女神ノ穢レ

紅雪

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五章 在処ニ捧グ這生ノ炎

43.目的

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「あ、お客さん?」
数日会ってないだけのエルメラを見ると、嬉しくなって抱き着いた。
ふと、視界に見覚えのない女性が映ったので慌てて離れると、エルメラに確認する。
「うむ。」
「どうも、フィナメルシェです。」
背が高くてかっこいい。
「あ、アリアーランです。」
丁寧にお辞儀をするので、私も釣られて挨拶をする。
「ごめんなさい、来客中とは思わず。」
「いえ、気にしなくて大丈夫ですよ。丁度帰るところでしたから。」
笑顔で女性は言うと、エルメラに向き直る。

「では、またお邪魔しますね。例の件は、次に来た時にでも回答をもらえたら。」
「わかった。礼としてじゃが、友人としてならば次回より取次無しに出入り出来るよう取り計らおう。」
「願ってもない申し出、痛み入ります。」
そんな会話をしているフィナメルシェは、やはりかっこいい。
言葉遣い、仕草に見とれてしまう。
「アリア、すまぬが友人を見送ってくる。話しはそれからじゃ。」
「うん、わかった。」
「またね。」
扉に向かって歩くエルメラの後ろに続いて、フィナメルシェは続く時にそう言って笑顔で手を振ってきた。
私も思わず振ってしまった。

ってか、誰?
かっこいいけど私、なんで手を振られたの?



「待たせたの。」
部屋に戻ってきたエルメラが言いながら椅子に移動する。
「さっきの誰?」
「それは後じゃ。まずは状況の把握からじゃな、グエンも来たことだし。」
入り口横の壁に凭れ掛かって立ちっぱなしのグエンにエルメラは目を向けた。
「久しいの。」
「だな。俺を呼んだって事は、動き出すでいいんだな?」
「うむ。聞いているやもしれぬが、アリアは未だ知らぬ。それを含め、全員で意識を合わせたいのじゃ。」
「了解。」
あ、道中そんな話しもしたよね。

「ところで、マリアとリリエルは?」
そう言えば居ないなと思って聞いてみる。
「今朝からずっとウリカのところじゃ。」
「そうだ!ウリカ!」
私は慌てて椅子から立ち上がる。
「待つのじゃ!」
部屋に向かおうとしたら、エルメラに大きな声で止められる。
「お主が行ったところで何も出来まい。邪魔にしかならんと思うなら出てくるまで待つがよい。」
「でも・・・」
「願ったから、信じたから、お主はあの日託したのじゃろう?二人もそれを受け取ったから行動しておるのじゃ。」
そうか。
そうだよね。
私が行ったところで、何も出来ない。
「うん、信じて待つ。」
「うむ。」

「それよりまず、お主は湯浴みと着替えを優先した方がよいのではないか?」
あ。
自分の姿を見て思い出した。
服もグエンのものを着たままだし。
「うん、そうする。」
「お主も疲れたであろう?道中アリアも世話になったようだしのぅ。」
「あぁ、本当に疲れた。」
と言ってグエンは私に冷めた目を向ける。
「なに?私の相手で疲れたみたいじゃない。」
「そう言ったつもりだが?」
む、なんか納得いかない。
「助けてくれた事には感謝してる。でもそんな世話になってないでしょ。」
「服を貸してやってるだろうが。」
「早う行け!」
エルメラに止められる。
仕方がないので、渋々部屋を出ようとする。

「変わってるよな、あいつ。」
「お主が言えた立場か・・・」
私と入れ替わりでエルメラに近付いたグエンが、エルメラに言う。
「裸見たくせに。」
「な!お前なぁ!」
「ほう、詳しく聞きたいものじゃな。」
エルメラが目を細めグエンの肩を掴んだのを横目に、私は部屋から出た。

「おい!説明してけよ!」
背後から聞こえるグエンの叫びに可笑しくなりながら。





「アリアちゃん!心配したんだからね!」
部屋に戻ると、マリアとリリエルが居た。
気付いたリリエルが駆け寄って来て、抱き着いてくる。
火傷にくる・・・
「必ず戻るって言ったい、いひゃい・・・」
「どうして怪我が増えているのかしらぁ?」
リリエルに続き近付いて来たマリアが、乾いた笑みで頬を抓ってくる。
「つ、通路が狭くて熱気が・・・」
目を逸らして言い訳をしてみる。

「ほう、余の城の通路が狭いと。領を取り戻しても狭い通路の城には住みたくないと。」
離れたところからエルメラが冷めた目を向けて来る。
小声で言ったはずなのに!
「そんな事は言ってないわ。」
「まぁいいわ。あまり期待はしてなかったし。」
マリアも溜息を吐きながら戻っていく。
えぇ・・・
「私、居ない方がいいの?」
「そんなわけないでしょ!」
いやだって。
リリエルがそう言ってくれるのは嬉しいけど。
「そうじゃ。余のために働け。」
うん。
そうよね。
知ってた。

「あ!ウリカは?」
私の事より、二人が居るって事はウリカの状態を聞ける。
「とりあえず左腕は落ち着いているから、綺麗になると思うわ。明日以降、順番に魔法をかけてみる。」
「良かった。」
笑みを浮かべて言うマリアに、安堵が込み上げてくる。
同時に涙が浮かんで来た。
「アリアちゃんが送り出してくれたおかげで、力も温存できていたから。」
「息切れしてたのエルだけだよ。」
いや、それは天馬を走らせたからでしょ。
「なんじゃリリエル。お主も住みたくないようじゃな。」
「え、いや・・・」
矛先がリリエルに向いた。
目を逸らす。

「んな事より、今後の話しはまだかよ。」
椅子の背凭れに背を預け、足を組んで聞いていたグエンが痺れを切らし口を開いた。
「そうじゃな。今後の方針、アリアには余の目的を含め話しをする必要がある。もうすぐ夕食の時間じゃ、その時に話そう。」
「んじゃ、それまでは自由にさせてもらうわ。」
何処で何をするのかわからないけど、グエンが部屋から出て行った。
「私はお風呂で寛いで来ようかしら。」
「んじゃ、あたしも行く。」
言うと扉に向かったマリアに、リリエルが後を追っていく。

「丁度良いか、アリア。」
「何?」
二人だけになると、エルメラが真面目な表情で名前を呼んでくる。
「お主だけ、まだ余の目的を伝えておらぬなと思って。構わなければ今のうちに話すがどうじゃ?」
そうね。
今まで聞く状況じゃ無かったもの、主に私が。
もともとエルメラの手伝いをする、それが条件で復讐を手伝ってもらっていた。
それが落ち着いた今、ちゃんと聞く必要があるわね。
「うん。」
「余の部屋で話そう。」
「わかった。」



「復讐を続けてもらう。」
「え?」
部屋に入ると、窓際に移動したエルメラは窓の外を見ながら言った。
まだ、終わってなかったの?
終わったと思っていたから、それを聞いた瞬間楽になった気持ちは何処かへ吹き飛び、黒い感情が沸々としてくる。
それを押し殺しす。
「まだ、居たの?」
「そうではない。お主の件に関わった人物はすべて伝えた。余が知っておる範囲でな。」
「じゃ、どういう事?」

エルメラがゆっくりとこちらに顔を向ける。
見た事のない剣呑な瞳。
怖いほど冷徹な表情。
「お主を陥れた人間は既におらぬが、そもそもの原因はなんじゃ?」
私が烙印を持って生まれたから。
「その人間共がその行為に至った根源はなんじゃ?」
女神の浄化の塵。
「悪しき風習の前に、風習が生まれた要因はなんじゃ?」
女神の浄化。
それが齎した烙印。
それに伴って刷り込まれた意識。
それらが辿り着く先は。
「女神・・・」
「そうじゃ。すべての元凶じゃ。」

「待って・・・」
そんな事、今更すぎる。
わかっていたのなら、とっくに終わっていても不思議じゃない。
でも、長い歴史の中で今でも続いているという事は、それが出来ないからじゃないの?
「存在、するの?」
「どうして存在しないと言える?烙印こそが存在の証明ではないか。」
そうだとしても。
「存在が証明と言うのなら、何故今も続いているの?今までの塵が終わらせていてもいいじゃない。それが出来ないからこんな思いをしているんじゃないの!?」
捲し立てる私に、エルメラがゆっくりと近付いてくる。

「その通りじゃ。何も余に始まった事ではない。長い時間の中、同じ事を考えた者はいくらでも存在したじゃろう。」
「でも現状は何も変わってない。それを、エルメラなら出来るの?」
私の疑問に、エルメラは掌を私の肩に乗せ微笑む。
「可能だと思うておる。」
「嘘・・・」
何故そう言えるの?
エルメラが可能だと言うなら、終わっていてもいいじゃない。
でも現状は何も変わってない。
「勘違いしてはならぬ。余が独りで女神に立ち向かう、であれば過去の例に漏れず結果は変わらぬじゃろう。余が出来ると思うておるのはお主らを集める事じゃ。」
そっか。
それが、私に接触した理由。
そのために、エルメラが私に協力した。

「領主という立場は都合が良かった。私益したと言われればそれまでじゃが。」
「立場を利用して、塵の存在を確認していた。」
「そうじゃ。思うようにはいかぬが、それでもお主らとこうして行動を共に出来ておる。」
エルメラが救いたいのは、生まれて来た塵じゃない。
塵が生まれてしまう状況だったんだ。
「手伝えとは言ったが無理強いはせぬ。その程度の覚悟であればむしろ足手まといじゃからな。」
今更。
私が断る理由なんて無い。
「来るか?」
「うん。もともと私の旅は復讐だから。」
私の言葉に、エルメラは微笑んで頷くと、扉へ向かう。
「そろそろ食事の時間じゃろう。続きは揃ってからじゃ。」
私は頷くと、エルメラと一緒に部屋を出た。


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