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第一部 4章 黄金の鳥籠と、最強従者たちの激昂 ―奪還編―
第41話 主の捜索と、手掛かりとなる「目玉商品」:side.巽
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商会長室。巽は、泣きたい思いで頭を抱えた。
「……なんで……見つからないんだ……」
奏太の手掛かりが掴めぬまま、五日が経過した。これほど主の行方が分からなくなったのは、随分昔、主が人だった頃に、鬼に拐かされ死にかけた時以来だ。
妖界から連れてきた者たち総出で、手掛かりとなる子どもの行方を捜しているが、特徴が一致する者は中々見つからない。似た者が見つかっても、無関係の普通の子どもばかり。
別の商会などのツテも頼ったが、めぼしい情報はでてこない。
鳴響商会へも乗り込んだ。しかし、言いがかりだと追い返され、しつこくするなら告訴すると言ってきた。
告訴するならすればいい。この機会に徹底的に洗ってやる。
そうやって、表で戦いつつ、裏から商会員を買収して情報を求めてみたが、本当に知らないのか、それとも口を噤んでいるだけか分からないが、手掛かりになりそうなものは何も出てこなかった。
奏太の情報を巽から引き出そうとしていた光耀教会のほうも、念の為に白日教会から探りを入れたり出入りする者たちへの聞き込みをしてみたが、そちらは鳴響商会以上に守りが固く何も出てくる気配が無かった。
光耀教会には、先の一件もあり、これまで何度となく探りを入れようとしてきたが、その度に失敗してきたのだ。今さら情報を引き出せるわけもない。
潜入調査の得意な者に、鳴響商会、光耀教会、いずれにも入り込ませてみた。しかし、こちらも何も見つからないまま、これ以上は危険だと引き返してきた。
頼みの綱は、国の捜査。
国から保護された商会に忍び込み、人を連れ去った事件だ。蜻蛉商会では入れないところにも、強権で入っていける分、こちらに入らない情報を掴める可能性が高い。しかし、如何せん動きが遅い。人妖保護を好意的に思っていない者達が一定数存在しているせいだ。
「巽、マソホに動きが遅いと伝えて来たわ。自分が直接軍を動かすつもりだと言っていたけれど」
ヒラリと青い蝶が窓から入ってくる。
「ありがとう、汐ちゃん。あいつも焦りがあるんだろうけど、現実的には難しいだろうね。下に喝を入れてくれるだけでも助かるけど」
「今の貴方と同じよ。自分が動きたくて仕方がないの」
別の場所で働く奏太の眷属。権力はあるが、自分の意思だけで簡単に動ける立場ではない。奏太の為だけに自在に動かせる者達がいる巽よりも、もどかしい思いをしているはずだ。
「亘達はどう、巽?」
尋ねる汐に巽は首を横に振って見せた。
「闘技場から保護した男が言ってた奴隷商の根城に行ってもらったんだけど、もぬけの殻だったみたいだ。一応、もう少し詳しく調べてもらってる。奴隷商に関係があるかもしれない子どものほうも進展なし。ここまで動きがないと、いつ亘さんが飛び出していっちゃうか、そっちも不安で仕方ないよ。冷静ぶってたけど、奏太様に何かがあった時に一番見境がないのが亘さんだ。前科もあるし」
以前、奏太が鬼に拐かされた際、亘はたった一人で飛び出していき、その焦りに付け込んだ闇の女神に支配された。今は椿が共に行動し、あの時のことを持ち出しながら、暴走を押さえていることだろう。ある意味、椿は一番大変な役割を持たされていると言っても過言ではない。
「一度、釘を刺してきてもらえると助かるよ。僕や椿の言うことは聞かなくても、汐ちゃんの言葉なら聞くから」
「ホント、世話が焼けるんだから」
汐は、荒く息を吐く。
と、突然、ガチャリ、バンッ! と乱暴に商会長室の扉が開いた。
「会長っ!!」
妖界の武官が一人、巽の返事も待たずに慌てたように飛び込んできて、パンと机の上に一枚の紙を叩きつける。
「これは?」
「競売の知らせです。取引先の貴族の館で、懇意にしている使用人から情報を得ました。随分金を払いましたが、その分、有力な情報です」
妖界の武官達には、商会と取引のあった場所での聞き込みもしてもらっていた。情報を得るためなら、今まで商会で稼いできた金をいくら注ぎ込んでもいいと伝えて。
武官が持ってきたのは、骨董品の競売の知らせ。半分焼け焦げているものの、日付と場所、目玉商品は何とか読み取れる。
「ただの骨董品の競売のように見えますが、ここ」
武官は広げた紙の一箇所、赤い印章の押された部分を、指でトンと叩いた。
「例の奴隷商の印章だそうです。その家も、数度取引をしたことがあったようで」
巽は目を見を開き、ガバッと手紙を持ち上げた。汐もまた、巽の肩に乗り手紙を覗き込む。
「競売の日付は一昨日?」
「問題は、ここです」
巽の持った手紙に、武官の手が再び伸びて、一箇所を指差す。
「目玉商品は、『黒水晶、濡羽の反物、男物、特記なし壱。希少品』? これって……」
汐が読み上げると、武官は一度、グッと奥歯を噛んだ。
「その使用人曰く、宝石は瞳の色、布地等は糸になぞらえて髪の色、男物女物、特記は突起、つまり角の有り無しを示しているそうです。壱は人、弐は妖」
「……黒い瞳、黒い髪の、人の男性が目玉商品、と?」
巽は自分で言っていて、背筋がゾワッとした。主の特徴に当てはまる。
「こ、これ、競売結果は!?」
「屋敷の主は、競売に参加しなかったようで、詳細は不明だと」
武官は首を横に振る。
「汐ちゃん、ここ、亘さんたちに伝えて探ってもらえる? 参加者の情報だけでもあると助かる。あ、ちゃんと護衛をつけてね」
「ええ、わかったわ。場所だけ伝えたら戻ってくるから、他に情報が入れば教えて」
汐はそう言うと、再びヒラリと窓から出て飛んでいく。
「私は、もう少し取引き先を回ってみます。奴隷売買に手を出していそうなところを優先的に」
奴隷売買に大っぴらに手を出しているとわかる貴族や豪商はない。ただし、これまで商会として集めた取引先の情報があれば、それらしきところは見当がつく。
商会の形式を取ったほうが情報を集めやすいと言った主が消えてから、それが大いに役に立つのだから皮肉なことだが。
競売が行われた場所は古く寂れた貸し劇場だった。大通りから外れた場所にあり、こんなところで場所貸しをして意味があるのかと思うようなところ。けれど、後ろ暗い商売をするにはちょうど良いのだろう。
話では、外見は古びているが中は随分きれいに整えられていたらしい。
借り主がちょうど不在の期間。大金をチラつかせれば、劇場の所有者は即日、快く場所を貸してくれた。ただし、過去の借り主の情報だけは、いくら金を積んでも出さなかったそうだ。
「前金即入のみ可で場所貸しだけしてるみたいね。余計な情報を耳に入れないよう、借り主が誰で何の目的で使うのかは聞かないようにしているんですって。問い詰めたところで無駄だったわ」
武官数名を連れて劇場所有者のところへ向かっていた汐が、少女の姿で商会長室で嘆息した。
「それで、亘さんたちの方は、何か見つかりました?」
今、室内には、人界で『守り手』の頃から奏太に仕えている四名が揃っている。
巽の問いに、亘がピラっと一枚の小さなメモ書きのような紙を取り出し、テーブルの上に放った。
「舞台裏手の物置のような場所に落ちていたらしい。カーテンの陰、しかも、ほんの少し出来た壁と床の隙間にな。回収しそこねたのだろう」
ほんの少しの手掛かりも見逃すまいと、散らばっていた妖界の武官達を呼び戻し総動員で一晩かけて探した甲斐があったようだ。
しかし、亘は苦虫を噛み潰したような顔をして、放った紙を睨んでいる。
メモ書きに目を通して、巽にもその理由が理解できた。名前の羅列と特徴、場所を記したもの。その中に、奏太の名前と蜻蛉商会の文字があったからだ。巽はギュッと奥歯を噛んだ。
「これは、出品一覧ですか?」
「いいえ。出品一覧は、おそらく別に」
今度は椿が、破れた紙片を複数枚テーブルの上に出して、いくつかをパズルのように重ね合わせた。形は合わないし、穴あき状態。けれど……
「……これ……」
巽は勢いよく立ち上がり、自分の机の中に入った、焼け焦げた紙を取り出した。
そこに、椿が持ってきた紙を継ぎ足すようにしていくと、全容がある程度までわかるようになってくる。
紙片の継ぎ接ぎで出来た競売の知らせの方は、あの武官の説明にあった通り、身体的特徴が商品の組み合わせで表現されていた。
瞳は水晶などの宝石類。髪の色は反物や衣類。特記事項有り無し、壱弐の表記。
それを、もう一枚のメモ書きの方に書かれた身体特徴と照らし合わせる。
「これと、これは、知らせの出品一覧にあるけど、これとこれは……」
そうやって見ていけば、名前の羅列の下の方に記載されているものは、出品一覧にはないものばかり。
「……これ、これから出品されるもの、か?」
ポツと巽が呟くと、汐が頷いた。
「可能性はあるわ。既に手に入れている可能性もあるけれど、もしも、これから狙う一覧だとしたら……」
「奴隷商の尻尾を掴めるかもしれない」
ようやく、主の行方に一歩近づく。
巽はぐぐっと拳を握りしめた。
「……なんで……見つからないんだ……」
奏太の手掛かりが掴めぬまま、五日が経過した。これほど主の行方が分からなくなったのは、随分昔、主が人だった頃に、鬼に拐かされ死にかけた時以来だ。
妖界から連れてきた者たち総出で、手掛かりとなる子どもの行方を捜しているが、特徴が一致する者は中々見つからない。似た者が見つかっても、無関係の普通の子どもばかり。
別の商会などのツテも頼ったが、めぼしい情報はでてこない。
鳴響商会へも乗り込んだ。しかし、言いがかりだと追い返され、しつこくするなら告訴すると言ってきた。
告訴するならすればいい。この機会に徹底的に洗ってやる。
そうやって、表で戦いつつ、裏から商会員を買収して情報を求めてみたが、本当に知らないのか、それとも口を噤んでいるだけか分からないが、手掛かりになりそうなものは何も出てこなかった。
奏太の情報を巽から引き出そうとしていた光耀教会のほうも、念の為に白日教会から探りを入れたり出入りする者たちへの聞き込みをしてみたが、そちらは鳴響商会以上に守りが固く何も出てくる気配が無かった。
光耀教会には、先の一件もあり、これまで何度となく探りを入れようとしてきたが、その度に失敗してきたのだ。今さら情報を引き出せるわけもない。
潜入調査の得意な者に、鳴響商会、光耀教会、いずれにも入り込ませてみた。しかし、こちらも何も見つからないまま、これ以上は危険だと引き返してきた。
頼みの綱は、国の捜査。
国から保護された商会に忍び込み、人を連れ去った事件だ。蜻蛉商会では入れないところにも、強権で入っていける分、こちらに入らない情報を掴める可能性が高い。しかし、如何せん動きが遅い。人妖保護を好意的に思っていない者達が一定数存在しているせいだ。
「巽、マソホに動きが遅いと伝えて来たわ。自分が直接軍を動かすつもりだと言っていたけれど」
ヒラリと青い蝶が窓から入ってくる。
「ありがとう、汐ちゃん。あいつも焦りがあるんだろうけど、現実的には難しいだろうね。下に喝を入れてくれるだけでも助かるけど」
「今の貴方と同じよ。自分が動きたくて仕方がないの」
別の場所で働く奏太の眷属。権力はあるが、自分の意思だけで簡単に動ける立場ではない。奏太の為だけに自在に動かせる者達がいる巽よりも、もどかしい思いをしているはずだ。
「亘達はどう、巽?」
尋ねる汐に巽は首を横に振って見せた。
「闘技場から保護した男が言ってた奴隷商の根城に行ってもらったんだけど、もぬけの殻だったみたいだ。一応、もう少し詳しく調べてもらってる。奴隷商に関係があるかもしれない子どものほうも進展なし。ここまで動きがないと、いつ亘さんが飛び出していっちゃうか、そっちも不安で仕方ないよ。冷静ぶってたけど、奏太様に何かがあった時に一番見境がないのが亘さんだ。前科もあるし」
以前、奏太が鬼に拐かされた際、亘はたった一人で飛び出していき、その焦りに付け込んだ闇の女神に支配された。今は椿が共に行動し、あの時のことを持ち出しながら、暴走を押さえていることだろう。ある意味、椿は一番大変な役割を持たされていると言っても過言ではない。
「一度、釘を刺してきてもらえると助かるよ。僕や椿の言うことは聞かなくても、汐ちゃんの言葉なら聞くから」
「ホント、世話が焼けるんだから」
汐は、荒く息を吐く。
と、突然、ガチャリ、バンッ! と乱暴に商会長室の扉が開いた。
「会長っ!!」
妖界の武官が一人、巽の返事も待たずに慌てたように飛び込んできて、パンと机の上に一枚の紙を叩きつける。
「これは?」
「競売の知らせです。取引先の貴族の館で、懇意にしている使用人から情報を得ました。随分金を払いましたが、その分、有力な情報です」
妖界の武官達には、商会と取引のあった場所での聞き込みもしてもらっていた。情報を得るためなら、今まで商会で稼いできた金をいくら注ぎ込んでもいいと伝えて。
武官が持ってきたのは、骨董品の競売の知らせ。半分焼け焦げているものの、日付と場所、目玉商品は何とか読み取れる。
「ただの骨董品の競売のように見えますが、ここ」
武官は広げた紙の一箇所、赤い印章の押された部分を、指でトンと叩いた。
「例の奴隷商の印章だそうです。その家も、数度取引をしたことがあったようで」
巽は目を見を開き、ガバッと手紙を持ち上げた。汐もまた、巽の肩に乗り手紙を覗き込む。
「競売の日付は一昨日?」
「問題は、ここです」
巽の持った手紙に、武官の手が再び伸びて、一箇所を指差す。
「目玉商品は、『黒水晶、濡羽の反物、男物、特記なし壱。希少品』? これって……」
汐が読み上げると、武官は一度、グッと奥歯を噛んだ。
「その使用人曰く、宝石は瞳の色、布地等は糸になぞらえて髪の色、男物女物、特記は突起、つまり角の有り無しを示しているそうです。壱は人、弐は妖」
「……黒い瞳、黒い髪の、人の男性が目玉商品、と?」
巽は自分で言っていて、背筋がゾワッとした。主の特徴に当てはまる。
「こ、これ、競売結果は!?」
「屋敷の主は、競売に参加しなかったようで、詳細は不明だと」
武官は首を横に振る。
「汐ちゃん、ここ、亘さんたちに伝えて探ってもらえる? 参加者の情報だけでもあると助かる。あ、ちゃんと護衛をつけてね」
「ええ、わかったわ。場所だけ伝えたら戻ってくるから、他に情報が入れば教えて」
汐はそう言うと、再びヒラリと窓から出て飛んでいく。
「私は、もう少し取引き先を回ってみます。奴隷売買に手を出していそうなところを優先的に」
奴隷売買に大っぴらに手を出しているとわかる貴族や豪商はない。ただし、これまで商会として集めた取引先の情報があれば、それらしきところは見当がつく。
商会の形式を取ったほうが情報を集めやすいと言った主が消えてから、それが大いに役に立つのだから皮肉なことだが。
競売が行われた場所は古く寂れた貸し劇場だった。大通りから外れた場所にあり、こんなところで場所貸しをして意味があるのかと思うようなところ。けれど、後ろ暗い商売をするにはちょうど良いのだろう。
話では、外見は古びているが中は随分きれいに整えられていたらしい。
借り主がちょうど不在の期間。大金をチラつかせれば、劇場の所有者は即日、快く場所を貸してくれた。ただし、過去の借り主の情報だけは、いくら金を積んでも出さなかったそうだ。
「前金即入のみ可で場所貸しだけしてるみたいね。余計な情報を耳に入れないよう、借り主が誰で何の目的で使うのかは聞かないようにしているんですって。問い詰めたところで無駄だったわ」
武官数名を連れて劇場所有者のところへ向かっていた汐が、少女の姿で商会長室で嘆息した。
「それで、亘さんたちの方は、何か見つかりました?」
今、室内には、人界で『守り手』の頃から奏太に仕えている四名が揃っている。
巽の問いに、亘がピラっと一枚の小さなメモ書きのような紙を取り出し、テーブルの上に放った。
「舞台裏手の物置のような場所に落ちていたらしい。カーテンの陰、しかも、ほんの少し出来た壁と床の隙間にな。回収しそこねたのだろう」
ほんの少しの手掛かりも見逃すまいと、散らばっていた妖界の武官達を呼び戻し総動員で一晩かけて探した甲斐があったようだ。
しかし、亘は苦虫を噛み潰したような顔をして、放った紙を睨んでいる。
メモ書きに目を通して、巽にもその理由が理解できた。名前の羅列と特徴、場所を記したもの。その中に、奏太の名前と蜻蛉商会の文字があったからだ。巽はギュッと奥歯を噛んだ。
「これは、出品一覧ですか?」
「いいえ。出品一覧は、おそらく別に」
今度は椿が、破れた紙片を複数枚テーブルの上に出して、いくつかをパズルのように重ね合わせた。形は合わないし、穴あき状態。けれど……
「……これ……」
巽は勢いよく立ち上がり、自分の机の中に入った、焼け焦げた紙を取り出した。
そこに、椿が持ってきた紙を継ぎ足すようにしていくと、全容がある程度までわかるようになってくる。
紙片の継ぎ接ぎで出来た競売の知らせの方は、あの武官の説明にあった通り、身体的特徴が商品の組み合わせで表現されていた。
瞳は水晶などの宝石類。髪の色は反物や衣類。特記事項有り無し、壱弐の表記。
それを、もう一枚のメモ書きの方に書かれた身体特徴と照らし合わせる。
「これと、これは、知らせの出品一覧にあるけど、これとこれは……」
そうやって見ていけば、名前の羅列の下の方に記載されているものは、出品一覧にはないものばかり。
「……これ、これから出品されるもの、か?」
ポツと巽が呟くと、汐が頷いた。
「可能性はあるわ。既に手に入れている可能性もあるけれど、もしも、これから狙う一覧だとしたら……」
「奴隷商の尻尾を掴めるかもしれない」
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