8 / 32
第一話「点滅」
「点滅」(8)
しおりを挟む
上糸総合病院……
病室のベッドで、メグルは静かに目をさました。
すぐ横からは、しゃりしゃりとなにかを切る音が響いている。
見れば、そばのイスにセラが座っているではないか。その手もとで綺麗に皮を剥かれるのは、つややかなリンゴだ。
寝間着姿のまま、メグルはうめいた。
「セラ……」
果物ナイフを止め、セラは視線をあげた。
「おはよう、メグル。そろそろ起きるころだと思ったよ」
身を起こしかけ、メグルは顔をゆがめた。サンドバッグにされたように体中が痛い。
ずれた布団をメグルへかけ直しながら、セラは説明した。
「まだ動いちゃだめだ。全治一週間の打撲なんだから」
「なんで生きてるんだ、俺?」
釈然としない表情のメグルへ、セラは苦笑した。
「殺すつもりなんて、あるわけないじゃないか」
「あいつらは……シンゴたちはどうなった?」
均等にリンゴを切り分けつつ、セラは答えた。
「あの騒ぎのあと全員、ここまでの悪さを白状して停学処分になったよ。あんな目に遭ったんだ。復帰しても、もう二度とおかしなマネはしないだろう」
固唾を呑んで、メグルは聞いた。
「俺は?」
「きみなら大丈夫。あの火縄銃の幽霊の件も、不良たちのいたずらということで決着しかけている。真相を探ろうとしたところで、そもそも結果呪の原理を説明できる者なんていない。きみもそれに巻き込まれた被害者のひとり、ということになっているよ。ま、結果オーライだね」
「そうか……」
まくらに横顔をうずめたまま、メグルはつぶやいた。
「セラ、おまえも結果使いだったんだな」
「らしいね」
「やっぱりおまえも、あの保健室で声を聞いてからそうなったのか? ヒュプノスの?」
「たしかに声は聞こえてたけど、ちがう。あの不思議な石の力は、ぼく自身覚えていないほど幼いころからある」
唇に人差し指をあて、セラは念を押した。
「おたがい内緒だよ、ぼくたちの能力のことは?」
「わかった」
かたわらのテレビからは、小音量でニュースが流れている。
取り上げられるのは、さいきん赤務市で頻発している奇妙な連続殺人事件だ。通称〝食べ残し事件〟と呼ばれるそれは同一犯のものとされており、被害者と思われる遺体は損壊が激しすぎて、身元の特定にも大変な時間がかかっているらしい。
険しい視線で報道を横目にしながら、セラは付け加えた。
「あと、約束して。無関係な一般人には、絶対にその力は使わないと」
「約束する」
申し訳なさげに、メグルは瞳を伏せた。
「ごめんな、セラ。山であんなことをして。どうしても許せなかったんだ、あいつらが」
「気持ちはわかるさ」
「こんな情けない俺のために、セラ、なんでお見舞いになんて来てくれる?」
「言ったじゃないか。きみが困ったら助ける、って」
「…………」
我知らず瞳にこみ上げてきたものに、メグルは咽び始めた。上掛け越しにその背中をさすりながら、困った面持ちになったのはセラだ。
「おいおい。これじゃまるで、ぼくが泣かしたみたいじゃないか」
「ごめん。生まれてこの方、女の子に優しくしてもらった経験がなくて……」
そでで目尻をふいたあと、メグルは思いきって告げた。
「セラ。俺、おまえのことが好きだ」
「おっと、そうきたか」
複雑な顔色であごを揉むセラを、メグルは追撃した。
「嫌いなら嫌いって、きっぱり断ってくれ」
「嫌いじゃないよ。ただ……」
にっこり笑って、セラはちいさく舌をだした。
「恋人にするのは歳上って決めてるんだ、ぼく。じつはファザコンなの♪」
つまようじに刺したリンゴを差し出しながら、セラはうながした。
「はい、あ~んして?」
「あ……あ~ん」
ぼうぜんと、メグルはリンゴをほおばった。
口の中いっぱいに広がったのは、青春の味……
病室のベッドで、メグルは静かに目をさました。
すぐ横からは、しゃりしゃりとなにかを切る音が響いている。
見れば、そばのイスにセラが座っているではないか。その手もとで綺麗に皮を剥かれるのは、つややかなリンゴだ。
寝間着姿のまま、メグルはうめいた。
「セラ……」
果物ナイフを止め、セラは視線をあげた。
「おはよう、メグル。そろそろ起きるころだと思ったよ」
身を起こしかけ、メグルは顔をゆがめた。サンドバッグにされたように体中が痛い。
ずれた布団をメグルへかけ直しながら、セラは説明した。
「まだ動いちゃだめだ。全治一週間の打撲なんだから」
「なんで生きてるんだ、俺?」
釈然としない表情のメグルへ、セラは苦笑した。
「殺すつもりなんて、あるわけないじゃないか」
「あいつらは……シンゴたちはどうなった?」
均等にリンゴを切り分けつつ、セラは答えた。
「あの騒ぎのあと全員、ここまでの悪さを白状して停学処分になったよ。あんな目に遭ったんだ。復帰しても、もう二度とおかしなマネはしないだろう」
固唾を呑んで、メグルは聞いた。
「俺は?」
「きみなら大丈夫。あの火縄銃の幽霊の件も、不良たちのいたずらということで決着しかけている。真相を探ろうとしたところで、そもそも結果呪の原理を説明できる者なんていない。きみもそれに巻き込まれた被害者のひとり、ということになっているよ。ま、結果オーライだね」
「そうか……」
まくらに横顔をうずめたまま、メグルはつぶやいた。
「セラ、おまえも結果使いだったんだな」
「らしいね」
「やっぱりおまえも、あの保健室で声を聞いてからそうなったのか? ヒュプノスの?」
「たしかに声は聞こえてたけど、ちがう。あの不思議な石の力は、ぼく自身覚えていないほど幼いころからある」
唇に人差し指をあて、セラは念を押した。
「おたがい内緒だよ、ぼくたちの能力のことは?」
「わかった」
かたわらのテレビからは、小音量でニュースが流れている。
取り上げられるのは、さいきん赤務市で頻発している奇妙な連続殺人事件だ。通称〝食べ残し事件〟と呼ばれるそれは同一犯のものとされており、被害者と思われる遺体は損壊が激しすぎて、身元の特定にも大変な時間がかかっているらしい。
険しい視線で報道を横目にしながら、セラは付け加えた。
「あと、約束して。無関係な一般人には、絶対にその力は使わないと」
「約束する」
申し訳なさげに、メグルは瞳を伏せた。
「ごめんな、セラ。山であんなことをして。どうしても許せなかったんだ、あいつらが」
「気持ちはわかるさ」
「こんな情けない俺のために、セラ、なんでお見舞いになんて来てくれる?」
「言ったじゃないか。きみが困ったら助ける、って」
「…………」
我知らず瞳にこみ上げてきたものに、メグルは咽び始めた。上掛け越しにその背中をさすりながら、困った面持ちになったのはセラだ。
「おいおい。これじゃまるで、ぼくが泣かしたみたいじゃないか」
「ごめん。生まれてこの方、女の子に優しくしてもらった経験がなくて……」
そでで目尻をふいたあと、メグルは思いきって告げた。
「セラ。俺、おまえのことが好きだ」
「おっと、そうきたか」
複雑な顔色であごを揉むセラを、メグルは追撃した。
「嫌いなら嫌いって、きっぱり断ってくれ」
「嫌いじゃないよ。ただ……」
にっこり笑って、セラはちいさく舌をだした。
「恋人にするのは歳上って決めてるんだ、ぼく。じつはファザコンなの♪」
つまようじに刺したリンゴを差し出しながら、セラはうながした。
「はい、あ~んして?」
「あ……あ~ん」
ぼうぜんと、メグルはリンゴをほおばった。
口の中いっぱいに広がったのは、青春の味……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる