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私、お姉ちゃんなので……
しおりを挟む「それじゃ、行ってきます! 夕方には戻ります!」
キュウはそういうと、家を出ていった。
ここ数日、朝食後にすぐ、弓を抱えて出かけているようだ。
「キュウは毎日狩りにでもいってるのかー?」
「なんか、来週弓の大会があるから練習してるって言ってた……」
「コン姉! それ言っちゃ、めっ!」
シンに叱られ、コンは苦笑いを浮かべた。
もしかすると、この間『弓の練習をしても良いところって知りませんか?』と聞いてきたのは、これのためかもしれない。
にしても弓の大会への出場を黙っとく必要なんてあるのか?
なんだかとても気になったので、町外れにある遠的場を訪れた。
だだっ広い国立の遠的場では、静寂の中、たくさんの弓使い達が無心で矢を射っている。
こういう厳かな雰囲気は、たまにだったら案外好きだったりするんだよね。
さて、ここにキュウは……いた!
遠的場の一番奥にいたキュウはゆっくり弦を弾き始めた。
この子の弓を構える姿は本当に様になっているように思う。
引き切った瞬間なんて、見惚れてしまうほど凛々しくてかっこいい。
次の瞬間、ビュン! とキュウの弓から矢が離れた。
しかし残念ながら、矢は残念ながら的から外れてしまった。
それでもキュウは、慌てず、急がず、凛々しい雰囲気のまま矢を入り続ける。
だけど全部大外れ。さすがに矢を撃ち尽くしたあとの彼女は、がっくり肩を落とした。
そりゃまぁ、この距離だと今のキュウの集中力評価では難しいかもしれない。
キュウはトボトボと、元気なさげに休憩場へ向かってゆく。
「はぁ……もう……なんで当たんないかなぁ……」
「よぉ、キュウ!」
「――っ!? せ、先生!?」
キュウの声があまりに大きかったのか、他の弓使い達から睨まれてしまった……
「なんでこんなところにいるんですか……?」
「いや、まぁ、なんとなく?」
「はぁ……きっと、コンかシンがうっかり口を滑らせちゃんですね」
「つーかさ、弓の大会に出るんだろ? 別に黙っとくことじゃなくね?」
「……こっそり出場して、優勝して、先生を驚かせたくて……」
ああ、そういうことね。
そういやこの子って、人をいい意味で驚かせることが好きだったからなぁ。
俺もこいつがちっちゃい頃『せんせいへのありがとうのおてがみ』をいきなり渡されて、嬉しかったもんな。
「さっきの遠的見てたけど、結構苦戦してるか?」
「うっ……その通りです……」
「見てやろうか?」
そう提案すると、キュウはブンブン首を横へ振ってみせた。
「なんで?」
「独り占め、良くないですから……」
「独り占め?」
「だって先生、お願いしたら一生懸命見てくれるますよね?」
「もちろん」
「毎日でも付き合ってくれるますよね?」
「そりゃそうだろ」
「ほら、私が先生を“独り占め”しちゃってる……コンもシンも居るのに、私だけ先生を連れ回すなんてできませんよ。私、お姉ちゃんですし……」
キュウはホントにいいお姉ちゃんだと思う。
三姉妹が今でも仲良くできているのは、この子のおかげなんだろうな。
「それに先生はみんなの先生なんですから……」
真面目だなぁ……キュウのいいところではあるけど。
「バーカ! 変なこと気にすんな!」
昔みたいにキュウの頭をワシワシと撫でた。
普通は拒否られるって思うところなんだろうけど……キュウは昔のように素直に受け取ってくれている。
こうして他人が心を開いてくれてるのって、嬉しいもんだねぇ。
「俺はみんなの先生であるまえに、キュウの先生でもあるんだ。それに大会とやらに優勝すりゃ、賞金かなんか出るだろ?」
「はい……20万Gくらいは……」
「その額だったら黒等級冒険者の1ヶ月分の稼ぎだ。俺をほんの少しの期間拘束して、稼げりゃ儲けもんだし、コンもシンもわかってくれるって」
「そ、そう思いますか……?」
「おう! もし万が一、コンやシンが文句言ってきても、俺がなんとかしてやる……つーか、たぶんそんなことはないんだろうけど」
ようやくキュウの顔に笑顔が戻った。
「ありがとうございます、先生! それではお言葉に甘えさせていただきます!」
「まぁ、弓は専門外だからどこまで力になれるかわかんないけど、できるだけ頑張らせてもらうぜ。一応、弓使いが仲間だった時期があるしな」
「よろしくお願いします!」
「よぉし、早速開始だぁ!」
――この日から大会開催日まで、俺は毎日キュウに付き合って、遠的場を訪れることにした。
「イメージとして、弓の弦を離す、じゃなくて引いてたら自然と離れちゃったなんだ!」
「は、はい!」
「別に返事はしなくて良いぞ。弓を引くことに集中!」
キュウは伝えた通り、弓を引くことに集中し始めた。
「肘、下がってる! 伸びも甘い! 片目を閉じるな! 悪い癖だぞ!」
弓を引きっぱなしの姿勢が辛いのだろう。
やっぱり徐々に弦を引く右腕の肘が下がってきている。
俺はほんの少し、キュウの右肘を押し上げた。
「――っ!?」
驚いたのかキュウの体がビクンと震える。
「これが正しい位置だ。辛いけど頑張れ!」
「う~……!」
「呻きをあげない! 集中!」
やがてキュウの弓から、勢いよく矢が飛び出した。
パァン! と遥か向こうの的から軽快な音が響いてくる。
「あ、当たった……?」
「おーすげぇ! よくやったな! おめでとう! さすがキュウだ!」
「ありがとうございます! 先生のおかげです!!」
「だけどただ当たっただけだ。大会じゃ、当たった位置で得点が決まるから、できるだけ高得点の真ん中へ近づけような?」
「はい! 頑張ります!」
ともあれ、ここまで休憩なしで打ち続けていたので、疲れた頃だろう。
昼も近いし、飯にしようと切り上げる。
たしかこの近くに旨安の定食屋があったな。
「よっ! キュウ姉にトク兄! お疲れさん!」
「キュウ姉、トーさんやほやほー」
遠的場を出ると、コンとシンがいた。
「コン、シン!? どうしてここに!?」
「昼飯、作ってきた! 一緒に食おうぜ!」
コンは大きな包みを差し出してくる。
「シンもおにぎり握った! がむばったぁ! カニ風かまぼこ入りおむすびきゃっほー!」
「ありがとう2人とも。でもごめんね……私ばっかり先生を連れ回していて……」
「まったく相変わらずキュウ姉はそういうとこ真面目だよなぁ……別に良いって! それに優勝すりゃ20万G手に入るしさ!」
コンは豪快に笑い、
「大丈夫! シンもそのうちトーさんとデートする! だから問題なし!」
おいおいシン、こりゃデートじゃないんだが……
「2人ともありがとう! お姉ちゃん、すっごく嬉しいよ! 2人のためにもがんばるね!」
ほら、やっぱりキュウの考えすぎだったじゃないか。
にしても、本当に仲が良いな、この姉妹って。
見ているこっちも心がほっこりとしてくるぜ。
「おや……? そこにいるのは詐欺師のトクザのおっさんじゃないか!」
と、すっごく気分の良いところへ、ムカつく声が聞こえてきた。
「詐欺師じゃなくて、訓練士なんだけどな……相変わらず元気そうじゃん、パルディオスくん」
俺は振り返ってくすぐさま、太々しい態度の勇者パルディオスくんへ、そう言い放った。
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