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【最終章:ベルナデットの記憶】
ベルナデットの記憶
しおりを挟む【聖王国建国七英雄】
55年前に魔神皇ライン・オルツタイラーゲをヴァンガード島より北西方角に存在する孤島へ封印し、聖王国建国に尽力した英雄たちのことを指す。
聖王キングジムこと、ヴァンガード島にいた少年少女達を指揮し勝利を収めた――【イーディオン=ジム】
魔導士隊総司令でイーディオンを支えた少女の一人――【クラックス=ディビーニ】
魔導士隊第一隊隊長。現九大術士筆頭炎のバニングこと――【バニング=ジーカス】
魔道士隊第二隊隊長。現魔法協会最高理事――【アナハイム=テトラ】
イーディオンの近衛で"雷光烈火の勇者"と称された猛者――【ケリー=バルバロ】
人間との共闘という偉業を成し遂げた若きビムガン族長――【バーニア=リバモワ】
そして――
イーディオンが最初にヴァンガード島で出会い、魔神皇大戦で彼を勝利に導いた偉大なる魔法使いの少女、
【ベルナデット=エレゴラ】
⚫️⚫️⚫️
「私は建国七英雄の1人、ベルナデット=エレゴラの記憶を引き継いで生まれた、アルラウネになります」
閑散とした魔法学院の講堂に、意外なロナの発言がこだまする。
ロナの発言にクルスを始め、誰もが我が耳を疑った。
「ごめん、ちょっと突然過ぎて、意味わかんないわ。どういうこと?」
セシリーは誰もが思っていることを真先に口にした。
「意味がわからないと言われましても……これ以上はどうお伝えして良いのやら……」
「アルラウネって、確か人の無念の意思や魂が大地に帰って、再構成されたのにち発生する魔物だって、習ったような……」
困惑気味ではあるものの、ビギナが補足をしてくれる。
しかしセシリーは納得行かないのか、険しい表情のままだった。
「じゃあ、今目の前にいるのは誰なの? ロナ? それともベルナデットっていう人? どっちなの?」
「ベルナデットでもあり、ロナでもあります。どちらも私、としか言いようが、なくて……でも、今の私はアルラウネのロナのつもりです。ずっとみなさんと一緒に居た、私だと思います」
「つーと、今目の前にいるのはアルラウネのロナさんっと。んで、英雄のベルナデットがなんか無念な死に方をして、そのまんまアルラウネに転生したってことっすかね?」
ゼラの問いにロナは弱々しく首肯する。
「おそらくは……」
「まぁ、聖王様とかタウバもロナさんのことをベルナデットって呼んでたっすから、見た目はそっくりなんでしょうね。ビギッち、その辺りはどーなんすか?」
「ごめん、わからない。肖像が何も無いみたいだから。特にベルナデットのものは……」
「困惑させてすみません。でも、これ以上どう説明したらいいのやら。だけど、これまでのことをきちんとお話しなければならいとも思いまして……」
実際はロナ自身も困惑しているのか、険しい表情を崩さない。
そんなロナの様子を見て、さすがはゼラというべきか、固まっていた頬を僅かに緩める。
「まぁ、お互い分からん事聞きあったって、無駄なだけっすね」
「すみません、皆さん。混乱させてしまったみたいで……」
「英雄のベルナデットが、無念な死に方をして、今のアルラウネのロナさんになったんすよね? そんな魔物になっちゃうほどの無念って何なんっすか?」
「ごめんなさい。気持ちは分かるのですが、状況は良くわからないんです……実際、樹海に居た時はベルナデットとしての記憶は一切ありませんでした。でも樹海から出た時から、不思議とあらゆる風景を知っているような気がしたんです。そして聖王に逢って、フランやタウバと対峙した時、自分がベルナデットであると思い出しまして……だけど、なんでアルラウネになっているのかも定かではなくて……」
ロナは俯いてしまう。誰もが困惑し、言葉を失っていた。
アルラウネのロナは、建国七英雄の1人――ベルナデット=エレゴラの生まれ変わり。
あまりに荒唐無稽な話であった。簡単には信じられそうも無いことであった。
ならばロナの言葉を信じないのか? 彼女が語ってくれた真実を、訳がわからないと一蹴してしまうのか?
(しかし、これでロナが“特別なアルラウネ”であることは理解ができる)
人語を話し、人間と意思疎通をできる魔物など、ロナに出会う以前のクルスは見たことも聞いたこともなかった。
彼女から分化した、マンドラゴラのベラもそうである。
特に英雄ベルナデット=エレゴラは、記録こそ少ないものの、稀代の魔法使いであり、聖王国での魔法研究の礎を築いたともいわれている。
ならば特別な存在の魂から、特別なアルラウネが生まれた。
そう考えるしかない。
それに――
クルスは爪先を蹴り出した。そして壇上のロナへ歩み寄り、彼女の肩を叩く。
「俺は君の言葉を信じる。現にロナの力が無かったら俺たちは確実に全滅していた。あの力はアルラウネのものではないと断言できる」
「クルスさん……」
「皆が困惑するのはわかる。俺も困惑しているのは事実だ。しかしロナが嘘を言うと思うか? こんな嘘をついてなんの得があると思うんだ? 英雄ベルナデットの記憶があり、彼女を知る者がそう指そうとも、この子はアルラウネのロナ。俺を救ってくれた、ずっと一緒に過ごしてきたロナだ」
「そうなのだ!」
ベラもまた壇上へ上り、ロナの前へ立って叫んだ。
「僕だってそう思うのだ! 今ここにいるのは僕のねえ様なのだ! それにねえ様は嘘はつかないのだ! ねえ様がそういうなら、全部本当のことなのだ! みんな信じるのだ!」
「ありがとうベラ。クルスさんも……」
ロナはベラの頭を撫でながら、クルスへ礼を言う。
「クルス殿やベラ殿の気持ちはわかりました。何もお嬢様や皆様は、ロナ殿が嘘をついているなど微塵も思ってはおりません。正確に言えば、困惑しているのが正しいと思います。故に、ここはとりあえず休息として各々がロナ殿言葉を咀嚼する暇(いとま)に当てた方が良いと思います」
おそらく、フェアは状況を気遣って発言してくれたのだとクルスは思った。
「それもそうね。確かに朝からバタバタして疲れたわ。先に休ませてもらうわね」
セシリーはそそくさと講堂を後にした。
フェアは一堂へ一礼し、セシリーに続いて講堂を出てゆく。
「ウチらも行くっすよ?」
「うん……」
ビギナは一瞬、淀んだ視線をロナへ送ったようにみえた。
「ビギッち?」
「あっ、ごめん……。それでは先輩、ロナさん、お休みなさい……」
ビギナとゼラも退出し、クルスはロナの車椅子を押し、講堂を出てゆく。
「みんななんなのだ! ねえ様の言うことが信じられないのか!」
回廊を巡る中、ベラは1人不満を表にする。
「仕方ないよ。いきなりこんなことを言われて信じてもらえるなんて思ってなかったから……あの、クルスさん……」
「なんだ?」
「私には包み隠さず教えてください。クルスさんは、実際、さっきの私の話を聞いて正直にどう思いましたか?」
少し不安げなロナの言葉が胸を打つ。しかしここで気遣いが過ぎるのは、おそらくロナの望みでは無い。
「俺はロナのことを信じている。それは今も、昔も、これからも変わらない。しかし……困惑しているのも事実だ」
「そうですよね……」
困惑と同時に浮かんだ、別の感情もあるが、それは黙っておこうと思うクルスなのだった。
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