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王都進出

15.まんまかと思ったんだが

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「あれ、お弁当?」
「はい。」
朝飯が終わった後、片づけを始めたかと思ったマーレが、なかなか終わらない事にアニタが見に行って聞いていた。
遠足とはただの例えだったんだがな。まぁでも、街から外れる事を考えると、飯を食うような場所も無いよな。そう考えると、弁当という発想は良い、俺じゃ思いつきもしない。
だがあれだな、現地調達という手もあるよな。
・・・
都会っ子の俺にそんな事が出来るとも思えん。エリサに関して言えば、生で食いそうだからな。そう考えると、一番現実的な選択か。
「何処に行くの?」
「散歩。」
困った顔をしたマーレに代わり答えておく。そもそもマーレには郊外に出かけると言っただけで、詳しい内容は話していない。
「え、狡い!私も行く。」
別に狡くねぇし。
「仕事で行くんだっての、遊びに行くわけじゃねぇ。それにアニタも仕事があるだろうが。」
何故考える・・・自分の事だろうが。
「今日お休みだわ。」
「嘘つけ!」
「本当よ。」
絶対嘘だろ。今の思考時間は何なんだよ。
「人数は多い方が楽しいぞ!」
「だから仕事で行くと言ってい・る・よ・な?」
「ぐぅ・・・い、痛いぞご主人・・・」
摘ままれた頬を摩りながらエリサは不満を口にした。自業自得だ、アホ。
「とりあえずギルドに頼まれていた薬を納品してから、そのまま西にある森に向かうからな。」
「分かった。お弁当ももう出来るから、いつでも行けるよ。」

ある程度は吹っ切れたのか、暗い表情はあまり見せなくなったマーレがこっちを見ずに言う。
男じゃ無ければなお良いのだが。
しかし、話しが通じるのは良いな、マーレがまともに見えてくるぜ。
「あたしも任せろ、草なら見つけるのは得意だ。」
形は分かっているが、確かに見つけるだけならエリサの方が早そうだな。
「ヅフージと呼ばれる植物だ。」
「何だそれ?」
・・・
役に立たねぇクソ犬だな。
しかし、そういう事か。
これに関しては俺もうっかりしていたぜ。エリサは植物の嗅ぎ分けが出来るだけで、名前を知っているわけじゃないんだ。俺が植物名を言ってもエリサには分からない。ってことは、概ね使えねぇじゃねぇか。
待てよ。
「ちょっと来い。」
「ぎにゃっ。」
俺はエリサの耳を掴むと、書斎に引っ張っていく。
「いいか、この植物だ。分かったか?」
ヅフージが乗っている本を開き、該当の植物の絵を眼前に持って行く。
「近くて見えないよ。」
うっせぇ。

「分かった。覚えたぞ。」
本当かよ。
まぁいい、エリサが見付けなくても俺が見つけるだけだ。幸い生えている場所は分かっているんだからな。そうなると、エリサの役目は本当に護衛になりそうだが、それすら危うい気もしてきた。
「よし、なら行くぞ。」
こういう方法ならありか・・・
「ゲームをしないか?」
「仕事に行くって言ってたじゃない?」
黙れ。
俺はダイニングに戻ると全員に向かって言う。アニタの突っ込みは無視だ。
「ベラヒメという草も不足していてな。こいつを最初に見つけた奴に、ボーナスとして銀貨1枚出そう。」
「ホントかご主人!」
「私も参加する。」
お前は仕事に行けよ。
「本当だ。」
毎回この方法を使おう。どんな植物か分からないなら、本を調べるしかない。これによってエリサは本を見て、記憶にある植物に名前を刻んでいけるだろう。
そうなれば、植物名を言っただけで分かるようになる。
流石俺、良い手だ。
「さっきのヅフージとかいうのは?」
「それは無しだ。あくまでベラヒメだけだ。」
「むぅ・・・」
さぁ、考えるがいいアホ犬。

「なるほど、そういう事なのね?」
俺とエリサを見ていたマーレが、納得したように頷くと言って俺を見る。多分、想像している通りだと思うので頷いておいた。
やべぇ、話しの通じる奴じゃねぇか。こういうのが居ると楽なんだよな。何で男の身体になんか入りやがったんだ。くそ!
「何となく思っている事も想像つくよ?」
・・・
察しが良すぎるのも良くないな・・・。
「リア、顔にすぐ出るから。」
知らなかったぁっ!
そうだったのか。よく教えてくれた。これからはもっとクールを装う。って事はだ、メイニにはバレバレだったわけだな、多分。他はアホだから大丈夫だろう。
「お弁当、出来てるよ。」
「悪いな。よし、それじゃ早速出発するか。」



ギルド前に着くと、アニタは用が無いからちょっと時間を潰してくると言って居なくなった。
多分アレだな、仕事先に休むって言いに行ったんだろう。

「あ、薬出来た?」
「あぁ。」
カウンターと間違えた、そう言ってその凶器の上に置いてみるか。そんな事を考えたら欲望に負けて紙袋をサーラの方に近付ける。
「・・・」
「ありがと。」
ふぅ、近づけなかったぜ。やはりこの女、ただ者じゃねぇ。察したかの様に威圧でバリアを形成しやがった。
「今のところ、次の依頼は無いよ。エリサもね。」
「そうか、残念だぞ。」
「ちょっと待ってて、報酬持ってくる。」
サーラがカウンターから離れるのを見て、顔をマーレに向けた。
「何か?」
「いや、前に来た時に凶器に反応しなかったのも納得だなって思ってさ。」
「・・・」
あ、引いた。あぁどうせしょうもねぇよ。だがな、男なんてそんなもんだろうが。
「リアってさ、面白いね。」
「は?」
だがマーレはすぐにクスッと笑うとそい言った。予想もしてなかった反応に思わず口が開いてしまったが、何が面白いのかさっぱり分からねぇ。

「お待たせ。」
「ありがとな。」
「ところで、検定って何時受けるの?」
すっかり忘れていた。そんな話しもあったな。
「それって何時でも受けれるのか?」
「うん。毎日そんなに受ける人は居ないよ。」
そういうものか?でも確かに、ギルド登録者の検定で、毎日出来るとなると、そんなに居そうな気はしないな。
「じゃ、近いうちに行ってみるか。」
「そう。それじゃ、紹介状と地図を渡すね。」
「紹介状とか必要なのかよ。」
「だから信用が大事なの。それをやらないと、管理も煩雑になるし、検定場でも処理しきれなくなるから。」
なるほど。言っている事は確かにその通りだな。
何処の誰だか分からないような奴を、いちいち相手にもしていられないだろうし、管理の面から言っても、ギルド側からの紹介であれば手続きも楽だろう。

紹介状と地図を受け取り、ギルドを出るとアニタが暇そうに待っていた。
「許可は貰えたのか?」
「うん、ばっちり・・・」
ふと振ってみたが、しっかりと返事をしやがった。ばつが悪そうに顔を逸らしたが既に遅い、馬鹿め。




「出番だエリサ。」
「あたしには銀貨の方が大事だよ。」
真面目に言っているんだが、エリサも目の前の光景に目を細め、真剣な口調で言いやがった。
西の森に着いて、早速薬草を探そうと思ったのだが、そこにはオークが屯っていた。いや、オークかどうか知らんが、俺のゲーム知識からすれば、見た目はオークだろう。
「その前にあれをどうにかしないと、森にすら入れねぇだろうが。」
「あたしなら行ける!」
おい・・・
「依頼主の放置は報酬の放棄でもある。」
「む・・・」
ざまぁみろ。
「ご主人は相変わらず姑息だぞ。」
お前に姑息とか言われたくねぇよ!日に日に姑息になっているのはお前の方だからな。
「しかし、あいつらこっちを睨んでないか?」
「ヤンキー・・・」
マーレが発した単語に、言い得て妙だと思えた。ってかよくその言葉が出て来たよ。当然、アニタはその言葉に首を傾げていたが。

マーレの言う通りというのも、オーク共はうんこ座りしながら棍棒を肩に担ぎ、こちらを睨め付けてきている。どうみても、日本で言うコンビニ前に屯うアレな奴らにしか見えない。
近付けば有無を言わさず訳の分からない因縁を付けられそうだ。
「まぁ、そうとしか見えないな。」
「普通に怖いんだけど。」
いや、俺だって怖いわ。あの類の連中は近付かないに限る。だが様になるには何かが足りないな。
「惜しいな・・・」
「何がよ?」
「サングラスと煙草があったら様になりそうだなって。」
「あの・・・この状況でそんな事を考える?」
・・・
だよな。
だがしかし、勿体ないとも思い始めていた。

「なぁアニタ、あいつらって言葉が通じるのか?」
俺が聞くとアニタは嫌そうな顔をした。
「知らないわよ。」
関わり合いになりたくねぇんだな。
「エリサが話せるって事は、話せるんじゃねぇか?」
そう言えば、と思ってエリサを見て疑問を口にする。
「あいつらと一緒にするなんて失礼だぞ。」
どっちにだ?って突っ込みたかったが、面倒そうなのでやめておく。だがものは試しだ、話しかけてみるか。
「ちょっと、危ないわよ。」
「いや、説得してみるだけだ。」
不安そうに言うアニタに、俺は笑って返しておく。生前なら間違いなく近付いていないが、この気持ちの変化は一度死んだからだろうか。
ある程度どうでもよくなっているのかも知れない。

俺がオーク共に近付くと、一体が立ち上がって、下から睨め付けて来る。あぁ、それっぽい。面白いくらいそれっぽい。こいつら生前はヤンキーかもしれん。
「何奴?」
・・・
耐えろ俺。
その態勢から「何奴」はねぇだろ、危なく噴き出しそうになったじゃねぇか。
「いや、森にある薬草が欲しいだけなんだが。」
「此処は我らの領域。欲しくばそれ相応の対価を要する。」
・・・
なんかがっかりした。
多分、違う方向に進化したんだろう。奴らは何故か、やたらと難しい漢字を知っていたりしたもんだが、こいつらは喋り方が面倒な方に向かってるな。
まぁいい。会話が出来れば上等だ。
「実はさっきから気になっている事があってな。」
「ふむ、聞こう。お主名は何という?」
もう違和感しかねぇよ・・・
「リアだ。」
「我はホージョ、まぁ座れ。」
ホージョは言うと、またうんこ座りに戻った。ってかホージョって、北条?まさかな。もしそうだったらかなり面白いが、気のせいだろう。
俺は促されるまま、同じようにうんこ座りをする。
「して、話しとは?」
「あぁ、実はな・・・」



「よし、着いたな。お前ら全員これをしろ。」
俺は鞄から手袋を取り出して全員に渡す。
「え、ただの草でしょ?」
「有毒性のな。」
「げ・・・」
嫌そうな反応をするアニタとは別で、マーレは察していたのか直ぐに手袋をはめた。
「凄いな、これがあれば触っても大丈夫なのか?」
マーレの仕種を見よう見真似でエリサもはめながら聞いて来る。
「あぁ。」
「ところで、一体何を話して通してもらったの?」
「今は言えねぇな。」
渋々手袋をはめながら聞いて来るアニタに、俺はニヤリとしながら返しておく。俺も試した事が無いから、実際に出来るかどうかは分からない事だったからだ。
「何でよ。」
「成功したら話してやる。」
「え、賭けで通してもらったって事?」
「まぁな。」
どっちみち、俺も必要だからちょうどいい。だが、単なる俺の興味で話したのだが、ホージョは快く承諾してくれた。意外と話しの通じる相手で良かったよ。

「ベラヒメあったわよ。」
「早いな。」
薬草を探し始めて直ぐにマーレが目的のものを見付けた。
「なに!?あたしの銀貨・・・」
エリサがその言葉に反応し、肩を落とした。そう言えば、そんな話しをしていたな。
「さ、後は黙々と集めてくれ。」
「うぅ、銀貨・・・」
そんなに欲しかったのかよ。
「で、リアは何を摘んでいるの?それ、ヅフージでもベラヒメでもないわよね?」
マーレの奴、目敏いな。
「ニコーナを含んでいる葉。俺の予想だと、多分あれの材料になる。」
「もしかして、ニコチン?」
「おそらくな。」
本当に察しがいいなこいつは。
「ね、出来たら私にも頂戴。」
「なんだ、吸ってたのか?」
まさかマーレの奴が欲しいと言い出すなんて思ってもみなかった。
「そんなわけないでしょ。19だったんだから、お酒も煙草も未経験よ。」
「そりゃ真面目な事で。」
俺は成人前からどっちも手を付けたが、死んだ今となっちゃ時効だよな。
「だから、どっちも試したいの。もうちょっとで解禁だったのに、試す事すら出来なかったんだから。」
「あぁ、出来たらな。」
「ふふ、楽しみにしてる。」
楽しそうに微笑むマーレの姿を見て、複雑な気分になる。それは成人前という若さで死んだ事に対してではなく、何故女じゃ無かったのかという一点に於いてだ。

死んじまったものはしょうがねぇ。どういう理由であれ取り返しなんかつくわけもねぇ。だから、死んだ事に対しの感傷なんて生きている側のエゴだ。そんなもの、それこそ犬も食わねぇっての。

「よし、こんなもんだな。」
「思ってた以上に肉体労働だわ・・・」
終わりの合図をすると、アニタが腰を叩きながらそんな事を言った。
「仕事をさぼった意味が無いな。」
「さ、さぼったんじゃないわ!お休みよ!」
さぼろうが計画的だろうが、確かに休みは休みだがどうでもいい。
「それより、そろそろお弁当にしない?」
「そうだな。」
「やった、ご飯だ!」
すっかり忘れていたが、空を見上げるとちょうど良さそうな時間だったので、マーレの提案に乗っかる事にした。

「それじゃ、ベラヒメを見付けたマーレには、戻ったら銀貨1枚な。」
「うん、ありがと。」
「いいなーマーレ。」
昼飯を食いながら結果の話しをすると、エリサは恨めしそうにマーレを見て言った。どうせ銀貨を貰ったところで有効に使えるとも思えないが、そこまで欲しがる理由は分からない。
「勝負は勝負だからな。」
ちなみに聞いてやる気もない。
「ぶぅ。」

昼飯を食い終わると、家に戻る事にする。途中、オークに軽く挨拶をしながら。自然の中で食う飯はピクニックの様だったが、そんなもの、生前では子供の時くらいだろうか。
懐かしさはあっても、良いかと聞かれれば別に無くてもいい程度の気分だった。




煙草の作り方は、生前に何かでちょっと見た気がする。その記憶を頼りに試してみる事にした。
自然乾燥は時間が掛かるので、加熱乾燥でまず水分を飛ばす。次に水分を含ませ、葉と葉脈を分離して、また乾燥させる。また水分を含ませて、今度は細かく刻んでいく。最後にまた乾燥させて、出来上がりだ。
煙管なんてものは探してみたが見当たらず、後で似たようなものを作ってみる事にして、今回は普通の紙巻き煙草を作成。フィルターなんてものは存在しないので、両切りの煙草だ。

「うーん、それっぽい。が、いまいちだな・・・」
実際に吸ってみると、それっぽくはあったが、普段吸っていたものとは大分違った。それはフィルターの所為もあるかもしれないが。



-数日後-

俺は出来た煙草を持って、再びオークのもとを訪れていた。
「約束の物、持って来たぜ。」
「おぉ、待ちかねたぞ。」
相変わらずうんこ座りで屯っていたオークの一人、ホージョが立ち上がって近付いて来る。
「まさかとは思ったけど、こういう事だったのね。」
マーレが半ば呆れた目を向けて来る。だが、争わずに済むならそれに越した事はない。まぁ、それだけじゃないんだが。
「これが煙草という物か・・・」
ホージョは煙草を手に取ってまじまじと確認する。その間に俺は火を起こして、炭火を作る。俺が炭火を作っている間に、他のオーク共はホージョの回りに集まって、不思議そうに煙草を見ていた。

「ねぇ、何て言ったの?」
「迫力がいまいちだが、通してくれたら数日内にもっとイケた見た目にしてやる。ついでに気分もよくなるぞってな。」
「呆れた・・・」
マーレはそう言うが、表情は何処か楽しそうだった。
「まぁ、問題無いだろ?」
「そうね。それで、何でまたお弁当なんか作らせたの?」
「決まってるさ。」

俺は炭を火鋏でつまむと、煙草に火を点ける。ホージョにやってみろと目で促すと、同じように火を点けて咽た。
「本当に煙を吸い込むものなのか?」
不審に思ったのか、ホージョは俺を睨みつけてきた。
「あぁ。最初はそうなるが、そのうち気にならなくなる。」
俺は吸いながら言うと、他のオークも同様に試し始めた。確か名前は、アッカガ、ミナットモ、ターラとかだったな。ふざけた名前だ。
俺の予想だと、足利と源と平だな。鎌倉かよ・・・

「こんな物で、本当に迫が付くのか?」
「あぁ。だがただ吸ってるだけじゃダメだな。こうするんだ。」
俺は言うと、うんこ座りをして指に挟んだ煙草を吸い、煙を吐きながら眉間に皺をよせホージョを睨み付ける。
「おぉ、子供とは思えぬ迫力よ。」
ホージョは言うなり、俺の真似をする。他のオークも同様に真似をした。
ぶははは。
それを見て俺は噴き出すのを我慢して、内心で爆笑した。
「やべぇ、スマホ欲しいな。」
「あたしも、絶対写真撮ってるよ。」

「ホージョよ、なかなか様になっておるぞ。煙を吐きながらというのが拍車をかけるな。」
「そういうアッカガこそ、既にものにしておるではないか。」
やべぇ、マジで面白ぇ。なんだこいつら。
「ついでに、一番旨い吸い方ってのも教えてやるよ。」
「なんと、他にも用途があるのか。」
・・・
ちょっと勘違いされたな。まぁいいか。
「食後の一服というやつだ。」
「それでお弁当だったのね。」
「まぁな。」



「なるほど、これはいいな。思うに嗜むのが主の目的か?」
・・・
なんつー理解の早さ。実はこのオーク、かなり侮れないな。
「それも一つだ。楽しみ方はいろいろあるからな。ついでに中毒性もある。」
「それはいい。それよりも、今あるものだけでは直ぐに無くなってしまうのが残念だ。」
本題はここからだ。これが俺の目的だからな。
「そこでだ、取引をしないか?」
「取引だと?」
「あぁ。煙草の材料になる植物を育てないか?それを俺が煙草にして交換。悪くないと思うんだが。」
俺の提案にホージョは少し考え込む。
「我らに作り方を教えれば済む話ではないのか?」
そうなんだよ。
そこが悩みどころなんだよな。単純な事だが、その理屈にあっさり辿り着くあたり、ホージョはなかなか賢しい。
「一つ聞かせてくれ。あんたらは人間の金を使ったりするのか?」
「もちろんだ。ただ、我らの場合手に入れる手段が少ない。もともと我らは人とは共存しておる。故に、人の店での買い物も当然行う。」
なるほど。
だったら話しは早い。
「なら作り方を教える。それを俺が買い取るってのはどうだ?」
「誠か!?」
そこはやっぱ、マジで!?とか言って欲しいが、その辺はおいおい教えるか。いや、今の口調だから面白いんだよな、やめとこ。
「あぁ。」
「悪くない申し出だ、受けよう。」



それから軽く雑談をして家に戻る事にした。作り方はホージョともう一人が、家に来て教わる事になって。
「私はまだよく分からないな、煙草の味。」
「最初はな。続けるか止めるかは本人次第だ。」
「そのうち慣れる?」
「多分な。」
「じゃ、続けてみる。」
「そうか。」
帰りながらそんな話しをするマーレはの笑顔は、穏やかに見えた。
「だけどリアってすごいね。知らないところに来て、エリサと一緒に暮らしているし、オークとも会話して、馴染み過ぎじゃない?」
「そうするしかないだろ。行き当たりばったりで生きていくしかねぇ。それも面白いなと最近は思うようになった。」
「確かにそうだね。私もそう思えるようになったら楽しいだろうな。」
「そんなのは、自分次第だろ。」
「うん。」




-神都ヴァルハンデス-


「あ、見送りに来てくれたんだ。」
「何故俺がお前を見送らねばならん、ふざけんな駄神。」
「う・・・」
旅立とうとしていたレアネに、ソアが冷たく言い放つ。
「まったく、3日以内という期限も守れずに何をしていた。」
「荷物整理・・・」
大きな鞄を3つほど用意したレアネは、それぞれに目を向ける。
「まぁいい。最後に見ていけ、これが、お前の蒔いた種だ。」
ソアが何もない空間を指先で振れると、揺らぎ始めて水鏡のようなものが浮かび上がった。
「あぅ・・・」
そこに映っていたのは、レアネが間違えて入れたマールの現状であり、それを目の当たりにしたレアネは痛恨の呻きを漏らしながら俯いた。
「目を逸らすな。」
水鏡には、メイドに足の指を舐めさせ愉悦に浸るマールの姿が映っている。それを直視出来ずにレアネはまたも目を逸らした。
「大神ロアーヌの啓示は更新され、アルマディ侯爵家は10年以内に没落する事になるだろう。当然、ミルスティの繁栄の道も閉ざされた。」
「・・・」
「自分が何をしたのか、少しは悔いるといい。」
何も言わず俯くレアネに、ソアはそれだけ言うと背中を向けた。歩きだしたところで、思い出したようにソアは足を止めレアネに横顔を向ける。
「ついでに、下界には何も持っていけないからな。」
「・・・えぇぇぇぇぇっ!」
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