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三章 北の大地と豪快なお嬢様とヘタレな皇子

頑張れ! ラスカーズ!

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「や、やぁ、レオヴィルにアルビス! 今夜はよく来てくれたよ!」

「ご機嫌麗しゅうございます、ラスカーズ殿下。本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

「ぐっ……そ、そうか……」

 あー、もう! レオヴィルの奴、完全にラスカーズを拒否ってんじゃん!
しかもラスカーズも、気圧されて黙っちゃうし!!

……本気でなんとかしないと、マズイいぞ、これは……

 でも、今夜が絶好の機会なのは確かだ。

 こんな華やか雰囲気の中で、かっこいいラスカーズの姿を見せれば、レオヴィルだって!

「お、おい、アルビスっ!」

 意気込んでいた俺の肩を掴んできたのは、なんとラスカーズ本人。
まさか、俺の動きを察して動く気になってくれたのか!?

「なんだい、ラスカーズ!」

「少し、なんだその……相談したいことが……」

「おう、良いぜ! なんだい?」

「いや、ここではまずい……」

 ラスカーズの奴、チラチラレオヴィルをみてるな?
 実のところ良い予感と悪い予感が半々な俺である。

「わかった」

「ありがとう! 付いてきてくれ!」

「そういう訳で、レオヴィルは少しの間一人で宜しくね」

「はいはい、お好きにどーぞ」

 相変わらずレオヴィルは、ラスカーズに無関心な様子で去っていった。

 ホント、この二人世話が焼けるよなぁ……


……
……
……


 俺はラスカーズに連れられて、城壁の上へとやってきた。
ここには基本的に見張りの兵以外はいない。

「で、なによ話って?」

「……レオヴォルのことなんだが……」

 おーおー! キタキタ! さぁ、恋愛相談どーんと来い!

「こ、これをアルビスからレオヴィルへ渡して欲しいんだ!」

「は……?」

 思わず間抜けな声を上げてしまった。
それもそのはず。ラスカーズはまるで、俺がレオヴィルかのように、むっちゃ緊張した面持ちで包みを差し出してきたのである。

「ちなみに中身は?」

「靴だ! これは先日、東の山の行商人が持ち込んだ素晴らしいダンスシューズでな! 今日の舞踏会でぜひレオヴィルに履いてもらいたいと思って!」

「ふーん、そうなんだ。で、なんで俺に渡せなんて?」

「それはその……どうやらレオヴィルは、俺なんかのことよりもアルビスのことを好いているような気がして……」

 心臓が少しドキリと音を上げた。
さすがのラスカーズでも気づいていたか。
むしろ結婚の申し込みまでされているだなんて、口が裂けても言えない状況なのは間違いない。

「あのさ、ラスカーズ……仮にレオヴィルが、俺のことを好きだったとして、お前はそれであの子を諦められるのかい?」

「レオヴィルが幸せなら……」

「いや、今はレオヴィルの気持ちなんて聞いてない。お前自身がどう思うのかってことだっ!」

「ーーッ!?」

「確かにお前とレオヴィルは政略結婚かもしれない。だけど、俺はわかってるぜ。ラスカーズは昔から、レオヴィルのことが大好きでたまらないってことを!」

 言い終えて初めて、俺は随分な物言いだと思った。
なんてたって、相手はたとえ友達と言ってくれていても王族。
更に将来は北の大地を背負って立つ男だ。
本来ならこの場で、自慢のロングソードで首を跳ね飛ばされても文句は言えない。

「お前はレオヴィルの前でいっつもダメダメになるのは、それだけレオヴィルのことが大好きな証拠だ! 今日こそ、勇気を持って、お前自身の手でそいつを渡してやれ!」

「勇気を出して……」

「ああ、そうだ! じゃないと……お、俺がレオヴィルをもらっちまうぞ!」

「やっぱりそれダメ……!」

 ラスカーズの決意の言葉に、兵の叫び声が重なった。
普通なら"邪魔んすんな!"と思うところだったが、今は違う。
兵の声が妙に切迫していたからだ。

「どうした、そんな声を出して?」

 さっきまでのダメダメラスカーズはどこへ行ったのやら。
いつもの凜とした彼の顔と表情に切り替わっている。

「騎士団よりの報告です。城内にマッドスライムの残滓を発見したとのことです」

「なんだと!? それは本当か!?」

「はい。現在、騎士団が残滓を追跡中です」

「報告ありがとう。このことは?」

「殿下と騎士団の方々のみにご報告を」

「配慮をありがとう。まずは皆に気取られぬよう舞踏会場の警備を厳に。一応、父上の耳には挟んでおいてくれ! 今宵は年に一度の舞踏会だ。極力、不安を煽るような行動は慎むように」

「御意」

「もしかしてそのマッドスライムってのは、この間城に潜り込んできたっていう……?」

 俺の問いにラスカーズは頷きを返した。

「これはマッドスライムを侮った俺のミスだ……」

「マッドスライムじゃ仕方ないって。あいつ、少しでも残ってりゃ再生するのはわかってるし……それじゃあ俺も……」

 そう声を上げた俺へ、ラスカーズは手を開いて静止を促して来た。

「アルビス、すまないが俺の代わりにレオヴィルを守ってやって欲しい」

「……分かった」

「もしかするとアルビスには、俺が怖気付いて逃げたように映っているかもしれない。しかし、この点については誤解をしないでほしい。俺はレオヴィルも大事だが、民の命も大事だ。民あってこその国だからな」

「分かってるって。今度、そういうちゃんとしたカッコいいところをレオヴィルにみせてやるんだぞ?」

「ぐっ……ぜ、善処する。それでは!」

 ラスカーズは兵と共に去って行った。

 それじゃあ俺は近いうちにラスカーズがカッコよく決められるように、レオヴィルの警護をしますかね!


●●●


 舞踏会場へ戻ると、既に優美な音楽の下で、参加者の踊りが始まっていた。
しかしレオヴィルは踊ることなく、脇のソファーへ一人で座り込んでいる。

「遅い! 一人で暇っだったのよ!」

 近づくなりレオヴィルは、嬉しそうな表情で、文句を言ってきた。

「ごめんごめん、ちょっとラスカーズと盛り上がっちゃってね」

「ふーん、そうなの」

「踊らないの? 靴も履き替えてないようだし……」

「仕方ないじゃない。ヒールが無くなったんだから……」

 レオヴィルは足をブラブラさせつつ、憮然とそう言い放った。

「馬車の隅っこに落ちたんじゃ? ちゃんと探した?」

「探したわよ! でも無いの!」

 レオヴィルが声を荒げるとダンス中の姉のポワフィレとパルトンがクスクスと笑っている。

……またあの二人か……懲りない連中だな……

 しかし参った。
 踊っていないのはレオヴィル一人きりだ。
こんな状況が長く続けば、周りがどんな非難を浴びせてくるか、容易に想像が付く。

 いや、待てよ……この状況は使える!

「俺、ヒール探してくるよ」

「い、良いわよ! 別に……」

「レオヴィルだってこの場でこの状況が続くのはマズイと思ってるんでしょ?

「それは……」

「待ってて! 必ず探してくるから!」

 俺はレオヴィルから離れて、会場の外へ出た。
 そしてすぐさま、物真似の力の一つ"形態模写"を発する。

 みるみるうちに、俺の姿はラスカーズへと変わった。

「あー、あー……よし!」

 声を整え、茂みへ手を伸ばす。
 ラスカーズからレオヴィルへ宛てたプレゼントを手に、舞踏会場へ戻ってゆく。
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