女神ノ穢レ

紅雪

文字の大きさ
2 / 72
一章 友ニ捧ぐ塵灰ノ光

1.変兆

しおりを挟む
「何故ついてくるの。」
キツイ言葉と現実を突き付けたはず。
にもかかわらず、なぜついてくるのか理解できない。
そうか、憎むべき相手。
私だったら逃がさないから、そういう事か。
「独りじゃなにもできない。」
「死に物狂いになればできるわよ。」
そんなのは、ただの言い訳。
「私を殺そうと思っているなら無駄よ。あなたじゃ無理。」
「そんな事、思ってない。姉ちゃんのせいで独りになったんだから置いてくなよ。」
無理だという事はわかっているのね。

逞しいと言えば逞しいのかな。
殺された両親、無くなった帰る場所、そこで行われた狂気。
それを知ってなお、今の態度をしているのだから。
それとも、そうしないと自分を保てないからか。
「私が原因を作ったとしても、そこまでする義理もないよ。」
「助けろって言ってんだから助けろよ!」
なに、逆ギレ?
「はぁ・・・」
少年の態度に呆れ、溜息が漏れた。
放っておいても死ぬまでついて来そうな雰囲気。
面倒。

仕方ない。
けど、この状態で街に連れて行くのはイヤ。
「分かったわ。」
諦めて私がそう言うと、少年はその場で膝から崩れた。
気を張って、踏ん張って、自分を保っていたのでしょうね。
「に、逃げんなよ!」
「あ、その手があったね。」
「おい!」
涙目になりながら突っ込んでる・・・
今の少年からなら簡単に逃げられるけど、一度決めた以上は助ける。
他人事なら興味無いしどうでもいい。
でも、関わってしまったら、そんな生き方はしたくない。

「とりあえず、汚いから連れていけない。」
「姉ちゃんのせいだろ。」
私の所為ではない。
と、言ったところで納得はしないよね。
「沢で綺麗にしてから下りようか。」
私が言うと、少年は安堵したようにゆっくり頷いた。
幸い、沢までそんなに遠くない。
というか、何かあった時のためにそんなに離れずに歩いていたから。
「そんなに遠くないから、頑張って歩こうか。」
「分かった。」
少年は渋々立ち上がると、ゆっくりと歩き始める。
張っていた糸が切れたからか、足に力が入ってないように見えた。


(ここで良いか。割と平坦で休みやすそう。)
私は場所を決めると、少年に向かって沢を指差す。
「疲れた・・・全然近くないじゃないか・・・」
少年は恨めしそうな目を向けて来るが知った事じゃない。
「全部脱いで、身体ごと洗ってきて。私は火を起こすから。」
「え、着たままでいいじゃねぇか。」
「着たままだと汚れ落ちにくいし、乾かす必要もあるでしょ。」
「わかったよ。見るなよ!」
少年は恥ずかしそうに言うと、沢へ小走りに近付いて服を脱ぎ始めた。
見るなもなにも、服が乾くまで裸よね。

集めた小枝や落ち葉に指先を向けて軽く動かす。
「火走。」
小枝の下を数本の火が駆け巡るように蠢く。
(いつ見ても気持ち悪い・・・)
そうは思っても、焚火の火付けには丁度いいから使うしかない。
「すげぇ、それが魔法か?」
「・・・」
葉っぱを股間に当てた少年に目を向けたら顔を逸らした。
それが普通の人間の反応なのね。
私には、わからない。
「そうよ、珍しいものでもないでしょ。」
「俺の村に魔法使いは居なかった。」
「そう。」

「洗ったなら木の枝にでも掛けて火の近くに置いて。」
「うん・・・」
どうやら全裸が気に食わないらしい。
片手で何とかしようとしている。
「時間の無駄だから両手を使って。」
「なっ・・・」
少年は何かを言おうとしたが、背中を向けて服を枝にかけ始めた。
終わった後もこちらに向き直ろうとはしない。
「姉ちゃんは気にしなくても、俺は気にするんだよ。」
「そう。別に何も言ってないじゃない。」
裸を見られるのが嫌なのね。
私は見るのも見られるのも、何も感じない。

「それより、姉ちゃんって止めて。私はあなたの姉じゃないわ。」
他意があったわけじゃないけど、少年は私の言葉に不服そうな目を向ける。
「そういう意味で呼んでるんじゃない。イヤなら名前を教えろよ。」
姉以外でも姉ちゃんと呼ぶ風習があるって事ね。
なるほど。
それなら良いけど。
「アリアーラン・メフェウス。アリアでいいよ。」
メウェウスはお母さんの名前だ。
ユリアード・メフェウス。
父の名は知らない。
嘘。
考えたくないし、思い出したくもない。
本当は間に穢れの烙印が入るけど、勝手に入れられたそれを受け入れる気は無い。
「俺は、ガリウ。」
聞いてない。
どうせ街まで連れて行ったらそれまでだから興味ないし。
それに、私の道程にこれ以上関わらせたくはないから。

「寒い・・・」
暫く沈黙が流れた後、ガリウが口を開いた。
私は小枝を足して火力を上げる。
「いや、服が乾くまで代わりに貸してくれるとかないのかよ。」
何故私が貸さなければならないの。
不服そうな目を向けて来るガリウに疑問が浮かぶ。
「私の物は私以外に触れさせたくないわ。」
ガリウは無関係だとわかっている。
だけど、あの村の住人であった事に変わりはない。
何処かでそう思っているから嫌悪感があるのだろう。
「ごめん、話し聞いたのに・・・」
私の境遇に気を遣ったの?
そうじゃなくても、私は気にしはしない。
どっちにしろ、誰かに触れられる事自体が嫌なのよね。

そう、他人なんて嫌悪と憎悪の象徴でしかなかった。
お母さんが居なければ、人間すべてを殺しに動いたかもしれない。
もちろん、可能とは思ってない。
必ずどこかで殺されるのもわかっている。
多勢に無勢なのがわからないほど馬鹿じゃない。
もっとも、その時にそう思える理性があればの話し。

もしも、の事を考えても仕方ない。
お母さんが居なければ、ガリウとこうして接している事もなかったと思う。
私はそんな事を考えながら、ガリウに上着を掛けた。
「えっ!?」
ガリウは驚きの声を上げると勢いよく立ち上がって振り向く。
予想もしていなかった事なのでしょうね。
私も自分の行動が予想外だもの。
しかし、丸出し。
「イヤなんじゃなかったのかよ。」
「あげる。それなら問題無いわ。」
返って来る事を考えるから嫌なのよ。
無いものだと割り切れば、大した問題ではないと気付いた。
「あったかい・・・」
ガリウは表情を緩めながら上着、両手を使い胸の前で掴んでいた。
上着じゃ下は隠れないんだけど。

あれが、嬉しいという感情なのだろうか。
表情の緩んだガリウを見て思った。
想像は付くが、私にはわからない。
いつか知れる時は来るのだろうか・・・
突然顔を赤らめ背中を向けたガリウが視界に入ったけど、
気にせず焚火に枝を追加する。

「お腹空いた。」
「注文が多いわ。」
少なくとも、丸1日は何も口にしていない。
水は沢があるから問題ないけど、昼には下山している予定だったから何も持って来ていない。
本来なら下山後、夜通し歩けば街には着ける距離だったから。
「アリアはお腹空かないのかよ。」
そもそも育った環境が違うのよ。
「たかだか数日食わない程度、昔の事に比べれば大した問題・・・
ごめん、イヤな話しだったね。」
「大丈夫。」
ガリウはそう言った後、口を開かなかった。
何が大丈夫なのか。
私の話しなのか、空腹なのか判別出来ない。
「もう寝たら。夜明けには出発して、なるべく早く街に行こう。」
「うん、わかった。」

ガリウは背中をこちらに向けたまま、
膝を抱えて眠ってしまったみたい。
街までの距離は知らないんだろうな。
今はそんな現実より、体力を温存する方が優先ね。

ガリウはよくいままで起きていられたと思う。
予定外の出来事は起きてしまったけど、
ガリウを街に置いたらそれで終わり。
私は次の復讐に向かうだけ。




ウフェンリア地方にある小国、メイオーリア王国の辺境。
山間部にあるデニエラの村は一晩で壊滅した。
一人の少女によって。

定期的に村に来ていた商隊が訪れるまで、その存亡が知られる事は無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...