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第一部 4章 黄金の鳥籠と、最強従者たちの激昂 ―奪還編―
第42話 亘の焦りと、汐の叱咤:side.亘
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奏太の名前があった一覧の下方に並んだ一つ一つの名前と特徴に一致する者達を、蜻蛉商会総員とそのツテを総動員して調べ上げれば、未だ普通に生活している者が三名ほどいた。
それを、亘、椿、妖界の武官達に加え、奏太と共に子どもを目撃していた朱と、実際に奴隷商に捕まっていた闘技場で保護した男も動員して三手に分かれ、三名の周囲を四方八方に散らばって、奴隷商に関わる者の接触がないか監視をした。
亘の側には、奏太の手掛かりを前に暴走しないようにと、汐がピタリとついていた。
汐とは、奏太の前の主である結の護衛役であった頃からの付き合いだ。そして、何度か奏太と共に、案内役である汐を蔑ろにした事があったせいで、頭が上がらなくなってしまった唯一の仲間でもある。
「……お前は、別の仕事で飛び回っていた方が良いんじゃないか、汐?」
「あら、子守が必要でしょう? 奏太様の事となると、冷静さが吹き飛ぶんだから」
「…………」
思い当たる節がある為に、どうしても言い返せない。
最初は、亘もこうではなかった。それが今や、奏太を失うことが、その可能性が少しでも見えることが、心底怖くなってしまった。
そもそも、亘は、人界時代に奏太の護衛役に任じられた当初、さっさと主のほうから解任してくれれば良いと思っていた。
里の命令で『守り手』の護衛役に任じられて、仕方なく奏太についたが、亘にとって、奏太の従姉である結、後の白月こそが、唯一無二の主だと思っていたからだ。
しかし結は、御役目で鬼界との結界の綻びを塞ぎに行った際、鬼に重傷を負わされた。このままでは生きることはできないと、三百年に一度、妖界へ帝として送り出される対象とされた。柊士、結、奏太達の一族に残る悪習。
表向きはこれ以上ない誉れ。けれど、それは、それまで人として生きてきた結を、一度殺す行為だった。
護衛役と案内役の手で、儀式に従い、妖に生まれ変わらせる焼き印を背に押し、生きたまま箱に閉じ込め土に埋める。
この方にずっと付き従っていくのだと思っていた主が土の中で助けを求める声を聞きながら、亘は主を弑するしか無かった。
主を妖界に送り出したあと、亘は何もする気にならなかった。自分の責で主を失った。しかし、表向きは妖界の帝の元護衛役。その肩書に嫉妬する者たちから、護衛に失敗したくせにと言われるたびに、片っ端から同じ里の武官達を叩きのめしていった。自分に責があることなど、誰に言われずとも、自分が一番分かっていた。
里で暴れるばかりの亘を見かねた里の上層部は、このまま亘を放置すべきでない、里で二番目の腕を遊ばせておくわけにはいかない、と理由をつけて、新たな守り手の護衛役に亘を任じた。それが、奏太だった。
しかし、亘は当初、新たな主など持つつもりは無かった。数回、御役目に付き合って、向こうから付き合いきれないと突き放してくれれば良いと思っていた。
しかし、そうやって何度か御役目をこなしているうちに、奏太が、どうしようもなく結に似ていることに気づいてしまった。
悪を悪と切り捨てられない甘さ。無力なくせに、無駄に強い正義感。自分が納得するまで真正面から相手に向き合う芯の強さ。自分の良心に従い、自分が傷つくことも厭わず弱きを救おうとする姿勢。
『守り手』という生き物がそもそも、そういう性質だったのかもしれない。けれど、もう少し、奏太を近くで見ていても良いかもしれないと、そう思うようになっていた。
最初は本当に、そんな些細な心境の変化だった。
結に対する亘達の仕打ちを知った時、奏太は何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。ただ、奏太にとっては過去であるその出来事に、まるで自分ごとのように真正面から向き合い悩み、亘達にも、妖に変わってしまった結にも、どちらにも心を寄せる度量があった。
過去のしがらみによって危機に陥った結を救おうと動いた時に、結を失った過去に怖気づく自分を引っ張り上げたのは、無鉄砲に突っ走る奏太だった。自分の過ちを白月となった結に詫びる背を押したのも、奏太だった。
それから、何度も多くの御役目をこなした。
結に似ている、ただそう思っていただけだった。
それなのに、奏太と共に行動を重ねるたびに、どんどん、その心の強さに惹かれ、危うさを放っておけず、のめり込んでいくようになる。
奏太に仕えしばらくした頃。主と共にいる時を狙って、亘自身を恨む者から襲撃を受けた。それによって主を危険に晒した。
護りきれず、傷つけ、このままではまた主を失いかねないと、亘は主と距離を置こうとした。
しかし奏太は、休みをやるから必ず戻ってこいと言うだけで、決して解任はしなかった。命令など、それまでほとんどしてこなかった主が、あえて『命令』という言葉を使って。
人界の妖達の里で大きな事件が起きた時、亘は敵の策略によって、再び白月となった結を傷つけた。奏太を護ろうとした行動を利用された。
かつての主を傷つけ、護衛として揺れる亘を叱咤したのも、奏太だった。『お前は俺の護衛役だろう』と。
その時には既に、亘にとって、主は奏太以外に考えられなくなっていた。
鬼界で奏太を鬼に奪われ、亘は一人、奏太を追って仲間達の間から飛び出したことがあった。そしてそこで闇の女神に支配された。亘を諦めず、叱り、信じて元に戻そうと危険も顧みず奮闘してくれたのも、主である奏太だけだった。
いつだって頼りなく、弱く、危うく見える。けれど、自分で決めたことは絶対に曲げず、諦めず、突き通す。自分の心を信じて常にまっすぐ前を見据えて進んでいく強さがある。目の前の不正を見逃せず、弱きを必ず掬い上げようとする度量がある。
その裏側にあるのは、どうしようもないほどの優しさと、純粋さと、正義感。
誰も見捨てられず相手に心を寄せ続けられるのは、奏太の美点であり弱点でもある。信念を突き通そうとして、たとえボロボロに傷ついても自己犠牲を厭わない姿勢は、すぐにでも消えてしまいそうで恐ろしくもあった。
奏太が神の力を受け継ぎ、自覚もないままに不老不死になったと聞いた時に真っ先に思ったのは、あまりに過酷な未来を、主が背負ってしまったのだということ。
全てに心を寄せる優しさは、自分の心を傷つけもする諸刃の剣。ここから先、失い続ける未来を耐えきる事は出来ないかもしれないと。
亘にとって、奏太は ‘’救い‘’ だった。暗闇から掬い上げる、‘’光‘’ そのもの。
亘は、奏太がいなければ、恐らく生きてはいない。生きていたとしても、どこかで心を壊していただろう。結を失ったどん底から這い上がることができず、亘を恨む悪意にそのまま飲み込まれて、暗闇の底でもがき続けたことだろう。
自分を照らし導く光を失うことなど、耐え難かった。
だから、できる限り側で支えようと、亘は奏太の眷属になった。
この方に少しでも報いる為に。二度と主を傷つけないために。この方の未来が、少しでも明るくあるように。
永遠という過酷な未来を受け入れることになった主が、その光を失わぬよう、側でどこまでも支えていこうと、この唯一の主に身も心も全てを捧げようと、亘はそう誓った。
そうやって三百年の月日が過ぎた。
亘が危惧した通り、主の光は外からの風に大きく揺れているように思えた。大事な者を失い続ける事に耐えきれず、これ以上失うことを恐れて心が崩れてしまうのではと、見ているこちらが怖くなる。
『あの方は、僕らを失ったら生きていけないって言いましたけど、僕こそ、生きていけないんです。あの方の未来を支えていくことだけが僕の全てなのに』
巽が言った言葉は、亘の中に浮かび上がった言葉と、そのまま重なる。吹けば消えてしまいそうな光を、どうしても失いたくない。光が無くなれば、どうやって生きていけば良いのか分からない。
あの方は、今や、亘の全てだ。
主は、それを理解しているだろうか。自分が多くの者の光になっていることを。失う事を恐れるあの方こそ、失われてはならないのだと、その自覚があるのだろうか。
……いや、その自覚を促すことすら酷なことなのだろう。
だから、自分達が護るしかないのだ。あの方自身とその心を。永遠に生き続ける運命を背負ったことで、自ら消えてしまいそうな光を、何とか自分達が護り続けるしかない。それはきっと、主の為というよりも、自分達のために。
「……なあ、汐。あの方は、戻ってきてくれるだろうか」
亘はボソリと不安をこぼす。そこにいるのが汐だけでなければ、そんな事は絶対に口にしなかっただろう。亘と同じ道を歩み、同じ方々に同じ様に仕えた汐でなければ。
主が消えた前日。確かに見えた、主の弱さ。
あの方は、亘達が危険を冒して救いに行く事を望まないかもしれない。
拐かされている間に、全てを諦めてしまっていないだろうか。あの方の瞳に、未だ光は灯っているだろうか。消えかけ揺れるその光は、まだ……
「バカなこと言わないで。戻る気が無くても、連れ戻すわよ。未来から目を背けていたら、きちんと前を向いていただくように足掻くわ。私は、あの方の歩む道を照らす『案内役』だもの。巽に言い聞かせていた時から変に落ち着いてると思ったら、揺れてるのは貴方の方じゃない。しっかりしなさいよ」
汐は、フンと鼻を鳴らす。
「貴方は、あの方の未来をお護りする『護衛役』でしょう? 弱音を吐いている場合なの? あの方が耐えていられるかどうか、じゃない。あの方を、私達が支えるの。そんな覚悟もないのに『護衛役』だなんて、笑わせないで」
汐は、亘なんかより、余程強い。
「……ああ、そうだな」
亘は深く息を吸って吐き出し、すっと前を見た。
(あの方がどう思おうと、あの方を連れ戻すのが、最優先だ)
それを、亘、椿、妖界の武官達に加え、奏太と共に子どもを目撃していた朱と、実際に奴隷商に捕まっていた闘技場で保護した男も動員して三手に分かれ、三名の周囲を四方八方に散らばって、奴隷商に関わる者の接触がないか監視をした。
亘の側には、奏太の手掛かりを前に暴走しないようにと、汐がピタリとついていた。
汐とは、奏太の前の主である結の護衛役であった頃からの付き合いだ。そして、何度か奏太と共に、案内役である汐を蔑ろにした事があったせいで、頭が上がらなくなってしまった唯一の仲間でもある。
「……お前は、別の仕事で飛び回っていた方が良いんじゃないか、汐?」
「あら、子守が必要でしょう? 奏太様の事となると、冷静さが吹き飛ぶんだから」
「…………」
思い当たる節がある為に、どうしても言い返せない。
最初は、亘もこうではなかった。それが今や、奏太を失うことが、その可能性が少しでも見えることが、心底怖くなってしまった。
そもそも、亘は、人界時代に奏太の護衛役に任じられた当初、さっさと主のほうから解任してくれれば良いと思っていた。
里の命令で『守り手』の護衛役に任じられて、仕方なく奏太についたが、亘にとって、奏太の従姉である結、後の白月こそが、唯一無二の主だと思っていたからだ。
しかし結は、御役目で鬼界との結界の綻びを塞ぎに行った際、鬼に重傷を負わされた。このままでは生きることはできないと、三百年に一度、妖界へ帝として送り出される対象とされた。柊士、結、奏太達の一族に残る悪習。
表向きはこれ以上ない誉れ。けれど、それは、それまで人として生きてきた結を、一度殺す行為だった。
護衛役と案内役の手で、儀式に従い、妖に生まれ変わらせる焼き印を背に押し、生きたまま箱に閉じ込め土に埋める。
この方にずっと付き従っていくのだと思っていた主が土の中で助けを求める声を聞きながら、亘は主を弑するしか無かった。
主を妖界に送り出したあと、亘は何もする気にならなかった。自分の責で主を失った。しかし、表向きは妖界の帝の元護衛役。その肩書に嫉妬する者たちから、護衛に失敗したくせにと言われるたびに、片っ端から同じ里の武官達を叩きのめしていった。自分に責があることなど、誰に言われずとも、自分が一番分かっていた。
里で暴れるばかりの亘を見かねた里の上層部は、このまま亘を放置すべきでない、里で二番目の腕を遊ばせておくわけにはいかない、と理由をつけて、新たな守り手の護衛役に亘を任じた。それが、奏太だった。
しかし、亘は当初、新たな主など持つつもりは無かった。数回、御役目に付き合って、向こうから付き合いきれないと突き放してくれれば良いと思っていた。
しかし、そうやって何度か御役目をこなしているうちに、奏太が、どうしようもなく結に似ていることに気づいてしまった。
悪を悪と切り捨てられない甘さ。無力なくせに、無駄に強い正義感。自分が納得するまで真正面から相手に向き合う芯の強さ。自分の良心に従い、自分が傷つくことも厭わず弱きを救おうとする姿勢。
『守り手』という生き物がそもそも、そういう性質だったのかもしれない。けれど、もう少し、奏太を近くで見ていても良いかもしれないと、そう思うようになっていた。
最初は本当に、そんな些細な心境の変化だった。
結に対する亘達の仕打ちを知った時、奏太は何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。ただ、奏太にとっては過去であるその出来事に、まるで自分ごとのように真正面から向き合い悩み、亘達にも、妖に変わってしまった結にも、どちらにも心を寄せる度量があった。
過去のしがらみによって危機に陥った結を救おうと動いた時に、結を失った過去に怖気づく自分を引っ張り上げたのは、無鉄砲に突っ走る奏太だった。自分の過ちを白月となった結に詫びる背を押したのも、奏太だった。
それから、何度も多くの御役目をこなした。
結に似ている、ただそう思っていただけだった。
それなのに、奏太と共に行動を重ねるたびに、どんどん、その心の強さに惹かれ、危うさを放っておけず、のめり込んでいくようになる。
奏太に仕えしばらくした頃。主と共にいる時を狙って、亘自身を恨む者から襲撃を受けた。それによって主を危険に晒した。
護りきれず、傷つけ、このままではまた主を失いかねないと、亘は主と距離を置こうとした。
しかし奏太は、休みをやるから必ず戻ってこいと言うだけで、決して解任はしなかった。命令など、それまでほとんどしてこなかった主が、あえて『命令』という言葉を使って。
人界の妖達の里で大きな事件が起きた時、亘は敵の策略によって、再び白月となった結を傷つけた。奏太を護ろうとした行動を利用された。
かつての主を傷つけ、護衛として揺れる亘を叱咤したのも、奏太だった。『お前は俺の護衛役だろう』と。
その時には既に、亘にとって、主は奏太以外に考えられなくなっていた。
鬼界で奏太を鬼に奪われ、亘は一人、奏太を追って仲間達の間から飛び出したことがあった。そしてそこで闇の女神に支配された。亘を諦めず、叱り、信じて元に戻そうと危険も顧みず奮闘してくれたのも、主である奏太だけだった。
いつだって頼りなく、弱く、危うく見える。けれど、自分で決めたことは絶対に曲げず、諦めず、突き通す。自分の心を信じて常にまっすぐ前を見据えて進んでいく強さがある。目の前の不正を見逃せず、弱きを必ず掬い上げようとする度量がある。
その裏側にあるのは、どうしようもないほどの優しさと、純粋さと、正義感。
誰も見捨てられず相手に心を寄せ続けられるのは、奏太の美点であり弱点でもある。信念を突き通そうとして、たとえボロボロに傷ついても自己犠牲を厭わない姿勢は、すぐにでも消えてしまいそうで恐ろしくもあった。
奏太が神の力を受け継ぎ、自覚もないままに不老不死になったと聞いた時に真っ先に思ったのは、あまりに過酷な未来を、主が背負ってしまったのだということ。
全てに心を寄せる優しさは、自分の心を傷つけもする諸刃の剣。ここから先、失い続ける未来を耐えきる事は出来ないかもしれないと。
亘にとって、奏太は ‘’救い‘’ だった。暗闇から掬い上げる、‘’光‘’ そのもの。
亘は、奏太がいなければ、恐らく生きてはいない。生きていたとしても、どこかで心を壊していただろう。結を失ったどん底から這い上がることができず、亘を恨む悪意にそのまま飲み込まれて、暗闇の底でもがき続けたことだろう。
自分を照らし導く光を失うことなど、耐え難かった。
だから、できる限り側で支えようと、亘は奏太の眷属になった。
この方に少しでも報いる為に。二度と主を傷つけないために。この方の未来が、少しでも明るくあるように。
永遠という過酷な未来を受け入れることになった主が、その光を失わぬよう、側でどこまでも支えていこうと、この唯一の主に身も心も全てを捧げようと、亘はそう誓った。
そうやって三百年の月日が過ぎた。
亘が危惧した通り、主の光は外からの風に大きく揺れているように思えた。大事な者を失い続ける事に耐えきれず、これ以上失うことを恐れて心が崩れてしまうのではと、見ているこちらが怖くなる。
『あの方は、僕らを失ったら生きていけないって言いましたけど、僕こそ、生きていけないんです。あの方の未来を支えていくことだけが僕の全てなのに』
巽が言った言葉は、亘の中に浮かび上がった言葉と、そのまま重なる。吹けば消えてしまいそうな光を、どうしても失いたくない。光が無くなれば、どうやって生きていけば良いのか分からない。
あの方は、今や、亘の全てだ。
主は、それを理解しているだろうか。自分が多くの者の光になっていることを。失う事を恐れるあの方こそ、失われてはならないのだと、その自覚があるのだろうか。
……いや、その自覚を促すことすら酷なことなのだろう。
だから、自分達が護るしかないのだ。あの方自身とその心を。永遠に生き続ける運命を背負ったことで、自ら消えてしまいそうな光を、何とか自分達が護り続けるしかない。それはきっと、主の為というよりも、自分達のために。
「……なあ、汐。あの方は、戻ってきてくれるだろうか」
亘はボソリと不安をこぼす。そこにいるのが汐だけでなければ、そんな事は絶対に口にしなかっただろう。亘と同じ道を歩み、同じ方々に同じ様に仕えた汐でなければ。
主が消えた前日。確かに見えた、主の弱さ。
あの方は、亘達が危険を冒して救いに行く事を望まないかもしれない。
拐かされている間に、全てを諦めてしまっていないだろうか。あの方の瞳に、未だ光は灯っているだろうか。消えかけ揺れるその光は、まだ……
「バカなこと言わないで。戻る気が無くても、連れ戻すわよ。未来から目を背けていたら、きちんと前を向いていただくように足掻くわ。私は、あの方の歩む道を照らす『案内役』だもの。巽に言い聞かせていた時から変に落ち着いてると思ったら、揺れてるのは貴方の方じゃない。しっかりしなさいよ」
汐は、フンと鼻を鳴らす。
「貴方は、あの方の未来をお護りする『護衛役』でしょう? 弱音を吐いている場合なの? あの方が耐えていられるかどうか、じゃない。あの方を、私達が支えるの。そんな覚悟もないのに『護衛役』だなんて、笑わせないで」
汐は、亘なんかより、余程強い。
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