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六章 塵ニ捧グ覆滅ノ灯朧
56.節目
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「火走・朧。」
鬱蒼とした森の暗がりの中、帯となって伸びていく私が放った橙色の光の粒は、一層輝いて見えた。
煌めいて奔る光はレウの身体まで行くと、包み込んで輝きを増していく。
眩しさでレウの身体が見えなくなったのが先か、光の粒が発火した事で見えなくなったのが先か、わからない。
そんな事はどうでもいい。
願わくば、逝った先で本当の笑顔になれたらいいな。
「グエン、あまり近付くと火傷するわよ。」
マリアが腕を引き、グエンを炎から遠ざける。
グエンは下がりながらも、炎から目を離さずずっと見つめたままだった。
昨夜、グエンから火葬をお願いされた。
バルグセッツでは土葬も多いが、グエンとしてはそのまま土に埋めるのは嫌なんだとか。
私にはよくわからない。
ガリウの時は、骨を運びたかったから火葬しただけ。
村の見える丘に連れて行きたかったし。
ただ、森の中であの魔法は、熱量も強すぎるし光が突き抜ける。
居場所を知られる云々より、森に被害が出そうだったから。
拾い集める小枝は普段の生活用。
火葬用に大量に集めるのは難しい。
かといって、陽炎では火力が弱い。
だから、下からの火走と、包み込む火走・朧を併用した上で、消えない様に何度も使う。
「これが終わったら、‘ヒ’に魔法を使えるか?」
グエンは炎から目は離さずに、隣にいるマリアに確認する。
「えぇ。そのつもり。」
「そうか、頼む。」
きっと、この森から早く出たいんだと思った。
森に居た期間は短いとは言え、長い間家族だった二人を、二人とも失ったのだから。
まだ涙の滲むグエンの横顔を見て、そんな事を思った。
夜、マリアが魔法を使い始めた。
そっちはマリアにお願いするとして、私はグエンに確認したい事があったから残ってもらう。
焚火を三人で囲んで、私はグエンを見据えた。
「な、なんだよ?」
グエンは構えるが、別に責めようというわけじゃない。
どうしても気に入らない事はあるけど。
「メウはお金をもらって連れて来たのよね?」
「そうだな。」
「お金、払ったやつに心当たりあるでしょ?」
「・・・」
グエンは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに目を背けた。
知っていても、言いたくないのか。
「ワタシだって馬鹿じゃないからわかる。そいつ、前から知っているでしょ?」
「・・・もう終わった事だ。」
馬鹿。
顔は全然、終わったなんて思ってないじゃない。
「エルメラと合流する前に、バルグセッツをちょっと散歩したいよねぇ、ウリカ?」
「ちょうど、ワタシもおねぇと散歩したいと思ってた!」
察しが良い。
ウリカは思った以上に、物事の分別が出来る。
それに、賢い。
「そんな余裕は無ぇだろ。‘ヒ’の治療が終わったら大人しくメイオーリアに向かうぞ。」
「独りで行くなんて許さないよ?」
遠回しに言ってものらりくらりと躱しそうなので、はっきり言う。
グエンは聞いた後に苦い顔をした。
「巻き込みたくなかっただけだ。」
「おねぇが居なかったらヘタレのままだったよ、きっと。」
「ぐ・・・」
いいよ、もっと言ってやれ。
「ねぇグエン。」
「・・・」
目だけ向けて来た。
何か言われるとわかってるんだよね。
「はぁ、いいわ。」
「え?」
グエンは気の抜けた声を出して私に向き直った。
「肝心な事は話してくれない、教えてくれない、相談してくれない。自分で何とかしようとするんだ。自己満足で終わりたいならどうぞ。」
「ワタシ、カナシイよ。きっと、レウもこんな気持ちをいつもしていたに違いない、ヘタレの所為で。」
と言って、ウリカは昼間、冷めた後に集めたレウの骨を入れた袋に目を向ける。
「そうよね、死ぬまでヘタレを見せつけられて旅立たされて。」
「それでもヘタレは変わってないよ。」
二人でレウの遺骨に残念そうに言葉を続けた。
「お前らな・・・」
「お姉さんも凄く残念だわ。あまり進歩が無いと流石の私でも怒っちゃうかなぁ?」
「痛い、痛いって・・・」
満面の笑みでマリアはグエンの肩を掴んでいた。
既に怒ってる。
マリアは怒っている時、満面の乾いた笑みを浮かべる。
今がその顔だ。
「はぁ、揃いも揃って物好きだいてぇ!」
グエンが肩を押さえながら腰掛から落ちて地面に転がった。
「今物好きって聞こえた気がするわ。この場所で、こんな思いしているのは私たちが物好きだかららしいわよ。」
「へぇ、私たち物好きでこんな嫌な思いしてるんだね。」
「ワタシ、そんなモノズキじゃないよ。」
という会話を、みんなグエンを向いて言った。
「だぁ!もううるせぇな。少しは感傷に浸らせろよ。昨日の今日でそんなすぐに切り替えられるわけねぇだろうが!」
あ、怒った。
「なんで切り替える必要があるの?」
「あ?」
「まだ何も終わってない。切り替えるのも、感傷に浸るのも、弔うのも、終わらせてからでいいじゃない。」
許せないなら、今怒りを鎮める必要はない。
弔うなら、静かな気持ちで送り出してやればいい。
浸るなら、終わらせた後に穏やかな気持ちで思い出せばいい。
だから、今じゃない。
「そうだよ、今じゃない。今は、暴れる時間。」
派手にいきたいな、二人に届くように。
「彼女たちはあなたより先を歩いている。それでも、あなたを置いて行ったりしていない。どうでもいい奴は放置されるものよ。きっと、レウやメウだってそうだった筈じゃないかしら。」
「・・・」
グエンは、マリアに言われるとまた泣いた。
「あぁ、そうだな。」
「オッサンの泣き顔は見飽きたよ。」
「うるせぇよ・・・」
ウリカの言葉に私たちが笑うと、グエンもぎこちない笑みを浮かべた。
多分、これでいい。
「よし、‘ヒ’の回復が終わったらバルグセッツの散歩といくか。俺が住んでいた街、その領主ヴェゴフのところまで案内してやる。」
街はさておき、そいつが殺しを仕向けた奴か。
「ワタシ、街でご飯したい!」
「私も。ここの肉は飽きた。」
「お姉さんも宿でゆっくり休養したいわ。」
「まかせろ、全部案内してやる。ゆっくり休んで、食後の運動は領主館への散歩だな。」
すでに泣き止んだグエンが得意げに言った。
まぁ、その方がいい。
「食後はデザートと決まってるの!」
「・・・じゃ、それ食ったらな。」
ウリカの言葉に、また笑いが起きた。
森に入ってから、ずっと重い空気だったから、久々な気がした。
「しかし、お姉さん気付いちゃったわ。」
・・・
勘弁してよ。
なんで微笑んで私を見るかな。
またろくな事じゃないのが目に見えている。
「言わなくていい。」
「え?大事なことよ。グエンの今後に関わってくるもの。」
なんだ、グエンの事か。
ならいい。
「俺かよ、いったいなんなんだ?」
「思えば今の今までもそうだったわ。アリアちゃんはグエンの首に縄を付けて引っ張っているのよ。」
「えぇ!?」
「はぁ!?」
グエンと驚きが重なる。
「今更じゃん。おねぇが縄を引っ張らないとオッサンが動かないんだよね。」
・・・
何それ。
「俺は犬じゃねぇぞ。」
「あら、似たようなものじゃない。」
やっぱりろくな事じゃなかった。そういうのは気付かなくていいよ。
「あのねぇ、今があるのは引っ張ってもらったからじゃなくて?」
「それは、そうだけどよ・・・」
否定しなよ。
「もういいから寝ようよ。マリアは魔法使って疲れたでしょ。」
「そうね。面白いけれど、また明日以降にするわ。」
しなくていい。
私も、昼間連続で魔法を使ったせいか、身体が怠い。
「アリアだって疲れてんだろ。寝た方がいい。それと、レウのためにありがとな。」
別にレウのためじゃない。
けど、まぁいいか。
「ウリカ、寝よ。」
「ウン。」
三日後、大森林を出た私たちはグエンが住んでいたというヤーウェルツの街に到着した。
夕方だったため、宿をとり食事して、久々の寝台で横になった。
翌日は、早めの昼食とデザート。
そこから街はずれにある大きな屋敷まで散歩をしていた。
「ここがヴェゴフの屋敷だ。」
大きい。
豪邸だ。
「エルメラの別邸より遥かに大きい。」
「本当ね。」
エルメラが居ないからか、マリアの同意はそれだけだった。
「もうヤルの?」
「待て待て、早まるな。まず俺が話しをしてくる。聞きたい事があるからな。」
そりゃそうだね。
「私も連れてって。」
弔いのつもりじゃない。
グエンが一人だと不安というわけでもない。
ただ、これは私の復讐の延長な気がしたから。
「いや、一人でいいって。」
「連れていきなさいよ。それくらい問題ないでしょう?」
マリアに言わると、グエンは私を見て諦めた顔をした。
え、失礼じゃない。
「おねぇ・・・」
「大丈夫。ウリカが待っててくれるから、私はもう自分に負けたりしない。」
「ウン。」
心配そうな顔をしたウリカの頭を撫でながら、笑顔で応える。
「始めるときは、派手に合図するから。」
「待ってる。」
「私は見ているだけよ。この子を背負いながらは無理だもの。」
「わかってるって。」
‘ヒ’を背負っているマリアは初めからそのつもりだった。
だから、この屋敷は三人で潰す。
「行くか。」
「うん。」
門番から、屋敷の入り口は、グエンが名前を出しただけで案内された。
いったいどういう関係なんだろう。
今更そんな事を気にしても仕方ないけど。
部屋に案内され入ると、恰幅の良い禿あがった男が、大きな椅子に座っていた。
が、風貌とは別で、人を威圧するような鋭い目をしている。
「久しぶりだなグエン。自ら出て来るとは思わなかったぞ。」
「まぁ、俺も用があったしな。」
太く低い声音も、子供なら泣いてしまうんじゃないかと思う程恐かった。
だがグエンは、気にした風でもなく答える。
「で、餓鬼はどこだ?」
「死んだんじゃね?」
「メウも手下も戻って来ていない。死んだのは向かった方だろう。」
確かに、その通り。
「そもそも、何で俺が知ってると思ってんだ?」
そこでヴェゴフが目の前の机を蹴り上げた。
短気。
気分が悪い。
「塵を確保してすぐに郊外の建物が潰された。居た奴等を皆殺しにしてな。」
確保した?
それって、保護じゃなく拷問よね。
じゃなければ、グエンがそんな事をするとは思えない。
「そりゃ大変な事で。」
「お前がやったんだろうがっ!」
今度は拳を机に叩きつけた。
うるさい・・・
「血塗れのお前が、家に戻ってメウとレウを連れすぐに街を離れたのはわかってんだ。」
「へぇ。」
その建物がヴェゴフの管轄だったって事ね。
街の領主でもあるから、グエンが家族揃って家を離れたのなら、わからないわけがない。
「メウが街に戻ったのは僥倖だったさ。まさか大森林の中だったとは、よく考えたものだ。あそこを探す気にはならないからな。」
「メウにはしてやられたが、仕方ねぇ。」
グエンは、今のところ大丈夫そうね。
相手の態度に圧されてもいないし、何よりあの森での出来事にまだ飲まれていない。
「置き去りで出て来たわけでもないだろう?餓鬼はどこだ?金が欲しいなら出すから言え。」
金で解決できるならグエンがあんな行動に出ないと思わないかな。
グエンは明後日の方に視線を向けると頭を掻いた。
「まぁ、教えてもいいが、俺の家族を殺してくれた代償は払ってもらいてぇな。」
「馬鹿を言え、招いたのはメウだろうが。」
「お前が唆さなけりゃ生きてたって。」
「それはメウの弱さであって、お前の言っている事はただの責任転嫁だ。まぁいい、言い値を払ってやる。」
まぁ、高い代償になるけどね。
「ガキは敷地の外にいる。で、代償はお前のすべてだ。」
「ふざけるな!」
「ふざけてんのはてめぇだ!」
ヴェゴフ以上の声を張り上げ、グエンはヴェゴフの目の前にあった机を拳で叩き壊した。
「なっ・・・」
グエンはその後、シャツを脱ぎ始める。
ちょっと、頭がおかしくなったの?
止めようとすると、制して左腕を出した。
「知らなかったろ?」
「お、おまえ、塵なのかっ!?」
「俺が逃げたのはガキを保護するためだ、お前の様なクズ共からな。だが甘かったよ、最初から潰しておけば良かったな。」
ヴェゴフは部屋の中にある鐘に走り寄ると、力いっぱい叩いた。
屋敷中に響いていそうな程大きな音が鳴り響く。
うるさい。
「アリア、やれ。」
グエンは言いつつ、部屋の扉に右手を向ける。
「拒塔。」
振動と共にしたから音が響いてくると、扉の前に地面が隆起してきた。
「これでしばらくは入れねぇだろ。」
「業終。」
私の生み出した火球は窓を突き破り、空中で破裂し火の雨を降らせる。
「まさか、その女もか!」
人を指ささないで欲しいな。
私はもう用が無い。
「後はグエンの好きにすればいい。私は外でウリカと掃除してくる。」
「あぁ、ありがとな。」
私はグエンの言葉に、笑顔を作ってみた。
ちゃんと出来たか、わからない。
「貴様ら、ただで済むと思うなうっ・・・うぇ・・・げほ・・・」
グエンの拳がヴェゴフの胴にめり込んだ。
「楽に死ねると思うなよヴェゴフ!」
続けて胃の逆流物を吐いていたヴェゴフの顔面に回し蹴り。
ま、後は好きにすればいい。
私は自分で壊した窓から外に飛び出すと、走って来たウリカと合流した。
「ハデな合図だったね。」
「でしょ。」
まだ燃やすわけにはいかないよね。
そう思うと、私は短刀を抜いた。
「多い・・・」
「おねぇとワタシなら大丈夫だよ。」
そうね。
笑顔のウリカを見て、私も笑顔で返した。
外を片付け、三人で話しをしているとグエンが戻って来た。
「お前ら血塗れじゃねぇか・・・」
「グエンに言われたくない。少しは気が済んだ?」
「済まねぇな。あいつらが還ってくるわけでもねぇし。まぁただ、少しは気分が楽にはなったか・・・」
「復讐はただの自己満足、それで何か晴れるわけじゃない。」
「先輩は言う事が違うねぇ。」
「黙れ。」
言うとグエンは笑みを浮かべて両手を上げて見せた。
余計な一言を言ってくれて。
「さ、ここを離れましょう。もう国境に向かうのでしょう?」
「あぁ。街で馬を調達してさっさと逃げようぜ。」
「その前に着替えたい!」
私は遠目に見える川を指差して言う。
「確かに、この格好じゃ街には入れないか。」
「おっと、その前に。」
自分の格好を見ていたグエンは思い出した様に、屋敷に向かって右手を向ける。
「葬壁・咢!」
屋敷を挟むように巨大な壁がせり上がり、その後大きな音を立てながら屋敷を飲み込んだ。
「行くか。」
「うん。」
鬱蒼とした森の暗がりの中、帯となって伸びていく私が放った橙色の光の粒は、一層輝いて見えた。
煌めいて奔る光はレウの身体まで行くと、包み込んで輝きを増していく。
眩しさでレウの身体が見えなくなったのが先か、光の粒が発火した事で見えなくなったのが先か、わからない。
そんな事はどうでもいい。
願わくば、逝った先で本当の笑顔になれたらいいな。
「グエン、あまり近付くと火傷するわよ。」
マリアが腕を引き、グエンを炎から遠ざける。
グエンは下がりながらも、炎から目を離さずずっと見つめたままだった。
昨夜、グエンから火葬をお願いされた。
バルグセッツでは土葬も多いが、グエンとしてはそのまま土に埋めるのは嫌なんだとか。
私にはよくわからない。
ガリウの時は、骨を運びたかったから火葬しただけ。
村の見える丘に連れて行きたかったし。
ただ、森の中であの魔法は、熱量も強すぎるし光が突き抜ける。
居場所を知られる云々より、森に被害が出そうだったから。
拾い集める小枝は普段の生活用。
火葬用に大量に集めるのは難しい。
かといって、陽炎では火力が弱い。
だから、下からの火走と、包み込む火走・朧を併用した上で、消えない様に何度も使う。
「これが終わったら、‘ヒ’に魔法を使えるか?」
グエンは炎から目は離さずに、隣にいるマリアに確認する。
「えぇ。そのつもり。」
「そうか、頼む。」
きっと、この森から早く出たいんだと思った。
森に居た期間は短いとは言え、長い間家族だった二人を、二人とも失ったのだから。
まだ涙の滲むグエンの横顔を見て、そんな事を思った。
夜、マリアが魔法を使い始めた。
そっちはマリアにお願いするとして、私はグエンに確認したい事があったから残ってもらう。
焚火を三人で囲んで、私はグエンを見据えた。
「な、なんだよ?」
グエンは構えるが、別に責めようというわけじゃない。
どうしても気に入らない事はあるけど。
「メウはお金をもらって連れて来たのよね?」
「そうだな。」
「お金、払ったやつに心当たりあるでしょ?」
「・・・」
グエンは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに目を背けた。
知っていても、言いたくないのか。
「ワタシだって馬鹿じゃないからわかる。そいつ、前から知っているでしょ?」
「・・・もう終わった事だ。」
馬鹿。
顔は全然、終わったなんて思ってないじゃない。
「エルメラと合流する前に、バルグセッツをちょっと散歩したいよねぇ、ウリカ?」
「ちょうど、ワタシもおねぇと散歩したいと思ってた!」
察しが良い。
ウリカは思った以上に、物事の分別が出来る。
それに、賢い。
「そんな余裕は無ぇだろ。‘ヒ’の治療が終わったら大人しくメイオーリアに向かうぞ。」
「独りで行くなんて許さないよ?」
遠回しに言ってものらりくらりと躱しそうなので、はっきり言う。
グエンは聞いた後に苦い顔をした。
「巻き込みたくなかっただけだ。」
「おねぇが居なかったらヘタレのままだったよ、きっと。」
「ぐ・・・」
いいよ、もっと言ってやれ。
「ねぇグエン。」
「・・・」
目だけ向けて来た。
何か言われるとわかってるんだよね。
「はぁ、いいわ。」
「え?」
グエンは気の抜けた声を出して私に向き直った。
「肝心な事は話してくれない、教えてくれない、相談してくれない。自分で何とかしようとするんだ。自己満足で終わりたいならどうぞ。」
「ワタシ、カナシイよ。きっと、レウもこんな気持ちをいつもしていたに違いない、ヘタレの所為で。」
と言って、ウリカは昼間、冷めた後に集めたレウの骨を入れた袋に目を向ける。
「そうよね、死ぬまでヘタレを見せつけられて旅立たされて。」
「それでもヘタレは変わってないよ。」
二人でレウの遺骨に残念そうに言葉を続けた。
「お前らな・・・」
「お姉さんも凄く残念だわ。あまり進歩が無いと流石の私でも怒っちゃうかなぁ?」
「痛い、痛いって・・・」
満面の笑みでマリアはグエンの肩を掴んでいた。
既に怒ってる。
マリアは怒っている時、満面の乾いた笑みを浮かべる。
今がその顔だ。
「はぁ、揃いも揃って物好きだいてぇ!」
グエンが肩を押さえながら腰掛から落ちて地面に転がった。
「今物好きって聞こえた気がするわ。この場所で、こんな思いしているのは私たちが物好きだかららしいわよ。」
「へぇ、私たち物好きでこんな嫌な思いしてるんだね。」
「ワタシ、そんなモノズキじゃないよ。」
という会話を、みんなグエンを向いて言った。
「だぁ!もううるせぇな。少しは感傷に浸らせろよ。昨日の今日でそんなすぐに切り替えられるわけねぇだろうが!」
あ、怒った。
「なんで切り替える必要があるの?」
「あ?」
「まだ何も終わってない。切り替えるのも、感傷に浸るのも、弔うのも、終わらせてからでいいじゃない。」
許せないなら、今怒りを鎮める必要はない。
弔うなら、静かな気持ちで送り出してやればいい。
浸るなら、終わらせた後に穏やかな気持ちで思い出せばいい。
だから、今じゃない。
「そうだよ、今じゃない。今は、暴れる時間。」
派手にいきたいな、二人に届くように。
「彼女たちはあなたより先を歩いている。それでも、あなたを置いて行ったりしていない。どうでもいい奴は放置されるものよ。きっと、レウやメウだってそうだった筈じゃないかしら。」
「・・・」
グエンは、マリアに言われるとまた泣いた。
「あぁ、そうだな。」
「オッサンの泣き顔は見飽きたよ。」
「うるせぇよ・・・」
ウリカの言葉に私たちが笑うと、グエンもぎこちない笑みを浮かべた。
多分、これでいい。
「よし、‘ヒ’の回復が終わったらバルグセッツの散歩といくか。俺が住んでいた街、その領主ヴェゴフのところまで案内してやる。」
街はさておき、そいつが殺しを仕向けた奴か。
「ワタシ、街でご飯したい!」
「私も。ここの肉は飽きた。」
「お姉さんも宿でゆっくり休養したいわ。」
「まかせろ、全部案内してやる。ゆっくり休んで、食後の運動は領主館への散歩だな。」
すでに泣き止んだグエンが得意げに言った。
まぁ、その方がいい。
「食後はデザートと決まってるの!」
「・・・じゃ、それ食ったらな。」
ウリカの言葉に、また笑いが起きた。
森に入ってから、ずっと重い空気だったから、久々な気がした。
「しかし、お姉さん気付いちゃったわ。」
・・・
勘弁してよ。
なんで微笑んで私を見るかな。
またろくな事じゃないのが目に見えている。
「言わなくていい。」
「え?大事なことよ。グエンの今後に関わってくるもの。」
なんだ、グエンの事か。
ならいい。
「俺かよ、いったいなんなんだ?」
「思えば今の今までもそうだったわ。アリアちゃんはグエンの首に縄を付けて引っ張っているのよ。」
「えぇ!?」
「はぁ!?」
グエンと驚きが重なる。
「今更じゃん。おねぇが縄を引っ張らないとオッサンが動かないんだよね。」
・・・
何それ。
「俺は犬じゃねぇぞ。」
「あら、似たようなものじゃない。」
やっぱりろくな事じゃなかった。そういうのは気付かなくていいよ。
「あのねぇ、今があるのは引っ張ってもらったからじゃなくて?」
「それは、そうだけどよ・・・」
否定しなよ。
「もういいから寝ようよ。マリアは魔法使って疲れたでしょ。」
「そうね。面白いけれど、また明日以降にするわ。」
しなくていい。
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「アリアだって疲れてんだろ。寝た方がいい。それと、レウのためにありがとな。」
別にレウのためじゃない。
けど、まぁいいか。
「ウリカ、寝よ。」
「ウン。」
三日後、大森林を出た私たちはグエンが住んでいたというヤーウェルツの街に到着した。
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そこから街はずれにある大きな屋敷まで散歩をしていた。
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大きい。
豪邸だ。
「エルメラの別邸より遥かに大きい。」
「本当ね。」
エルメラが居ないからか、マリアの同意はそれだけだった。
「もうヤルの?」
「待て待て、早まるな。まず俺が話しをしてくる。聞きたい事があるからな。」
そりゃそうだね。
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弔いのつもりじゃない。
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「いや、一人でいいって。」
「連れていきなさいよ。それくらい問題ないでしょう?」
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え、失礼じゃない。
「おねぇ・・・」
「大丈夫。ウリカが待っててくれるから、私はもう自分に負けたりしない。」
「ウン。」
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「待ってる。」
「私は見ているだけよ。この子を背負いながらは無理だもの。」
「わかってるって。」
‘ヒ’を背負っているマリアは初めからそのつもりだった。
だから、この屋敷は三人で潰す。
「行くか。」
「うん。」
門番から、屋敷の入り口は、グエンが名前を出しただけで案内された。
いったいどういう関係なんだろう。
今更そんな事を気にしても仕方ないけど。
部屋に案内され入ると、恰幅の良い禿あがった男が、大きな椅子に座っていた。
が、風貌とは別で、人を威圧するような鋭い目をしている。
「久しぶりだなグエン。自ら出て来るとは思わなかったぞ。」
「まぁ、俺も用があったしな。」
太く低い声音も、子供なら泣いてしまうんじゃないかと思う程恐かった。
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「で、餓鬼はどこだ?」
「死んだんじゃね?」
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確かに、その通り。
「そもそも、何で俺が知ってると思ってんだ?」
そこでヴェゴフが目の前の机を蹴り上げた。
短気。
気分が悪い。
「塵を確保してすぐに郊外の建物が潰された。居た奴等を皆殺しにしてな。」
確保した?
それって、保護じゃなく拷問よね。
じゃなければ、グエンがそんな事をするとは思えない。
「そりゃ大変な事で。」
「お前がやったんだろうがっ!」
今度は拳を机に叩きつけた。
うるさい・・・
「血塗れのお前が、家に戻ってメウとレウを連れすぐに街を離れたのはわかってんだ。」
「へぇ。」
その建物がヴェゴフの管轄だったって事ね。
街の領主でもあるから、グエンが家族揃って家を離れたのなら、わからないわけがない。
「メウが街に戻ったのは僥倖だったさ。まさか大森林の中だったとは、よく考えたものだ。あそこを探す気にはならないからな。」
「メウにはしてやられたが、仕方ねぇ。」
グエンは、今のところ大丈夫そうね。
相手の態度に圧されてもいないし、何よりあの森での出来事にまだ飲まれていない。
「置き去りで出て来たわけでもないだろう?餓鬼はどこだ?金が欲しいなら出すから言え。」
金で解決できるならグエンがあんな行動に出ないと思わないかな。
グエンは明後日の方に視線を向けると頭を掻いた。
「まぁ、教えてもいいが、俺の家族を殺してくれた代償は払ってもらいてぇな。」
「馬鹿を言え、招いたのはメウだろうが。」
「お前が唆さなけりゃ生きてたって。」
「それはメウの弱さであって、お前の言っている事はただの責任転嫁だ。まぁいい、言い値を払ってやる。」
まぁ、高い代償になるけどね。
「ガキは敷地の外にいる。で、代償はお前のすべてだ。」
「ふざけるな!」
「ふざけてんのはてめぇだ!」
ヴェゴフ以上の声を張り上げ、グエンはヴェゴフの目の前にあった机を拳で叩き壊した。
「なっ・・・」
グエンはその後、シャツを脱ぎ始める。
ちょっと、頭がおかしくなったの?
止めようとすると、制して左腕を出した。
「知らなかったろ?」
「お、おまえ、塵なのかっ!?」
「俺が逃げたのはガキを保護するためだ、お前の様なクズ共からな。だが甘かったよ、最初から潰しておけば良かったな。」
ヴェゴフは部屋の中にある鐘に走り寄ると、力いっぱい叩いた。
屋敷中に響いていそうな程大きな音が鳴り響く。
うるさい。
「アリア、やれ。」
グエンは言いつつ、部屋の扉に右手を向ける。
「拒塔。」
振動と共にしたから音が響いてくると、扉の前に地面が隆起してきた。
「これでしばらくは入れねぇだろ。」
「業終。」
私の生み出した火球は窓を突き破り、空中で破裂し火の雨を降らせる。
「まさか、その女もか!」
人を指ささないで欲しいな。
私はもう用が無い。
「後はグエンの好きにすればいい。私は外でウリカと掃除してくる。」
「あぁ、ありがとな。」
私はグエンの言葉に、笑顔を作ってみた。
ちゃんと出来たか、わからない。
「貴様ら、ただで済むと思うなうっ・・・うぇ・・・げほ・・・」
グエンの拳がヴェゴフの胴にめり込んだ。
「楽に死ねると思うなよヴェゴフ!」
続けて胃の逆流物を吐いていたヴェゴフの顔面に回し蹴り。
ま、後は好きにすればいい。
私は自分で壊した窓から外に飛び出すと、走って来たウリカと合流した。
「ハデな合図だったね。」
「でしょ。」
まだ燃やすわけにはいかないよね。
そう思うと、私は短刀を抜いた。
「多い・・・」
「おねぇとワタシなら大丈夫だよ。」
そうね。
笑顔のウリカを見て、私も笑顔で返した。
外を片付け、三人で話しをしているとグエンが戻って来た。
「お前ら血塗れじゃねぇか・・・」
「グエンに言われたくない。少しは気が済んだ?」
「済まねぇな。あいつらが還ってくるわけでもねぇし。まぁただ、少しは気分が楽にはなったか・・・」
「復讐はただの自己満足、それで何か晴れるわけじゃない。」
「先輩は言う事が違うねぇ。」
「黙れ。」
言うとグエンは笑みを浮かべて両手を上げて見せた。
余計な一言を言ってくれて。
「さ、ここを離れましょう。もう国境に向かうのでしょう?」
「あぁ。街で馬を調達してさっさと逃げようぜ。」
「その前に着替えたい!」
私は遠目に見える川を指差して言う。
「確かに、この格好じゃ街には入れないか。」
「おっと、その前に。」
自分の格好を見ていたグエンは思い出した様に、屋敷に向かって右手を向ける。
「葬壁・咢!」
屋敷を挟むように巨大な壁がせり上がり、その後大きな音を立てながら屋敷を飲み込んだ。
「行くか。」
「うん。」
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レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
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