女神ノ穢レ

紅雪

文字の大きさ
20 / 72
二章 姉妹ニ捧グ静寂ノ黒

19.姉妹

しおりを挟む
ゲールデリク城はそれほど大きいお城ではない。
エルメラのお城と比べてしまうと遥かに小さい。
エルメラのお城がおかしいのかもしれないけれど。

門を抜ければ左右へ続く通路と、二階へ続く階段があるだけだった。
夜明けが来たばかりだからか、城内に人は見当たらない。
「大きい部屋ってある?」
「え?はい、ありますが。ゼラウスの所に向かうのではないのですか?」
馬鹿正直に直接向かうつもりはない。
セアクトラの領主館とは違って深夜でもないし、人数は把握してないけれど多いでしょうね。
「このお城にはどれくらいの人が住んでる?」
「大きい城ではありませんので、五十~六十くらいかと思います。遠征等で出払うと半分くらいになる事もありますが、私は離れていたので現状はわかりません。」
多いわね。
その人数が雪崩れ込んで来たら捌ききれない可能性が高い。
なりふり構わなければ大丈夫だと思うけど。
「とりあえず、その部屋に案内して。」

「ここが食堂になります。昔は会議室だったみたいですが。」
なるほど。
横長の部屋で、長いテーブルの両側に幾つもの椅子が並んでいる。
経年劣化か、管理してないのか。
エルメラのお城にもあるが、此処はお世辞にも綺麗とは言えない状態。
「リリエル、ここにアレを仕掛けるわよ。」
「人が居ないのに?」
「そのうち使われるでしょ。それより、中の人間を分散させる陽動としてね。」
それもあるけど、今回は開幕の合図が主な目的。
「なる。大きさは?」
すぐに理解したリリエルが、右手を開いたり握ったりして笑みを浮かべる。
「テーブルの中央に人の半分くらいの大きさ。この前より厚めにしてね。」
「うん。」
移動して私が陽炎を出すと、落ちる前にリリエルが氷で包み込んだ。
「此処はこれでいいわ。次に行きましょ。宿直の部屋みたいのはある?」
無言で私たちの行動を見ていたユルナに話しかけると、はっとして私を見る。
ぼーっとしていた様。
「はい、あります。」

ユルナの案内で部屋を出ると、入り口の方に戻る。
「先程の氷はなんでしょう?炎が消えないのが不思議でした。」
「飾りみたいなものよ。不思議な置物でしょ?」
「はい、そうですね。」
説明する必要もないし、面倒だったので適当に答えておく。
腑に落ちなさそうではあったが、ユルナはそれ以上聞いてはこなかった。

「ここから先の各部屋が団員の寝所になっています。」
お城の入り口を通り過ぎ、反対側の通路に入るとユルナが説明する。
なるほど。
言われて気付いたけど、大人数に個室を割り当てるほど余裕は無さそうだものね。
一番手前の部屋を開けると、十程度の寝台があり、人が寝ている。
すべて埋まっているわけではなかったが。
「リリエル、入り口をアレで塞ぐわよ。」
「あ、良いねそれ!」

部屋は三部屋あり、どの部屋も同じ様な構造になっていた。
各部屋の扉を開けて、塞ぐように陽炎入りの氷を配置していく。
「これでいいわね。二階は?」
「二階はゼラウスと、近しい一部の団員の私室だけです。」
それなら、後は直接対決だけでいこうかな。
「それじゃ、ゼラウスの所に案内お願い。」
「はい、わかりました。先程の氷は閉じ込めたのですか?」
歩きながらユルナが聞いてくる。
「そうよ。揉め事が起きている時に来られても困るでしょ?」
「確かにその通りですね。エルナの事しか考えていませんでした。」
階段を上りながらユルナは感心した様に言った。
それが普通でしょうね。
憎んだのなら、その対象しか目に入らなくなるもの。

「あたしの出番は終わり?」
「いえ、後はゼラウスの部屋の前にも設置しておきましょ。」
「わかった。」
階段を上った後は左に進み、大きな観音開きの扉の前でユルナが止まった。
「ここが、以前玉座があった部屋です。」
玉座、ねぇ。
王様気取り?
「寝室じゃないの?」
「ゼラウスは玉座で寝ます。」
なにそれ。
身体は痛くならないのかしら、どうでもいいけど。
ユルナが言っていた自己顕示欲が強い。
いくらそうだったとしても、椅子で寝るとか考えられないわね。
「あたしは無理。」
「私もイヤよ。」
言いながら氷を設置する。
「準備できたわ。」
ユルナに伝えると、頷いたユルナが扉に手をかけて開く。

中は大きいとは言えないが、それなりの広さだ。
奥の中央、数段高いところに玉座があり、そこに男が座っている。
頬杖をついて、鋭い眼光をこちらに向けて嗤っていた。
起きてる・・・

「まさか戻ってくるとはな。当分は戻らないとエルナから聞いていたぞ?」
ユルナが先頭を歩き近付くと、低い声で静かに言った。
「私は街に居ただけよ。いつでも戻れるわ。それに、自分の家だもの、出入りは自由でしょ?それともいちいち兄さんの許可が必要なの?」
「はは、ユルナの言う通りだ。好きにすればいい。」
ゼラウスは笑みを浮かべて頷いた。
その笑みは、家族に向けたものだからか嫌な感じはしない。
「で、その二人は?」
「友人。招待したのよ。私は出入り自由だったとしても、知らない人は兄さんに挨拶した方がいいと思って。」
だが、ユルナの言葉はゼラウスに警戒を与えたのか険しい顔になった。
「嘘はよくないなユルナ。団員でもない奴が勝手に出入りはできない。門番をどうした?お前の友人という理由だけで通す筈はない。」
確かにその通りね。
もっとも、雑談しにきたわけじゃないからいいけど。
「眠ってもらった・・・」
「ユルナ!!誰の許可を得て城に入ったのよ!」

私の言葉は、玉座の裏の垂幕から飛び出してきた女によって遮られた。
おそらくあれがエルナなのでしょうね。
ユルナと似ている気はするが、鬼のような形相のため判別できない。
「ゼラウスも言っていたわ。自分の家の出入りに許可は要らないって。」
「私は許可してないわよ!」
興奮して会話になりそうないわね。
関係ないけど。
「エルナ、どういう事だ?」
私たちはさておき、ゼラウスの疑問はエルナに向いた。不審者より身内の揉め事の方が重要なのね。
「どうもこうも、ユルナが十七になったらユルナにも手を出すでしょう?だから追い出したのよ。」
潔いほどはっきり言ったわね。
「そ、そんな事はしない。エルナは既に俺の子供を身籠ってくれているからな。」
動揺している。
嘘じゃん。
だけど、いつまでもこんな茶番に付き合ってやる義理もない。

「そんな話しはどうでもいいから、私の質問に答えて欲しいのだけど。」
「誰よあんた!?ユルナと連んでゼラウスを誘惑に来たの!」
お前には聞いてない。
面倒だから黙っててくれないかな。
そう思ってユルナに目を向ける。
「あれは私が相手をします。」
頷いたユルナが言った。

「で、お前はなんだ?」
ユルナがエルナに近付いていった事で、エルナの意識がユルナに向いた。
それを良いことにゼラウスが私に鋭い視線を向ける。
「十七年前、セアクトラ領主の子供を攫ったでしょ。司祭イギールと結託して。」
私の問いにゼラウスは立ち上がると、椅子の横のに設えてある低い棚に置いてあった剣を取る。
「どこで聞いたか知らんが、部外者でそれを知っている奴を生かしておくわけにはいかない。」
話しが早くて助かる。
「別に攫っているのは他にもいるでしょう。」
「俺に取り入ろうとか、金を要求しよう等とは思わないことだ。」
あ、そっちの話しね。
あくまで自分の地位と立場を護る方か。
「・・・」
ゼラウスの態度がわかった私は顔の布あてを取った。
ゼラウスがそれを無言で見てくる。
「当時、攫われた領主の娘が私よ。私がこんな見た目になった理由、わかるでしょ?」
「ふむ。つまり死に損ないが復讐にでも来たという事か。」
特に動揺した様子も無く、ゼラウスは言いながら剣をゆっくりと抜いた。





「姉さん。夕べ、監視を使って私に酷い事をしたよね?」
ユルナはエルナに近付きながら言った。
「そうよ。今まで通り独りで生きていれば良かったのに、外部の人間を家に呼び込んで良からぬ事を企んでいたんでしょ!!」
エルナは背中に隠し持っていた短剣で、近付いて来たユルナに斬りかかった。
予想していたユルナは半身を逸らして避ける。
「ゼラウスは私のものよ、あんたには渡さない!」
エルナは追うように短剣を横に振ろうとしたが、その手をユルナが掴んで短剣を奪い取る。
「あんな男に興味ないわよ、私は外で自由に暮らしたいって言ったでしょうが!」
「あぁぁぁっ!」
ユルナに左太腿を短剣で刺され、エルナは絶叫を上げる。
「ぐぅっ!!」
「監視だけじゃなく、あの辺に住む男ども全員に犯させてやる!」
エルナは右手の中指をユルナの左目に突き入れ、そのまま顔を掴んで押し倒した。
「殺さないであげるわ!」
押し倒した後、馬乗りになって左手でユルナの首を掴んで力を籠める。
「お前の身体が使いものにならなくなるまぎゃぁっっ!・・・」
「その前に、私が姉さんを殺すわ!」
足から短剣を抜いたユルナは、エルナの脇腹に短剣を刺していた。
エルナの力が抜けた隙をついて、ユルナはエルナの腹部を蹴り引き剝がす。
「あぁ、ぁぁ・・・ぁぁあああっっ!!」
「あの男の子供と一緒に私の前から消えて!」
蹴られたお腹を押さえながら悲痛な叫びを上げたエルナに、ユルナは短剣を振り被った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...