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七章 女神ニ捧グ憤怒ノ業
66.地底
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天馬の先に設えられた大きな扉。
それを開けると、真っ暗で先の見えない空洞が広がっていた。
「これがそうじゃ。」
肌寒くすら思える空気がその穴から流れ込んでくる。
「進めるところまでは天馬で進むが、その先はどうなっておるかわからぬ。」
なるほど。
それで天馬が此処にあるのね。
天馬と連結された馬車には、必要な物資がこれでもかと積み込んである。
「馬が居ないのはエルが魔法使う?」
「帰りはな。行きは緩やかな下り坂じゃ、勝手に転がり落ちるじゃろう。」
「いや、それ怖いじゃん!」
言い方・・・
「一応、天馬に制動機能はあるが、どこまで耐えられるかは不明じゃな。」
それって壊れたら止まらないって事よね・・・
正面に壁があったら女神に辿り着くどころじゃない、私たちが全滅しそうだ。
塵だから死にはしないだろうし、飛び降りる事も可能だろうけど、全員が咄嗟にその判断と行動に移せるかはわからない。
「その時はうちの魔法で抑えてみるわ。」
「なるほど、確かにフィナの魔法であれば走行の妨害にはなりそうじゃな。連結した馬車までいけるかの?」
あぁ、私もそれならと思ったけど、あの荷物を積んだ重量が後ろから激突したら衝撃が凄そう。
「が、頑張ってみるわ。」
荷物の山を見たフィナの顔が若干引き攣った。
「それ以前になんで縄で連結してんだよ。別のもんで固定すりゃいいのに。」
グエンがエルメラに呆れた目を向ける。
「時間が無かったのじゃ。」
「一か月もあったのにか?」
エルメラが目を逸らす。
「おい、昨日荷物を積んだ時に気付いたとかじゃねぇだろうな。」
「そう思うならお主がやっておけば良かったじゃろうが!」
エルメラがグエンの方を見ずに声を荒げた。
図星だったのね。
「そりゃ言われりゃやったけどよ。」
理不尽よね。
「別にエルメラが悪いわけじゃないわ。誰も気付かなかったのだから。」
「うん、マリアの言う通りだね。」
リリエルが同意するように、私もそう思う。
「私もそう思うし、次回はグエンの言う通りにすればいいんじゃない。」
「まぁ、そうだな。」
とりあえず今は、突入してみないとね。
「失念しておったのは事実じゃ、すまない。今回進んだ結果を加味して、次回は準備する。」
「言ってくれりゃ準備もするし手伝うからよ。」
「うむ。」
とりあえず連結の話しも落ち着き、再び先の見えない入り口に目を向ける。
「天馬にはフィナとオルディナが必要じゃ。もちろん、余も制御に必要じゃがな。あと二人は乗れるが誰がいいかの?」
うーん、乗りたい気もするけれど。
「もちろん私が乗るわ。荷台じゃ疲れるもの。」
あぁそう。
体力の温存という点では、確かにマリアは良いのかもしれない。
「俺は後ろでいいや。」
「私も。」
「おねぇが後ろならワタシも。」
「あたしも後ろがいい。」
早い者勝ちね。
「え、って事は僕が天馬?」
出遅れたユーテが戸惑って私を見る。
いや、私を見られても。
「別にどっちでも良いが、荷物と一緒の方が危険じゃぞ?」
「僕も後ろに・・・」
「障害物があったらユーテに消してもらえばいいんじゃない?そう考えると天馬に居る方が安全じゃないかしら。」
ユーテの言葉をマリアが潰した。
確かに一理あるけれど、何故か怪しい笑みをマリアは浮かべていた。
ユーテは残念そうに私を見ると、渋々天馬組へと移動する。
「みんなの安全のため、今回は我慢してね。」
「はい。」
ユーテの背中に声をかけると、振り向いて頷いた。
その顔は先程の残念さは無かったが。
ふと気付くと、マリアが楽しそうに笑みを浮かべて私を見ていた。
一体なんなのよ・・・
天馬と荷馬車にそれぞれ乗ると、エルメラだけ天馬の後ろに立っていた。
何をしているのかと思っていたら、こっちを見る。
「グエンよ、ちと手伝え。」
「何をだ?」
「天馬を押すのじゃ。すぐに自走するじゃろうから最初だけ頼む。」
「わかった。」
飛び降りたグエンが天馬に手を掛けると、エルメラも手を掛けた。
天馬の前部では、オルディヌの魔法が煌々と輝き周囲を照らしている。
扉を潜ったところで、二人が手を離すとゆっくりと前進し始める。
エルメラは天馬に、グエンはこちらに飛び乗って、私たちは暗闇の中に飲まれた。
すぐに速度が出始めたが、天馬が速度を緩めたのだろう。
荷台が天馬を押すように接触する。
「わからないくらいの坂道だが、結構速度出るな。」
「そうだね。」
「暫くはこの速度で進むそうよ、油断せずにゆっくりして。」
天馬から顔を出したフィナが言ってくるので、手を振っておく。
「本当に真っ暗だな。」
グエンが周囲を見渡して言う。
天馬から届く薄明かりで、暗闇の中でも自分たちの把握は難しくない。
「でも、こんな石の壁で覆われているなんて想像もしてなかった。」
「確かにエルの言う通り、これなら長い年月でも朽ちそうにないね。」
誰がどうやって造ったのか、想像もつかない。
表面を切り取られたような石壁が、四角く囲っていて、それが通路として続いている。
「ところでさ、いつの間にユーテも手懐けたの?」
最初は物珍しく周囲を見渡していたが、代わり映えしない景色にすぐ飽きたのかリリエルが言ってくる。
「あのね、そんな事はしてないから。」
「ってか俺を含めてんじゃねぇよ。」
まったく・・・
「はいはい。でもアリアちゃんが居なかったら前に進めてたかわからないじゃん。」
「まぁ、それは感謝してるけどよ。」
「もうその話しはいいから。」
恥ずかしいから過去の事は掘り返さないで欲しいのだけど。
「で、いつから?」
今度はウリカに聞いている。
「うーん、あの時かな?」
「本人が頑張って前を向こうとした結果だから、言わないの。」
「ハーイ。」
一応、私を気にしてウリカが窺って来たから釘をさしておく。
ユーテなりの馴染もうとした結果。
勇気を出して踏み出したのだから、そこは黙っておくべきだと思った。
「まぁいいや。でもさ、ユーテってアリアちゃんにアレだよね。」
「あ!わかる?ワタシもそう思ってる。」
今度は何の話しよ。
盛り上がる二人に冷めた目を向けるが、見てはいない様。
「だよね!」
「ウンウン。」
「なんなのよ?」
二人で納得しているのはいいのだけど、それが私の事だと気になってしまう。
「アリアちゃんそういうとこ鈍いからねぇ。」
「おねぇの良いところだよ。」
楽しそうに言うリリエルに目を細めるが、ウリカと盛り上がっている状態に効果は無かった。
「わかる?」
「俺に聞くなよ、わかるわけねぇだろうが。」
そんな気はした。
「あ、グエンに聞いてもダメだよ。グエンもアリアちゃんと同じで鈍いから。」
「なんだそれ?」
グエンと同じ?
私の何が?
わからない・・・
そんな事を考えていると、リリエルは次の話題をウリカと話し始めていた。
気が滅入る。
というよりは、精神の闘い。
どれくらいの距離を進んだのだろうか。
何回食事をしただろうか。
休憩はどれくらい取っただろうか。
睡眠は、どれくらい寝ただろうか。
身体が痛い、ずっと座りっぱなしだから。
とっくに会話も無い。
ただただ暗闇を進む現状は、本当に精神を削ってくる。
気持ちが疲弊している所為か、穴の中のひんやりした空気は体温を奪い、寒くすら感じた。
移動時は、毛布とかあった方がいいかもしれない。
そんな状況がどれくらい続いただろうか。
突然、前方から大きな音が聞こえた。
「うわっ!」
「きゃ・・・」
ユーテとフィナの声。
何がと確認しようとした瞬間、私も衝撃に飲まれる。
「なんだ!?」
「いった!お尻打った・・・」
それほど大きな衝撃じゃなかったけれど、ただただ暗闇を進むだけの状況に思考が鈍っていたのは間違いない。
そこに突然起きたのだから、驚きも大きかった。
「段差じゃ。」
天馬の外に出たエルメラが声を上げる。
「どうやら道が平坦になったようじゃな。」
冷静さを取り戻し、状況を確認する。
いつの間にか天馬が止まっていた。
「かなり広いわね。」
「こんな空間が地下に存在するなんて思いもしなかったわ。」
マリアとフィナが続けて天馬から降りて、周囲を確認して言った。
「オルディヌ、頭上に強い光を作れるか?」
「大丈夫。」
オルディヌの指先から登った頭大の光が周囲を照らす。
馬車が三台くらいは並んで走れそうなほどの幅がある。
天井もかなり高い。
「本当に広い。」
荷台を降りた私も、エルメラ達に合流してあたりを見回した。
「降りて来た穴と、この空間を繋ぐ部分がちょっとした段差になってたんだな。」
グエンに言われて見ると、確かに小さな段差があった。
「ここから先は、余が天馬を動かすしかないようじゃな。」
平らになった道の先を見ながらエルメラが言う。
「動かすだけなら、うちの魔法で押すことも出来るんじゃないかしら。」
「それはありがたいのう。体力温存のため、道の状況を確認しながら交代してもらえると助かるのじゃ。」
「わかったわ。」
風で押すか、確かにフィナが居なかったら出ない発想ね。
「じゃぁ天馬に風受けを付けたらいいんじゃねぇか?」
「グエンにしては良い事を言うではないか。」
「しては、は余計だ。」
そこで笑いが起きた。
久しぶりの雰囲気。
そう思えるほど、この道程はしんどい。
「頭、撫でてあげようか?」
「やめろ。どっかの阿呆女が嬉々として笑みを浮かべるのが容易に想像つく。」
小声で言ってみたら、呆れた目を向けて来た。
「気を紛らわせたのよ。」
「わかってるって。」
私もだけど。
陰鬱とした気分が、だいぶ緩和された。
「そこまで言うならお姉さんも紛らわして欲しいなぁ。」
と、こっちを向いたマリアが寂しそうに言ってきた。
「どんな耳だよ・・・」
本当にね。
聞こえているとは思わなかった。
「ならば、一旦荷物を此処に置いて地上に戻ろうかの。」
「え、戻るの?」
確かに、それはありかも。
「理由はいくつかある。此処から先はまだ長いじゃろうからな。一つは此処を最初の拠点として荷物を置ける、かなり広いからのう。二つ目は、天馬の改造じゃ。グエンの言った通り荷台の連結と風受け、これからの距離を進むのに必要じゃろう。最後は、思った以上に精神が疲弊する事がわかった。一旦戻り休んでから再出発がいいじゃろう。状況がわかったのだから、心構えも変わるじゃろ?」
確かにエルメラの言う通りだ。
力の温存や気持ちの切り替え等、今後進むにあたり必要だと痛感した。
「あたし賛成。陽の光を浴びたい。」
「お姉さんも庭園見ながらだらけたい。」
他も、聞くまでもなく地上に戻る話しが出た時点で安堵の表情になっていた。
「異論は無いようじゃな。」
「では荷物を下ろしたら休憩して、地上に戻ろうぞ。帰りの天馬は最速じゃ。」
みんなが頷いたのを確認したエルメラは、笑顔で言った。
それからある程度の保存食、水、衣類等を下ろして休憩。
多少は残さないと帰り分の食料が無くなるので残しているが、それでもかなり軽くなった。
緩いとはいえ上り坂になる帰り路も、それを感じさせない程天馬は軽快に走った。
私は早くゆっくりしたい気持ちで、引かれる荷台にしっかりと掴まって闇の中を駆け抜ける。
そんな気分だった。
入り口の扉から漏れる光が目に入ると、天馬は減速。
荷台が衝突しない様にフィナが魔法で緩衝して、扉を抜けた時も天馬と荷台を保護する。
こうして、一回目の探索が終わり、かなり疲弊した状態で私たちはお城に戻った。
それを開けると、真っ暗で先の見えない空洞が広がっていた。
「これがそうじゃ。」
肌寒くすら思える空気がその穴から流れ込んでくる。
「進めるところまでは天馬で進むが、その先はどうなっておるかわからぬ。」
なるほど。
それで天馬が此処にあるのね。
天馬と連結された馬車には、必要な物資がこれでもかと積み込んである。
「馬が居ないのはエルが魔法使う?」
「帰りはな。行きは緩やかな下り坂じゃ、勝手に転がり落ちるじゃろう。」
「いや、それ怖いじゃん!」
言い方・・・
「一応、天馬に制動機能はあるが、どこまで耐えられるかは不明じゃな。」
それって壊れたら止まらないって事よね・・・
正面に壁があったら女神に辿り着くどころじゃない、私たちが全滅しそうだ。
塵だから死にはしないだろうし、飛び降りる事も可能だろうけど、全員が咄嗟にその判断と行動に移せるかはわからない。
「その時はうちの魔法で抑えてみるわ。」
「なるほど、確かにフィナの魔法であれば走行の妨害にはなりそうじゃな。連結した馬車までいけるかの?」
あぁ、私もそれならと思ったけど、あの荷物を積んだ重量が後ろから激突したら衝撃が凄そう。
「が、頑張ってみるわ。」
荷物の山を見たフィナの顔が若干引き攣った。
「それ以前になんで縄で連結してんだよ。別のもんで固定すりゃいいのに。」
グエンがエルメラに呆れた目を向ける。
「時間が無かったのじゃ。」
「一か月もあったのにか?」
エルメラが目を逸らす。
「おい、昨日荷物を積んだ時に気付いたとかじゃねぇだろうな。」
「そう思うならお主がやっておけば良かったじゃろうが!」
エルメラがグエンの方を見ずに声を荒げた。
図星だったのね。
「そりゃ言われりゃやったけどよ。」
理不尽よね。
「別にエルメラが悪いわけじゃないわ。誰も気付かなかったのだから。」
「うん、マリアの言う通りだね。」
リリエルが同意するように、私もそう思う。
「私もそう思うし、次回はグエンの言う通りにすればいいんじゃない。」
「まぁ、そうだな。」
とりあえず今は、突入してみないとね。
「失念しておったのは事実じゃ、すまない。今回進んだ結果を加味して、次回は準備する。」
「言ってくれりゃ準備もするし手伝うからよ。」
「うむ。」
とりあえず連結の話しも落ち着き、再び先の見えない入り口に目を向ける。
「天馬にはフィナとオルディナが必要じゃ。もちろん、余も制御に必要じゃがな。あと二人は乗れるが誰がいいかの?」
うーん、乗りたい気もするけれど。
「もちろん私が乗るわ。荷台じゃ疲れるもの。」
あぁそう。
体力の温存という点では、確かにマリアは良いのかもしれない。
「俺は後ろでいいや。」
「私も。」
「おねぇが後ろならワタシも。」
「あたしも後ろがいい。」
早い者勝ちね。
「え、って事は僕が天馬?」
出遅れたユーテが戸惑って私を見る。
いや、私を見られても。
「別にどっちでも良いが、荷物と一緒の方が危険じゃぞ?」
「僕も後ろに・・・」
「障害物があったらユーテに消してもらえばいいんじゃない?そう考えると天馬に居る方が安全じゃないかしら。」
ユーテの言葉をマリアが潰した。
確かに一理あるけれど、何故か怪しい笑みをマリアは浮かべていた。
ユーテは残念そうに私を見ると、渋々天馬組へと移動する。
「みんなの安全のため、今回は我慢してね。」
「はい。」
ユーテの背中に声をかけると、振り向いて頷いた。
その顔は先程の残念さは無かったが。
ふと気付くと、マリアが楽しそうに笑みを浮かべて私を見ていた。
一体なんなのよ・・・
天馬と荷馬車にそれぞれ乗ると、エルメラだけ天馬の後ろに立っていた。
何をしているのかと思っていたら、こっちを見る。
「グエンよ、ちと手伝え。」
「何をだ?」
「天馬を押すのじゃ。すぐに自走するじゃろうから最初だけ頼む。」
「わかった。」
飛び降りたグエンが天馬に手を掛けると、エルメラも手を掛けた。
天馬の前部では、オルディヌの魔法が煌々と輝き周囲を照らしている。
扉を潜ったところで、二人が手を離すとゆっくりと前進し始める。
エルメラは天馬に、グエンはこちらに飛び乗って、私たちは暗闇の中に飲まれた。
すぐに速度が出始めたが、天馬が速度を緩めたのだろう。
荷台が天馬を押すように接触する。
「わからないくらいの坂道だが、結構速度出るな。」
「そうだね。」
「暫くはこの速度で進むそうよ、油断せずにゆっくりして。」
天馬から顔を出したフィナが言ってくるので、手を振っておく。
「本当に真っ暗だな。」
グエンが周囲を見渡して言う。
天馬から届く薄明かりで、暗闇の中でも自分たちの把握は難しくない。
「でも、こんな石の壁で覆われているなんて想像もしてなかった。」
「確かにエルの言う通り、これなら長い年月でも朽ちそうにないね。」
誰がどうやって造ったのか、想像もつかない。
表面を切り取られたような石壁が、四角く囲っていて、それが通路として続いている。
「ところでさ、いつの間にユーテも手懐けたの?」
最初は物珍しく周囲を見渡していたが、代わり映えしない景色にすぐ飽きたのかリリエルが言ってくる。
「あのね、そんな事はしてないから。」
「ってか俺を含めてんじゃねぇよ。」
まったく・・・
「はいはい。でもアリアちゃんが居なかったら前に進めてたかわからないじゃん。」
「まぁ、それは感謝してるけどよ。」
「もうその話しはいいから。」
恥ずかしいから過去の事は掘り返さないで欲しいのだけど。
「で、いつから?」
今度はウリカに聞いている。
「うーん、あの時かな?」
「本人が頑張って前を向こうとした結果だから、言わないの。」
「ハーイ。」
一応、私を気にしてウリカが窺って来たから釘をさしておく。
ユーテなりの馴染もうとした結果。
勇気を出して踏み出したのだから、そこは黙っておくべきだと思った。
「まぁいいや。でもさ、ユーテってアリアちゃんにアレだよね。」
「あ!わかる?ワタシもそう思ってる。」
今度は何の話しよ。
盛り上がる二人に冷めた目を向けるが、見てはいない様。
「だよね!」
「ウンウン。」
「なんなのよ?」
二人で納得しているのはいいのだけど、それが私の事だと気になってしまう。
「アリアちゃんそういうとこ鈍いからねぇ。」
「おねぇの良いところだよ。」
楽しそうに言うリリエルに目を細めるが、ウリカと盛り上がっている状態に効果は無かった。
「わかる?」
「俺に聞くなよ、わかるわけねぇだろうが。」
そんな気はした。
「あ、グエンに聞いてもダメだよ。グエンもアリアちゃんと同じで鈍いから。」
「なんだそれ?」
グエンと同じ?
私の何が?
わからない・・・
そんな事を考えていると、リリエルは次の話題をウリカと話し始めていた。
気が滅入る。
というよりは、精神の闘い。
どれくらいの距離を進んだのだろうか。
何回食事をしただろうか。
休憩はどれくらい取っただろうか。
睡眠は、どれくらい寝ただろうか。
身体が痛い、ずっと座りっぱなしだから。
とっくに会話も無い。
ただただ暗闇を進む現状は、本当に精神を削ってくる。
気持ちが疲弊している所為か、穴の中のひんやりした空気は体温を奪い、寒くすら感じた。
移動時は、毛布とかあった方がいいかもしれない。
そんな状況がどれくらい続いただろうか。
突然、前方から大きな音が聞こえた。
「うわっ!」
「きゃ・・・」
ユーテとフィナの声。
何がと確認しようとした瞬間、私も衝撃に飲まれる。
「なんだ!?」
「いった!お尻打った・・・」
それほど大きな衝撃じゃなかったけれど、ただただ暗闇を進むだけの状況に思考が鈍っていたのは間違いない。
そこに突然起きたのだから、驚きも大きかった。
「段差じゃ。」
天馬の外に出たエルメラが声を上げる。
「どうやら道が平坦になったようじゃな。」
冷静さを取り戻し、状況を確認する。
いつの間にか天馬が止まっていた。
「かなり広いわね。」
「こんな空間が地下に存在するなんて思いもしなかったわ。」
マリアとフィナが続けて天馬から降りて、周囲を確認して言った。
「オルディヌ、頭上に強い光を作れるか?」
「大丈夫。」
オルディヌの指先から登った頭大の光が周囲を照らす。
馬車が三台くらいは並んで走れそうなほどの幅がある。
天井もかなり高い。
「本当に広い。」
荷台を降りた私も、エルメラ達に合流してあたりを見回した。
「降りて来た穴と、この空間を繋ぐ部分がちょっとした段差になってたんだな。」
グエンに言われて見ると、確かに小さな段差があった。
「ここから先は、余が天馬を動かすしかないようじゃな。」
平らになった道の先を見ながらエルメラが言う。
「動かすだけなら、うちの魔法で押すことも出来るんじゃないかしら。」
「それはありがたいのう。体力温存のため、道の状況を確認しながら交代してもらえると助かるのじゃ。」
「わかったわ。」
風で押すか、確かにフィナが居なかったら出ない発想ね。
「じゃぁ天馬に風受けを付けたらいいんじゃねぇか?」
「グエンにしては良い事を言うではないか。」
「しては、は余計だ。」
そこで笑いが起きた。
久しぶりの雰囲気。
そう思えるほど、この道程はしんどい。
「頭、撫でてあげようか?」
「やめろ。どっかの阿呆女が嬉々として笑みを浮かべるのが容易に想像つく。」
小声で言ってみたら、呆れた目を向けて来た。
「気を紛らわせたのよ。」
「わかってるって。」
私もだけど。
陰鬱とした気分が、だいぶ緩和された。
「そこまで言うならお姉さんも紛らわして欲しいなぁ。」
と、こっちを向いたマリアが寂しそうに言ってきた。
「どんな耳だよ・・・」
本当にね。
聞こえているとは思わなかった。
「ならば、一旦荷物を此処に置いて地上に戻ろうかの。」
「え、戻るの?」
確かに、それはありかも。
「理由はいくつかある。此処から先はまだ長いじゃろうからな。一つは此処を最初の拠点として荷物を置ける、かなり広いからのう。二つ目は、天馬の改造じゃ。グエンの言った通り荷台の連結と風受け、これからの距離を進むのに必要じゃろう。最後は、思った以上に精神が疲弊する事がわかった。一旦戻り休んでから再出発がいいじゃろう。状況がわかったのだから、心構えも変わるじゃろ?」
確かにエルメラの言う通りだ。
力の温存や気持ちの切り替え等、今後進むにあたり必要だと痛感した。
「あたし賛成。陽の光を浴びたい。」
「お姉さんも庭園見ながらだらけたい。」
他も、聞くまでもなく地上に戻る話しが出た時点で安堵の表情になっていた。
「異論は無いようじゃな。」
「では荷物を下ろしたら休憩して、地上に戻ろうぞ。帰りの天馬は最速じゃ。」
みんなが頷いたのを確認したエルメラは、笑顔で言った。
それからある程度の保存食、水、衣類等を下ろして休憩。
多少は残さないと帰り分の食料が無くなるので残しているが、それでもかなり軽くなった。
緩いとはいえ上り坂になる帰り路も、それを感じさせない程天馬は軽快に走った。
私は早くゆっくりしたい気持ちで、引かれる荷台にしっかりと掴まって闇の中を駆け抜ける。
そんな気分だった。
入り口の扉から漏れる光が目に入ると、天馬は減速。
荷台が衝突しない様にフィナが魔法で緩衝して、扉を抜けた時も天馬と荷台を保護する。
こうして、一回目の探索が終わり、かなり疲弊した状態で私たちはお城に戻った。
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