女神ノ穢レ

紅雪

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五章 在処ニ捧グ這生ノ炎

49.愚鈍

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道中何も無くカウレシオに着いた。
馬を交換する時の休憩や、夜の宿泊以外は特になにもする事が無いので、寝るか雑談するか程度の旅。
宿泊に関しては馬車を運行しているところで、宿泊設備を用意している。
自分の都合で乗り降り出来ないのは、不便だなと思わされた。

「さて、ここからは歩きだ。」
カウレシオで馬車を降りるとグエンが言う。
「道は整備されているみたいだけど。」
街の先に続く山道は広く、問題無さそうに見えた。
「最初だけだ。馬なら行けるかもしれねぇが、馬車は無理だな。人を乗せた箱を引くには悪路過ぎて馬が動かないだろうな。」
そうなんだ。
「重量がある分、急な勾配は馬車は無理だ。」
いや、馬車の必要は無いんだけど。
むしろもう飽きた。

「国境は山の真ん中へんだけど、検問所はそれぞれ山裾にあるのよね。」
「あぁ。」
そっか。国が変わるんだよね。
ただの山登りとはいかないか。
「どれくらいかかるの?」
「急いでも一泊は山中で過ごす必要がある。」
そうなのね。
なんか、思い出すな、あの二人。
いつかまた、陽炎置きにいってあげようかな。
・・・
私、何考えてんだろ。
そんな事、考えるなんて思ってもみなかった。
自分からそんな考えが出る事に戸惑う。

「まぁ今日はもう遅い。出るなら明日だ。」
カウレシオは国境を越える中継地点だけど、それほど大きい街ではなかった。
バルグセッツとランフェルツを行き来する人はそんなに多くないらしい。
もちろん、商売の流通は別の話し。
食事や買い物に困る事は無く、それは生活の範囲外の品物でも。

夜まで時間があったため、それぞれ自由に過ごすことになり、私とウリカは街を見て回った。
マリアは現地に着くまでなるべく温存したいと言って、早々に宿屋に。
ウリカへの魔法は私以上に疲弊したみたいで、まだ全快には至ってないのだとか。
だから、私の回復も後回しにしてもらっている。





山の中に宿泊施設は無い。
宿泊場所はあるが、あくまで物は自分で用意が前提の場所となっている。
そのため、場所は拓けているが、利用者の残骸も散見されお世辞にも綺麗とは言えない。
昔は宿泊施設があったが、度々襲ってくる山賊の所為で維持出来なくなったのが現状だ。
つまり、施設の維持だけなら問題ないが、被害の修繕や山賊に対する予防費の方が嵩んでしまうため、現状はその費用が個人に委ねられる。
故に商売人や大きい商隊、要人が越える場合には警備が付きものだ。

「何を嬉しそうに見てんだ?」
マリウテリアが微笑んでうっとり見ている姿に、グエルウェンは疑問を口にした。
「本当に、姉妹みたいよね。可愛いわぁ。」
マリウテリアの視線の先には、同じ様な服装で、夕食のために火を起こす準備をしているアリアーランとウリカが居た。
半円に石を積み重ね、その中に拾って来た枝を積み重ねている。
「ただのガキじゃねぇか。」
「リリエルちゃんの感性はなかなかよね、似合っているもの。」
グエルウェンの話しはどうでもいいとばかりに、マリウテリアは自分の言いたい事を口にする。
「だから遊びに行くわけじゃねぇっての、山越えにすら向いてねぇだろうが。」

「アリアちゃん、あと十年もしたら凄い綺麗になるわよ。見る目が無いのね。」
マリウテリアが冷めた目をグエルウェンに向けた。
「そんな話しをしてるわけじゃねぇ。」
「現実を見ている振りをして、あの娘たちの現実に目を向けないのは寒いわよ。」
「ふん、俺には自分が置かれている現状さえ把握出来ていればいい。」
そんな事を言われたところで興味が無いものは無いと思ったが、マリウテリア相手に言い合いは不利だと思って口にしなかった。

「私やあの娘たちの事を知らずに、何の現状を把握しているの。自分さえ良ければいいって事?」
「そういう意味じゃねぇ。」
グエルウェンは藪蛇だったかと思うと顔を逸らした。
「まぁいいわ。ちゃんと見てないと、後悔するわよ。後から気付かなかったって思っても遅いのよ。」
「そうだな。」
まるで過去に経験したかの様に言うマリウテリアに、グエルウェンは相槌だけ打って視線を少女二人に向ける。
気にはなったが、踏み込んでいいものか判断が付かず、別の事を話す事にした。

「しかし、十年後ねぇ。」
「それくらいの未来は見据えなさいよ。もういい歳なんだから。」
「とは言ってもなぁ。十年後か、俺もマリアも三十ぶっ!・・・」
グエルウェンがそこまで言うと、マリウテリアの拳が頬を打った。
「急に何しやが・・・」
満面の笑みを浮かべるマリウテリアにグエルウェンは言葉が詰まる。
「そういう事を言うから、周りに冷たい扱い受けるのよ、お姉さんの言っている事わかる?ねぇ?」
「・・・はい。」
グエルウェンはマリウテリアの圧力に返事だけして、二人の少女が準備した焚火に目を向ける。
(俺は・・・それでいいんだよ・・・)




(五・・・七人か。私だけでも十分。)
起きて広場の外、木の陰に目を向ける。暗闇で見えないけど、気配ははっきりしている。
「ゆっくり寝させろよ・・・」
グエンも気付いて起き上がる。
「私、寝てるからよろしく。」
「おぃ・・・」
「寝させてあげて、私がやるから。」
マリアが姿勢を変えずに言うと、グエンが睨んだ。
でも、こういう戦闘なら馴れているし、マリアがそうしたいならそれでいい。
「ならいい。二人で十分だろ。」

「隆槍。」
グエンは起き上がりながら右拳を前に突き出す。
先端が尖り隆起した地面は、木の幹を貫き隠れていた奴を貫いた。
「こいつら魔法使いじゃねぇか!」
「使われる前に殺れ!」
「あぁ!」
「男だけな。」
「わかってるって。」
「金と女は俺らの物ってな!」
と言いつつ、私に一番近い男が剣を振り下ろして来る。
私、女なんだけど。
それ、そのまま振り下ろしたら私死ぬよ?
と思いながら横に身体を捌いて避け、いつもの様に剣を持っている手首を飛ばす。
返す刃で喉元を突き上げた。

「あれ、セントウ?」
騒ぎにウリカが起きて、眠そうな眼を擦る。
「寝ててもいいよ。」
「大丈夫、おねぇはワタシが守る。」
ウリカは飛び起きると、一足飛びで私の横に来た。
「おい、大人しくしてろよ。」
「口動かすなら早く片付けてよ。」
「お前に言われたくねぇわ。」
グエンと会話している間に、一人の首を撥ねる。
「礫驟。」
グエンも魔法で応酬。
地面から生成された数十もの礫が一人を襲う。
反動で木に叩きつけられると、すべての礫がその四肢に叩きつけられた。
人の原型はかろうじてとどめたものの、えげつない。
リリエルと大差ない気がした。

「くそ、この女だけでも殺ってやる!」
私とグエンの攻撃の隙に、回り込んでいた奴がいた。
「くそ!」
「死ね・・・」
男は言っている最中に顔が真後ろを向いた。
グエンが慌てて右拳を向けたが、その前に背後に回り込んだ影が頭部を掴んで首を捻っていた。
「まじか・・・」
「ウリカやるね。」
「トーゼン。」
頭を撫でると嬉しそうに笑顔になった。

私も学習してる。
この場所で私の魔法は良くない。
山火事になったら大変だから。
そう考えると以前ほど、なりふり構わずじゃなくなってると思えた。


「心配してねぇと思ったら、そういう事か。」
死体を林の方に片付けて一息つく。
グエンがウリカを見て言った。
「大丈夫って言ったでしょ。」
「事情を知ってりゃ頷いてたわ。最初に言えよ。」
「え、やだ。」
「なんでだよ!」
滓って言うと、嫌な扱い受けそうだから。
言いたくない。
「いたっ・・・」
「そういうところって、昼間言わなかったかなぁ?」
起きたマリアがグエンの頭を小突く。
「あのな、一緒に行動している以上情報は必要だろうが。よく知らねぇ奴の機微まで確認してられっか。」
不服そうな顔でグエンが言うと、私たちにもその表情を向ける。
「お前らの事情に合わせて生きているわけじゃねぇ。ある程度は妥協するが押し付けんな。」
あ、怒った。

マリアが私とウリカに近付いて来ると、グエンに無感情な目を向ける。
一緒に私も向けた。
だってそう。
「な、なんだよ揃いもそろって。」
そりゃマリアも態度が冷たくなるって。
「おっさん、バカなの?」
「んだと!ガキに言われる筋合いはねぇ。あとおっさんじゃねぇ。」
ウリカもちゃんとわかってる。

「自分で今言った事、その通りだよ。私だってグエンの都合で生きているわけじゃない。マリアが言っているのはそういう事だよ。」
誰だって他人の都合で生きているわけじゃない。
言いたい事、言いたくない事もいっぱいある。
独りなわけじゃない。
だから、妥協する事も、知る事も、配慮する事も、寄り添う事も、思慮する事も必要になる。
それが一緒にいるという事。
復讐だけに囚われていた私が、言える事じゃないかもしれないけれど。

「今のグエンは、ウリカちゃん以下よ?」
憐みが込められたような声でマリアは言うが、その目は明らかに見下すような目をしていた。
それは、流石にやりすぎじゃ・・・
恐いし。
「悪かった、言う通り馬鹿だったよ。」
グエンは目線を下に落とすと、額に手を当てて言った。
「ガキは俺だったってわけか・・・」
まぁ、出会った時から知ってたけど。
反応は本当に子ども。

「まぁ、そのなんだ。改めて、道中よろしくな。」
少しの間を置いて、グエンはこっちを見ずに言った。
「誰に言ってんだー?」
「くっ・・・」
ウリカの突っ込みに苦い顔をした。
照れ隠しか知らないけど、それこそ相手に向かって言わないと意味がない。
「これからもよろしく頼む。」
多分、自棄になった。
でも、あまり突っ込むのもやりすぎな気がするからこの辺かな。

「まぁ、及第点かしら。」
はは、マリアってなんか、グエンには厳しい。
苦笑しながらそんな事を思った。




二週間後。
バルグセッツに入り、順調に旅を続けた私たちは、鬱蒼とした森を目の前にしていた。
ゲイオーブ大森林。
太陽が中点にあるにもかかわらず、その森林は陽光を拒絶しているかの様に暗い。
「ここから奥に進んだところに隠れ家がある。道は無い、擦り傷程度の多少の傷は我慢して進んでくれ。」

街道の何も無いところから道を外れ、雑草を踏み分け進んだ先で、グエンが言った。
何を目印に街道から逸れたかわからない。
それに道の無い大森林。
この奥に住むなんて、確かに想像できないし、家があるなんてわからない。

「せめてこれくらいじゃないと、隠れるには心許ないでしょう?」
「確かにそうだけど、マリアは知ってたの?」
知ってそうな口ぶりで言うから聞いてみる。
「場所は知らない。でも、エルメラがグエンに言ったのよ。確保した時用に、こんな場所誰も来ない、と思えるような場所に匿う用意はしてと。」
なるほど。
確かにエルメラらしい気がする。
塵を集めるために昔から手を尽くしているのなら。
「陽が漏れてくる場所、食べれる植物が多い場所、動物の通り道、水場、少しでも生活し易そうな場所を避けて用意した。そうそう見つかるもんじゃねぇ。」
うわ、徹底してる。
でも、そうしないとならない理由は、嫌という程わかっている。
望まずとも科せられた塵の宿命。

それから、昼間でも暗い森の中を、グエンの後に着いて進んだ。
だが、少し進むとある事に気付く。
「待って・・・」
「なんだ?」
「どうしたの?」
グエンとマリアが怪訝な顔をして私を見る。
二人は、まだわからないのか。
「血の臭いがする・・・」
「なんだと!?」


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