟んで立てかけているケースを取り、認定証を取り出
しに掛かる。その間、ハミニスは店内を色々見て回っては用紙に何か書き込ん
でいた。私は認定証を取り出すと、先程言われていた薬莢の注文票を綴じてあ
る帳簿も用意する。
お店はリュティに任せてあるが、カウンターで暇そうにしていた。まあ、ハミ
ニスが来てから入って来たお客さんは一人、店内を一周見て回るとそのままお
店を出て行った。お客さんの大半は、いつもそんな感じなのだけど。
「では、拝見します。」
店内を見終わったハミニスが私の前に来ると、用意しておいた認定証と帳簿を
早速手に取って見始めた。認定証に関しては、ちゃんと試験を受けて発行して
もらったものだから心配無いけど、注文票に関してはありきたりの物を改良し
て使っているから不安になってしまう。
しかし、この状況で普通に営業をしていていいと言われても、出来るわけが無
い。落ち着かない事この上ない。何か言われるんじゃないだろうか、結果やは
り駄目なんじゃないかと、見ている方はそんな事ばかり考えてしまう。
「ありがとうございます。」
そんな事を考え悶々としていると、見終わったハミニスがそう言って帳簿を返
して来た。結果がどうなのか、緊張で言葉が出ない。
「では、今日の内容で戻ってから考慮しますので、後日正式に連絡します。」
「今日じゃないんだ・・・」
ハミニスの言葉に気が抜けて、思わずそんな言葉を漏らしてしまう。別にがっ
かりしたわけではない。
「そんな直ぐに結論は出ませんよ。私も進退に関わる問題となりますので、時
間を頂きます。」
そうよね。慎重になるのも当然か、むしろそこまで考えてもらってありがたい
ような、時間を取らせて申し訳ないような。
「結論はまた連絡します。」
ハミニスは鞄にクリップボードを仕舞いながらそう言った。
「期待させるつもりは無いですし、過度な期待はして欲しくないですが、悪い
結果にはならないと思いますよ。」
一瞬、喜びに笑顔になりそうになるが、言われたとおりにしておく。可能性が
存在するならば、望んでいない結果になるのも不思議ではないのだから。
「期待しないで待ってるわ。」
「それでは失礼します。」
私の言葉を笑顔で流すと、ハミニスはそう言ってお店を出て行った。
「はぁ、緊張したわ。」
カウンターで暇そうにしているリュティが、私より先にその言葉を漏らした。
おい。
「それ私の台詞よ。」
暗い地下通路をローブを来た三人組が移動していた。地下通路内の空気は湿っ
ていてまとわり付いて来るようにねっとりしている。空気が淀み、何処か腐臭
のようなものが漂い気分を陰鬱とさせる。
呪紋式で灯した灯りが、杖がわりにした棒の先端で輝いているが、数メートル
先は何も見えない闇となっている。先頭に二人、後ろに一人と三人が並んで歩
くほどの幅は地下通路にはない。
湿気で天井に貼り付いた水滴が、時折落ちて来ては三人に不快感を与えていた。
最初は驚きもしたが、今では身体が濡れる不快感しか齎していない。地下通路
内は動かなければ寒くなるくらいにはひんやりしていたが、服の上にローブを
着て歩いていると、高湿度からか身体はじんわり汗ばみ、額には汗が浮かんで
くる。落ちてくる水滴と合わせて、不快感を増す原因となっていた。
ペンスシャフル国の市街地から、地下水路施設に入り、更に地下に潜って通路
を進んでかれこれ二時間は歩いている三人だが、真っ暗な通路なうえ地図も無
いので現在地が分からない。地下水路施設には多少の灯りはあったが、管理さ
れていないこの場所はそれすら無い。
城郭を囲む様に流れる川を越えたのかどうかも分からない現状は、心身共に疲
弊への拍車をかけていた。地図が無いため、この行程で目的の場所に辿り着か
なければ引き返し、新たな地図をまた描かなければならない。徒労に終わるか
も知れない工程を何日繰り返しただろうか。地下通路を見つけた時の高揚感と
使命感は、三人からは既に欠如していた。
故郷、法皇国オーレンフィネアより命を受け探索しているが、その命すら今は
疎ましく感じる程に。話しによれば何百年も前に作られた通路を歩く事も、三
人にとっては恐怖を感じる対象だった。何時崩落してもおかしくないのではな
いかと。
連日の心身に対する疲労、法皇国オーレンフィネアに対する不信、古い地下通
路の崩落への恐怖、合わさる状況に三人は極限を迎えても不思議ではない精神
状態に陥っていた。
「本当に、剣聖の館の地下に繋がっているのか・・・」
誰にともなく、一人が口を開く。若さのある声だがはっきりと疲労が混じって
いる。
「わからん。少なくとも館からは繋がっていないらしいからな・・・」
別の一人が太い声で力なく応える。
「そんなもの、ましてや他国の施設の事を何故我が国が知っておるのか。眉唾
もいいところではないか・・・」
最後の一人が嗄れた声で辟易したように吐き捨てる。
「国の為と言われ志願したのは失敗だったかもな・・・」
最初に言葉を発した男が後悔を口にする。
「報酬に吊られたのだ、今更言っても仕方あるまい・・・」
力無い太い声が諦め発する。
「後には退けんな、それこそ無駄骨もいいところじゃ・・・」
嗄れた声がまた吐き捨てた。三人は不平を零すと、無言のまま歩みを続けた。
たまに落ちる水滴の音は、三人の足音に掻き消され通路内にはその音だけが反
響し続ける。体力を奪う湿度と暗闇は、疲弊した三人に変わらず押し掛かる。
「そういえば、暫く前から分岐が無いな・・・」
若い声が気付いた事を、覇気の無い声で呟いた。
「言われてみれば・・・」
太い声は相も変わらず力なく同意した。
「もしかすると、もしかするかもしれんな・・・」
嗄れた声は言った言葉とは裏腹に、期待などしていない様に吐いた。それ以上三
人は、会話をする気力も無いのか無言で歩き続けた。だが、疲弊し不平を零そう
とも誰一人として戻る事に関しては口にしなかった。可能性という期待が何処か
に在ったからか、ここで引き返してはただの徒労に終わるという強迫観念が在る
からなのか、分からない。
黙々と進んでいると、三人は多少開けた場所に出た。正面には三人並んでも裕に
通れる程の幅がある上り階段があった。左右には今まで通って来た通路と同じ様
な通路が薄っすらと見える。階段は以外と短く、十段も無いようだった。三人は
顔を見合せ頷くと、階段を上って上に向かった。十段も無いとはいえ、疲弊した
身体は重く、膝の間接は今までより大きい稼働範囲に痛みを訴える。それでも階
段を上りきると小さな広場となっており、正面には高さ二メートル、一枚が幅一
メートル程の観音開きの鉄扉が存在した。
「これは・・・」
若い声が唸る様に声を漏らす。
「この先、なのか・・・」
同様に太い声も続いた。
「だといいんだが・・・」
嗄れた声は吐き捨てたが、今までと違い若干声が軽かった。三人は鉄扉に近づい
て行く。これまでの苦労が報われる時がきたのだと。この地下から抜け出せばも
う、苦痛と疲弊に苛まれ暗闇を歩き続けなくていいのだと。約束された故郷から
の手当てを受け取り、今までより多少ではあるものの裕福に暮らせると。
「そこから先の立ち入りは許可出来ぬな。」
鉄扉に手を伸ばしていた三人はその姿のまま硬直した。疲弊から動かなかったの
もあるが、突然の声に恐怖も覚えた。何より誰もいないとの思い込みが、空耳で
はないかと思わせ、誰何の声すらも上げる事なく止まっていた。だが、三人共同
じ行動をしていたことから、現実だと認識させられ三人はゆっくりと振り向く。
「何処で知ったか分からぬが、此処は禁足の領域。」
そこに腕を組んで立っていたのは、髪を全て後ろに流し、鋭い眼光を三人に向け
ている長身の男だった。その眼光に射竦められ、三人は振り向いたところで硬直
し、更に男が背負った二メートル近い剣に恐怖した。
「何奴・・・」
辛うじて嗄れた声が誰何の声を上げた。恐怖からか先程までとは違い、声に震え
が混じっている。
「此処は建国時より国の主が護りし場所。余人が立ち入る場所ではない。」
男の鋭い眼光は三人の後ろにある鉄扉に向けられていた。
「剣聖オングレイコッカ・・・」
太い声が苦鳴の様に言葉を漏らした。その名前で認知せざるを得なくなった三人
は、自分達の辿り着いた場所は本国の指示通りに存在し、眉唾では無いと確信に
変わった。同時にこの場から生きて戻る事も不可能だと思い知らされる。
ただ、剣聖の館から繋がっていないという情報は、現状への焦燥感からか三人共
頭から抜け落ちており、何故ここにオングレイコッカが居るのかと言及出来る状
態では無かった。
「一人でも抜けられれば・・・」
苦渋を含んだ若い声が、使命を全うしようと策にも成らない事を口走った。
「ふん、出来ればいいがな・・・」
嗄れた声は諦めを含んで吐き捨てる。目の前に約束された死があろうと、敢えて
自ら犠牲になる気など無いというように。
「では、それぞれ適当に逃げようか・・・」
太い声も自己犠牲を拒否するように力なく漏らした。
「我も暇では無いのでな、談議は別の場所で続けるといい。」
オングレイコッカはそう言うと、三人に向かって歩き始める。足音すら立てず踏
み出したその歩みは、その巨躯からは想像も出来なかった。
自分達が戻らなければ少なくとも、存在の証明に波紋を立てるだろう等と三人は
考えもしなかった。目の前から歩み寄る死への恐怖と、我先に逃げ出そうという
思いから。そもそも探索だけと言われ報酬に吊られた三人に、愛国意識も任務遂
行意識も無かった。
「儂が、何とかしよう・・・」
嗄れた声が発した思いもよらない言葉に、他の二人は思考が硬直する。自分達に
は自己犠牲など欠片も無いと思っていたから。当然、嗄れた声に含まれた思惑に
も気付くことは無かった。が、それには直ぐに気付く事になる。
「なっ!?・・・」
太い声が何が起きたか分からないと疑問の声を発し驚愕に目を見開く。階段を転
げる様に駆け降りながら自分は蹴り落とされたのだと認識すると、憎悪の視線を
嗄れた声の主に向けた。だがその視界は一瞬で暗闇を映す。しかし実際は、オン
グレイコッカの拳で頭部が粉砕されたため映す事が出来なくなっただけだった。
崩れ行く太い声の身体の横を、何処にそんな体力が残っていたのかと思わせる勢
いで、嗄れた声の主が駆け抜ける。オングレイコッカが近付いた瞬間、背後から
の衝撃に嗄れた声の主は驚愕した。若い声の男が体当たりで嗄れた声の主を、オ
ングレイコッカに向かって突き飛ばして駆け抜けて行ったからだ。嗄れた声の主
は怨嗟の念を、若い声の男に向け声にして吐き捨てようとしたが、やはりオング
レイコッカの拳で頭部を粉砕され叶わなかった。
オングレイコッカを抜けた若い声の男は、誰か一人でも抜けられればと言った事
を思いだし、その一人に自分がなれるとは思っていなかったため、この現状は僥
倖だと感じていた。嗄れた声の主が仲間を見捨て、いや仲間等では無かったが同
僚を犠牲にする蛮行に辟易しながらも、咄嗟に若い声の男もそれを利用しようと
考えての行動だった。
薄明りの中、若い声の男が入って来た通路に向かって一目散に駆け抜ける。その
通路に飛び込んだのは眼球と脳漿と血だった。オングレイコッカの拳により粉砕
された頭部から飛び散ったそれらに、追いつくように慣性のまま身体が前のめり
に倒れ込んでいく。上半身の半分が通路に入った所で、若い声の男も還らざる物
体となった。
オングレイコッカは何事も無かったかの様に鉄扉に目を向ける。途中に転がって
いる二人分の物体は視界に入っていない様だった。
「これは世に出すべきものでは無い。メーアクライズの二の舞になど、なりたく
は無いのだから。」
オングレイコッカの言葉は血臭漂う薄暗い広間で、響くことも無く虚しく消えた。
調光で灯りを落とされた部屋で、ウェレスは紫煙を吐き出す。薄暗い部屋で葉巻
を吸うと火種が煌々とし、吐き出された紫煙は香の様に部屋の中に広がり、靄が
かかっているようになる。
ウェレスは机を挟んで向かいに立つ男ふたりに、鋭い眼光を向ける。
「回収の見込みは無さそうですね。」
「はい。本人が見ている中、家捜しをしましたが。」
ウェレスの退屈そうな物言いに男の一人が答え、もう一人の男が報告を引き継ぐ。
「金、銀行の残高は共に無く、金目の物も在りませんでした。」
交代制の様に報告する男が入れ替わる。
「家財類も少なく確認したところ、売っては生活費と借金の返済金に充てていた
ようです。」
「家は賃貸ですし、限界ですね。」
また入れ替わったところで報告が終わる。聞き終わったウェレスの瞳は何も映さ
ない闇を纏った様になり、能面の表情が現れる。
「返す当てがあって借りるものだと思うのですがね、此れでは詐欺だと思いませ
んか?」
ウェレスの問いに男二人は硬直して、返事すら出来ずにいた。ウェレスがこの表
情になった時は同意も反論も下手に出来ない事を男達は知っていたからだった。
この場合は沈黙を保ち、下された指示を全うするのが一番の解だと。
「まあ、払ってもらいますがね。」
ウェレスは気にした風もなく続ける。
「残り一千二百万でしたか。母親は解体して臓器を売りましょう。娘は売れるで
しょう、買う好事家なら居るでしょうから。」
能面の表情から発せられる言葉に、男達は背筋に寒いものを感じる。
「同様に息子も売りましょう、娘以上に好事家が金を払いますよ。」
十代半ばの姉とまだ十歳にも満たない息子、その末路はいくら借金の肩とは言え、
ウェレスの態度に寒いどころか氷つく思いに男達はなる。
「売りをやらせるとね、足が付きやすいし逃走の恐れもあり、管理にもお金がか
かりますからね。後腐れなく捌いた方がいいんですよ。」
まるで不要になった商品を叩き売るような酷な話しに同意など出来ないが、ウェ
レスの言葉に同意する事が禁忌になっている現状が、男達にとって幸いとなって
いた。
「自分の状況を理解させる為、本人には手を出さないで下さいよ。どうしても足
りない場合は、心苦しいですが自業自得という事で本人を解体して売るしかあり
ませんね。」
残忍以上だと思わせる事を、何でもないかの様に語る能面の表情は、配下である
男達も恐怖し吐き気が込み上げる。だがこの後に続く言葉は、実行するのは自分
たちだと分かっている為、陰鬱にならざるを得ない。
「では、私がアーランマルバから戻ってくるまでには片付けておいてください。」
予想通りの言葉よりも、アーランマルバから戻って来るまでにという期限に男達
は戦慄した。数日しか猶予が無い状況で、子供二人の人身売買まで終えられるだ
ろうかと。ただ、やらなければ自分の身に降りかかる恐怖から逃れる方法は無い
と分かっているので、男達は「はい。」とだけ揃って言うと、ウェレスの部屋を
足早に去った。
「リンハイア様。」
執政統括の部屋の扉を叩き、入る事を促されるとアリータは飛び込む様に部屋に
入って声を上げた。普段は見せない焦りを見せているアリータを見ても、リンハ
イアは普段通りの微笑を向ける。
「ユリファラの件かな?」
アリータは驚いて、リンハイアの机の前に向かっていた足を止める。未だ何も言
っていないのにと思いつつも、気を取り直して歩みを再開した。
「はい。報告がありまして。」
机の前まで来ると、リンハイアの疑問を肯定する。その間にリンハイアは、水差
しからグラスに水を注いでいた。それを口に含みながら先を促す。
「カーダリア卿が動いたとの連絡でしたが、その・・・」
アリータはそこで言葉に詰まった。
「夫妻に捕まった、かな。」
「え?」
リンハイアの言葉に呆気に取られ、アリータは思わず間抜けな声を出す。だが自
分の抜けた態度よりも、リンハイアがその事実を知っていた事に驚きを隠せない
方が上回っていた。しかもカーダリア卿ではなく、夫妻と言った事が一番の驚き
だった。事実、その通りだったのだから。
「ご存知だったのですか?」
「いや、夫妻ならやりかねないと思っただけだよ。」
そう言うとリンハイア苦笑してみせる。
「大丈夫、夫妻は決してユリファラに危害を加えるような真似はしない。」
アリータの心配を見透かした様にリンハイアは言葉を継いだ。カーダリア卿と知
り合いとは言え、そこまで人の動きが分かるものだろうか、まして他国の人間で
普段から会っているわけでもないのにと、アリータは畏怖すら感じた気がした。
「それは、何時もの調子でユリファラも言っていたので彼女の身は心配しており
ませんが。」
報告してきた当の本人は何時もの態度だったため、カーダリア本人が通信に入っ
て来なければ信用すらせずに、自分はユリファラに小言を言っていたところだと
アリータは思い起こしていた。ユリファラの様子から心配していない風を装って
みたが、見透かされた事に感じた畏怖を気取られないのはおそらく無駄だろうと
思った。
「ユリファラはこのまま夫妻に同行させておこう。もとよりその監視が仕事なの
だから。」
「よろしいのですか?」
捕まったうえにそのまま同行、身の安全は問題無いとしても他国の枢機卿である
カーダリアとの同行を放置する事に、アリータは不安を感じた。
「構わないよ、ユリファラ独りより安全だろうしなにより、夫妻の目的地はこの
グラドリアなのだから。」
独りより安全という点は不明だが、リンハイアがそう言うのであればそうなのだ
ろう。ただ、目的地がグラドリアという事は以前リンハイアが言っていた復讐の
ためだというのは分かった。それが確定してしまう事が、アリータに切なさを感
じさせる。カーダリア卿は本当に、アールメリダ嬢の仇に動いたのだと思えば。
「ユリファラに心配がなければ今後の通信を待つとして、イリガートからも連絡
が来ております。」
自分が心配したところで現状が変化するわけでは無い。アリータはそう思い、気
持ちを切り替えられたわけではないが、職務を全うする事でその憂いを隅に追い
やった。
「それで。」
若干の葛藤をしている間にリンハイアが促す。
「オーレンフィネアの人間が朝方、例の市街地から地下に入って行ったそうです
が、二十時時点で出て来ていないそうです。今までであれば、夕方には出て来て
いたそうですが。」
アリータの報告にリンハイアは考える素振りをする。
「目的の場所に辿り着いたか、若しくは別の出入口があるのでしょうか?」
リンハイアの言葉を待つより先に、アリータは疑問を口にした。普段より遅いと
言うことは成果があったのか、そもそも出入口そのものが一つとは限らないので
はないかと。
「半分正解、かな。」
リンハイアの言葉の半分とは一体どういう事だろうかと考えるが、直ぐに答えを
知る事になる。
「目的の場所には辿り着いたが、彼等が戻ってくる事はない。」
「あ・・・」
つまり死んだという事なのだろうと察して、アリータは一瞬声が漏れてしまう。
死ぬという事を考慮していなかったわけではないが、探っているという事で何処
か考えが甘かったと自分の浅慮を悔やむ。
「何れ見つかるものだ。としても、これは法皇国オーレンフィネアにとって信憑
性の高い情報になってしまったね。」
マールリザンシュは確信したと言っても過言ではないな、とリンハイアは思った
が内心に留めておく。
「探索に出ていない人間が報告すれば、間違いないと思っても不思議ではなさそ
うですね。」
リンハイアは頷いて肯定した。話しの流れからそう言ったアリータだったが、オ
ーレンフィネアの状況を言っただけであって、核心であるペンスシャフルの地下
に何が在るのかは知らない。リンハイアもその存在については言っていないので、
自分から聞くことではないと思っていた。
「イリガートには監視を継続してもらうが、報告以外の動向は暫く見られないだ
ろうね。」
リンハイアはそう言うと椅子の背もたれに背を預け、足を組むとグラスの水に口
を付けた。
「それはそうと、もうすぐアーランマルバに出来た大型総合ビル、エクリアラの
開店式典があるね。」
リンハイアが話題を切り替えた事で、オーレンフィネアとペンスシャフルについ
てはこれ以上会話に進展はないと察すると、アリータも気持ちを切り替える。
「はい。リンハイア様も貴賓として呼ばれていますので、式典には出席予定です
。」
王都アーランマルバの主要駅オレンティアから徒歩五分の場所に建設された巨大
施設エクリアラは、その開店が近いことから連日注目と期待で話題になっている。
当然報道でも毎日事前情報が絶えない。
「あまり出席したくは無いのだが。」
リンハイアは苦笑して言った。
「アーランマルバでも久しぶりの一大事業になります。グラドリアの中心である
王都で、執政統括が顔を見せる事に意味があるのですよ。」
国の中心に出来る巨大ビルは話題になる、近隣からも訪れる客も増え活気に湧く
だろう。公人としても参加する事に意味がある。ただ、アイキナ市を拠点とする
ネヴェライオ貿易総社が更なる富を得る事が懸念なのではないかとアリータは思
うが、市政の人間には関係ないところが悩ましいのではないかと。
「分かっているよ。」
リンハイアは何時もの微笑で言った。
「ロンカット商業地区での業績を見れば、有益なのは明白だからね。アーランマ
ルバでも名物になるだろう。」
リンハイアはそこまで言うと、微笑から笑みに表情を変える。
「ちなみに中に入る店舗の中には、アンパリス・ラ・メーベの分店があるらしい
よ。」
アリータは少しだけ目を大きくする。それを見たリンハイアの笑みには若干意地
の悪さが浮かんだ。
「しかもエクリアラ限定濃厚ミルククリームが販売されるのだとか。」
アリータはその情報に顔を緩ませる、是非とも食べたい気持ちから。同時に自分
の反応を楽しんでいるリンハイアに対して、式典には出席したくないと言いなが
らも、ビルに出店する店舗はしっかり確認していた事が腑に落ちなかった。
「まあ、当日はそれが楽しみだから行くんだけど。」
「はっきり言わないでください。今の発言は問題ですよ、ちゃんと仕事してくだ
さい。」
アリータは何時もの態度に戻って小言を言った。リンハイアは肩を竦めてみせる
が、その態度は何気ないものだったのか、自分を気遣ってのものだったのか分か
らなかったが、気遣ってもらったと感じるのは自分の願望が混じったかと思うと
アリータは内心で自嘲した。
2.「遺伝情報では無い、人の意思は時を超えて旅をする。」
いよいよ明日は王都アーランマルバに行くので、準備をと思ったが朝からする必
要は無いので、夜でいいかと思い居間に向かう。前日の寝起きを思い出すと昨夜
は眠ることに躊躇いを感じていたが、気付いたら朝だったので安堵した。躊躇い
なんて可愛いものじゃなく、恐怖でしかなかったのだけれど。
「さて、今日もお店頑張るか。」
私は軽く伸びをしながら呟いて食卓に着いた。
数人の男女が集まって金糸銀糸が豪奢を演出する円卓に着いている。法皇国オー
レンフィネアの中央庁にある会議用の円卓には、未だボルフォンから戻っていな
いグーダルザとゾーミルガの姿は無い。
「今朝がた連絡役のグーダルザ卿から報告があった。」
マールリザンシュが口火を切る。その内容に一同は緊張した面持ちになる。カー
ダリアに会いに行っていたグーダルザからの報告であれば、それについて何か動
きがあったのだろうと期待して。だがマールリザンシュはその期待を振り払う様
に首を左右に振った。
「連絡役と言っただろう。内容はペンスシャフルに入っていた者からの方だ。」
「そちらかよ。」
アーリゲルが紛らわしい言い回しは止せとばかりに吐き捨てた。だが、ペンスシ
ャフル国の件も重要であるため、その内容にも一同は続きを促す様にマールリザ
ンシュに視線を向ける。
「昨日地下に潜った探索役が、今朝になっても戻らないらしい。」
「道に迷ったとは考えにくいわね。」
地図を作りながら無理をせず、時間を見ては切り上げていた筈だ。迷子は無いと
考えれば何か想定外の問題が在ったと考えるのが自然だと思いセーラミルは言っ
た。それは此処に集まっている者が同じ考えだったので、セーラミルが代表して
言った形になった。
「私は殺された可能性が高いと考えている。」
セーラミルの言葉にマールリザンシュは頷いて言った。
「それは存在したと都合よく考えたいからじゃないのかよ。」
それを否定するようにアーリゲルが吐き捨てた。確かにその考えは都合が良すぎ
ると、他の者も懸念を顔に表す。
「では、現実的な考えはどのようなものかな、アーリゲル卿よ。」
マールリザンシュに問われると、アーリゲルは眉間に皺を寄せて言葉に詰まる。
マールリザンシュは他の出席者にも視線を回すが、答えを返す者は居なかった。
「都合が良いように聞こえようと、それを覆す事が出来ないのであれば、今はこ
れが現実だと思うのだが。」
マールリザンシュは口を開かぬ一同に、畳み掛けるように言って見回すが、無言
は変わらずに顔をしかめるだけだった。
「それを仮定とするならば、ペンスシャフル国のあれを手に入れるのは難儀と考
えねばならない。」
「何故じゃ、兵を使えば良かろうよ。」
マールリザンシュの言葉にアーリゲルは間髪入れずに言った。
「それこそ愚の骨頂よ。」
それに対しセーミラルが冷めた視線を向けて言った。
「何を!やるのかよ。」
「やめよ。」
今にも飛び掛かりそうなアーリゲルをマールリザンシュが諌める。何故止めると
ばかりにアーリゲルは敵意の矛先をマールリザンシュに向けた。
「戦争をするつもりは無い。人数が多ければ目立つだろう、それでぞろぞろと地
下に入るのか?」
マールリザンシュに問われ、アーリゲルは苦い顔をして目を逸らした。
「それに相手は剣聖オングレイコッカだ、いくら送り込もうと烏合の集にしかな
らない。」
「それで大層な事を言ってたくせに、諦めるのかよ。」
アーリゲルが鼻を鳴らして吐き捨てた。
「現状、ペンスシャフル国に対して打つ手は無い。今は。」
アーリゲルの挑発にも乗らず、マールリザンシュは肯定した。物が物だけに剣聖
オングレイコッカ自ら出たと考えるざるを得ない。今すぐに策があるわけでもな
い現状は静観しか無いことに歯噛みする。
「ペンスシャフル国については、確度が上がっただけでも僥倖とするしかない。」
マールリザンシュの顔に浮かんだ苦渋も気にせず、アーリゲルは鼻で笑い嘲った。
「では先に国内から、という事ですか?」
アーリゲルの態度に辟易して見ていたくも無いセーミラルは、話しを進めようと
自国の話しへと切り替えた。
「それについてだが、現地に残っているゾーミルガの報告によれば、カーダリア
卿は昨日奥方と出掛けて行ってから戻っていないらしい。」
苦い顔のままマールリザンシュは言った。
「グーダルザ卿は何をしているの?」
同じくボルフォンに居る筈のグーダルザについて、セーラミルは言及した。
「グーダルザ卿は朝一でこちらに向かっている、もうすぐ中央に到着するだろう。
ついでに言えばカーダリア卿の説得は出来なかったらしい。」
セーミラルは現地に残っているゾーミルガに疑問を感じ、グーダルザの動向につ
いて確認したが、マールリザンシュから出た言葉は状況の悪さを思い知らされた
だけだった。
「はっ。何一つ進展は無いのかよ。」
既に呆れ果てていたアーリゲルは興味を失ったのか、何もない中空に目を向けて
小指で耳掃除をしながら言った。
「歴史の語り部っちゅうてもよ、単に歴史を知ってるってだけの話しよ。夢物語
なんぞ語っておらんで歴史のみ語っとりゃぁ良かったんじゃないのかよ。」
「ちょっとアーリゲル卿!」
続けて言ったアーリゲルの言葉を、言い過ぎだとばかりにセーミラルが声を荒げ
る。
「いや、アーリゲル卿の言うとおりだ、結果が無いのであれば同じ事。」
マールリザンシュは歯痒い思いでアーリゲルの言葉を受け止めた。それはアーリ
ゲルの言うとおり歴史を知っていたからなんだとういう現実と、存在の証左にも
ならない事実を思い知らされたからだった。歴史が証明するのではなく、存在が
歴史を証明する事に悔しさを感じていた。何故ヴァールハイア家と自分のコーレ
リフ家が継ぐものが逆ではなかったのかと。
「これからどうしますか?」
苦渋の表情を浮かべているマールリザンシュに、セーミラルが確認する。
「カーダリア卿の事はゾーミルガ卿に任せるとして、グーダルザ卿が合流してか
ら方針を模索する。」
「木偶が一人増えたところで何が変わるかよ。」
「アーリゲル卿は黙ってて。」
マールリザンシュの提案を一蹴したアーリゲルに、セーミラルが辟易して言った。
「私はカーダリア卿の次女、ユーアマリウ嬢に会ってみようと思う。確か勉学の
ため中央に居る筈だ。」
「小娘が知ってるとは思えんがよ。」
マールリザンシュの提言に水を差すアーリゲルを、セーミラルがいい加減にして
と睨み付ける。アーリゲルは五月蝿い女だとばかりに肩を竦めて目を明後日の方
に向けた。
「カーダリア卿には娘が二人しか居ない。アールメリダ嬢はグラドリア国で生活
している故、ユーアマリウ嬢が受け継いでいる可能性が無いわけではない。」
その言葉にセーミラルが憂いの顔をした。
「マールリザンシュ卿、もしかしてご存知無いのですか?」
「何の事だ?」
突然のセーミラルの態度に、マールリザンシュは若干困惑を浮かべて問い返す。
「アールメリダ嬢は、グラドリア国で殺害されましたよ。」
「なんだとっ!」
セーミラルが言った内容に、マールリザンシュは顔を険しくして円卓に両手を叩
き付け立ち上がる。その豹変した態度に一同が驚き視線を集中させた。
「どう・・・」
「セーミラル卿、ゾーミルガ卿に戻るよう伝えてくれ。」
セーミラルの疑問の声を遮ってマールリザンシュは荒々しげに言った。
「どういう事か説明は無いのかよ。」
慌てるマールリザンシュを、アーリゲルは睨めつけて問いただした。
「おそらくカーダリア卿はオーレンフィネアにはもう居ない。」
「一体どういう事ですか?」
「旧知の仲だから分かるって事かよ。それじゃ説明になっておらんがよ。」
二人に言われマールリザンシュは顔をしかめる。
「カーダリア卿はアールメリダ嬢の復讐に向かったのだろう。枢機卿の立場を捨
ててでも、あれはそうする。」
「何て事かよ。」
「そんなっ!」
アーリゲルは苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨て、セーミラルは驚愕に目
を見開いた。
「止める事は?」
「無理だ。」
セーミラルの問いをマールリザンシュはきっぱりと否定した。
「口伝は絶される事なく継がれて来た。そう考えればユーアマリウ嬢が継いでい
る可能性は十分にある。やはり会う必要が在るようだ。」
マールリザンシュは瞳に光を宿らせた。カーダリアが言うことは無いと分かって
いたが、若輩の娘が継いでいるのであれば可能性が出てきたと。
「事実上穏健派の中核が抜けたんなら、娘が情報を知っとりゃ一気に風向きが変
わるってことよ。」
状況を察したアーリゲルが、今までとは違い口の端に笑みを浮かべて言った。
「それで、我々はどうすれば?」
口にはしなかったが、セーミラルも同様の思いを抱かずにはいられなかった。そ
の為、次の行動を確認する声に若干期待が混じった。
「今まで通り推進派の拡充に動いてくれ。くれぐれもあれの存在は伏せて。確認
出来た時に本格的に動き出す。」
「分かりました。」
「結局またそれかよ。」
呆れ顔で言ったアーリゲルをセーミラルはまたも睨み付けるが、アーリゲルは知
らん顔をして会議室を出ていった。
「困ったご老人ね。」
セーミラルは溜め息混じりに零した。
「良い、アーリゲル卿は顔が広いうえに推進派からの人望もある。今後推進派を
拡大するには必要な人材だ。」
口は悪いが必要であるとマールリザンシュは考えていた事を口にする。
「仰る通りですが、あの口は何とかして欲しいですね。」
溜息混じりにセーミラルが言うと、マールリザンシュは苦笑した。
法皇国オーレンフィネアで一般的に中央と呼ばれる場所は、法皇が拠点とする中
央庁を中心に同心円状に広がる街、セーティオラ・ウヌラト・ロアーの事を示す。
大多数の住民はその名前を短縮してすら使わず、中央と呼ぶ。名前が長いのか、
中央と言った方が利便性が良いのかは不明であるが。
中央庁の少し西側にセーティオラ・ウヌラト・ロアーを分断するように流れる、
ナールケデフ河はこの街の重要な水源であり、中央で食される魚介の大半もこの
河から揚げられたものが殆どである。ナールケデフ河はこのまま南下していくと、
バノッバネフ皇国に入るが、国境に設けられた水門は許可が無い限り通過する事
は出来ない。
セーティオラ・ウヌラト・ロアーでは、河が東西に街を分断しているからと言っ
て、東西で貧困の差は存在せず、どちらに行っても似たような景色と人間が生活
している。ただ、中央庁のある東側の方が栄えている程度の差しか感じない程度
である。法皇国オーレンフィネアでは、他国同様一般的な大学が存在する。国内
でも有数であるセーティオラ・ウヌラト・ロアー学院大学は、街の名前を冠して
いるだけあり、オーレンフィネアの中でも一番歴史のある大学となっている。
中央庁が資本となっている大学や、他にも有名大学はあるが、セーティオラ・ウ
ヌラト・ロアー学院大学が歴史の古さでも他国での知名度でも一番有名な大学と
なっている。
その大学にカーダリア・ヴァールハイアの次女であるユーアマリウ・ヴァールハ
イアは通っていた。十七歳の時より、中央から北東に位置するボルフォンの実家
を離れ、セーティオラ・ウヌラト・ロアーで賃貸の物件を借りて通っている。
賃貸と言っても小さいが一邸宅であり、カーダリアの配慮と言うよりは、学寮や
集合住宅をカーダリアが嫌ったためだった。時折、中央に住んでいるラーンデル
トに様子見を押し付けている事からも、カーダリアの心配が窺えた。
「ユーアマリウお嬢様、カーダリア卿からの連絡は来てますか?私は今朝がた、
奥方のサーマウヤ様から連絡を頂き心配で来たのですが。」
そのユーアマリウが住む邸宅を、ラーンデルトが訪れていた。応接間などは無い
ので、ユーアマリウが普段利用している食卓を挟み、向かい合わせに座っている。
「はい、私も母様から文書通信を貰っています。」
ラーンデルトは沈痛な面持ちで聞くと、行き場の無い怒りからか身体を小刻み
震わせる。
「アールメリダ様の件は何と言っていいか。」
「私も姉様の事は憤激を押さえられません。」
今は気丈に振る舞っているが、その思いはラーンデルトには計り知れなかった。
充血して泣き腫らした目より、深い悲しみと怒りに囚われているのだろうという
事くらいしか想像できない。
「私もこの行き場の無い怒りと悲しみをどうしていいか分かりません。」
ラーンデルトは震える声で、静かに言った。抑えなければ、叫んでしまいそうな
感情を。
「その連絡以降、両親とは連絡が取れません。」
「やはり、ユーアマリウお嬢様も同じですか。」
ユーアマリウの言葉に、ラーンデルトは肩を落として現状を再確認させられた。
同時にユーアマリウも、ラーンデルトも連絡が取れないのだと察した。
「これからどうなさるおつもりですか?」
心配から今後の身の振りをラーンデルトは聞いた。サーマウヤからも面倒を見て
くれと頼まれた、というより押し付けられたのだが、ヴァールハイア家に世話に
なった身としては汲んでおきたいと考えていた。
「どうも致しません。」
「それは・・・」
ラーンデルトはこの状況でそう言ったユーアマリウに驚き何かを言おうと思った
が、首を振るユーアマリウを見て言葉を詰まらせる。
「私はヴァールハイア家の娘。父様が後は任せたと言ったのならば、私はそれに
従うまでです。」
充血した目は変わってないが、瞳には決意が見て取れた。それを見たラーンデル
トは、カーダリアが持っていた光を思い起こしていた。いくらヴァールハイア家
の人間とはいえ、二十歳の娘が決断するには酷ではないかと思わずにはいられな
かった。
「サーマウヤ様から、ユーアマリウお嬢様の事はお願いされております。私に出
来る事があれば言ってください。」
本音は止めたかったラーンデルトだが、ユーアマリウの決意に水を差すまいとそ
の思いは飲み込んだ。何より、それがカーダリアの意思なのだからと。
「お気遣いありがとうございます、ラーンデルト卿。」
ユーアマリウは弱々しいが笑顔を浮かべてそう言った。
「それと提案なのですが。」
ラーンデルトはユーアマリウの笑顔に頷くと、今後の話しをしようと切り出した。
「サーマウヤ様から託されてる身としては心配ですので、大学を出られるまで私
の屋敷に引っ越されてはどうでしょう。」
突然のラーンデルトからの申し出にユーアマリウは困惑した。ラーンデルトとカ
ーダリアの付き合いは子供の頃から知っているが、サーマウヤが言ったからとい
ってそこまで世話になって良いのだろうかと。
「カーダリア卿が戻られる時まで、ボルフォンの屋敷の方も私の方で維持する予
定です。」
ラーンデルトがそこまでする理由はユーアマリウには分からなかったが、おそら
くカーダリアとの間の話しだろうと思い聞こうとは思わなかった。話す機会があ
れば話すだろうし、自分が割って入る事ではないと。
「そこまで仰られるなら、お言葉に甘えようかと思います。この家の支払いも、
父様が居なくなった今は馬鹿になりませんし。」
無下にする事もない、むしろ有難い申し出だったが、両親がラーンデルトに無理
を言ったことは申し訳ないと思うユーアマリウだった。ただ、現状は素直に好意
を受け取っておこうと。
「良かった。引っ越しはユーアマリウ様の都合の良いときを言ってください。家
から手伝いと車を用意します。」
ラーンデルトは安堵の表情になり言った。
「何から何までお世話になります。」
ユーアマリウは頷いて言うと、頭を下げた。
「カーダリア卿の行方も、私の方で探して見ます。」
ラーンデルトの申し出を聞くと、ユーアマリウは眼を鋭くした。
「両親は、あの二人はあの二人の道を歩んでいます。娘の私だから分かります、
言い方は悪くなりますが無粋な真似はお止めください。」
一瞬呆気に取られたラーンデルトだったが、直ぐに微笑むと頷いた。やはり、ヴ
ァールハイア家の御息女だとの思いから。
「分かりました、ユーアマリウお嬢様が言うのであればそうしましょう。」
「ありがとうございます。」
ユーアマリウは表情を緩めて言った。
「では私は一度屋敷に戻りますので。」
言いながらラーンデルトが椅子から立ち上がった時、玄関に来訪を知らせる呼鈴
が鳴った。ユーアマリウは怪訝な顔をして立ち上がる。
「今日は何方とも会う約束はありませんが。」
それを聞いたラーンデルトが表情を厳しくする。
「私が出ましょうか?」
玄関に向かおうとしているユーアマリウに、ラーンデルトが確認する。
「いえ、大丈夫です。」
ユーアマリウは軽く首を振るとラーンデルトの申し出を断った。
「では、後ろに控えております。」
ラーンデルトの言葉にユーアマリウは頷くと玄関に向かった。玄関を開けるとそ
こには背広を着た身なりの良い青年が佇んでいた。歳の割には何処か貫録のある
風貌にユーアマリウは訝しむ。
「マールリザンシュ枢機卿!」
ユーアマリウが誰何の声を上げるより早く、後ろからラーンデルトが驚きの声を
上げる。マールリザンシュも驚いたようで、ラーンデルトを目にすると一瞬硬直
した。
「お主は、ラーンデルト卿・・・そうか、お主もカーダリア卿の事を知って。」
マールリザンシュは何故ラーンデルトが此処に居るのかを察すると、悔やむ様に
言った。それは邪魔者が居るという意味だったが、二人にはその真意が分かって
いなかった。
「何故推進派の枢機卿がここに居られるのか?」
それでも此処を訪れる理由は無いと、訝しんだラーンデルトは疑問を口にした。
「先ずは、此度の姉君の件、御悔やみ申し上げます。」
マールリザンシュはラーンデルトの問いは無視して、ユーアマリウに言うと深々
と頭を下げる。
「ありがとうございます。」
ユーアマリウも言って一礼すると、後ろで心配そうに見ているラーンデルトを横
目で見ると、大丈夫という様に頷いてみせる。
「マールリザンシュ卿の事は父様から聞いています。ただ、ボルフォンに引っ越
す前の話しと言っておりましたので、詳細は存じ上げません。」
ユーアマリウはマールリザンシュを見据えて、言葉を続ける。
「二十年も会っていなかった現状、何故今私を訪ねて来られたのでしょう?」
射抜く様に見据えてくるユーアマリウの瞳を見て、マールリザンシュは悔やんだ。
二十歳の娘と侮っていたが、根はヴァールハイア家なのだと。カーダリアと同じ
意思を見せるその瞳に、カーダリアを知っているからこそ、出向いた事を徒労だ
ったと感じ始めていた。
「姉君が不幸に遭った、それを聞いた時カーダリア卿はこの国には居ないだろう
と分かった。会っていないとは言え、昔の誼みで心配したのだよ。」
取り繕ったわけでは無いが、マールリザンシュはふと思った事を口にしていた。
それは長年会っていなかった事に対する、懐かしさからだったのか自分でも分か
らなかったが。
「父様の事を良くご存知で。しかし心配には及びません。」
ユーアマリウの気丈な態度に、マールリザンシュは懐かしむ様に笑みをこぼした。
「今のユーアマリウ嬢を見てはっきり分かった。貴女はカーダリア卿にそっくり
で、紛れもなくヴァールハイア家の人間だと。」
「そう見えるなら、光栄な事です。」
ユーアマリウは微笑むとそう言ってみせた。マールリザンシュはそれが明確にな
った事で、目的は果たされないと悟った。だが、それでは立場上示しがつかない
のも分かっていた。
「ところで、カーダリア卿から何か聞いていないだろうか?」
故に、足を運んだ意味を成そうとする。
「何の事でしょう?」
しかしユーアマリウは間髪入れずに、マールリザンシュの問いを聞き返した。問
いの内容を分かっていて聞き返したのだと察すると、遠回しでは駄目だとマール
リザンシュは意を決する。
「では単刀直入に聞こう、口伝の事だ。」
「はい、聞いております。」
ユーアマリウはゆっくり頷くと、素直に答えた。
「私はその内容を知りたいのだ。」
下手な誤魔化しは無駄だと分かったマールリザンシュは、率直に聞いた。それこ
そが本題だと、ユーアマリウにも分かっただろうが、形振り等構っていられる状
況ではないとの思いから。
「ではお答えします。」
ユーアマリウはそう言うと、鋭い視線を向ける。言葉通りに受け取ったマールリ
ザンシュは期待したが、その視線に射抜かれ多少困惑する。
「口伝と共に受け継ぐものがあります。それはヴァールハイア家の在り方、意思、
務め。つまり、これが答えです。」
マールリザンシュは驚愕した。口伝はただ伝えられていたのではない事に。同時
にその内容を聞く事が叶わない事も知った。
「この場に居る者がどうなろうとも、か?」
未だ引き下がるわけにはいかないと、マールリザンシュは苦い思いで脅迫に出る。
「ラーンデルト卿が殺されようと、私が辱しめられようと、身体を千々にされよ
うと決してヴァールハイア家の意思は揺らぎません。」
一切揺らがない瞳を見て、マールリザンシュは過去のカーダリアを思い出してい
た。ユーアマリウの姿が当時のカーダリアに見えたと言っても過言ではなかった
ほどに。
「分かりました。ここは引きましょう。」
落胆は見せずにマールリザンシュは、一礼して踵を返した。
「紛れもなくヴァールハイア家の人間だと仰ったのは貴方ですよ、マールリザン
シュ卿。」
背中に掛けられたユーアマリウの言葉に、マールリザンシュは苦笑した。自分で
無駄だと言ったではないかと、初めから分かっていた事だと含んだその言葉に。
一瞬足を止めたマールリザンシュだったが、敵わぬと思うと苦笑した顔は見せず
にその場を立ち去った。
「ユーアマリウお嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ。」
ラーンデルトとしても初めて聞く話しに興味が無いわけでは無かったが、ユーア
マリウの態度から聞くべきではないと感じた。それをしては、カーダリアに矛先
を突き付けるような気がしたから。
「今回の事を考えれば、早めの引っ越しを考慮してください。」
何事も無かったように頷いたユーアマリウに、マールリザンシュに対する懸念か
らラーンデルトは早急に此処を引き払うよう提言した。
「マールリザンシュ卿はきっと、二度と来ませんよ。」
ユーアマリウはそう言うが、事情が分からないラーンデルトにとって、その確信
は何処から来ているのか不明だった。ただ、嘘ではないだろうと思ったが、推進
派は何もマールリザンシュだけではない、それを懸念した。
「マールリザンシュ卿は来ないとしても、推進派は他にも居ます。強行に出ない
人間が居ないとも限りません。」
「そうですか、では考慮してみます。」
ラーンデルトの先の提言にその意が含まれていると理解すると、ユーアマリウは
頷いてそう言った。
「では、私もこのまま失礼します。何かあれば、直ぐに連絡をください。」
「はい、わかりました。」
ユーアマリウの返事を聞くと、ラーンデルトは玄関を出て邸宅を後にした。
三日間くらい休業します。その貼り紙をお店の扉に貼り付ける。順調に行けば三
日ですむ予定なのだけど、順調にいかなかった時の事を考慮して、「くらい」を
付けておいた。それと最後に明日の日付をいれてあるので、何時から三日か分か
るでしょう。
「お店も閉めたし、明日の準備をしなければ。」
二十二時の閉店時間を迎えた私は、お店の硝子扉の鍵を閉める。
(ん、その前にマリノで麦酒を飲んでからにするか。)
閉めたばかりだが麦酒の誘惑に勝てず鍵を開けて外に出ると、また鍵を掛けて向
かいのカフェ・マリノに私は向かう。
グラスから麦酒を一口飲んで、一緒に頼んだ生ハムを一切れ食べる。テラス席に
着いた私は明日からの不安を吐き出すように、上空に向かって溜め息を吐いた。
マリノの灯りがあっても、夜空に星が在るのが視認できる。少しの間眺めて麦酒
を飲もうと視線をテーブルに戻すと、テーブルの向かいにいつの間にかリュティ
が座っていた。
「帰ったんじゃないの?」
「明日の準備はどうしたのかしら?」
私の問いには答えずリュティも問いを発した。
「一息ついたらやるわよ。」
「そう。」
私の答えにリュティは短く相槌を入れると席を立ってマリノの中に入っていった。
私の問いを放置したまま。私はリュティが現れたせいで中断してしまった、麦酒
を飲む続きを再開する。空を見上げるが短時間で何が変わるわけでもない。
そこで店内から戻ってきたリュティがまた向かいに座る。無言で私の前に麦酒が
入ったグラスを置くと、自分にも用意した麦酒のグラスに口を付けた。
「やっぱり、美味しくないわ。」
一口飲むとリュティは少しだけ顔を顰めてそう言った。そう言えば麦酒を飲んだ
のは初めて見た。いや、お酒を飲んだところか。
「何となくマリノに行く気がして、私もたまには飲んでみようかと思ったのよ。」
ここで私の問いは解消された、本当かどうかは分からないがどうでもいい。
「ふーん。」
意識したわけではなかったが、私の返事は素っ気なかった。疲れているのだろう
か、分からない。リュティは気にした風もなく、何時もの微笑で麦酒の続きを口
にした。私もグラスに残った麦酒に口を付け、飲み干すとリュティが置いたグラ
スを掴む。
「貰っていいんでしょ?」
「どうぞ。」
リュティの返事を聞くと私は生ハムを口にして、新しいグラスから麦酒を口に流
す。
「生きて戻るんでしょう?」
さして会話もない現状で、話題を作るかの様にリュティが言った。何処か憂いの
ある眼差しを私に向けて。
「当然。弁護士問題も一先ず落ち着いたし。これからだもの。」
「そうよね。」
リュティはそう言うが憂いは消えていない様だった。
夕方ハミニス弁護士から文書通信があり、お店の弁護を引き受けるとの回答だっ
た。但し、優先度は低めらしい。期日が短いものや緊急のもの、お得意様などの
依頼は優先したいとの事だったが、弁護士も商売だからしょうがない。むしろは
っきり言ってくれて良かったわ、そういう事情が在るにも関わらず、対応を先延
ばしにされたりするよりは。それでも何かあった場合に頼れる弁護士の伝手が出
来たのは嬉しい事よね。
「弁護士が決まって、憂いが一つ消えたかしら。」
「まあね。」
とは言ったが、実際のところは複雑な思いも多少ある。決まった数日後に死にま
したなんて事になったら、申し訳ないと思ってしまっているから。
司法裁院、しかも高査官からの依頼は前回苦汁を舐めさせれたから、今回もいい
予感はしない。ウェレスの存在が胸糞悪いのもそうだが、ハドニクスみたいな手
練れだと私の身も危ない。こんなのばかりだと思いたくは無いけれど、連続で命
の危険に晒されるのであれば次からは考慮しないとならないわね。生きていたら
の話しだけれど。
「不安?」
私の思いを察した様にリュティが聞いてくる。
「そりゃ何時だって不安よ。」
私は苦笑して返す。司法裁院の仕事もそうだけど、お店の事だって不安ばかりだ。
持てた時は嬉しさが大きかったけれど。当時の期待と不安は漠然としたものだっ
たけれど、その不安は時間が経つと明確にになり押し掛かって来る。死んだとき、
資金不足になったとき、この前の裁判院からの支払い命令もそうだ。
「あまり思い詰めない方がいいわよ。人は何時か思いの重責に潰されるわ。」
私に向けられたリュティの瞳は、私ではなく何処か遠くにその憂いを向けている
様だった。私とそんなに変わらない見た目のリュティは、一体何を観て来たのだ
ろうか。今の私にそれを知る事は叶わない。
「大丈夫。これでも楽観的な方だと思ってるのよ。」
「それならいいのだけど。」
私が苦笑して言うと、何処か遠くを観ていたリュティの瞳は私を映して微笑んだ。
「さて、そろそろ準備しないと。」
私はそう言うと残りの麦酒を飲み干した。
「明日は何時も通りの時間にお店に来ればいいのよね。」
「ええ。」
一度話しているが、リュティが再確認するように言ったので私もいよいよかと思
い頷いた。確認が終わると、お互い空いたグラスを所定の場所に片付けてマリノ
を出る。空をまた見上げるが、相も変わらず景色に変化は無い。
(私の未来も変わらず在ったらいいのだけど。)
そう思うが、この空に輝くような星は存在せず、ただ闇だけの世界でしょうね。
私が歩む道は、とうの昔からそうだったのだから。
(先ずはニーザメルベアホテルの情報よね。)
マリノから戻った私は、早速明日の準備を始めた。今日はもう怠いから明日の朝
やればいいかとは思わないように努力する。出掛けに慌てるのは好きじゃない。
好きな人は居ないだろうけれど、結局そうなってしまう人も少なからずいるでし
ょう。ただ、私はそうならないようにしているつもり。
小型端末で調べた情報を端末に保存する。と言っても一般公開されている情報な
ど高が知れている。利用可能な施設、店舗等に各階の客室の部屋番号程度だ。そ
の中でも私が気になるのはレストランだ。きっと美味しいのだろう。高そうだけ
ど。
二十階建てとかなり大きな建物だけど、最上階は一部屋しかない、どんな人物が
泊まるのだろうかと考えたが直ぐに止めた。どうせ国賓とかなのよね。ただ金額
は二百万からと記載が在ることに驚いた、つまり一般客でも利用できると言う事
だろうか。阿呆くさ。
その下二階分は中央で区切られ、一部屋ずつ。こちらも豪勢なのだろう。
(ウェレスが泊まるとしたらこのあたりだろうか。)
護衛や付き人等が居そうな事を考えれば、そうなのかなって思う。私が予約した
のは十二階以下の一般客用の部屋だが、上の階に散歩で行けるだろうか。様子く
らいは見ておきたい。
しかし十三階以上の良い部屋なんか一般客用とか認めないわ、庶民が泊まれる金
額じゃないもの。
(せめて泊まる部屋がわかったらなぁ。)
あ、顔は判ってるのだから、ホテルに来た時に乗る昇降機と階数を確認すればい
いのか。よし、それで行こう。浮かんだ疑問を自己解決する、名案とは言えない
が、有効な手段ではあるはず。
呆と考えている場合じゃなかった、着替えとか用意しないと。私はそう思い旅行
鞄に衣類等を詰め込む。
(後は仕事用ね。)
既に呪紋式を記述済みの薬莢を用意していると、ある薬莢で暗澹とした気分にな
る。それはラウマカーラ教国の人間を何万と焼き殺し、ハドニクスを屋敷ごと全
焼させた呪紋式が記述された薬莢だ。リンハイアが齎した産物とは考えない、私
自身が手にして記述して使用したのだから。
しかし、いざという時の為とそれに縋っている自分がいて、そんな自分に嫌気が
差す。それでも私は前に進みたいという思いに葛藤し、辟易する。ついでに言え
ば、リュティから教わった呪紋式だって抵抗は拭えない。
結局過去に囚われて続けて後ろ向きな事ばかりだ。前に進むことを理由に向き合
う事から逃げている。そして囚われる内容は今の生き方をしている以上、増えつ
づけるだろう。でも、私は向き合いたくなんかない。きっと耐えらない、逃げ出
したい、受け止められない、嫌だ。自分勝手過ぎるのは分かってるけど、心が疲
れるのは嫌だ。
荷物の準備をしていた私は嫌な思考で手が止まったままの状態で、何時の間にか
眠りに落ちていた。
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