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一章

斬魔刀

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 気が付くと、一馬は息苦しさを覚える、大空洞の中に居た。
 あたりには転送装置のようなものは見つからない。
やはり“一方通行”だったようだ。

 隣には転送装置のバリアを突き破るために、腕に搭載した石の拳が失って項垂れているアインが倒れている。
 幸いなことに拳が破損しただけで、動くことには問題なさそうだった。

 再び孤立無援。更にここがファウスト大迷宮なのかもわかったものでは無い。
 
 絶望的な状況である。これまでの一馬なら、きっと発狂し、あらゆるものを呪い、一歩も踏み出せなかっただろう。
 
 しかし今は違った。
 
(ここがどこだろうと関係ない。俺は必ず生還する! そして先輩を助け出す!)
 
 綺麗は瑠璃へ再び危害を及ぼすはず。
 異世界で、否、この世でたった一人の信頼でき、そしてこれからも共に道を歩んで行きたいと思わせてくれた彼女。
 ならば速やかに行動に移らなければ。ゲオルグの教えを守るためにも。邪悪から瑠璃を救い出すためにも。
 
 よく見てみると、辺りには真新しいものから、風化したもので、様々な人骨やがらくたが転がっていた。
 ここは人のキャンプ地だったのか、はたまた魔物の巣で、食事の結果なのか。
 
(なら、きっとある筈だ。アインの武器になる何かが!)

 一馬は周囲に散らばる人骨を恐れることなく漁り始めた。
 
 風化した籠手に、ずたずたに引き裂かれた皮の鎧、砕けたポーションの小瓶。
仕えそうなものがほとんどないガラクタばかり。時折、骨を住処にしていたムカデの類に手を噛まれ、鋭い痛みが走った。
不快な異臭を放つ、妙なものを素手で握りつぶしたりもしてしまった。

 だけど、今までの悔しさを思い返せばどうということは無い。
 瑠璃のことを想えば、構っている時間が勿体ないほどの無駄な時間。
 
 今はただ生還するた確率を上げるために、使えそうなものを掘り当てるべき。
 
「――っ!?」

 突然、鋭い痛みが指に走った。
 ムカデに噛まれたものとは違う。砕いた人骨の中から手を引き上げると、指先が僅かに切れ、赤い血が滴っている。
 一馬は一旦冷静になり、慎重に骨の山を退けてゆく。
 やがて骨の向こうに、煌びやかな輝きを放つ何かがあった。
 
「見つけたぞ……くく、ははっ!!」

 一馬は思わず、腹を抱えて大笑いをする。
 骨の山の奥深く。そこには埋もれたことで風化を免れた巨大な剣があった。
 
 刃渡りは長く、異様に幅の広い、両刃剣。ゲオルグのような屈強な剣士が好んで使う、対巨大魔物用の武装。
 
 “斬魔剣”の愛称で親しまれるそれこそ――大剣(ハイパーソード)である。
 幸いなことに、骨の山をしつこく漁ったお陰で、丈夫そうな縄は何本も手に入れている。
 
「立て、アイン!」
「ヴォッ!」

 一馬の指示を受け、木の巨人はゆっくりと起き上がった。
 巨人は岩の拳を失った右腕をぶらぶらとさせつつ、骨を蹴散らしながら歩み寄ってくる。
 
 一馬は足元に転がる大剣の向こう側へ重そうな石をいくつも並べた。
そして長く、丈夫そうな骨を刃の下へと差し込み、更にその下へ大きな石を置いた。

「そぉれっ!!」

 裂ぱくの気合と共に、梃の原理で大剣を横にしようと試みた。
 刃が僅かに地面から浮く。しかしそれ以上はなかなか持ち上がらない。
 さすがはその重さで巨大な魔物を叩き切る武器だと身にしみて感じた。
 
 しかしここで妥協するわけには行かない。してはいけない。
 
 ここで剣を横に立てることこそ、生還し、瑠璃を助け出すための最短ルート。ゲオルグの教えを果たすための最適解。
 
「負けるか……こんなことで負けてたまるかぁぁぁ――!!」

 一馬は全身の力を振り絞り、手にした骨に全体重をかけた。
 骨にひびが入った。しかしそのおかげで、下に敷いた岩と上手く凹凸がかみ合った。
 びくともしなかった大剣が横に持ち上がって行く。
 
「アイン、今だ!」
「ヴォッ!」

 丁度良いタイミングで、アインの破損した右腕が大剣の柄へと落ちてくる。
 アインの破損した右腕と、事前に並べた岩に挟まれ大剣は器用に刃を上へと向けている。
 しかしこの不安定な状況は長く持ちそうもない。
 
 一馬は手に入れた何本もの縄を手に大剣へと向かってゆく。
 
 マリオネットマスターである一馬には、人形の整備に関する技術スキルが元々付与されていた。
 穴のあけ方、材料の切り方、そして丈夫な縄の結び方などは、人形の修理・整備に関することならば、人並み以上にこなすことができるのだった。
 
 一馬の作業は丁寧に、且つ迅速に終了した。
 
「アイン、もう良いぞ。立て!」

 アインはゆっくりと立ち上がった。同時に人の手では起すのがやっとだった大剣が地面を離れてゆく。
 
 一馬は試しにアインの腕を持ち上げ、落とす。
 右腕に縄でしっかりと固定された大剣は洞窟の湿った空気を鋭く切り裂いた。

 全長約1.5mの斬魔刀の装着は完了する。重さも、金属シャフトが保持してくれ問題なし。
しかしアインを操る感覚はこれまでとなんら変わりない。

 斬魔刀を扱う人間は、魔力を使って身体へ補正を加えなければならず、故に使用者は限られている。
だが、マリオネットマスターの人形は、その一切合切を無視して、扱うことができるらしい。
新たな発見だった。

 もはやここに仕えそうなものは無い。
 そう判断した一馬は、アインと共に墓場のようなそこを後にする。
 
(必ず生還する。先輩を助け出す。あいつ等から必ず!)

 一馬は邪悪な綺麗に怒り、そして瑠璃の身を案じ、空洞の中を進んでゆく。
 やがて向こう側から“キチキチ”といった不気味な声が聞こえ始めた。
 
 闇の中から赤い複眼を輝かせつつ現れたのは、巨大なカマキリ型の魔物。
 初めて見た相手である。
 
 ここがどこなのかわからない。目の前の敵が、どんな奴なのかもわからない。
 わからないことだらけ。心が折れ、生を諦めても仕方ないの無い現状。
 
 しかし一馬は迫り来る、巨大なカマキリを鋭い眼光で睨みつけた。
 
「行くぞ、アイン! あいつを退けるッ!」
「ヴォッ!!」

 まるで一馬の意志に応えるように、アインはひと際強い音を放つ。
 
 


【木偶人形:アイン】現状(更新)


★頭部――鉄製アーメット

★胸部及び胴部――丸太

★腕部――伸縮式丸太腕部×2
*攻撃スキル:ワームアシッド

★脚部――大クズ鉄棒・大きな石

★武装――斬魔刀×1 NEW!
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