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七章 女神ニ捧グ憤怒ノ業
70.屠殺
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エルメラが跳躍からの右拳打ち下ろしを放つが女神が右手で受け止める。
その拳から放たれた雷をも女神の右手が弾き霧散した。
私も続いて跳躍して、黒い炎を纏わせた短刀を振り下ろすが、左手に防がれる直前炎が消え受け止められる。
皮膚に傷すら付けられなかった。
「言うだけの事はあるの。」
「中途半端な攻撃は無いのと一緒ね。」
「言っただろう。所詮は片鱗だと。そして、その片鱗すら持たぬものの攻撃など無に等しい。」
私の後に続いたウリカの拳を左手で受け止めて掴むと、女神はウリカを振り投げた。
「硬っ。」
「ウリカ、大丈夫?」
「モチロン、こっから本気出す。」
ウリカの瞳に一瞬黒い陰りが見えた気がした。
直後、身体が膨張して衣服が破れる。
「使いたくないけど、そうも言ってられないカラ。」
その姿は以前と違い、太く筋肉質ではないもののしなやかで力強く見えた。
ウリカが身を撓め、床を蹴るともの凄い速さで女神との距離を縮める。
「所詮は一過性の暴走。知らぬとでも思ったか。」
もう一度ウリカの拳を女神は掌で受け止めた。
「・・・」
「ワタシの力はおねぇからもらったもの、その辺の滓と一緒にすんな!」
振りぬいたウリカの拳に弾かれた女神の手は、指があらぬ方向に曲がっていた。
続けて放ったウリカの回し蹴りは、女神の顔を歪めてよろめかせる。
「やるのう。」
ゆっくりと傾く女神の胴に、エルメラが一足飛びで踏み込んだ。
「極転・双!」
エルメラの雷を纏った左拳の回し打ちが胴を打つと、軽く浮き上がる。
さらに踏み込んで右拳を真っ直ぐに打ち込んだ。
黒を含んだ女神が見えなくなる程の紫電が弾け、爆音とともに女神の身体が後方に吹き飛ぶ。
「面白い・・・お主らが歩んだ軌跡もろとも、取り込んでやろう。」
膝を付いて止まった女神は、右手を床に付ける。
「覇天。」
「っ!?」
追い打ちを掛けようと追いかけた私は、床に叩きつけられた。
横目に見えたが、みんな同じ。
辛うじてウリカは耐えているものの、時間の問題な気がした。
まるで、上から何かで圧し潰されている感じ。
重圧で呼吸もままならない。
「そのまま死ぬがいい。」
遠くの方から轟音が聞こえた。
(なんだかわからないけれど、このまま終わってたまるか・・・)
「黒翼・暴。」
背中に奔る激痛と共に、黒い光が噴出して撒き散らされると何かが砕ける音がした。
(楽になった!)
「これも突破してくるか。だが時間の問題だ。」
まだ余裕をくれている女神の前に一足飛びで移動する。
「刃煉・纏。」
短刀にもう一度黒い炎を纏わせる。
だけど、さっきの包む程度じゃない、私の身長より長い極太の炎。
身体から何か吸い取られるような感覚に耐えながら振りぬく。
「やってくれる・・・」
受け止めた女神の左手ごと、胴の半分までを斬り割いた。
「後ろ、洪水!」
背後からリリエルのそんな声が聞こえた。
こんな場所で洪水!?
「溺れ死ね。」
振り向くと通路を埋め尽くす水がもの凄い勢いで部屋に向かってきていた。
「そんなに抑えらんねぇから早く終わらせろ!」
グエンが女神に使った土を魔法で広げ、通路を塞いだ。
でも、あの土そんなに量はなかった筈。
案の定、水が激突した衝撃で何カ所も穴が空き水が噴き出す。
「あたしも!」
それを補強する様にリリエルが壁の向こうの水を凍らせた。
「おねぇ!よそ見してる場合じゃない!」
ウリカが女神の頭を掴んで床に叩きつける。
そうだった。
「やるのじゃ!」
言われなくても。
「黒点・荊!」
女神を包む様に黒い光が迸ると、明滅しながら床に縫い留める。
「避けて!!」
その時、頭上から聞こえた声に私とウリカは咄嗟に跳び退った。
だが女神も抵抗して、腕を強引に曲げながら上空に向ける。
「光穿・燦!!」
上を見るとフィナに抱えられたオルディヌが両手を女神に向けて叫んだところだった。
そこへ女神が創り出した光の剣が飛来。
「させるか!」
ユーテが左手を翳し、剣を消滅させた。
数多もの黒を帯びた光の粒が、オルディヌ本人が見えなくなるほど顕れ、光の筋となって驟雨の如く女神に降り注ぐ。
「この地に、何が起きるかわからんぞ・・・」
女神に降り注いだ光は、その身体を貫いていった。
手も、足も、身体も、頭部も。
穴が開き分断され破片になっていき、黄金の瞳もやがて光を失った。
最後に嫌な言葉を残して。
「ふわぁ・・・あれ・・・せっかく良い恰好で石になった筈なんだけどな・・・」
男は胡坐をかいたまま顎に手を当てる。
「冷てっ・・・」
尻に感じた冷たさに慌てて立ち上がった。
「って、なんで水浸しなんだよ・・・」
男は考える素振りをしたが、すぐに壁に片手を付いて項垂れた。
「よし、今度はこの格好でもっかい寝よ・・・」
「・・・」
「どういう事だよ!」
男は壁に寄り掛かり、もう一度顎に指を持って行った。
「石になれないって、魔法が解けたって事か?」
男は扉の前に移動すると、真っ暗な先に視線を向ける。
「おいおい、まさかあいつら・・・」
女神が死んだ後、部屋は水没した。
リリエルが作った氷にみんなで乗り、浮かんでいる状況。
寒いので陽炎の炎をみんなで囲んでいる。
「これ、どうやって帰るの?」
リリエルが寒さに震えながら言った。
本当に、来た道は完全に水没して塞がっている。
「壁に穴をあけるしかあるまい。」
「オルディヌの魔法で傷もつかない壁にどうやって空けんだよ・・・」
グエンも困ったように周囲を見渡す。
「思うに、この場所自体女神の力で護られていたに違いない。その力が失われた今、可能やもしれんぞ。」
あぁ。
なるほど。
試す価値はありそうだけど・・・
「もう、魔法撃つ力がないです。」
オルディヌが申し訳なさそうに言った。
「今こそグエンが壁の外側の土を動かす時だよ。」
「おぉ!なるほど。」
グエンが壁に向かって右手を向けた。
「・・・」
「使えねぇ・・・」
「うるせぇよ!壁が硬すぎなんだよ、俺が使えねぇわけじゃないからな!」
何も起きずに呆れたリリエルにグエンが抗議する。
「ユーテが水を消すってのは?」
「どれだけの量があると思っている。この部屋の水量を消すのすら無理だ。」
「やっぱり・・・」
今度はユーテがリリエルに呆れた目を向けた。
しかし、女神の力か。
もし本当にそれで護られていたなら、今はそうじゃないって事よね。
「ウリカ。」
「なにおねぇ。」
「この短刀、向こうの壁に思いっきり投げて刺さるか試してみて。」
「ウン。」
私は短刀に黒い光を纏わせると、ウリカに渡した。
しかし変だな、思ったように魔法が出せない。
まぁいいか。
「えい!」
真っ直ぐ飛んだ短刀は見事に壁に突き刺さった。
「で、刺さったから何?」
って言われてもねぇ。
そう思って言ったリリエルに冷めた目を向ける。
「遊ぶなら外に戻ってからにせぇ。余が真面目に考えておる時にまったく・・・」
「私が考えてないみたいじゃない!」
まったくは私の方よ。
その時、嫌な音がした。
「不穏じゃ・・・」
エルメラの言葉の直後、短刀が刺さった場所から壁に亀裂が縦横無尽に迸った。
「まずいんじゃない?」
「うちも嫌な予感しかしないわ。」
その後に、崩れ始めた壁が轟音を立てて水に落ちる。
「って、流れてる!」
どうやら入り口とは反対側に穴が空いたらしく、いっきに水が流れ始めた。
「リリエル、氷!」
「わかってるよ!」
乗っていた氷を壁まで凍らせて、流されるのは回避出来た。
が、不穏な音は止まず、頭上から何かが降ってくる。
「え・・・上も崩れる?」
「女神の力が無くなったからの、崩落しそうじゃな。」
分析している場合じゃないって。
「呑気な事を言ってないで、早く戻るぞ!」
グエンがオルディヌを抱えて氷から飛び降りた。
「そうじゃな。」
続いて飛び降り、入り口に向かって走る。
「長居はしてらんねぇが、地道に歩くしかねぇよな。」
緩やかな上り坂を見上げ、グエンが嫌そうに言った。
でも、それしかない。
「リリエル、床にみんなが乗れる氷を作って。」
「え、うん。」
「どうするのじゃ?」
「うちが風で押して滑らせる。」
「あ、じゃぁ風を受けれる部分も作るね。」
なるほど、確かにそれなら歩くより楽かも。
「小さくねぇか?」
「あたしもあんまり力が残ってない、魔法使い過ぎたかな・・・」
と言って苦笑した。
みんな、満身創痍って事かな。
「まぁよい。乗れるのだから早く行くのじゃ。」
氷に乗り込むと、フィナの魔法で滑り出す。
緩やかな登りだったが、濡れている所為かかなり滑りがよく速度も乗った。
「どぅわぁ・・・っぶねぇなこのやろう!」
広い通路に飛び出した瞬間、誰かの罵倒が響き渡った。
投げ出された私たちは着地したが、氷は床に叩きつけられて砕けてしまう。
「よし、後は天馬に乗って帰るだけじゃ。」
「その前に、ちょっと休憩しない?ここなら物資もあるし。」
あぁ、確かに。
それは良いかも。
だけど、ここは崩れないのかな?
「なら、少し休憩しましょう。長居はしないようにして。」
「そうじゃな。アリア。」
「はいはい・・・」
火ね。
「マリア、紅茶じゃ・・・」
火を起こすと、エルメラがいつも通り言って、黙り込んだ。
それはみんな同じ。
もう、マリアは・・・
「いやぁ寒かったんで助かるわ。」
その時、空気をぶち壊すように火にあたっている誰かが言った。
「何をしておる?」
「濡れて寒いから暖まってんだが?」
あ、石の人だ。
「もう用はないじゃろ、石になっておれ。」
「うわぁ、冷たい事を言うねぇ。どうやら魔法が解けちまったみたいでもうなれねぇ。」
そういう事か。
「あぁ、あたしたちやっちゃったからね。」
「そうだな。しかたねぇ。」
「まぁ、そういう事なら許可しよう。」
「ついでに地上まで連れてってくれ。」
・・・
なんて図々しいの。
「その様な義理はないのう。」
「あ、ついでに地上がどうなってるのか、どれくらい年月が経ってるのかもわからねぇ。住む場所や仕事も世話してくれると嬉しいなぁ。」
男は笑顔で言った。
エルメラは連れて行く事も断ったのに、その先の話しをしてる!
図々しさもここまで来るとある意味凄い。
「あ!って連れてってくんねぇの!?」
いや、違った。
遅・・・
「騒がしい奴じゃな。」
「何でもするから頼む。」
男は膝を付いて頭を下げた。
「仕方ない、地上までは連れてってやるかの。」
折れたエルメラだったが、男の姿勢は変わらずに頭を下げたまま。
「わかったわかった。多少の面倒は見てやる・・・」
エルメラが根負けした。
「助かる!命の恩人だ、俺も命を懸けて出来る事はする。」
と、満面の笑みで言った。
調子のいい奴。
「ねぇ、なんか音が響いてない?」
リリエルが来た方向に目を向ける。
「此処もやべぇんじゃねぇか?」
「急いで天馬に乗るのじゃ!」
慌てて来た時と同じ様に馬車に乗り込む。
「なんで後ろに乗ったのよ。」
「もう障害物がないのは確認済みなんだ、僕が乗りたい方に乗ってもいいだろう。」
後ろに乗って来たユーテに言うと、不貞腐れる様に言った。
崩落の影響で何か落ちている可能性はあるんだけど。
まぁいいか。
「あんたは前に乗りなさいよ。」
「いや、こっちの方が気楽そうだから。」
この男は・・・
「時間が無いからもう出すわよ。」
フィナが言うと、天馬に風を当てる。
ゆっくりと動き出すと、そのうち速度が上がり始める。
よくよく考えれば、今の状態で走り続けられるのかな。
エルメラも相当消耗している筈だから。
でも、抜けるしかない。
こんな場所で生き埋めになって死にたくはないから。
でも、この力がもう誰かに継がれることが無いってのだけは、良かった。
「もう、動けぬ・・・」
何とかお城まで辿り着くと、エルメラは天馬から降りずに項垂れて言った。
ここまで戻れたのはエルメラとフィナのおかげだ。
「うちも、もう限界。こんなの、初めて・・・」
と言って荷馬車で横たわったまま動かない。
その時、轟音が聞こえて来た。
今度は何!?
「すまぬ、誰か確認してくれ。」
天馬からエルメラが力なく言った。
「ウリカ、行こう。」
「ウン。」
「待って、あたしも行く!」
「ガキだけじゃ心許ねぇ、俺も行ってやる。」
「居ても居なくても変わんないって。」
「地上に戻ったんだからそれなりに使えるわ!」
自分でそれなりにって言ってる時点で悲しいとは思わないのかな。
「敷地内の土をどうにかしたらエルメラに怒られるだろう。僕も行こう。」
ユーテの突っ込みに、グエンは渋い顔をした。
一階に上がると使用人がこちらに気付いて駆け寄ってくる。
「みなさま、ご無事でなによりです。」
「それより、この断続的に続く凄い音って・・・」
その時、窓の外が閃光に包まれた。
直後に耳を劈くような轟音が窓を震わす。
「雷・・・」
「はい。数日前から落雷と雨が酷く。晴れたかと思うと、また今の様な状況になったり不安定になっておりまして。」
「なんだ、雷雨か。」
グエンは気が抜けたようで、近くの壁に寄り掛かって言った。
「でもさ、そこまで荒れるなんて今まで無かったよね。」
「はい。長年この城に居りますが、ここまで変化の激しい天気は初めてでございます。」
やはり。
私も、そんな移り変わりは経験した事が無い。
「やっぱ、あれかな。」
「たぶん、あれじゃん。」
ウリカの疑問に、リリエルも同調した。
もし、あの神が少しでも過ごしやすくしていたなら、居なくなった影響か。
それとも、神を殺した事に対する天の怒りと、死んだ事への号泣なのかもしれない・・・
七章 了
その拳から放たれた雷をも女神の右手が弾き霧散した。
私も続いて跳躍して、黒い炎を纏わせた短刀を振り下ろすが、左手に防がれる直前炎が消え受け止められる。
皮膚に傷すら付けられなかった。
「言うだけの事はあるの。」
「中途半端な攻撃は無いのと一緒ね。」
「言っただろう。所詮は片鱗だと。そして、その片鱗すら持たぬものの攻撃など無に等しい。」
私の後に続いたウリカの拳を左手で受け止めて掴むと、女神はウリカを振り投げた。
「硬っ。」
「ウリカ、大丈夫?」
「モチロン、こっから本気出す。」
ウリカの瞳に一瞬黒い陰りが見えた気がした。
直後、身体が膨張して衣服が破れる。
「使いたくないけど、そうも言ってられないカラ。」
その姿は以前と違い、太く筋肉質ではないもののしなやかで力強く見えた。
ウリカが身を撓め、床を蹴るともの凄い速さで女神との距離を縮める。
「所詮は一過性の暴走。知らぬとでも思ったか。」
もう一度ウリカの拳を女神は掌で受け止めた。
「・・・」
「ワタシの力はおねぇからもらったもの、その辺の滓と一緒にすんな!」
振りぬいたウリカの拳に弾かれた女神の手は、指があらぬ方向に曲がっていた。
続けて放ったウリカの回し蹴りは、女神の顔を歪めてよろめかせる。
「やるのう。」
ゆっくりと傾く女神の胴に、エルメラが一足飛びで踏み込んだ。
「極転・双!」
エルメラの雷を纏った左拳の回し打ちが胴を打つと、軽く浮き上がる。
さらに踏み込んで右拳を真っ直ぐに打ち込んだ。
黒を含んだ女神が見えなくなる程の紫電が弾け、爆音とともに女神の身体が後方に吹き飛ぶ。
「面白い・・・お主らが歩んだ軌跡もろとも、取り込んでやろう。」
膝を付いて止まった女神は、右手を床に付ける。
「覇天。」
「っ!?」
追い打ちを掛けようと追いかけた私は、床に叩きつけられた。
横目に見えたが、みんな同じ。
辛うじてウリカは耐えているものの、時間の問題な気がした。
まるで、上から何かで圧し潰されている感じ。
重圧で呼吸もままならない。
「そのまま死ぬがいい。」
遠くの方から轟音が聞こえた。
(なんだかわからないけれど、このまま終わってたまるか・・・)
「黒翼・暴。」
背中に奔る激痛と共に、黒い光が噴出して撒き散らされると何かが砕ける音がした。
(楽になった!)
「これも突破してくるか。だが時間の問題だ。」
まだ余裕をくれている女神の前に一足飛びで移動する。
「刃煉・纏。」
短刀にもう一度黒い炎を纏わせる。
だけど、さっきの包む程度じゃない、私の身長より長い極太の炎。
身体から何か吸い取られるような感覚に耐えながら振りぬく。
「やってくれる・・・」
受け止めた女神の左手ごと、胴の半分までを斬り割いた。
「後ろ、洪水!」
背後からリリエルのそんな声が聞こえた。
こんな場所で洪水!?
「溺れ死ね。」
振り向くと通路を埋め尽くす水がもの凄い勢いで部屋に向かってきていた。
「そんなに抑えらんねぇから早く終わらせろ!」
グエンが女神に使った土を魔法で広げ、通路を塞いだ。
でも、あの土そんなに量はなかった筈。
案の定、水が激突した衝撃で何カ所も穴が空き水が噴き出す。
「あたしも!」
それを補強する様にリリエルが壁の向こうの水を凍らせた。
「おねぇ!よそ見してる場合じゃない!」
ウリカが女神の頭を掴んで床に叩きつける。
そうだった。
「やるのじゃ!」
言われなくても。
「黒点・荊!」
女神を包む様に黒い光が迸ると、明滅しながら床に縫い留める。
「避けて!!」
その時、頭上から聞こえた声に私とウリカは咄嗟に跳び退った。
だが女神も抵抗して、腕を強引に曲げながら上空に向ける。
「光穿・燦!!」
上を見るとフィナに抱えられたオルディヌが両手を女神に向けて叫んだところだった。
そこへ女神が創り出した光の剣が飛来。
「させるか!」
ユーテが左手を翳し、剣を消滅させた。
数多もの黒を帯びた光の粒が、オルディヌ本人が見えなくなるほど顕れ、光の筋となって驟雨の如く女神に降り注ぐ。
「この地に、何が起きるかわからんぞ・・・」
女神に降り注いだ光は、その身体を貫いていった。
手も、足も、身体も、頭部も。
穴が開き分断され破片になっていき、黄金の瞳もやがて光を失った。
最後に嫌な言葉を残して。
「ふわぁ・・・あれ・・・せっかく良い恰好で石になった筈なんだけどな・・・」
男は胡坐をかいたまま顎に手を当てる。
「冷てっ・・・」
尻に感じた冷たさに慌てて立ち上がった。
「って、なんで水浸しなんだよ・・・」
男は考える素振りをしたが、すぐに壁に片手を付いて項垂れた。
「よし、今度はこの格好でもっかい寝よ・・・」
「・・・」
「どういう事だよ!」
男は壁に寄り掛かり、もう一度顎に指を持って行った。
「石になれないって、魔法が解けたって事か?」
男は扉の前に移動すると、真っ暗な先に視線を向ける。
「おいおい、まさかあいつら・・・」
女神が死んだ後、部屋は水没した。
リリエルが作った氷にみんなで乗り、浮かんでいる状況。
寒いので陽炎の炎をみんなで囲んでいる。
「これ、どうやって帰るの?」
リリエルが寒さに震えながら言った。
本当に、来た道は完全に水没して塞がっている。
「壁に穴をあけるしかあるまい。」
「オルディヌの魔法で傷もつかない壁にどうやって空けんだよ・・・」
グエンも困ったように周囲を見渡す。
「思うに、この場所自体女神の力で護られていたに違いない。その力が失われた今、可能やもしれんぞ。」
あぁ。
なるほど。
試す価値はありそうだけど・・・
「もう、魔法撃つ力がないです。」
オルディヌが申し訳なさそうに言った。
「今こそグエンが壁の外側の土を動かす時だよ。」
「おぉ!なるほど。」
グエンが壁に向かって右手を向けた。
「・・・」
「使えねぇ・・・」
「うるせぇよ!壁が硬すぎなんだよ、俺が使えねぇわけじゃないからな!」
何も起きずに呆れたリリエルにグエンが抗議する。
「ユーテが水を消すってのは?」
「どれだけの量があると思っている。この部屋の水量を消すのすら無理だ。」
「やっぱり・・・」
今度はユーテがリリエルに呆れた目を向けた。
しかし、女神の力か。
もし本当にそれで護られていたなら、今はそうじゃないって事よね。
「ウリカ。」
「なにおねぇ。」
「この短刀、向こうの壁に思いっきり投げて刺さるか試してみて。」
「ウン。」
私は短刀に黒い光を纏わせると、ウリカに渡した。
しかし変だな、思ったように魔法が出せない。
まぁいいか。
「えい!」
真っ直ぐ飛んだ短刀は見事に壁に突き刺さった。
「で、刺さったから何?」
って言われてもねぇ。
そう思って言ったリリエルに冷めた目を向ける。
「遊ぶなら外に戻ってからにせぇ。余が真面目に考えておる時にまったく・・・」
「私が考えてないみたいじゃない!」
まったくは私の方よ。
その時、嫌な音がした。
「不穏じゃ・・・」
エルメラの言葉の直後、短刀が刺さった場所から壁に亀裂が縦横無尽に迸った。
「まずいんじゃない?」
「うちも嫌な予感しかしないわ。」
その後に、崩れ始めた壁が轟音を立てて水に落ちる。
「って、流れてる!」
どうやら入り口とは反対側に穴が空いたらしく、いっきに水が流れ始めた。
「リリエル、氷!」
「わかってるよ!」
乗っていた氷を壁まで凍らせて、流されるのは回避出来た。
が、不穏な音は止まず、頭上から何かが降ってくる。
「え・・・上も崩れる?」
「女神の力が無くなったからの、崩落しそうじゃな。」
分析している場合じゃないって。
「呑気な事を言ってないで、早く戻るぞ!」
グエンがオルディヌを抱えて氷から飛び降りた。
「そうじゃな。」
続いて飛び降り、入り口に向かって走る。
「長居はしてらんねぇが、地道に歩くしかねぇよな。」
緩やかな上り坂を見上げ、グエンが嫌そうに言った。
でも、それしかない。
「リリエル、床にみんなが乗れる氷を作って。」
「え、うん。」
「どうするのじゃ?」
「うちが風で押して滑らせる。」
「あ、じゃぁ風を受けれる部分も作るね。」
なるほど、確かにそれなら歩くより楽かも。
「小さくねぇか?」
「あたしもあんまり力が残ってない、魔法使い過ぎたかな・・・」
と言って苦笑した。
みんな、満身創痍って事かな。
「まぁよい。乗れるのだから早く行くのじゃ。」
氷に乗り込むと、フィナの魔法で滑り出す。
緩やかな登りだったが、濡れている所為かかなり滑りがよく速度も乗った。
「どぅわぁ・・・っぶねぇなこのやろう!」
広い通路に飛び出した瞬間、誰かの罵倒が響き渡った。
投げ出された私たちは着地したが、氷は床に叩きつけられて砕けてしまう。
「よし、後は天馬に乗って帰るだけじゃ。」
「その前に、ちょっと休憩しない?ここなら物資もあるし。」
あぁ、確かに。
それは良いかも。
だけど、ここは崩れないのかな?
「なら、少し休憩しましょう。長居はしないようにして。」
「そうじゃな。アリア。」
「はいはい・・・」
火ね。
「マリア、紅茶じゃ・・・」
火を起こすと、エルメラがいつも通り言って、黙り込んだ。
それはみんな同じ。
もう、マリアは・・・
「いやぁ寒かったんで助かるわ。」
その時、空気をぶち壊すように火にあたっている誰かが言った。
「何をしておる?」
「濡れて寒いから暖まってんだが?」
あ、石の人だ。
「もう用はないじゃろ、石になっておれ。」
「うわぁ、冷たい事を言うねぇ。どうやら魔法が解けちまったみたいでもうなれねぇ。」
そういう事か。
「あぁ、あたしたちやっちゃったからね。」
「そうだな。しかたねぇ。」
「まぁ、そういう事なら許可しよう。」
「ついでに地上まで連れてってくれ。」
・・・
なんて図々しいの。
「その様な義理はないのう。」
「あ、ついでに地上がどうなってるのか、どれくらい年月が経ってるのかもわからねぇ。住む場所や仕事も世話してくれると嬉しいなぁ。」
男は笑顔で言った。
エルメラは連れて行く事も断ったのに、その先の話しをしてる!
図々しさもここまで来るとある意味凄い。
「あ!って連れてってくんねぇの!?」
いや、違った。
遅・・・
「騒がしい奴じゃな。」
「何でもするから頼む。」
男は膝を付いて頭を下げた。
「仕方ない、地上までは連れてってやるかの。」
折れたエルメラだったが、男の姿勢は変わらずに頭を下げたまま。
「わかったわかった。多少の面倒は見てやる・・・」
エルメラが根負けした。
「助かる!命の恩人だ、俺も命を懸けて出来る事はする。」
と、満面の笑みで言った。
調子のいい奴。
「ねぇ、なんか音が響いてない?」
リリエルが来た方向に目を向ける。
「此処もやべぇんじゃねぇか?」
「急いで天馬に乗るのじゃ!」
慌てて来た時と同じ様に馬車に乗り込む。
「なんで後ろに乗ったのよ。」
「もう障害物がないのは確認済みなんだ、僕が乗りたい方に乗ってもいいだろう。」
後ろに乗って来たユーテに言うと、不貞腐れる様に言った。
崩落の影響で何か落ちている可能性はあるんだけど。
まぁいいか。
「あんたは前に乗りなさいよ。」
「いや、こっちの方が気楽そうだから。」
この男は・・・
「時間が無いからもう出すわよ。」
フィナが言うと、天馬に風を当てる。
ゆっくりと動き出すと、そのうち速度が上がり始める。
よくよく考えれば、今の状態で走り続けられるのかな。
エルメラも相当消耗している筈だから。
でも、抜けるしかない。
こんな場所で生き埋めになって死にたくはないから。
でも、この力がもう誰かに継がれることが無いってのだけは、良かった。
「もう、動けぬ・・・」
何とかお城まで辿り着くと、エルメラは天馬から降りずに項垂れて言った。
ここまで戻れたのはエルメラとフィナのおかげだ。
「うちも、もう限界。こんなの、初めて・・・」
と言って荷馬車で横たわったまま動かない。
その時、轟音が聞こえて来た。
今度は何!?
「すまぬ、誰か確認してくれ。」
天馬からエルメラが力なく言った。
「ウリカ、行こう。」
「ウン。」
「待って、あたしも行く!」
「ガキだけじゃ心許ねぇ、俺も行ってやる。」
「居ても居なくても変わんないって。」
「地上に戻ったんだからそれなりに使えるわ!」
自分でそれなりにって言ってる時点で悲しいとは思わないのかな。
「敷地内の土をどうにかしたらエルメラに怒られるだろう。僕も行こう。」
ユーテの突っ込みに、グエンは渋い顔をした。
一階に上がると使用人がこちらに気付いて駆け寄ってくる。
「みなさま、ご無事でなによりです。」
「それより、この断続的に続く凄い音って・・・」
その時、窓の外が閃光に包まれた。
直後に耳を劈くような轟音が窓を震わす。
「雷・・・」
「はい。数日前から落雷と雨が酷く。晴れたかと思うと、また今の様な状況になったり不安定になっておりまして。」
「なんだ、雷雨か。」
グエンは気が抜けたようで、近くの壁に寄り掛かって言った。
「でもさ、そこまで荒れるなんて今まで無かったよね。」
「はい。長年この城に居りますが、ここまで変化の激しい天気は初めてでございます。」
やはり。
私も、そんな移り変わりは経験した事が無い。
「やっぱ、あれかな。」
「たぶん、あれじゃん。」
ウリカの疑問に、リリエルも同調した。
もし、あの神が少しでも過ごしやすくしていたなら、居なくなった影響か。
それとも、神を殺した事に対する天の怒りと、死んだ事への号泣なのかもしれない・・・
七章 了
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