【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

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鬼界編

出立の準備

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 一週間後、約束通りに、日石に相当する呪物が出来上がった。ポケットに入るサイズの小型の日石だ。直射日光でも陽の気を補充できるらしく、増産体制に入った後、本家の庭では、出来たそばから鹿鳴や村田が天日干ししていっているのが目に入るようになった。

 増産とはいっても、深淵に入ったあとで俺やハクが余裕を持って陽の気を補充できないと意味がない。
 何度か試した結果、今回鬼界に連れて行けるとしても五十名程度だろうと結論付けられた。深淵に行くのは、今鬼界にいる者も含めて百の予定だ。

 そこから、人界と妖界、鬼界にいる者達も含めてどちらがどれだけ連れていくのかの議論がなされた。

 鬼界の穴の前で璃耀がしたことを例に出してできるだけ人界の武官を連れていきたい柊士と、ハクの為には人界の者など信用出来ないと遠まわしに言いながら妖界の武官を一名でも多くねじ込もうとする翠雨の間で、水面下の争いが繰り広げられていた。
  
 ハクと俺が行くのは決定事項。そこへ、ハクの護衛五名と、汐、巽、新たに護衛に加わった浅沙あさざこん哉芽かなめがついて行くところまでは確定している。

「前も言ったけど、淕は連れてけ。それから、今回新たにつけた護衛役を含めて、選んだ武官には全員、全てが解決するまでの間、お前を最優先に考え全てを捧げると誓いも立てさせたから」
「……え、ち、誓い?」

 聞けば、柊士は派遣する予定の人界の武官全員をまとめて集めて、新たに社をつくる予定の大岩神社の一角に簡易祭壇を作り、神の前で誓えと強要……もとい、要請したらしい。
 そこへ、『眷属の為だ。妾が見届けてやろう』と主様が突然現れ『裏切るような真似をすればタダでは済まさぬ』と脅したそうだ。

 正直、里の長と神様から睨まれて、否と言える者なんていないと思う。なんというか、一緒に行く武官達には本当に申し訳ない。あと、この場に同席している妖界の者達が若干引いている気がする。

「大丈夫ですよ、奏太様。僕も汐ちゃんと調べさせてもらいましたけど、今回の同行予定者はそのような誓いなど無くとも奏太様へ心からお仕えしたいと願う者たちばかりでしたから。もとよりそのような事を考える者はいません。……淕さんはわかりませんけど」

 最後だけ棘のある言い方をした巽に、淕は誤魔化しそこねたように引きつった笑みを浮かべた。
 
 淕が着いてくる理由は何処まで行っても柊士の為、だ。前回と違うのは、俺とハクが死ぬのは柊士にとって何より避けたい事態で、ともすれば主を別の意味で失いかねないと淕自身が理解していること。
 
 俺自身は、淕が着いてくる理由を理解して納得した。けど、結局は柊士最優先である淕が着いてくるということを、巽と汐は未だ完全に受け入れたわけではないらしい。

「淕には次がない。俺に仕えるようにお前に仕えろと言い聞かせてあるし、誓いもさせた。好きなように使え」

……淕にも誓いをさせたのか……自分の護衛役なのに……

 俺が唖然としていると、ハクの側にいた翠雨がパッと扇子を広げて口元を覆い隠した。
 
「なんとも、日向の御当主様は徹底していますね。全てを奏太様に捧げるよう、神にまで誓わせるとは」

 ……まあ、正直やり過ぎだと、俺も思う。
 
 でも、そう言う翠雨こそ、ハクのためなら一切の容赦を捨てるタイプだったはずだ。

 柊士は翠雨をジロリと睨んだ。

「奏太の時には三十しか出せないと言った兵を、このタイミングで三百用意させるような者たちに、大事な守り手を任せられないからな」
「おや、悲しい誤解があったようですが、あの時はそれが精一杯だったのです。なにせ、急を要する御要望でしたので。それに、少数で良いと仰ったのはそちらではありませんか」

 翠雨はこれ見よがしに悲しそうな顔をしてみせるが、内心では何とも思っていないことがよく分かる。

「適当な事を言うな。人界の為に兵力を割くつもりがなかっただけだろ」
「まさか、そのような」
 
 翠雨は唇の端を上げた。完全に否定しないということは、まあ、そういうことなのだろう。

「どうやら、本当に性根が腐っているみたいだな」
「心外ですね、これ程までに誠意をもって対応しているというのに」
「随分と薄っぺらい誠意があったもんだな」

 見ているこっちがハラハラするくらいに、二人の間に流れる空気が張りつめている。 
 人界と妖界の上位者の言い争いに、どちらの文官武官も青い顔をしているのだが、二人は全く意に介していない。

「何れにせよ、今回は三百どころか三十も連れていけない。今回も少数でいいから、連れて行く武官は厳選してくれ。十名程度に」
「いえ、今しがた誠意をもって対応すると申し上げたばかりです。奏太様の護衛以外はこちらでご用意いたしましょう」
「必要もないところで誠意を見せられたところでありがた迷惑だ。妖界の者は空気も読めないのか?」
「これはこれは、手厳しいことをおっしゃる。けれど、こちらの厚意をお受け取りになろうとなさらないそちらの方が、空気が読めていないのではございませんか?」
 
 自ずと、妖界勢と人界勢の目は、止めてくださいと言わんばかりに俺とハクに向く。

 でも、この中に突っ込んでいくのは、俺だって怖い。
 ハクに視線を送ると、ハクは仕方がなさそうに息を吐いた。

「奏太の為にわざわざ誓いまでさせたなら、その分は人界から連れていきなよ」
「白月様!!」

 なんて事を言うのかと目を見開く翠雨を、ハクはパッと片手を上げて制する。

「話に聞いただけだけど、あっちにいる人界の妖は、淕に同調して奏太に武器を向けた者も多いんでしょ?」

 ハクの言葉に、当事者である淕の肩がビクッと動いた。

「奏太が安心できる者を、できるだけ多く連れて行った方が良いよ。妖界の妖で深淵に向かわせる者は、あっちで蒼穹に選んでもらえばいいし。妖界からは、合流するまでの間の護衛さえ居れば」
「しかし、人界の者など信用できません」

 翠雨はもう、オブラートに包むつもりもなくなったらしい。どストレートに信用出来ないと言われた人界の者達が気色ばむ。それにハクはもう一度溜息をついた。

「私に害意を持つような者を柊士が選ぶ訳ないから大丈夫だよ。一応私だって、人界の守り手だったんだから。でしょ?」
「当たり前だ」
 
 柊士の言葉を受けつつ、ハクは人界の者たちをざっと見回す。人界の者たちは、神妙な面持ちでコクと頷いた。

「貴方様は、白月様であらせられる以前に、我らが御守りすべき守り手様でいらっしゃいます。亀島のような失態は、二度と起こさせません」
「我らが、奏太様と共に、全力で御守りいたします」

 武官達から声が上がると、ハクはニコっと笑みで返した。それから、今度は妖界の妖達に目を向ける。

「私のことを考えてくれてるのはわかるけど、前回、武力をちらつかせて非道な手段で奏太を鬼界に連れて行ったのに、妖界の者たちを信用しろって方が無理があるよ。カミちゃんはその後も柊士に派兵できる武官の数を偽って奏太を助ける手を出し渋ったわけでしょ?」
「そ、それは……」
「あっちの武官達と合流するまでの間だけなんだし、自業自得と思って、こっちは少数精鋭で行こう」

 翠雨はまだ諦めきれないように、じっとハクの目を見つめる。しかし、ハクの意志は変わらないと悟ったのだろう。しばらくの沈黙の後、諦めたようにその目を伏せた。

「…………承知いたしました」

 
 こうして武官の選定が終わり、続々と日石もどきが用意され、柊士や翠雨達によって念入りに出立の準備が整えられて、気づけば、あとは鬼界に戻るだけ、というところまで来ていた。
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