58 / 61
第四話「雪半」
「雪半」(14)
しおりを挟む
ふたりが後にした倉庫からは、熱い轟音が連続している。
激しい雨の中、ハンとホーリーは走った。
手を引かれながら、ぽつりと口を開いたのはホーリーだ。
「ねえ、おばさん?」
「なんだい?」
「ホーリーはずっと〝生きる〟ということの意味がよくわからなかった。だから体に悪いって怒られても、みんなに自分の時間をあげてたんだ。自分なんかに命があるのが、もったいないと思ってたから」
でも、とホーリーはうつむいた。
「ホーリーは、初めて死にたくないって思った。ダニエルやおばさんの必死さを見て、ほんとうに時間をもらってたのは、ホーリーのほうだと知ったから。いまは、みんなのくれたこの〝時間〟を大切にしたい……いいんだよね、生きてて?」
これが、こんな幼い少女のする質問か……
沈黙ののち、ハンは鼻を鳴らした。
「自分で決めな。このまま走り続けるか、やめてそこの海にでもダイブするか……選択する権利は、もうあんたにある。難しいかもしれないが、それが自由ってもんさ」
唐突に、ハンは駆け足に急ブレーキをかけた。
いつでも発車できる状態の黄色いタクシーは、もうすぐそばに見えている。同じように濡れそぼりつつ、ハンを見上げたのはホーリーだ。
「どうしたの?」
「……下がってな」
ハンが目つきを鋭くする理由は、じきに判明した。
雨のベールの向こう、静かにたたずむ人影がある。とめどなく水滴を落とすのは、不気味なジュズの仮面だ。タイトなスーツを濡れ鼠と化してまで、この女はいつからここで待っていたのだろう。
マタドールシステム・タイプB……シヨ。
刃の殺人人形だ。
どこかでだれかが指を鳴らすのと、ジェイスのタクシーが爆発するのはほぼ同時だった。
「スッキリしたッ!!」
炎と煙の先、そう叫んだ人影を、ハンは険しい視線で横目にした。
もよりの倉庫を見れば、そいつはひとりだけ屋根の下で雨宿りしている。紫煙をくゆらせる葉巻をつまんだ手も、革靴を履いた足首も、大笑いする顔も、全部が包帯ぐるぐる巻きだ。この神がかって凶悪なテロリストが、福山楼を始めとした襲撃に関わっている危険性は、ハン自身、組織の医者からちらりと聞かされていた。
「スコーピオンだね……色紙の一枚でも持ってくりゃよかった」
ハンのつぶやきに、すかさずスコーピオンは反応した。
「する! 何枚でもサインするよ! エージェント・リンフォン!」
「そっちも色々とご存知か」
「そんなに怖い顔しないで。ごめんね、せっかくのタクシーを爆弾の餌にしちゃって。でも、代わりの足は用意してあるからさ。あれだよアレアレ。U・F・Oッ!」
力の限り天を指差す姿は、スコーピオン恒例の決めポーズだった。
濡れた前髪を掻き上げながら、歯向かったのはハンだ。
「悪いがそんな、ポンポン撃ち落とされる泥船なんかに乗るつもりはない。あたしも、この娘もね」
「来るんだ。お前も、そのガキも」
恫喝したスコーピオンは、打って変わって恐ろしい顔つきに変じている。葉巻の先端を血のように燃やし、スコーピオンは低く笑った。
「ダリオンハーフ、ハン・リンフォン。おねえちゃんのことは、俺たちも前から興味津々だったぜ。あの化け物と人間が、いったいどんな目的や原理でミックスした? その生命力と戦闘力は? もっと野獣みたいな姿を想像してたが、うん。もしかするとダリオンの血には、美容や痩身の効果があるのかもね……パンツの色は?」
ハンは無言で、拳の骨を鳴らした。
スコーピオンはさておき、シヨはおよそ十歩圏内の間合いにいる。あのモノレールで披露された破壊の威力も記憶に新しい。こんどこそ正面衝突は避けられないだろう。それにしても彼女はなぜ、地球を裏切ってまで敵勢力になど寝返ったのだ。
首を回して柔軟運動しながら、ハンは色を教えた。
「青だ」
「いい! ますますいい!」
スコーピオンは鼻息を荒くした。
「そんなスタイル抜群の成功例と、もう一匹、別世界の成功例がいっしょにいる。こっちの原石も、磨く前からもう輝いてるな。おら、そこの。アーモンドアイのプリンセス。超加速の女王……実験ナンバーD10、ホーリーちゃんんんッッ!!」
声高に呼ばれたホーリーは、怒った顔でハンのうしろに隠れた。スコーピオンは、狂ったようにまだ投げキッスしてくる。陽気に肩を揺らしつつ、スコーピオンは紫煙混じりにささやいた。
「かわゆい♪ 安心しな。俺様の年齢制限はだな、上下左右斜めに無限大なのさ! できれば生け捕りがいいんだけど、なんなら細切れの肉片サンプルでも結構だ。お二人まとめて、無理矢理にでもお招きするぜ。俺の愛の巣へ。月の裏側の実験室へ……さ、交渉のお時間だよ、シヨちゃん?」
スコーピオンの合図を受け、シヨは音もなく歩き始めた。そこから視線を外さず、ホーリーへ耳打ちしたのはハンだ。
「あんたが女王様だって? あんたみたいな小娘が? ま、その能力を目にすりゃ、どんな星の住人だって手の甲に口づけしたくなるか」
最初にいた倉庫から、謎めいた火柱は突き抜けた。
中ではまだ、たった一人であいつが戦っている。だが、倉庫の窓や入口から内部へ侵入するのは、あふれんばかりのジュズの気配だ。さながらゴキブリの大群に近い。そちらを唖然と見守るホーリーの顔を引き戻し、ハンはその細い肩に手を置いた。
「いいかい、ホーリー?」
「?」
「こいつは、あんたとあたしの最後の約束だ。あたしが敵にやられたら……死んだり、もし〝それ以外〟のことになったら、ジェイスのいるあそこへ駆け込むんだよ。うしろなんて振り返らず、一目散に。あっちもとんでもない地獄だろうが、少なくとも雨に濡れずにゃ済む」
「嫌だ!」
地団駄を踏み、ホーリーは断固として言い張った。
「何回でも時間はやり直せる。ホーリーが治すんだ。だから負けないで!」
「やれやれ、人使いが荒いね。だから女王様なんて呼ばれるんだ。だが、ひとつはっきりしてることがある。あの包帯馬鹿の言う通り、あたしに選択権はないってことさ」
風雨は、衝撃に弾けた。
なんの前触れもなく放たれたハンの後ろ回し蹴りが、シヨの右ストレートを食い止めたのだ。お互い素手とはいえ、人間離れしたアンドロイドの膂力は強烈な痺れが走る。
ハンは吼えた。
「あんたを守る以外はね!」
そのまま、ハンは竜巻のごとく逆回転した。
軽くのけぞったシヨの鼻先を、鋭いハンのハイキックと、弾丸めいた掌底が順番にかすめる。隙間を縫って飛来したシヨの手刀を、腕の甲で鮮やかに受け流し、ハンは地面すれすれまで身を沈めた。素早くもう一回転。シヨの軸足を襲ったのは、ハンの鞭のような水面蹴りだ。
破裂音とともに、ハンの足払いはシヨのハイヒールに踏み止められていた。雨粒を焦がして繰り出されたシヨの膝蹴りが、ハンのみぞおちを強打する。軽く蹴っただけにしか思えないのに、このダメージはなんだ。地面の雨水を左右に割り、ハンは十メートルも道路を吹き飛んでいる。
転がりに転がり、ハンはようやく止まった。ふらつきながら、身を起こす。
いまにも駆け寄ってこようとするホーリーを、ハンは片手で制した。唇の血をぬぐうハンを、愉快げに煽ったのはスコーピオンだ。
「やめとけやめとけ! シヨは、人間どころかダリオンの天敵なんだぜ!」
「んなもんと一緒にすんな!」
雄叫びをあげるハンの闘志は、いささかも衰えていない。
怒号に首をすくめ、スコーピオンはあっけらかんとお手上げした。
「そういや、夜までに会議の資料を作らなきゃいけないんだった……休憩は終わりだ、シヨ。抜いちゃえ、剣を。やっておしまい、おしとやかに♪」
「…………」
スコーピオンの指示に従い、シヨは姿勢を低く落として身構えた。
「高周波反重力輪刃〝朝焼の発見者〟起動。斬撃段階、ステージ(3)……〝均質圏〟」
腰の鞘に納めた武器を、シヨは流れるように抜き放った。抜き放った途端、シヨを中心に広がったのは、薄く磨かれた円状の巨剣だ。
超科学でできた必殺剣の発射体制……ひとたび閃いたシヨの円月輪は、触れるすべての血を吸わずにはいられない。
雨空の下、ハンは大きく息を吸い込んだ。
「来な!」
止めてみせる。
ハンが果敢に踏みしめた地面で、ふたつ、水柱は爆発した。まっすぐ正面に伸ばした左腕とは反対に、ハンは拳銃を握った右手を強く引き絞って構えている。火器と崩拳の混成技だ。
人型自律兵器の全力の動きが、銃弾と同等かそれ以上に速いことは知っていた。外せば無論、次はない。この一撃にすべてを賭ける。
ふたりの距離、およそ十メートル……
そのちょうど中間地点で、葉巻を持つ手をそっと上へ掲げたのはスコーピオンだ。彼の手が振り下ろされたとき、勝負は決するのだろう。
喜色満面のスコーピオンとは裏腹に、ホーリーは気が気ではない。彫像のごとく動かないハンとシヨを左右に、子どもながらにも祈りに手を握っている。
「レディー……」
スコーピオンのGOサインは、意外なほどあっさりしていた。
「のこった♪」
次の瞬間、シヨの姿は、コマ落としのようにハンの背後に現れている。その方向へ吹いた突風に包帯の裾を持っていかれながら、スコーピオンは見た。
ハンの渾身の早撃ちに打ち砕かれ、粉々になるシヨの仮面を。
横一直線に斬られたハンの腹から、大量の鮮血がしぶくのを。
沈黙を破ったのは、ホーリーの悲鳴だった。
旋回したシヨの輪刃が、背中合わせのまま上から下へハンを断つ。奇妙な煙をあげたのは、地面を叩いたおびただしいハンの血だ。縦に横に深々と十文字斬りにされ、刃傷の奥部からは内臓や骨格が惨たらしく覗いている。
視界の片隅でぼやけかかるホーリーへ、ハンは吐血混じりに指摘した。
「カゼ……ひくよ?」
シヨの無造作な蹴りにとどめを刺され、ハンは血溜まりへ倒れ伏した。
激しい雨の中、ハンとホーリーは走った。
手を引かれながら、ぽつりと口を開いたのはホーリーだ。
「ねえ、おばさん?」
「なんだい?」
「ホーリーはずっと〝生きる〟ということの意味がよくわからなかった。だから体に悪いって怒られても、みんなに自分の時間をあげてたんだ。自分なんかに命があるのが、もったいないと思ってたから」
でも、とホーリーはうつむいた。
「ホーリーは、初めて死にたくないって思った。ダニエルやおばさんの必死さを見て、ほんとうに時間をもらってたのは、ホーリーのほうだと知ったから。いまは、みんなのくれたこの〝時間〟を大切にしたい……いいんだよね、生きてて?」
これが、こんな幼い少女のする質問か……
沈黙ののち、ハンは鼻を鳴らした。
「自分で決めな。このまま走り続けるか、やめてそこの海にでもダイブするか……選択する権利は、もうあんたにある。難しいかもしれないが、それが自由ってもんさ」
唐突に、ハンは駆け足に急ブレーキをかけた。
いつでも発車できる状態の黄色いタクシーは、もうすぐそばに見えている。同じように濡れそぼりつつ、ハンを見上げたのはホーリーだ。
「どうしたの?」
「……下がってな」
ハンが目つきを鋭くする理由は、じきに判明した。
雨のベールの向こう、静かにたたずむ人影がある。とめどなく水滴を落とすのは、不気味なジュズの仮面だ。タイトなスーツを濡れ鼠と化してまで、この女はいつからここで待っていたのだろう。
マタドールシステム・タイプB……シヨ。
刃の殺人人形だ。
どこかでだれかが指を鳴らすのと、ジェイスのタクシーが爆発するのはほぼ同時だった。
「スッキリしたッ!!」
炎と煙の先、そう叫んだ人影を、ハンは険しい視線で横目にした。
もよりの倉庫を見れば、そいつはひとりだけ屋根の下で雨宿りしている。紫煙をくゆらせる葉巻をつまんだ手も、革靴を履いた足首も、大笑いする顔も、全部が包帯ぐるぐる巻きだ。この神がかって凶悪なテロリストが、福山楼を始めとした襲撃に関わっている危険性は、ハン自身、組織の医者からちらりと聞かされていた。
「スコーピオンだね……色紙の一枚でも持ってくりゃよかった」
ハンのつぶやきに、すかさずスコーピオンは反応した。
「する! 何枚でもサインするよ! エージェント・リンフォン!」
「そっちも色々とご存知か」
「そんなに怖い顔しないで。ごめんね、せっかくのタクシーを爆弾の餌にしちゃって。でも、代わりの足は用意してあるからさ。あれだよアレアレ。U・F・Oッ!」
力の限り天を指差す姿は、スコーピオン恒例の決めポーズだった。
濡れた前髪を掻き上げながら、歯向かったのはハンだ。
「悪いがそんな、ポンポン撃ち落とされる泥船なんかに乗るつもりはない。あたしも、この娘もね」
「来るんだ。お前も、そのガキも」
恫喝したスコーピオンは、打って変わって恐ろしい顔つきに変じている。葉巻の先端を血のように燃やし、スコーピオンは低く笑った。
「ダリオンハーフ、ハン・リンフォン。おねえちゃんのことは、俺たちも前から興味津々だったぜ。あの化け物と人間が、いったいどんな目的や原理でミックスした? その生命力と戦闘力は? もっと野獣みたいな姿を想像してたが、うん。もしかするとダリオンの血には、美容や痩身の効果があるのかもね……パンツの色は?」
ハンは無言で、拳の骨を鳴らした。
スコーピオンはさておき、シヨはおよそ十歩圏内の間合いにいる。あのモノレールで披露された破壊の威力も記憶に新しい。こんどこそ正面衝突は避けられないだろう。それにしても彼女はなぜ、地球を裏切ってまで敵勢力になど寝返ったのだ。
首を回して柔軟運動しながら、ハンは色を教えた。
「青だ」
「いい! ますますいい!」
スコーピオンは鼻息を荒くした。
「そんなスタイル抜群の成功例と、もう一匹、別世界の成功例がいっしょにいる。こっちの原石も、磨く前からもう輝いてるな。おら、そこの。アーモンドアイのプリンセス。超加速の女王……実験ナンバーD10、ホーリーちゃんんんッッ!!」
声高に呼ばれたホーリーは、怒った顔でハンのうしろに隠れた。スコーピオンは、狂ったようにまだ投げキッスしてくる。陽気に肩を揺らしつつ、スコーピオンは紫煙混じりにささやいた。
「かわゆい♪ 安心しな。俺様の年齢制限はだな、上下左右斜めに無限大なのさ! できれば生け捕りがいいんだけど、なんなら細切れの肉片サンプルでも結構だ。お二人まとめて、無理矢理にでもお招きするぜ。俺の愛の巣へ。月の裏側の実験室へ……さ、交渉のお時間だよ、シヨちゃん?」
スコーピオンの合図を受け、シヨは音もなく歩き始めた。そこから視線を外さず、ホーリーへ耳打ちしたのはハンだ。
「あんたが女王様だって? あんたみたいな小娘が? ま、その能力を目にすりゃ、どんな星の住人だって手の甲に口づけしたくなるか」
最初にいた倉庫から、謎めいた火柱は突き抜けた。
中ではまだ、たった一人であいつが戦っている。だが、倉庫の窓や入口から内部へ侵入するのは、あふれんばかりのジュズの気配だ。さながらゴキブリの大群に近い。そちらを唖然と見守るホーリーの顔を引き戻し、ハンはその細い肩に手を置いた。
「いいかい、ホーリー?」
「?」
「こいつは、あんたとあたしの最後の約束だ。あたしが敵にやられたら……死んだり、もし〝それ以外〟のことになったら、ジェイスのいるあそこへ駆け込むんだよ。うしろなんて振り返らず、一目散に。あっちもとんでもない地獄だろうが、少なくとも雨に濡れずにゃ済む」
「嫌だ!」
地団駄を踏み、ホーリーは断固として言い張った。
「何回でも時間はやり直せる。ホーリーが治すんだ。だから負けないで!」
「やれやれ、人使いが荒いね。だから女王様なんて呼ばれるんだ。だが、ひとつはっきりしてることがある。あの包帯馬鹿の言う通り、あたしに選択権はないってことさ」
風雨は、衝撃に弾けた。
なんの前触れもなく放たれたハンの後ろ回し蹴りが、シヨの右ストレートを食い止めたのだ。お互い素手とはいえ、人間離れしたアンドロイドの膂力は強烈な痺れが走る。
ハンは吼えた。
「あんたを守る以外はね!」
そのまま、ハンは竜巻のごとく逆回転した。
軽くのけぞったシヨの鼻先を、鋭いハンのハイキックと、弾丸めいた掌底が順番にかすめる。隙間を縫って飛来したシヨの手刀を、腕の甲で鮮やかに受け流し、ハンは地面すれすれまで身を沈めた。素早くもう一回転。シヨの軸足を襲ったのは、ハンの鞭のような水面蹴りだ。
破裂音とともに、ハンの足払いはシヨのハイヒールに踏み止められていた。雨粒を焦がして繰り出されたシヨの膝蹴りが、ハンのみぞおちを強打する。軽く蹴っただけにしか思えないのに、このダメージはなんだ。地面の雨水を左右に割り、ハンは十メートルも道路を吹き飛んでいる。
転がりに転がり、ハンはようやく止まった。ふらつきながら、身を起こす。
いまにも駆け寄ってこようとするホーリーを、ハンは片手で制した。唇の血をぬぐうハンを、愉快げに煽ったのはスコーピオンだ。
「やめとけやめとけ! シヨは、人間どころかダリオンの天敵なんだぜ!」
「んなもんと一緒にすんな!」
雄叫びをあげるハンの闘志は、いささかも衰えていない。
怒号に首をすくめ、スコーピオンはあっけらかんとお手上げした。
「そういや、夜までに会議の資料を作らなきゃいけないんだった……休憩は終わりだ、シヨ。抜いちゃえ、剣を。やっておしまい、おしとやかに♪」
「…………」
スコーピオンの指示に従い、シヨは姿勢を低く落として身構えた。
「高周波反重力輪刃〝朝焼の発見者〟起動。斬撃段階、ステージ(3)……〝均質圏〟」
腰の鞘に納めた武器を、シヨは流れるように抜き放った。抜き放った途端、シヨを中心に広がったのは、薄く磨かれた円状の巨剣だ。
超科学でできた必殺剣の発射体制……ひとたび閃いたシヨの円月輪は、触れるすべての血を吸わずにはいられない。
雨空の下、ハンは大きく息を吸い込んだ。
「来な!」
止めてみせる。
ハンが果敢に踏みしめた地面で、ふたつ、水柱は爆発した。まっすぐ正面に伸ばした左腕とは反対に、ハンは拳銃を握った右手を強く引き絞って構えている。火器と崩拳の混成技だ。
人型自律兵器の全力の動きが、銃弾と同等かそれ以上に速いことは知っていた。外せば無論、次はない。この一撃にすべてを賭ける。
ふたりの距離、およそ十メートル……
そのちょうど中間地点で、葉巻を持つ手をそっと上へ掲げたのはスコーピオンだ。彼の手が振り下ろされたとき、勝負は決するのだろう。
喜色満面のスコーピオンとは裏腹に、ホーリーは気が気ではない。彫像のごとく動かないハンとシヨを左右に、子どもながらにも祈りに手を握っている。
「レディー……」
スコーピオンのGOサインは、意外なほどあっさりしていた。
「のこった♪」
次の瞬間、シヨの姿は、コマ落としのようにハンの背後に現れている。その方向へ吹いた突風に包帯の裾を持っていかれながら、スコーピオンは見た。
ハンの渾身の早撃ちに打ち砕かれ、粉々になるシヨの仮面を。
横一直線に斬られたハンの腹から、大量の鮮血がしぶくのを。
沈黙を破ったのは、ホーリーの悲鳴だった。
旋回したシヨの輪刃が、背中合わせのまま上から下へハンを断つ。奇妙な煙をあげたのは、地面を叩いたおびただしいハンの血だ。縦に横に深々と十文字斬りにされ、刃傷の奥部からは内臓や骨格が惨たらしく覗いている。
視界の片隅でぼやけかかるホーリーへ、ハンは吐血混じりに指摘した。
「カゼ……ひくよ?」
シヨの無造作な蹴りにとどめを刺され、ハンは血溜まりへ倒れ伏した。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!
小林汐希
ライト文芸
2年5組の生徒:松本花菜(17歳 高校2年生)
2年5組の担任:長谷川啓太(23歳 教師歴1年目)
幼い頃から、様々な悩みを抱えながら過ごしてきた花菜。
それは幼い頃に父との離別を経験した家庭環境だったり、小学校の最後に作ってしまった体の古傷であったり。
学校外の時間を一人で過ごすことになった彼女の唯一、かつ絶対的な味方でいてくれたのが、近所に住む啓太お兄ちゃんだった。
しかし年の離れた二人の関係では仕方ないとはいえ、啓太の大学進学や環境変化とともに、その時間は終わりを迎えてしまう。
ふさぎ込む花菜を前に、啓太は最後に「必ず迎えに来る」という言葉を残して街を離れた。
言葉を受け取った花菜は、自分を泣かせないための慰めだったという諦めも入りつつ、一方で微かな希望として心の中で温め続けていた。
数年の時を経て二人が再び顔を合わせたものの、もはや運命の意地悪とでもいうべき「担任教師と生徒」という関係。
最初は様子伺いだったけれど、往時の気持ちが変わっていないことを再確認してからは、「一人じゃない」と嬉しいこと・辛いことも乗り越えていく二人には少しずつ背中を押してくれる味方も増えていく。
再会した当初は「おとなしい終末的運命キャラ」になっていた花菜も次第に自信を取り戻し、新米教師の啓太も花菜のサポートを裏で受けつつ堂々と教壇に立ち続けた。
そんな互いを支えあった二人の前に開けた世界は……。
たった一つだけの約束を胸に、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは支えあって走り抜けた二人の物語です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる