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王都進出

16.肉体派じゃないんだが

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「効果は精々2時間か3時間ほどだ。それほど長い時間を動けなくする事は無理だろう。神経毒なのは間違いないから、下手をすれば呼吸を司る部分に影響を及ぼす可能性も無くはない。」
相変わらず神々しい二つの果実を惜しげもなく披露するメイニに、出来上がった薬の説明をする。二つの果実が創り出す峡谷は、まさに絶景と言っていいだろう。俺の視線はそこに固定され動かす事は出来ない。
はっ・・・
いかん。マーレにも言われたが、俺は態度に出やすいらしいからな、なるべくクールにならなきゃな。
しかし、世界の絶景100選を俺が選出していいのならば、この峡谷は間違いなく上位に食い込むだろう。
「つまり、死ぬ可能性もあるという事ですの?」
「はっきり言えばそうなる。ただ、あくまで可能性があるというだけで、その確率は高くないだろう。そこまで強くはしていない。」
俺の説明に、死という言葉が付随しているにも関わらず、メイニは微笑んだ。
「構いませんわ。」
その笑みは清純を通り越して、まさに神の使い、若しくは人間を魅了する悪魔のようだ。虜になる男も数知れないだろう。
「そうか。ならこれでいいな?」
「えぇ。その低い可能性に当たったところで、わたくしには差して影響はありませんもの。」
その辺の事情は聞きたくないがな。

「ところで、リアさんは仕事の幅を広げたくはありません?」
メイニは手提げから小袋を取り出しながらそんな事を聞いて来た。つまり、俺が望んでいた話しが転がり込んで来ると考えていいだろう。
「もちろん、そのつもりではいる。そのためにギルドにも顔を出しているからな。」
「話しが早くて助かりますわ。」
「それは俺としても願ったりだからな。」
これで目的の一つに足が掛かったと言えるだろう。今後、これを機に依頼も増えればさらに儲ける事も可能だ。ただ、一つ懸念があるとすれば俺は一人しか居ないってところだな。
あまり受けすぎても捌き切れなくなりそうだ。
「では、その事については近いうちにまた来ますわ。」
「あぁ、待ってるよ。」
「それより、店内の匂いが随分変わった気がしますわね。」
そうか?
「あぁ、煙草の所為だな、多分。」
「タバコ?」
俺は木製の箱から、一本取り出して見せる。
「こいつに火を点けて、煙を吸うんだ。」
「煙を吸うとか、正気の沙汰とは思えませんわ。ですが、何か利が無ければ存在しないのも事実。」
「察しの通りだ。酒と一緒で嗜好品の一種なんだよ。」
酒と言えば、まだこの世界では口にしてないな。俺はそれを飲みに行こうとして今の状況になったんだが。別に酒が悪いわけじゃないが、それを嗜むという行為自体に頭が回らなかった。煙草にしたって珈琲を飲んだ事で思い出したくらいだからな。
おそらく忘れていたというよりは、身体が依存していないから考えに至らなかったんだろう。

「それ、わたくしにも頂けます?」
「へぇ。良いのかい?身体に良いものじゃないぜ?」
だが、メイニの場合は煙草を吸うより、煙管の方が似合うと思うんだよな。だが残念ながら、煙管は無い。
「そんなの言われなくても想像がつきますわ。」
「なら構わないが、メイニの美貌なら煙管の方が似合うんじゃないかな。」
「キセル?」
「こいつは刻んで乾燥させた葉っぱを紙で巻いているだけだが、この葉っぱを詰めて吸う道具があるんだが、この辺じゃ見かけなくてな。」
多分、そういう文化が無いから存在しないんだろ。それは分かっているが。
「どんな形ですの?」
「ちょっと待て。」
俺は紙に形状を書いていく。生前の俺は使った事は無いが、喫煙者としてどんなものかは知っている。
「確かに、そのものを持って吸うよりは洒落ていますわね。」
「だろ。この先に刻み煙草を詰める。筒状の部分と煙草を詰める部分を繋ぐものと、後は吸う場所だな。筒状以外は金属で出来ているんだが。」
と、説明しても無いものは無いだろう。
「この程度でしたら、細工屋に作らせる事は造作もありませんわ。」
「本当か!?」
「えぇ。その前に、吸わせて頂けるかしら?試してみないと必要かどうかも判断できませんもの。」
「あぁ、良いぜ。」

蝋燭に火を点け、その火で煙草を吸ってみせる。
あぁ、慣れて来るとこれはこれで悪くないな。フィルターが無い分きついからそんなには吸えないが、珈琲や食後の時間を楽しむには十分だ。
「結構、きついですわ。」
「初めはな。」
渋い表情になるメイニだが、眉間に皺を作る事も無く煙草を見据える。
「なるほど、続けて吸う理由は中毒性ではなくて?煙管というものを介する事により、ある程度は緩和出来そうですわね。嗜むという点から考慮すれば、煙管というのは理にかなった道具、というところかしら?」
すげぇ。
やっぱこの女、頭の回転速度は尋常じゃねぇな。
「多分、その通りだ。」
いや、俺も煙管に関しては詳しくないからな。
「では、作らせましょう。リアさんも必要かしら?」
「もちろん。欲しいと思っていたからな。」
色んな意味でメイニと組んだのは正解だな。今後も俺にとって、必要なのは間違いないだろう。
「あの・・・」
「どうした?」
「私も煙管欲しい。」
吸うなら、その方がいいかも知れないな。申し訳なさそうに割り込んで来たマーレだが、そういう主張は遠慮なくした方がいい。俺はあまり気の回るタイプじゃねぇからな。
「メイニ、可能か?」
「大丈夫ですわ。ですが、金属に関しては希少価値が高く、加工にも技術が要ります。その分、安くはありませんわ。」
そういう事か。この世界の進化レベルからすれば、納得できる話しだな。だが、嗜好品は金を掛けてこその嗜みだ。
「構わないぜ。」
マーレの顔に一瞬陰りのようなものが見えたが、それで決めたわけじゃない。どうせなら楽しむ方が良いに決まっている。それに、この世界では好き勝手するって決めてるからな。
「分かりましたわ。」

幸運だな。まさか煙管が手に入る事になるとは思わなかった。直接吸うよりも良いのは確かだが、何より様になるよな。
煙管を銜えた薬屋の店主とか、俺ちょっとカッコいいんじゃね?
「何をニヤニヤしているの?」
「いや、煙管が手に入るなんて嬉しくてよ。」
「確かにね。生前、テレビでしか見た事ないから、私もちょっと楽しみ。でも良かったの?高いみたいだけど。」
「俺ら、楽しむんだろ?」
「そうね。」
マーレの変化は、時間と共にゆっくりと前に進んでいるような気がした。今の笑顔を見るとそう思える。
「しかし、凄い綺麗な人ね。」
「だろ。俺だって生前、あんな女は見た事がねぇ。」
「私からすると、もう人間じゃないというか、魔物レベルだわ。」
女の視点から見てもそうなのか。
「リアが拘るのも分かる気がするわ。」
「だろう?」
俺がそう言うと、マーレは頷いた。呆れた顔をしなかったのは、メイニの存在に対してマーレも一目置いたからじゃないかとも思えた。

「そうだ、ギルドに行かなきゃ。」
ふと思い出して口にする。メイニの事だけじゃなく、他にもやる事はあるからな。
「あぁ、試験の結果だっけ?」
「あぁ。店番頼めるか?」
「うん。あくまで簡単な事だけど、いい?」
「問題ない。」
俺は頷くと、中庭に移動する。
「おい、ギルドに行くぞ。」
「おう。」
庭の手入れをしていたエリサが起き上がって頷く。
「その前に、顔を洗え、土塗れじゃねぇか・・・」
「分かった。」




ホージョに煙草製作を依頼し、メイニの薬が出来た後、昨日だがギルドの検定場へ行ってみた。ちなみにエリサには狼化して受けさせている。
検定場自体はそれほど大きくは無かったが、ギルドのアイエル支部よりは確実に大きい。検定を受けに来ている人数に関しては数えるほどしか居なかった。まぁ、そんなものなんだろう。
検定場に来てたやつらは、まぁあれだ、RPGだな。そこまでゲームをしていたわけじゃねぇが、あの光景を見るといよいよ別世界に来たなって気分になるわ。
街で生活している分には、時代の違う、違う国程度しか感じないんだが・・・いや、居たよ、身近におかしな生き物が。

ギルドに着くと、サーラは別の奴の対応をしていたので待つことにする。しかし、あの凶器はいつ見ても恐ろしい。
生前はあれだけのものを目の当たりにした事が無いからな。あんな逸材が居たとしたら、テレビに出ていても不思議じゃない。凶器以前に普通に見た目も可愛いからな、そんなジャンルでは人気が出そうな気がする。
(だが、あれは本当に天然物なんだろうか・・・)
何かを詰め込んだり、入れたり、肥大化するような何かを施したりしていないのだろうか・・・
「何、羨ましいの?」
俺が考え込んでいると、サーラが話しかけて来る。何故か胸を隠すような仕種をしているのは疑問ではあるが。話し掛けられて気付いたが、何時の間にか話していた奴は居なくなっていた。
「そりゃ、そうだろう・・・」
俺は自分の胸を撫でおろす。何の結果も変わらない。
「あはは、気付いたらこうなってたから。私はリアちゃんの方が羨ましいけどな。」
俺の胸の事はどうでもいい。そんな事より、気付いたらなっていただと?なりたくてもなれない奴はどうしたらいいんだ!
「つまり、天然物という事ですな。」
「いや、言い方・・・」
創造主よ、あなたはなんという危険な凶器をこの世にお創りになったのか。しかし、この身が斬り裂かれようとも、創られたからにはその天然物の感触を試したくなるのも道理。創造主よ、なんという罪深い事を・・・
「結果を聞きに来たんじゃないの?」
そうだった・・・
「あぁ、そうだ。」
サーラさん、ちょっと怒っているご様子。
しかし、サーラの威圧はやはり恐ろしい。バリアの様に近づけない雰囲気もそうだが、圧し潰されそうな程の気迫というか、圧力を感じる。マジでただ者じゃねぇな。
はっ!?
そういう事か!
この異様なまでの圧力は、あの凶器が発しているのではないか!?
バンっ!
「はい、お願いします。」
サーラさんが平手でカウンターを叩いた音で、正気に戻ったようだ。あとかなり怖い。

「じゃ、エリサの分から行くね。」
「おう。」
一度奥に行って戻って来たサーラが、羊皮紙を広げて言う。それに対し、おもちゃを待ち望んでいる犬の様にエリサは目を丸くし、早くと言わんばかりにサーラに視線を向けた。
「まぁ、伸びないところは一切伸びてないんだけど、純粋な身体能力が凄いわ。流石ワーウルフといったところね。」
「当たり前だぞ。」
「へぇ。」
まぁ、そうじゃないと狼化で受けさせた意味が無いからな。それで一般人と変わらないレベルなら意味が無い。
「でも技術的にはあまり進歩は無いわね。ただ、さっきも言った通り力や素早さと言った純粋な部分はLV38と判定されているわ。」
「凄いのか?」
「俺もその数値を言われてもピンと来ないな。」
LV38がどれほどのものかさっぱり分からない。例えば、LV99がカンストのRPGなら、中盤程度のレベルだろう。そう考えると大した事ねぇんじゃねぇか?
「検定場の判定はLV50までなのよ。何故かと言うと、50の判定を受ける人が殆ど居ないからよ。良くて40そこそこだから、エリサの能力は驚くべき数値とも言えるわ。」
あっそう。何かどうでもいいな。
「ふふん、どうだご主人。」
得意げにニヤつくエリサを蹴り飛ばしたいが、今は止めておこう。
「俺の薬が無ければもっと雑魚だったわけだな。感謝しろ。」
「今の状態でもご主人くらいなら余裕だぞ!」
それがどんな危険を孕んでいるか分かってないようだな。
「やれるものならやってみろ。」
「言ったな!」
エリサが俺の方を向いて構えた瞬間、俺は後ろに飛び退きながらエリサの顔に液体をかける。
「此処で戦闘をしない!」

「悪ぃ。だけどもう終わったから。」
「え?」
ちょっと怒り気味だったサーラが、俺の言葉に首を傾げる。
「なんか・・・急に身体が動かなく・・・」
エリサはそんな事を漏らしながら床に寝転がった。これで相手の隙が付ければ、俺でもなんとかなるという実証になったわけだ。色々溶液の種類は用意出来そうだから、相手によっては状況に応じて使い分ける事も可能だろう。
今回は麻酔などに使われる成分を混ぜた溶液を使ってみたが問題なさそうだ。あまり濃度を強くすると弊害が出る可能性がありそうなので、そこまで濃くはしていない。ただ、液体という事もあり即効性としては十分だ。
後はどう持ち歩くか、カプセル状にして衝撃を与えると中身が飛び出すとか、その辺の改良は必須だな。
「何をしたの?」
「いや、眠らせただけだ。それより、次は俺の結果だろ?」
眠ったのかどうかは微妙なところだが。
「そうね。」
今のところ植物から取れる成分でなんとかしてはいるが、何れ精製もする必要が出て来るだろう。その知識は有してるのに、今の店じゃ設備が全然追い付ていない。
そう考えると、また引っ越しが必要になるが、徐々に大きくしていては埒が明かないから、次はそれなりの豪邸クラスにしないと駄目だな。
少なくとも大きな庭、薬品室、精製室等、店舗や住居部分と分けた専門の部屋が欲しい。やっぱり、貴族や金持ちが住むような家が必要になるな。

「ねぇリアちゃん、真面目な顔をしているところなんだけどさ。」
「ん?」
「不正とかしてないよね?」
真面目も何も、超真面目に漠然と今後の事を考えていたんだが、いきなり聞かれた内容に戸惑う。
「は?不正?」
「うん。」
「いやいや、どっからどうみても俺は真面目以外に見えないだろ。」
「それはかなり肯定出来ないけど。」
何だとコラ。
「どういう事だよ。いや、不正の話しな。」
「いやぁ、検定場から来た結果がね、ちょっと信じられないというか。」
「それは俺に言うなよ、文句があるなら検定場の奴に言え。」
「そうかぁ・・・」
どうしても腑に落ちない、そんな顔をしながらサーラは結果にずっと焦点を合わせている。そんなにおかしな結果なんだろうか。俺としてはサーラの凶器が天然物だという事の方がこの世の神秘なんだが。
いや、神の産物と考えればそんな疑念すら払拭されるな。神さまが作ったものに、人間が異を唱えられるわけもない。
「何がそんなに気に入らないんだ?」
「気に入らないわけじゃないよ。検定場では測り切れないって結果に驚いているだけ。」
お前の凶器のサイズがか?
・・・
そう聞きたかったが身の危険を感じるのでやめておこう。
「なんだそりゃ?」
「戦闘に関しては多少伸びたものの、此処での検定の域を出るものじゃないの。」
うっせぇ、俺は頭脳派だ。
「ただ、医学部分に関しては30程度と普通なんだけど、植物や地学、成分や調合の知識及び技術といった、薬に関する部分はすべてLV50と判断され、当検定場ではこれ以上の格付けは不可能って書いてある。」
・・・
・・・
・・・
俺、凄くね?
むしろ神の産物とは俺の事じゃないだろうか。つまり、あの二つの凶器と同格!そうなると、同格の俺が揉もうと何ら問題は・・・
「なにしてるの?」
いかん、つい両手で不審な動きをしていたようだ。
「いやぁ、実は俺凄いんだなと思ってさ。」
「そうだよ、凄いどころじゃないよ、この結果。うちのギルドでLV50に到達している登録者って未だに一人しか居ないんだから。」
ほう、俺以外にも居るのは居るんだな。まぁ、世界は広いという事だろう。どちらかと言えば居ない方が問題な気もするが。
「そんなに珍しいのか?」
「うん。」
「ちなみにそのLV50ってのは、どんな奴だ?」
「近所に住んでいるおじいちゃん。」
・・・
あぁ、俺は大した事無かったわけか。くそ!持ち上げるだけ持ち上げやがって。
「凄い剣豪なんだよ。多分今でも、この王都で勝てる人は居ないんじゃないかな。」
へぇ、そういう事か。じゃぁ興味ねぇや。
しかし凶器のLV判定があったなら、サーラは間違いなくLV50を超えるだろう。
「その話しはいいとして、これ以上のLV判定はもうギルド本部でしか出来ないよ。」
本部!?
いい響きだ。やはり本部という場所にはこう、その仕事の頂点というか、統括しているようなイメージが出て来るよな。もし本部に召集されるような立場になったら、入って来る額も多くなったりするかも知れないな。

「で、その本部は何処にあるんだ?」
「ネイディースレア大陸。このイズ・クーレディア大陸から一旦船で渡ってね・・・」
説明するサーラに俺は掌を向け続きを遮った。
「面倒だからいいや。」
「えぇ!?もっと上かも知れないんだよ?いえ、確実に上よ、検定場で測り切れないって言ったんだから。」
「と言われても面倒なもんは面倒だ。それに、俺も此処に店を構えたばかりだからな、長期間空けるわけにもいかねぇ。」
飛行機とかあるなら話しは別だが、どう考えてもこの文明じゃ無いだろ。
「まぁ、リアちゃんが言うなら無理にとは言えないけど。」
「別に今じゃなくてもいいだろ。」
「うん、分かった。」
そんな事よりも、検定結果が出たからには当然依頼の質も変わるよな。
「受けれる依頼、増えたんだろ?」
「それはもちろん。確認する?」
「あぁ。」

一度カウンターの奥に行ったサーラが、何枚かの紙を持って戻って来る。それは良いがあの凶器、何とかならないかな。動くたびに視界が固定されて困るんだが。
「ふぁ、良く寝た。」
「そりゃ良かったな。」
サーラが戻って来ると同時に、横で寝ていたエリサが目を覚ます。
「ご主人、何をしたんだ?」
覚えてやがったか。
「いや、疲れてるんじゃないかと思ってな、身体を休ませてやったんだ。」
「そうなのか、ありがとなー。」
バカめ。
「あ、エリサ起きたのね。丁度今から依頼の話しをするの。」
「おう。」
「まずは、トロル退治ね。」
アホか!
「それは大きいヤツだろ、人間とか一撃で潰しそうな奴。」
これもゲーム知識だが、トロルと言えば大型の奴で棍棒を持っているイメージだ。
「うん、そう。個体差もあるけど、大体人間の2倍から3倍の大きさね。」
大きさね、じゃねぇ。
「俺は肉体派じゃねぇ。何でいきなりそんなの振ってきやがるんだ。」
「あたしなら行けるぞ!」
うん、頑張れ。
「ちなみに報酬は金貨3枚だけど、違うの聞く?」
「しょうがねぇな。」
金貨3枚だと。それを先に言え、トロルくらい薬でコテンとさしてやるわ。
「ご主人、あたしが受けるぞ。」
「いや、俺がやる。」
「そうだなぁ、エリサにはこれなんかいいかも。集団で村を襲ったゴブリン退治。報酬は銀貨8枚よ。」
エリサは聞くと、何かを考え込んだ。
「銀貨8枚?これが8個か?」
エリサはポケットから銀貨を取り出して、それをサーラに見せて聞く。
「いえ、こっちの大きい方が8枚ね。」
へぇ、なかなかの金額じゃねぇか。ゴブリンのくせに。大銀貨を取り出して見せるサーラに、エリサの目が輝きを増した。
「凄い!やる!」
サーラがうまく誘導してくれたような気がするが、気のせいか?俺的には金貨が手に入るのでありがたいが。

「ちなみに銀貨と金貨って、どっちがいいんだっけ?」
おい・・・そこはまだ理解してねぇのかよ。
「銀貨だ。」
「銀貨よ。」
・・・
さらっと嘘を吐きやがったなこの女。そう思ってサーラを見ると、ニコッと微笑んで来た。間違いなく確信犯だな。
だが、それは俺を助けてくれたって事になるよな。つまりあれか、俺に気があるって事か?その凶器を俺に預けると受け取っていいのでしょうか!?
「思い出した!間違ってるぞ!金貨の方がいいんだぞ!」
くそ、もうちょっとだったのに。
「だが8枚だからな、あたしはゴブリン退治でいいぞ。」
あ、そう。
どうやら計算までは出来ていないようだ。
「しかし、トロルなんてさっきの爺さんにやらせればいいじゃねぇか。」
金貨3枚は良いが、俺はもう少し薬師としての技術的な仕事がいいな。
「あ、無理。この前ギックリ腰やったからまだ動けないんじゃないかな。」
クソジジイっ!
何て使えねーんだ。今なら俺でも不敗伝説を終わらせてやれそうじゃねぇか。まぁ、この国で勝てる奴が居ないってだけで、不敗かどうかは知らんが。

「あとドラゴンとかあるわよ?」
居るのかよ!?ドラゴンとか。
「却下だ。」
「そう、残念。」
実は俺を死地に送り出そうとしてるんじゃないのか?そんな気がしてならない。
「とりあえず今はこれでいいや。店もあるし、煩雑になるのは好きじゃねぇ。」
「分かったわ。」
「それじゃ、終わったら報告に来るわ。」
「よろしくね。」



俺とエリサがギルドを出て、店に戻っていると裏路地の方にボロい布切れが落ちているのが目に入った。
マーレと出会った時の事を少し思い出したが、今回は何かトラブルってわけでもなさそうなので気にしないでおく。マーレの時だって、俺自身は関わるつもりは無かったんだけどな。
「ご主人、なんかボロ切れが落ちているぞ。」
こいつは・・・そんなもの見付けなくていいし、見付けても無視しやがれ。
「汚いから触るなよ。」
「うん、分かったよ。」
そんな会話をして通り過ぎると、そのまま何事もなく店へ戻った。
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