女神ノ穢レ

紅雪

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五章 在処ニ捧グ這生ノ炎

42.生還

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グエンはバルグセッツ国の住人だと言っていた。
国が違っても、塵の扱いに変わりは無いそう。
エルメラに出会ったのは運が良かったのだとか。

野宿の場所はお城から少し離れた丘の上だった。
貴族街を過ぎると山になってしまうため、その先に住んでいる人は殆どいないのだとか。
お城は通らずに、迂回するように貴族街を抜けて、サリュヘンリオまでの街道に出た。
囲んでいた兵士は、私の後にグエンが追い打ちをかけたから見ない方がいいと言われ。

たまたま存在を知ったエルメラが、バルグセッツまで行きグエンを救い出した。
それから暫くはエルメラデウス領で傷を癒して、リリエルと入れ替わる様にバルグセッツに戻ったそう。
マリアはその時には居て、傷も消してもらったらしい。
バルグセッツではエルメラの庇護の下、普通に仕事をして生活出来ているけど、仕事は選べなかった。
それに関しては、塵である以上難しいと私も思えた。

今回、エルメラからある目的を実行に移すからと、召集されたらしい。
その目的に関してはわからない。
聞いたが、知らないなら直接本人から聞いた方がいいと言われた。
きっと私も組み込まれているからと。


「エルメラのところにはいつから居るんだ?」
「私?」
「あぁ。」
貴族街とサリュヘンリオの間で、焚火を前にグエンに聞かれる。
長い事居る様な気もするけれど、実際は一年くらいだろうか。
「一年、経ったか経たないか。」
「そうか。」
出会った時は五月蠅かったくせに、グエンは道中あまり喋らなかった。
今も、あまり会話は無い。
私も会話は得意じゃないから、楽でいいけれど。
だったら、一人の方が気楽だと思わないでもない。

「文書で端的にしか書いてなかったんだが、領土が奪われたってのは本当か?」
私も詳しくは説明できないけど。
「塵を集めて国家転覆の疑いがあるとかで、領主権剥奪されたって。」
「なんだそりゃ、意味がわからんな、今更。」
そうなのかはわからないけど。
「私は別件でこっちに来てたから、つい先日聞いたばっかりで詳しくは知らない。」
「そうなのか?」
「うん。」
私の事は話していない。
話す気も無いけど。
「いやぁ、『気は熟したので来い。じゃが、領が国に奪われたため集合場所はランフェルツ、貴族街の別邸じゃ。』しか書いてねぇんだぞ?何がわかるんだよ・・・」
「確かに。」
それは酷い。
まさか、エルメラの文書っていつもそうなのかしら。

「別邸の位置も探すのに時間かかったし。」
あぁ。
貴族街とは言うけれど、離れた場所だったものね。
「ま、詳しくは会って直接聞くしかないって事だな。」
「うん。」
宰相が企てた事だと言っていたけれど、その思惑まではわからない。
それを何とかするために、別邸で何かすると言っていたけれど詳細も不明。
グエンの言う通り、聞かないとわからないけれど、別邸が使えなくなった現状だと巻き込まれそうな気がする。
「とりあえず寝るか。一日中歩いて疲れたしな。」
「グエンほど歳じゃない。」
「俺だってまだ三十路にもなってないわ!」
言うと横になって背中を向けた。
(私も寝よ。)





「エルメラデウス様。」
「なんじゃ?」
朝食を終え、紅茶を飲み始めたところで侍女がエルメラデウスへ近付き声を掛ける。
「お客様が訪ねて来ております。」
「客じゃと?」
エルメラデウスは怪訝な顔で聞き直す。
約束も何もない。
そもそも、デダリオの屋敷に滞在する他国の元領主を訪ねて来る者がいるだろうかと。
「ニーメルラッゼ家の遣いで、フィナメルシェと仰っております。不在と伝えましょうか?」
エルメラデウスは心当たりは無いと思いつつも、敢えて自分を訪ねた事に何かしらの意図があるだろうと感じた。
「いや、構わぬ。それと、すまぬがニーメルラッゼ家とは何か教えてはくれぬか?」
領主を務めていたため公国の貴族について、ある程度は知ってはいたが聞き覚えの無い家名に考える素振りをする。


「承知致しました。この国は貴族院によって治められている事はご存知かと思います。」
「うむ。」
「貴族院は貴族諸侯の中から、七つの家が選出されます。ニーメルラッゼ家はその貴族院の一角を担う名家でございます。」
「ほう・・・」
名家と呼ばれている貴族は把握しているつもりではいたが、やはり聞き覚えが無い事を改めて認識させられただけだった。
だが、エルメラデウスは口の端を上げて嗤う。
この国の中枢を担う一角が、何故突然訪ねて来たのか。
それは考えるまでも無く、政治的な絡みがあるだろうと思ったからだ。
「わかった、通せ。」
「承知致しました。」


侍女が部屋を後にしてほどなく、長身の女性が部屋に案内された。
「突然の訪問にも関わらず、お目通りいただき感謝致します。」
柔らかい物腰で言って会釈をする。
肩の上で切りそろえられた髪、全面は目の上で綺麗に切り揃えられていた。
自分より頭一つ分ほど身長のあるエウスと同程度かと思い目を惹く容姿だと思えた。
だが、それよりも物腰の柔らかさとは裏腹に、瞳に剣呑さが見えた気がして警戒する。
「構わぬ。存じておろうが無職故な。」
「はい、存じております。」
フィナメルシェは言うと妖しく笑んだ。
「余に面会する理由は皆目わからぬが、好きに座るがよい。」
その笑みに嫌な感じがしたものの、訪ねて来た理由の方が気になり促した。


「して、訪ねて来た理由はなんじゃ?」
茶菓子が用意されるまで待っていたエルメデウスは、二人きりになると目を細めて問う。
「先ずは、うちの素性から明かしましょう。」
フィナメルシェは立ち上がると、足元の方から履いていた布をまくり上げる。
エルメデウスはその行動に怪訝な顔をしたが黙って見守った。
足の付け根まで露わになり下着が見えるところまで捲り上げられたが、エルメラデウスの目を惹いたのは右足の内太腿、付け根付近にある烙印だった。
「嫌な場所でしょ。」
「なるほど。お主が来た理由は塵の様子見か。」

「いえ、興味だけです。改めて、フィナメルシェ・トルシュ・レ・メルディアと申します。」
フィナメルシェは着衣を直してから、名乗ると頭を下げた。
「奔放であるならばそれもあり得るが、貴族仕えでは説得に欠けるの。」
「ですよね。」
フィナメルシェは微笑むと、エルメラデウスの言う事が当然だと同意する。
だが、その笑みに含みは無い様に感じた。
「うちの素性については、他言無用でお願いします。」
「勝手に明かしておいてか?」
「公国内でも知る者は、ニーメルラッゼ家当主であるリヴィラエ様だけです。ご配慮いただきたく。」

公国内に塵が存在したとは、エルメラデウスにとっても初耳だった。
簡単に明かせるものでもないが、それでも公国内で本人とその主のみしか知らないというのはエルメラデウスにとって驚愕であった。
この世に生を受けた時点で忌避される存在。
それは実の親だろうが、他人だろうが関係なく存在した事自体を消そうとする。
烙印は生れ落ちた時、初めて認知される。
それまでは普通の生活を送っている事になるため、当人に誰一人関わっていない、等という事はあり得ない。
ましてや貴族仕えともなれば尚更だ。

本人が当主のみに素性を明かし、取り入る以外には。

「危険を冒し明かす事により、お主は何を得るのじゃ?」
「塵の知り合い。」
フィナメルシェが笑顔で即答した内容は、エルメラデウスにとっては思いもよらなかったため一瞬戸惑った。
元領主、方や公国の貴族の遣い。
何かしらの含み、牽制、利害等の話しがあって当然。
言葉通りにすべて受け取るつもりはないが、予想外ではあった。
「主からは好きにすればいいとだけ。だから、うちは自分の興味に忠実に従う事にした。外から様子見だけじゃ何もわからないから。」
「確かに、直接話すのが手っ取り早いであろうが・・・」
嘘は言ってなくとも、純粋にそれだけで終わるわけがない。
そこに立場というものが存在する以上は。
少なくとも、フィナメルシェが此処を訪れた事は、本人の目的に関わらず周りに影響を与える事は既に避けられない。

「貴女は、何人もの塵と一緒にいるのでしょう?生まれてからどんな風に育ったのか、どんな扱いを受けたのか、どんな会話をするのか、どんな生活になっているのか。すべて隠すしかなかった私と、どれだけの差があったのか・・・知りたい。」
フィナメルシェの言う通り、把握している塵はすべて関わっている。
ある程度の生い立ちも知っている。
忌避される存在だと知り、それを誰と共有出来るでもなく独り抱えて生きてきたのならば、興味が沸いても不思議ではないかと。
「して、どうしたいと?」
だが結局何をしたいのかエルメラデウスには不明だった。
本人がそれを望んだとして、何を求めているのか。
「たまに、遊びに来てもいいかしら?他の人とも話してみたい。」
「本当に、興味本位だけで来たというのか?」
未だに信じられぬと、エルメラデウスは目を細める。

「そう。うち個人としては、本当にそれだけ。」
「個人としては?」
その言葉に、エルメラデウスが興味を示した。
やっと、フィナメルシェが此処に存在している意図が出て来たのではないかと思い。
「えぇ。主なら、エルメラデウス領奪還に協力出来ると思う。」
「なんじゃと!?一体どういう事じゃ。」
エルメラデウスは突然の話しに声を多少大にした。
「ヘルベイウ関連、と言えば察しがつくのではないかしら。」
「ほう・・・」
フィナメルシェから出た宰相の名前に、エルメラデウスは目を細め妖しく嗤う。
「でもそれについては、主と会って話してもらう必要があるわ。」
「お主から情報は出ぬと?」
「言った通り、うちが来た理由は本当に話した通り。もし興味があるなら、主との取次はするけれど?」

領奪還に関しては取引材料だったかも知れない。
今の話しで初からこの事を含んだ会話を用意していたのだろう。
フィナメルシェ個人の目的があったとしても、主な目的はニーメルラッゼ家との対話。
ついでに、とばかりに浮上させたようだが。
それでも構わない。
宰相を落とす足がかりを探しだしていたところだが、情報が得られるならばと。
「・・・」

エルメデウスが返事をしようとした時、大きな音を立て扉が勢いよく開いた。
「エルメラ!無事で良かった!」
入ってきた人物にエルメデウスは目を見開く。
「アリア、お主も無事でなによりじゃっ・・・」
駆け寄ってきたアリアーランが飛びついたため、エルメデウスの言葉は受け止めた衝撃で詰まった。
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