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第三話「雪花」
「雪花」(9)
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「!?」
めいっぱい酸素を吸い込み、ドルフは勢いよく身を起こした。
「ごほッ! げほッ!」
目覚めたドルフの喉をまず突いたのは、強い咳き込みだった。五つばかりまとめて連結された彼専用のベッドの横、無意識に倒された室内灯は床で明滅している。
窓外を流れる空を目撃し、ドルフは素早く現状を分析した。
「ここは……アイホートか?」
ぜえぜえ肩で息をしつつ、ドルフは額の汗をぬぐった。
医務室に他人の気配はない。かすかに聞こえるのは航空機のエンジン音だけだ。
ドルフの巨体のそこかしこには、何者かに施された治療の形跡がある。隅々までじぶんの四肢を見渡しながら、ドルフは独りごちた。
「手……ある。足も……ある」
いまいち記憶は不鮮明だった。視界いっぱいに怪物の花弁が広がったのを最後に、ドルフの思考は猛吹雪にさらわれて途切れている。
スキンヘッドの後頭部をさすり、ドルフはぼんやりと自問した。
「助かったのか、俺は?」
とにかくバナンの廃墟からは脱出し、アイホートの離陸には成功したらしい。
じぶんが輸送機の医務室にいるということは、事情を知る仲間にはすぐ会える。なにせこの図体をどこかへ運ぶには通常、屈強な男手が十人以上は必要だ。
「!」
こみあげる息苦しさに、ドルフは顔をしかめた。
悪質な風邪にでもやられたか、咳が止まらない。ひどく喉も渇いている。
大きくベッドをきしませ、ドルフは転がるように床へ降りた。咳、咳、咳。苦しげに背中を丸めたまま、そばの洗面台へ向かう。
コップを探す余裕もない。手洗いのセンサーを連打して動かすと、あふれる水を直接口で受け止める。
ドルフの全身を、稲妻が駆け巡ったのはそのときだった。
正確には、胸から始まり、喉や、手足の指先まで、凄まじい激痛が襲ったのだ。
たまらずドルフは、化粧鏡の下の流し場に突っ伏した。筋肉痛? いや、そんな生易しい現象ではない。
ひときわ深い咳とともに、どちゃ、と洗面台は鳴った。
排水口をぬめり落ちる肉塊は、ひどく粘っこくて赤い。
なんだこれは? 胃の破片?
とてつもない絶叫をつれて、ドルフは海老反りに限界まで仰け反った。折れかけた背骨が、嫌な悲鳴を放つ。盛大に天井へ噴き上がったのは、血と内臓の混成物だ。
踊るように辺りの家具を破壊しつつ、ドルフは地面へ崩れ落ちた。体が言うことを聞かない。四つん這いになった巨躯に広がる猛烈な痙攣、悪寒、灼熱感、そして激痛に、思わず我が身を両腕で抱く。おびただしい毛穴という毛穴から、同数の鮮血の珠が染み出すのにも気づいたかどうか。
ドルフの皮膚の下を、音をたててなにかが這い回っていた。まるで植物の根だ。幻覚等ではない。その流量は百本、いや千本はあっただろうか。
ああ。
外側へ鼓膜の破れたドルフの耳は、鼻腔は、脳漿が混じった血しぶきを噴水のように吐いた。鏡に飛んでへばりついたのは、視神経ごと千切れたふたつの眼球だ。
生まれる。
なにかが。
病原体や寄生物の類に欠かさず反応するアイホートの探知機を、謎の方法でくぐり抜けて育った〝それ〟がだ。
「~~~ッッ!!」
壁に映った大男のシルエットを裂き、触手めいた無数の影は飛び出した。
めいっぱい酸素を吸い込み、ドルフは勢いよく身を起こした。
「ごほッ! げほッ!」
目覚めたドルフの喉をまず突いたのは、強い咳き込みだった。五つばかりまとめて連結された彼専用のベッドの横、無意識に倒された室内灯は床で明滅している。
窓外を流れる空を目撃し、ドルフは素早く現状を分析した。
「ここは……アイホートか?」
ぜえぜえ肩で息をしつつ、ドルフは額の汗をぬぐった。
医務室に他人の気配はない。かすかに聞こえるのは航空機のエンジン音だけだ。
ドルフの巨体のそこかしこには、何者かに施された治療の形跡がある。隅々までじぶんの四肢を見渡しながら、ドルフは独りごちた。
「手……ある。足も……ある」
いまいち記憶は不鮮明だった。視界いっぱいに怪物の花弁が広がったのを最後に、ドルフの思考は猛吹雪にさらわれて途切れている。
スキンヘッドの後頭部をさすり、ドルフはぼんやりと自問した。
「助かったのか、俺は?」
とにかくバナンの廃墟からは脱出し、アイホートの離陸には成功したらしい。
じぶんが輸送機の医務室にいるということは、事情を知る仲間にはすぐ会える。なにせこの図体をどこかへ運ぶには通常、屈強な男手が十人以上は必要だ。
「!」
こみあげる息苦しさに、ドルフは顔をしかめた。
悪質な風邪にでもやられたか、咳が止まらない。ひどく喉も渇いている。
大きくベッドをきしませ、ドルフは転がるように床へ降りた。咳、咳、咳。苦しげに背中を丸めたまま、そばの洗面台へ向かう。
コップを探す余裕もない。手洗いのセンサーを連打して動かすと、あふれる水を直接口で受け止める。
ドルフの全身を、稲妻が駆け巡ったのはそのときだった。
正確には、胸から始まり、喉や、手足の指先まで、凄まじい激痛が襲ったのだ。
たまらずドルフは、化粧鏡の下の流し場に突っ伏した。筋肉痛? いや、そんな生易しい現象ではない。
ひときわ深い咳とともに、どちゃ、と洗面台は鳴った。
排水口をぬめり落ちる肉塊は、ひどく粘っこくて赤い。
なんだこれは? 胃の破片?
とてつもない絶叫をつれて、ドルフは海老反りに限界まで仰け反った。折れかけた背骨が、嫌な悲鳴を放つ。盛大に天井へ噴き上がったのは、血と内臓の混成物だ。
踊るように辺りの家具を破壊しつつ、ドルフは地面へ崩れ落ちた。体が言うことを聞かない。四つん這いになった巨躯に広がる猛烈な痙攣、悪寒、灼熱感、そして激痛に、思わず我が身を両腕で抱く。おびただしい毛穴という毛穴から、同数の鮮血の珠が染み出すのにも気づいたかどうか。
ドルフの皮膚の下を、音をたててなにかが這い回っていた。まるで植物の根だ。幻覚等ではない。その流量は百本、いや千本はあっただろうか。
ああ。
外側へ鼓膜の破れたドルフの耳は、鼻腔は、脳漿が混じった血しぶきを噴水のように吐いた。鏡に飛んでへばりついたのは、視神経ごと千切れたふたつの眼球だ。
生まれる。
なにかが。
病原体や寄生物の類に欠かさず反応するアイホートの探知機を、謎の方法でくぐり抜けて育った〝それ〟がだ。
「~~~ッッ!!」
壁に映った大男のシルエットを裂き、触手めいた無数の影は飛び出した。
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