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七章 女神ニ捧グ憤怒ノ業
67.番人
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「お帰りなさいませ!」
天馬の場所から城内に入り、歩いていると気付いた使用人が慌てて駆け寄って首を垂れる。
「もう余はお主らの主ではない、畏まる必要は無い筈じゃ。」
エルメラが苦笑しながら言うも、使用人は左右に首を振った。
「わたくし達にとってエルメラデウス様は敬意を表すに値するお方、立場が変わってもそれは変わりません。」
「面倒な事じゃ。」
と言うものの、まんざらでもなさそうだった。
「いかがいたしましょうか?」
とりあえずゆっくりはしたい。
「ふむ、久々にお主らの作る料理を食したいのう。」
エルメラが考えている間に、使用人は私たちに一通り目を向けていた。
「用意致しますが、その前に湯浴みの準備を致します。いかがでしょうか?」
あぁ、なるほど。
汚いのね、私たち。
言われるまで気付かなかったけれど、臭う・・・
「言われてみればそうじゃな、そうしよう。ところで、どれくらい経過しておる?」
使用人は考える素振りをしてゆっくりと口を開く。
「十日程でしょうか。」
それなりの日数潜っていたのね。
そりゃ気が滅入るのも頷ける。
距離的には一か月ほどだけど、それが耐えられるか。
ただ、あの道がずっと女神まで続いているのならば、真っ直ぐではない地上を走るより近いだろうか。
「アリアよ、どう思う?」
何故私?・・・
「帰りは時間がそれほどかかってないから、物資を置いた場所まで一週間くらいかな。」
警戒しながら進んだ事を考えれば、距離的にはそこまで進んでいないと思う。
「ふむ。」
「次は多分、二日~三日くらいでいける距離な気がする。」
「余も同感じゃ。」
「げ、思ったほど進んでないじゃん・・・」
言ってリリエルは脱力した。
あれだけの思いをした結果としては、項垂れる気持ちもわかる。
「でも、かなり整えられているから地上を往くより日数の短縮は見込める気がする。それもあの路が続いている事が前提だけれど。」
「そうじゃな。」
フィナの魔法と合わせて天馬の速度をあげれば、早くて十日前後。
希望的過ぎか・・・
「次はいつ出発すんだ?」
「明日には物資を用意して、明後日じゃな。それまで身体を休めるがよい。」
「もうすぐ一棟目が建ちますな。」
柱から屋根まで組みあがった建物を見てエウスは言った。
その一棟が建ったからと言って、全員が住めるわけではなく、家財も用意していない。
それでも、未開の土地を均して建屋が出来るまでを見てきたため、そこに感慨があった。
「私もこの様な状況に居合わせられた事を嬉しく思います。」
隣で聞いていたカラフも、その光景を見ながら口にする。
「カラフ殿は、ここが落ち着いたらどうされますか?やはりユーテウェリ殿に着いていくのでしょうな。」
言われたカラフは空を見上げ、建屋に視線を戻し、背後の畑になる土地を見た。
「いえ、坊ちゃまにもう私は必要無いでしょう。」
認識の甘さを痛感させられたあの日から、ユーテウェリに変化が起きた。
持った力も立場も覆され、女神の下へ向かう頃には明らかにその変化は見て取れた。
それは執事として仕えた自分では出来ない範疇であったし、何より本人がその変化を受け入れたという証左。
であれば、もう傍に立たずとも一人で前に進めるだろうとカラフは思って口にした。
「それは違いますぞ。」
そんな事を考えていると、エウスがカラフを見据えて言った。
その言葉の意味を理解できずに言葉に詰まる。
「ユーテウェリ殿にとって、カラフ殿はきっと家族です。地位や立場が変わったとしても、一緒に過ごした時間が変わるわけではありませぬ。傍に居なくとも、その存在が無くてもいい等とはきっと思いませんよ。」
「そうでしょうか・・・」
カラフはそれだけ漏らすと、暫く作業を眺めていた。
「可能ならば、ここの発展の手伝いをしたいと思っております。」
黙って待っていたエウスは、その言葉に特に反応もせず同じ方向を見続ける。
「実はカラフ殿ならそう言うと思って、声を掛けました。」
「お見通しですか。」
言って苦笑する。
どちらにしろ、ウォーゼハル家に戻る事はないだろう。
そもそもウォーゼハル家ではなく、ユーテウェリに仕えている身。
本人がもう戻る事はないと思えたから、行く場所が無いのならと思っていた。
「私も此処にばかり注力する立場ではいられなくなりました。他にあてが無かったとも言いますな。」
エウスは言うと声を出して笑った。
「うまいこと乗せられてしまいました。」
同様にカラフも笑う。
「さて、休憩はこれくらいにして続きをやりますか。」
「ですな。建つまでに水場を作り、落ち着かせる必要もありますし、調理場も必要ですからな。」
エウスの言葉に、カラフは頷くと二人で作業の続きに戻った。
「早かったね。」
「うむ。後はこの道がどれくらい続いているかじゃな。」
笑顔で言うリリエルにエルメラが頷く。
二回目で、到着時間も短かったためか気持ちが楽だ。
それはリリエルも同様なのか、声も軽い。
予定通り準備を終えた翌日、私たちは再び穴に潜り天馬が転がるに任せた速度で中継地点まで降りて来た。
「フィナ、併用で動かすぞ。」
「わかったわ。うちが後ろから魔法を使えばいいのね。」
「うむ。走り出しはどうしても重いからの、先に動かしてもらえると助かる。」
って事は、ここからはフィナと一緒か。
「グエンよ、余は魔法に集中するため操舵はお主がせよ。」
「へいへい。」
グエンは頭を掻きながら、天馬に近付いていく。
ここからどれくらい続くのか不明だけど、先の見えない暗闇は不安を掻き立てる。
それは、塵として生まれた時の未来のようだ。
ふと、そんな事を思ってしまう。
配置はフィナとグエンが入れ替わった以外に変更は無い。
灯り担当のオルディヌと、障害物対応のユーテは天馬に固定だ。
フィナの風で天馬がゆっくり走り出すと、すぐに速度が上がる。
エルメラが魔法を使ったのだろう。
安定して走り出すと、フィナが腰を下ろした。
「フィナはこれが終わったらニーメルラッゼに戻るんでしょ?」
「の予定だったのよねぇ。」
と言って苦笑した。
「あれ、戻らないの?」
その言葉にリリエルが疑問を口にした。
「もともとそういう話しだったのだけど、すぐに人も用意できないし、そっちに随分と馴染んだろ。だからまだそっちに居ろ。って返ってきたわ。」
うわ。
リヴィラエの思いはわからないが、フィナ自身は嫌じゃなさそう。
「信頼されてんじゃん?」
「だといいのだけど。現地に居るし都合がいいんじゃないかしら。もともと立場上の柵も無いし。」
それだけの理由じゃないと思うけどな。
「私は、フィナがフィナらしく居られるならって思ったんじゃないかなぁと。」
直接は会ってないからリヴィラエの事はよくわからない。
それでも、フィナの話しを聞く限り、大事にされていると思えたから。
「そうだったら嬉しいわ。」
と言って、フィナは優しく微笑んだ。
会った時から思うけれど、私もフィナみたいなお姉さんになれるかなぁ。
あんな大人に。
「リリエルはどうするのかしら?」
「あたしは物心ついた時からエルと一緒だから、変わらないと思う。特に行きたい場所も無いし。」
そっか。
「そう。なら暫くは一緒ね。」
「だね、よろしく。で、アリアちゃんは?」
この流れだと来ると思ったけど、きたか。
「とりあえずお母さんに挨拶。その後は考えてない。」
「そうなんだ。決まってないならエルのところに居ればいいじゃん。ウリカちゃんはアリアちゃんと一緒だよね?」
「モチロン。ワタシはずっとおねぇと一緒に居るよ。」
私はウリカに微笑む。
ウリカも笑顔で返した。
私が無理矢理引っ張ってきたんだ、当然だよね。
いつかウリカのやりたい事や行きたい場所、目標が出来る時までは居場所でいたい。
二度と、あんな思いをさせないように。
どれくらいの休憩と食事を繰り返しただろうか。
何も無い暗闇の通路。
床も天井も左右の壁も、無機質で冷たい。
距離も時間も麻痺する。
精神の疲弊は会話をも断つ。
食事の度に無言が増える。
機械的に合図をするだけの繰り返し。
本当に、女神に辿り着くのだろうか?
その不安だけが膨らんでくる。
何度目だろう。
天馬が停止する。
また、食事の時間か。
お腹が空いたのかどうかもわからない。
それよりも、本当に進んでいるのか、とさえ思ってしまう。
戻ったらお城に続く坂道がすぐにあるのではないか。
そんな事まで考えてしまうが、確認する勇気はない。
本当にそうだった場合、気持ちが崩れてしまう。
「アリアちゃん、聞いてる?」
「え?」
「大丈夫、暗い表情で反応が無かったから。」
良くないよね。
悪い事ばかり考えてしまうのは。
「うん、大丈夫。ご飯?」
リリエルだけ残って私の反応を待ってたみたい。
「違う。水場があったって。」
「ほんと?」
水場?
いままでそんなもの、まったく無かったのに。
みんなが集まっている場所に移動すると、確かに水が流れ出ていた。
壁に亀裂が入って漏れているとかじゃない。
明らかに造られた水場だ。
その場所だけ切り取られたように、壁が窪んでいる。
水場が通って来た通路にはみ出ない様に造られたのだろうと思えた。
壁の円形状の穴から溢れる水は、下に溜まるように出来ていて音を立てている。
幅は人一人の身長より長い。
深さは腰まで浸かるくらいだろうか。
溢れた水はその先に流れるように出来ており、横の壁に空いた穴に吸い込まれるように流れている。
「まるで人が使うように設えられたようじゃな。」
本当にそう。
近くに家があったら生活の場のようだ。
「本当にね。誰か住んでいるのかもしれないわよ。」
「怖いって・・・」
マリアが妖しい笑みを浮かべて言うと、リリエルが嫌そうな顔をした。
「あるものは使わせてもらおうぜ。休憩や中継地点としは十分だろ。」
「そうじゃな。火を使えば暖かいものも飲めそうじゃ。」
と言ってエルメラが私を見る。
「はいはい、やるわよ。」
マリアがお湯を沸かしてエルメラ用に紅茶を淹れている。
こんな場所にまで用意しているとは思わなかった。
私は乾燥させた野菜を水で戻し、スープの準備をしている。
「こんな場所で暖かいものを口に出来るなんて思わなかったわ。」
私もそう思う。
一番の問題は水だ。
飲用として、水分補給のために持ってきているので嗜好品やスープ等の余裕は無い。
「ちょっと嬉しくなっちゃうよね。」
フィナの言葉に、リリエルが同調する。
「水場とアリアが居れば潤いが出来るのう。」
私は道具か・・・
「干し肉も炙ればいつもと違った味でいけるぜ。」
・・・
まぁいいか。
久々に空気が和んだし。
「テンマでの移動はここまでっぽいよ。」
そこで、少し先を見に行くと言っていたウリカとオルディヌが戻って来た。
「行き止まり、ではなさそうじゃな。」
「はい。広い道がこの先で終わっています。そこから先は人が通れる程度の通路の様でした。」
ここからはいよいよ徒歩か。
「では、此処を次の中継地点としようぞ。水場もあるし休憩も可能じゃからな。」
「お風呂とまではいかないけれど、髪を洗ったり身体を拭いたりも出来るのはありがたいわ。」
エルメラに続き、マリアも同意する。
確かに、水場はいろんな意味で疲弊した心身を補ってくれる気がした。
「木材を持ってきて、ちょっとした囲いとか建てればいいんじゃねぇか?」
「女神倒したらもう使わないよ・・・」
「そうだな・・・」
思いついた様に言ったグエンの話しも、リリエルに呆れられた。
「さて、そろそろ確認しに行こうかの。通路を確認してから、一度戻るか進むか決めようぞ。」
お腹を満たし、休憩も終わり、エルメラの言葉に一同が頷くと歩いて移動する。
少し進むと、確かに通路は壁に遮られていた。
その中央に、観音開きの扉がある。
お城にもあるし、お屋敷にもあるような普通の扉と大きさは変わらない。
ただ、材質はやはり石の様だった。
「此処からどれくらいかかるかってところよね。」
「そうじゃな。」
入り口の左右には石像が置いてあった。
片方は甲冑姿で槍を持った像。
もう片方は剣を腰に下げ、両手を頭の後ろに回し壁に寄り掛かった像。
なにこれ?
「あの左の像、なんかやる気のない男が寄り掛かっている様ね。」
「ほんとだ。グエンみたいじゃん。」
「あそこまで腑抜けた顔はしてねぇわ!」
私が言うと、リリエルが笑いながら言った。
他のみんなもそれには笑い声を漏らしたが、グエンは不満だったみたい。
「男前を前にして腑抜けたはないなぁ。」
その時、知らない声が聞こえた。
一斉に身構える。
声の主は、明らかにやる気のない石像だった。
みんながその石像を注視していると、石像は色味を帯びて人間に変化していった。
天馬の場所から城内に入り、歩いていると気付いた使用人が慌てて駆け寄って首を垂れる。
「もう余はお主らの主ではない、畏まる必要は無い筈じゃ。」
エルメラが苦笑しながら言うも、使用人は左右に首を振った。
「わたくし達にとってエルメラデウス様は敬意を表すに値するお方、立場が変わってもそれは変わりません。」
「面倒な事じゃ。」
と言うものの、まんざらでもなさそうだった。
「いかがいたしましょうか?」
とりあえずゆっくりはしたい。
「ふむ、久々にお主らの作る料理を食したいのう。」
エルメラが考えている間に、使用人は私たちに一通り目を向けていた。
「用意致しますが、その前に湯浴みの準備を致します。いかがでしょうか?」
あぁ、なるほど。
汚いのね、私たち。
言われるまで気付かなかったけれど、臭う・・・
「言われてみればそうじゃな、そうしよう。ところで、どれくらい経過しておる?」
使用人は考える素振りをしてゆっくりと口を開く。
「十日程でしょうか。」
それなりの日数潜っていたのね。
そりゃ気が滅入るのも頷ける。
距離的には一か月ほどだけど、それが耐えられるか。
ただ、あの道がずっと女神まで続いているのならば、真っ直ぐではない地上を走るより近いだろうか。
「アリアよ、どう思う?」
何故私?・・・
「帰りは時間がそれほどかかってないから、物資を置いた場所まで一週間くらいかな。」
警戒しながら進んだ事を考えれば、距離的にはそこまで進んでいないと思う。
「ふむ。」
「次は多分、二日~三日くらいでいける距離な気がする。」
「余も同感じゃ。」
「げ、思ったほど進んでないじゃん・・・」
言ってリリエルは脱力した。
あれだけの思いをした結果としては、項垂れる気持ちもわかる。
「でも、かなり整えられているから地上を往くより日数の短縮は見込める気がする。それもあの路が続いている事が前提だけれど。」
「そうじゃな。」
フィナの魔法と合わせて天馬の速度をあげれば、早くて十日前後。
希望的過ぎか・・・
「次はいつ出発すんだ?」
「明日には物資を用意して、明後日じゃな。それまで身体を休めるがよい。」
「もうすぐ一棟目が建ちますな。」
柱から屋根まで組みあがった建物を見てエウスは言った。
その一棟が建ったからと言って、全員が住めるわけではなく、家財も用意していない。
それでも、未開の土地を均して建屋が出来るまでを見てきたため、そこに感慨があった。
「私もこの様な状況に居合わせられた事を嬉しく思います。」
隣で聞いていたカラフも、その光景を見ながら口にする。
「カラフ殿は、ここが落ち着いたらどうされますか?やはりユーテウェリ殿に着いていくのでしょうな。」
言われたカラフは空を見上げ、建屋に視線を戻し、背後の畑になる土地を見た。
「いえ、坊ちゃまにもう私は必要無いでしょう。」
認識の甘さを痛感させられたあの日から、ユーテウェリに変化が起きた。
持った力も立場も覆され、女神の下へ向かう頃には明らかにその変化は見て取れた。
それは執事として仕えた自分では出来ない範疇であったし、何より本人がその変化を受け入れたという証左。
であれば、もう傍に立たずとも一人で前に進めるだろうとカラフは思って口にした。
「それは違いますぞ。」
そんな事を考えていると、エウスがカラフを見据えて言った。
その言葉の意味を理解できずに言葉に詰まる。
「ユーテウェリ殿にとって、カラフ殿はきっと家族です。地位や立場が変わったとしても、一緒に過ごした時間が変わるわけではありませぬ。傍に居なくとも、その存在が無くてもいい等とはきっと思いませんよ。」
「そうでしょうか・・・」
カラフはそれだけ漏らすと、暫く作業を眺めていた。
「可能ならば、ここの発展の手伝いをしたいと思っております。」
黙って待っていたエウスは、その言葉に特に反応もせず同じ方向を見続ける。
「実はカラフ殿ならそう言うと思って、声を掛けました。」
「お見通しですか。」
言って苦笑する。
どちらにしろ、ウォーゼハル家に戻る事はないだろう。
そもそもウォーゼハル家ではなく、ユーテウェリに仕えている身。
本人がもう戻る事はないと思えたから、行く場所が無いのならと思っていた。
「私も此処にばかり注力する立場ではいられなくなりました。他にあてが無かったとも言いますな。」
エウスは言うと声を出して笑った。
「うまいこと乗せられてしまいました。」
同様にカラフも笑う。
「さて、休憩はこれくらいにして続きをやりますか。」
「ですな。建つまでに水場を作り、落ち着かせる必要もありますし、調理場も必要ですからな。」
エウスの言葉に、カラフは頷くと二人で作業の続きに戻った。
「早かったね。」
「うむ。後はこの道がどれくらい続いているかじゃな。」
笑顔で言うリリエルにエルメラが頷く。
二回目で、到着時間も短かったためか気持ちが楽だ。
それはリリエルも同様なのか、声も軽い。
予定通り準備を終えた翌日、私たちは再び穴に潜り天馬が転がるに任せた速度で中継地点まで降りて来た。
「フィナ、併用で動かすぞ。」
「わかったわ。うちが後ろから魔法を使えばいいのね。」
「うむ。走り出しはどうしても重いからの、先に動かしてもらえると助かる。」
って事は、ここからはフィナと一緒か。
「グエンよ、余は魔法に集中するため操舵はお主がせよ。」
「へいへい。」
グエンは頭を掻きながら、天馬に近付いていく。
ここからどれくらい続くのか不明だけど、先の見えない暗闇は不安を掻き立てる。
それは、塵として生まれた時の未来のようだ。
ふと、そんな事を思ってしまう。
配置はフィナとグエンが入れ替わった以外に変更は無い。
灯り担当のオルディヌと、障害物対応のユーテは天馬に固定だ。
フィナの風で天馬がゆっくり走り出すと、すぐに速度が上がる。
エルメラが魔法を使ったのだろう。
安定して走り出すと、フィナが腰を下ろした。
「フィナはこれが終わったらニーメルラッゼに戻るんでしょ?」
「の予定だったのよねぇ。」
と言って苦笑した。
「あれ、戻らないの?」
その言葉にリリエルが疑問を口にした。
「もともとそういう話しだったのだけど、すぐに人も用意できないし、そっちに随分と馴染んだろ。だからまだそっちに居ろ。って返ってきたわ。」
うわ。
リヴィラエの思いはわからないが、フィナ自身は嫌じゃなさそう。
「信頼されてんじゃん?」
「だといいのだけど。現地に居るし都合がいいんじゃないかしら。もともと立場上の柵も無いし。」
それだけの理由じゃないと思うけどな。
「私は、フィナがフィナらしく居られるならって思ったんじゃないかなぁと。」
直接は会ってないからリヴィラエの事はよくわからない。
それでも、フィナの話しを聞く限り、大事にされていると思えたから。
「そうだったら嬉しいわ。」
と言って、フィナは優しく微笑んだ。
会った時から思うけれど、私もフィナみたいなお姉さんになれるかなぁ。
あんな大人に。
「リリエルはどうするのかしら?」
「あたしは物心ついた時からエルと一緒だから、変わらないと思う。特に行きたい場所も無いし。」
そっか。
「そう。なら暫くは一緒ね。」
「だね、よろしく。で、アリアちゃんは?」
この流れだと来ると思ったけど、きたか。
「とりあえずお母さんに挨拶。その後は考えてない。」
「そうなんだ。決まってないならエルのところに居ればいいじゃん。ウリカちゃんはアリアちゃんと一緒だよね?」
「モチロン。ワタシはずっとおねぇと一緒に居るよ。」
私はウリカに微笑む。
ウリカも笑顔で返した。
私が無理矢理引っ張ってきたんだ、当然だよね。
いつかウリカのやりたい事や行きたい場所、目標が出来る時までは居場所でいたい。
二度と、あんな思いをさせないように。
どれくらいの休憩と食事を繰り返しただろうか。
何も無い暗闇の通路。
床も天井も左右の壁も、無機質で冷たい。
距離も時間も麻痺する。
精神の疲弊は会話をも断つ。
食事の度に無言が増える。
機械的に合図をするだけの繰り返し。
本当に、女神に辿り着くのだろうか?
その不安だけが膨らんでくる。
何度目だろう。
天馬が停止する。
また、食事の時間か。
お腹が空いたのかどうかもわからない。
それよりも、本当に進んでいるのか、とさえ思ってしまう。
戻ったらお城に続く坂道がすぐにあるのではないか。
そんな事まで考えてしまうが、確認する勇気はない。
本当にそうだった場合、気持ちが崩れてしまう。
「アリアちゃん、聞いてる?」
「え?」
「大丈夫、暗い表情で反応が無かったから。」
良くないよね。
悪い事ばかり考えてしまうのは。
「うん、大丈夫。ご飯?」
リリエルだけ残って私の反応を待ってたみたい。
「違う。水場があったって。」
「ほんと?」
水場?
いままでそんなもの、まったく無かったのに。
みんなが集まっている場所に移動すると、確かに水が流れ出ていた。
壁に亀裂が入って漏れているとかじゃない。
明らかに造られた水場だ。
その場所だけ切り取られたように、壁が窪んでいる。
水場が通って来た通路にはみ出ない様に造られたのだろうと思えた。
壁の円形状の穴から溢れる水は、下に溜まるように出来ていて音を立てている。
幅は人一人の身長より長い。
深さは腰まで浸かるくらいだろうか。
溢れた水はその先に流れるように出来ており、横の壁に空いた穴に吸い込まれるように流れている。
「まるで人が使うように設えられたようじゃな。」
本当にそう。
近くに家があったら生活の場のようだ。
「本当にね。誰か住んでいるのかもしれないわよ。」
「怖いって・・・」
マリアが妖しい笑みを浮かべて言うと、リリエルが嫌そうな顔をした。
「あるものは使わせてもらおうぜ。休憩や中継地点としは十分だろ。」
「そうじゃな。火を使えば暖かいものも飲めそうじゃ。」
と言ってエルメラが私を見る。
「はいはい、やるわよ。」
マリアがお湯を沸かしてエルメラ用に紅茶を淹れている。
こんな場所にまで用意しているとは思わなかった。
私は乾燥させた野菜を水で戻し、スープの準備をしている。
「こんな場所で暖かいものを口に出来るなんて思わなかったわ。」
私もそう思う。
一番の問題は水だ。
飲用として、水分補給のために持ってきているので嗜好品やスープ等の余裕は無い。
「ちょっと嬉しくなっちゃうよね。」
フィナの言葉に、リリエルが同調する。
「水場とアリアが居れば潤いが出来るのう。」
私は道具か・・・
「干し肉も炙ればいつもと違った味でいけるぜ。」
・・・
まぁいいか。
久々に空気が和んだし。
「テンマでの移動はここまでっぽいよ。」
そこで、少し先を見に行くと言っていたウリカとオルディヌが戻って来た。
「行き止まり、ではなさそうじゃな。」
「はい。広い道がこの先で終わっています。そこから先は人が通れる程度の通路の様でした。」
ここからはいよいよ徒歩か。
「では、此処を次の中継地点としようぞ。水場もあるし休憩も可能じゃからな。」
「お風呂とまではいかないけれど、髪を洗ったり身体を拭いたりも出来るのはありがたいわ。」
エルメラに続き、マリアも同意する。
確かに、水場はいろんな意味で疲弊した心身を補ってくれる気がした。
「木材を持ってきて、ちょっとした囲いとか建てればいいんじゃねぇか?」
「女神倒したらもう使わないよ・・・」
「そうだな・・・」
思いついた様に言ったグエンの話しも、リリエルに呆れられた。
「さて、そろそろ確認しに行こうかの。通路を確認してから、一度戻るか進むか決めようぞ。」
お腹を満たし、休憩も終わり、エルメラの言葉に一同が頷くと歩いて移動する。
少し進むと、確かに通路は壁に遮られていた。
その中央に、観音開きの扉がある。
お城にもあるし、お屋敷にもあるような普通の扉と大きさは変わらない。
ただ、材質はやはり石の様だった。
「此処からどれくらいかかるかってところよね。」
「そうじゃな。」
入り口の左右には石像が置いてあった。
片方は甲冑姿で槍を持った像。
もう片方は剣を腰に下げ、両手を頭の後ろに回し壁に寄り掛かった像。
なにこれ?
「あの左の像、なんかやる気のない男が寄り掛かっている様ね。」
「ほんとだ。グエンみたいじゃん。」
「あそこまで腑抜けた顔はしてねぇわ!」
私が言うと、リリエルが笑いながら言った。
他のみんなもそれには笑い声を漏らしたが、グエンは不満だったみたい。
「男前を前にして腑抜けたはないなぁ。」
その時、知らない声が聞こえた。
一斉に身構える。
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同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
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