女神ノ穢レ

紅雪

文字の大きさ
3 / 72
一章 友ニ捧ぐ塵灰ノ光

2.食事

しおりを挟む
山を下り、街道に出る前に麓で焚火の準備を始めた。
夜明けとともにガリウを叩き起こし、
眠そうな状態でも無理矢理歩かせた。
お陰で、陽が中天に来る前には現状に至れた。
「オニ・・・」
またあちこち傷が増えたガリウが呟く。
「ガリウに合わせていたらいつ街に辿り着くかわからない。」
ガリウの方は見ずに、火を起こす。
「身体は重いし怠いし、あちこち痛むし、容赦ねぇ・・・」
「文句があるなら食べ物あげないわよ。」
「えっ!?」
私の言葉に、ガリウは変な顔をした。
多分、驚きと歓喜な気はする。
器用。
知識から判別出来る事もあるけど、私には出来ない。
どちらも持った事が無いから。
「なんで昨日出してくれなかったんだよ。」
「文句?」
「いえ、何でもないです、食べさせてください!」
扱いは覚えた。
ちょろい。
「ガリウが寝ている間に、野兎が居たから捕まえた。」
「それって、寝てないんじゃ・・・」

もともと街に着くまでは寝るつもりは無かった。
体質なのか、数日は寝ないでも活動できる。
「大丈夫よ。」
本当の事を言ったのだけど、ガリウは気まずそうにしている。
私は気にせずに鞄から丁寧に包んだ兎肉を取り出すと、
枝に刺して焚火の近くに立てた。
「・・・」
それを見ていたガリウは怪訝な顔をした。
「どうしたの?」
「いや、てっきりそのままの形が出て来るんじゃないかと思ってた。」
「そのまま入れたら鞄が汚れるもの。」
野生の獣はすぐに血抜きと内臓を取り出す必要がある。
時間が経つとそれらが肉にも浸透して臭くなってしまうから。
「そ、そうだよな。」
ガリウは頭を掻きながら顔を逸らした。
よくわからない。

私は兎肉をすべて並べると、鞄から塩の塊を出す。
短刀で削りながら兎肉に振りかけていく。
「塩しかないの、我慢して。」
「あ、うん。」
その後私もガリウも何も喋らず、ただ焼けていく兎肉を眺めていた。
時折燃える枝をかき混ぜたりする程度。
「俺、ちょっと遠出しすぎて道に迷ってたんだ。」
だが、沈黙に耐えられなくなったのかガリウが口を開く。
「そう。」
あの時間に一人だけ村に居なかった理由かな。
言われてみれば何故、なのかもしれない。
ただ、私にはそれすら興味がないから疑問に思わなかったのかも。
「運が良いのか悪いのか・・・」
言いながらガリウは項垂れた。
思うところはいろいろあるのかもしないけど、
私にはわからないしどうする事も出来ない。

「焼けたわよ。」
項垂れたままでいるガリウに食べて良いと促す。
「あぁ、うん・・・」
顔を上げずに返事をした。
やった私が思うのもなんだけど、これだけの環境変化があったんだ。
色んな思いや感情があっても当然よね。
「よし!食うぞ。」
とか思っていたら、突然立ち上がった大きな声を出した。
本当に意味がわからない。
「あつっ!・・・」
ガリウは手近な肉を取ると、そのまま口に運んだ。
熱いに決まっている。
「これ、凄いうまいよ。」
「そう、良かった。」
嬉しいのかよくわからない顔をしていたけど、
流れる涙は今の現状に対しての感情だろうという事だけは想像出来た。
私は見ないふりをしながら、自分の分の肉を口に運ぶ。


「先ず街道に出るよ。」
火消しをした後、本当に消えているか再度確認して言う。
「おう。」
食べ物を口にしたからなのか、山を下りた時より元気そうに見えた。
「ところで、街ってどこにあるんだ?」
周りを見渡しながらガリウが疑問を漏らす。
見ても見えないわよ。
やっぱり予想通り、街までの距離は知らないのね。
「歩き続けて明日の朝かな。」
「うげ、そんな遠いのかよ。」
「街道の途中で野宿する必要があるわね。」
「それって、俺が居るからか?アリアなら休まずに行けるんだろ?」
察しが良いのね。
「そうだよ。でもそれ、私が一人だったらの場合だからね。」
「うん、ありがとう。」
素直に言うガリウに対して複雑な気持ちになる。
私は両親の仇以外の何者でもない。
その私に対して、どうして今の態度でいられるのだろう。
私だったら相手を殺すもの。
ガリウの村を壊滅させたように。

「あっ!」
歩き始めてすぐにガリウが声を上げた。
うるさい。
「何よ?」
「街に着くまで飯は?」
食事ってそこまで執着する事なの?
さっき食べたばかりなのに。
「必要なの?」
「当たり前だろ。朝昼晩食うのが普通だ。」
私がお世話になった人たちも、そんな事を言っていた気がする。
ただ、その時は今ほどの余裕は無かった。
ただただ憎悪だけしか無かったから。
「途中に川があるから、魚くらいいるんじゃないかな。」
「よし、今晩は焼き魚だな。」
何が楽しいのかわからないが、ガリウは楽しそうに拳を握って笑みを浮かべた。
それならそれでいい。
今は。
どうしてその態度を出来るのか気にはなったけど、
蒸し返してまで確認する事じゃない。

それを確認したからといって、私の思いは変わらないのだから・・・




気配は三人。
気にする数じゃない。
ただ、短刀は荷物の中なのよね。

夜、川縁で野宿をする事にした。
丁度良いので川で身体を洗っていたらこの事態。
「アリア!逃げぐっ・・・」
「うるせぇぞクソガキ!」
声を上げたガリウが何者かに蹴り飛ばされた。
馬鹿。
あと二人は既に私の目の前に迫っている。
「金目の物はねぇぞ。」
ガリウを蹴り飛ばした奴が声を上げた。
私の荷物・・・汚れた。

「じゃぁガキは殺して、この女で遊んで終わりだな。」
一人が私に短剣を向けて言う。
あ、短剣。
あれを使えば私のは汚れないよね。
野盗の類だろうし、加減も必要無い。
「おい、この女・・・」
「気味悪いな。」
私の身体を見て勝手な事を言う。
でも、それが普通の反応。
口に出す出さないはあれ、みんな同じ反応。
うんざり。
好きでなったんじゃないのに!!

「まだ押さえてねぇのかよ。」
ガリウを蹴り飛ばした奴が合流して目の前に三人。
丁度いい。
「なんだ?・・・」
私がゆっくりと近付くと、先頭にいた野盗がたじろぐ。
「相手にされねぇから自分から来たんじゃねぇの?」
その後ろにいる奴が下卑た笑みを浮かべながら言った。

私は野盗の目の前まで近付くと、短剣を持っている手首を返して奪い、
姿勢を低くして足首を斬り付ける。
驚きから怒りに表情を変えた二人目の突きを低い姿勢のまま躱し、
同じく足首を斬り付ける。
「死ね!」
そこを狙って三人目が短剣を振り下ろして来た。
私は仰け反りながら短剣を持った手首を斬り飛ばし、すぐさま腰を落として足首を斬り付ける。
三人とも地面を転がりながら呻き、憤怒の表情を私に向けていた。
どうでもいい。
だけど、これでまともに歩く事も出来ないよね。

私は右手の人差し指を野盗達に向けて動かす。
殺すのは簡単だけど、苦しんで死ね。
「緋雨。」
「うがぁぁぁっ!!」
生み出された幾つもの小さな炎の槍が、野盗達に刺さっていくと苦悶の絶叫を上げる。
傷口を焼かれる苦しみをお前たちも味わってみろ。
苦痛の中、三人とも這って川の中に飛び込んだ。
・・・
場所が悪かったわ。

腱を断ったからどのみ生き延びられないだろうけど。
冷静に戻った私は野盗に止めを刺して川から引き摺り上げた。
放置すると川が汚れるもの。

「アリア、大丈夫か?」
事が終わるとガリウが恐る恐る声をかけてくる。
たぶん、私が怖いのよね。
そういうのはわかる。
「私は別に。ガリウの方が痛そうよ。」
口から血が垂れている。顔を蹴られて口の中が切れたのかな。
「たいした事ねぇよ。」
「そう。」
本人がそう言うなら、それでいい。
「少し上流に移動しよ。ここは汚れちゃったから。」
「あ、あぁ。」
野盗の死体を見る事も無く言って、私は荷物を肩に担いだ。
「って、服着ろよ!」
「面倒。」
「そういう問題じゃねぇだろ。」
まだ水浴びの途中だもの。着て脱いで着てとかイヤ。
「それより、どうして逃げろなんて言ったの?」
「知らねぇ、気付いたら言ってただけだ。」
「ふぅん。」
少し考えてガリウが口にした事は、本当なんだろう。
でも、それが出来る下地があるって事よね。
「たぶん、仇のアリアが死んだら、それこそ俺はどうしたらいいかわからなくなる。」
「そうか。」

根は良い子なのかな。
私の存在が少なからずガリウの人生に影響は与えてしまう。
もう出会ったのだからそれは変えられない。
でもそれは誰でも同じ。
後は、本人がどう生きるかよね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...