【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

文字の大きさ
81 / 297
人界編

柊士の呼び出し

しおりを挟む
 ―――春。
 いろいろあった高校生活も終え、晴れて大学生になった。
 尾定さんに自分の後を継げと言われた事もあったが、医学部になんて行けるはずもなく、普通の学部に進学した。少し遠いが、自宅から通える範囲の大学だ。

 ちなみに、尾定さんの弟子は、俺でも潤也でもなく、聡が目指している。

 そもそも成績優秀だった聡は、蛙の毒をくらい、鬼のバスジャックに巻き込まれ、俺が妖界の戦に乗り込んで行くところを目の当たりにしたことで、完全に “こちら側” に足を踏み入れていた。

「放っておけるか、ばーか」

 初めて尾定さんの弟子になると言い出した時、驚きに目を見張っている俺に、聡は呆れ果てた目でそう言った。

 潤也は俺と同じ大学に通っている。意図して同じ学校を選んだ訳では無いが、結果的には俺が無茶をしでかさないよう、御目付役になると意気込んでいる。
 まあ、今のところ、事件らしい事件は起こっていないけど。

 聡にしろ潤也にしろ、高2の夏から高3の晩春にかけて起こった出来事が、相当本人達の生き方に影響を与えていそうだ。
 なんだか申し訳ない気持ちになってくる。


 柊士は、本家の次期当主として本家に定着している。ハクを追いかけたあの日は一時帰宅のつもりだったらしいが、本家の炎上、伯父さんの怪我、その中での立て直し、ハクから投げかけられた課題などがいろいろ重なって、本家から離れる訳には行かなくなったようだ。

 ハクからも時折手紙が届いているようで、ハクの開けた結界の穴を通って、金の足輪をつけた小鳥が書状を運んでくるらしい。
 中身の詳細を見た訳では無いが、しょうもない愚痴や世間話が八割だと柊士が零していた。

「あいつ、文通じゃないんだぞ」

 そう言いながらも、しっかり返事は書いているらしい。


 柊士に本家へ呼び出されたのは、汐から亘の謹慎がもう直あけるだろうと聞かされたある日の事だった。

 部屋に通されると、机の上に、書類や巻物、メモのような紙切れを散乱させながら、何かを書き留めている柊士の姿があった。

 俺が部屋に入ると、柊士はチラッとこちらを見たあと、また自分の手元に視線を落とす。
 そして、何かの書類を手に取りながら、

「お前、まだ妖の里に行ったことないだろ。祭りの準備を見てこいよ」

と、視線を上げることなく、脈絡もなくそう言い放った。

「妖の里……?」
「汐達が住んでいるところだ」

 柊士はそう言いながら、再び手元の書類に何かを書き込む。

 そう言われてみれば、俺は汐や亘が普段どこに居るのかを知らない。合うときは、俺の家に迎えに来るか、本家で待っているかのどちらかだからだ。

「里なんてあるんだ? しかも、祭り?」

 俺が尋ねると、柊士はようやく手を止めて、こちらに視線を向けてきた。

「今年は、十年に一度の大きな祭りがあるんだ」
「へぇ。何だか面白そうだね」

 俺がそう言うと、柊士は口角を吊り上げる。

「じゃあ、視察はお前に任せる。よく見てこい」
「……は? 視察を任せるってどういうこと?」

 ただ遊びに行ってこい、ではなく、祭りの視察?

 首を傾げて柊士を見るが、柊士はそれに答えず、無造作に置かれた書類をバサバサと漁って、その中からクリップで一つに纏められた書類の束を拾い上げる。

「言葉の通りだ。詳しいことは汐に聞け」

 そう言うと、手に持っていた紙束を、バサッと俺の方に放った。

「え、いや、ちょっと待ってよ。全然話がみえないんだけど」
「面白そうって言っただろ。書類に目を通して、様子を見てくるだけでいい。あとは報告な」
「いや、だから……」

 しかし、柊士はそれだけ言うと、これ以上取り合うつもりがないのか、用は終わりだとばかりに、しっしと俺を部屋から追い出すように手を振った。

 何だか忙しそうなのはわかるが、対応が雑すぎる。
 それに、紙束を放られ、詳しいことは汐に聞けとは、デジャヴだろうか。

 そう思っていると、柊士の合図を待っていたかのように、ひらりと青い蝶が舞ってきて、俺の前でふっと人の姿に変わった。

「私がご案内します。奏太様」

 ……ああ、デジャヴだ。


 外は日が沈んで薄暗くなってきている。妖連中には動きやすい時間帯だ。
 柊士は自分の話の後にそのまま妖の里に行かせるつもりでこの時間を指定したのだろう。

 汐についていくと、亘が人の姿のまま、本家の庭で待ち構えていた。
 ここもまた、以前までと同じだ。

「もう、外に出ていいの?」
「奏太様をお迎えに上がるだけならば、と。御役目の方も直に許可を頂ける予定ですが」
「そっか」

 俺がそう答えると、亘はからかうように、ニヤと笑う。

「寂しかったでしょう? 私に会えず」

 亘に会うのは久々だが、全然、変わっていないようだ。こういう鬱陶しいところは、さっさと変わってほしいものだが。

「あぁ、はいはい。寂しかったよ」

 俺が流すように答えたのが気に入らなかったのか、亘は眉を顰める。

「奏太様は、更に可愛げが無くなりましたね。もう少し、健気で純粋だったような気がしますが」

 ちょっと前の俺の何を見てそう思ったのかは知らないが、勝手な思い込みで勝手にがっかりされても困る。
 亘の悪ふざけに付き合っていても仕方が無いので、俺は無視をして汐に向き直った。

「それで、汐に聞けって柊ちゃんに丸投げされたけど、俺は妖の里に行って何をすればいいの?」
「主には祭りの準備の進捗状況の確認ですね。柊士様の元に、計画書が提出されていたので、そのように進んでいるかを確認いただければ大丈夫です」

 汐はいつ拾ったのか、先程柊士に放られた紙束を俺に差し出す。

「……何で俺がそれを? 妖の里のことだろ?」
「妖の里を治めることも、本家御当主の御役目なのです。御当主が次期御当主となる柊士様に御指示を出されたようなのですが……」

 汐は眉を下げて、言葉尻を濁した。

「……面倒事を俺に押し付けたってわけだ……」

 俺が口に出して言うと、汐は困ったように微笑んだ。

 今からでも引き返して、柊士に計画書とやらを叩きつけたって、柊士は文句を言えないだろう。
 実際問題、柊士の仕事を肩代わりしてやる理由はないし、このまま引き受けるのは何だか癪だ。

 ただ、妖の里も祭りも、気にならないと言ったら嘘になる。

 うーん……と悩んでいると亘が首を傾げた。

「グズグズせずにさっさと行ってさっさと帰って参りましょう。まさか、乗り方を忘れた訳では無いでしょう?」

 亘はそう言うと、いつもの大鷲の姿に変わる。

「そんなわけ無いだろ」

 俺がそう答えると、汐も俺に紙束を押し付けて、さっと蝶の姿に変わった。

「では、お早く。あまりあちらを待たせるわけにはいきません」

 何だかんだ、いつもの流れだ。急ぐ理由もないだろうに、亘と汐に急かされ、二人のペースに無理やり乗せられる。
 一年ぶり。懐かしいんだか、なんなんだか。

 俺はハアと息を吐きだして、亘の方に一歩踏み出した。

「行けばいいんだろ、行けば」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

異世界で農業を -異世界編-

半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。 そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...