57 / 297
妖界編
洞窟の戦い①
しおりを挟む
「まだ中まで攻め込んで来ているわけではないのだな?」
「は、はい。しかし、時間の問題かと……」
翠雨が尋ねると、兵は緊張したように答える。
「蒼穹、穴を掘るのに長けた者に、避難民の逃げ道を作らせよ。早急にだ。逃げ場を失うことだけは避けねばならぬ。」
「承知しました。おい、和麻達に伝え、早急に対処させよ!」
蒼穹が振り返って命じると、その内の数名が走って出ていく。
「瑛怜、検非違使は民の避難を優先させよ。泰峨、近衛は検非違使と共に民の護りを。軍団は前線へ。侵入を防ぎ、万が一侵入されたとしても、入口で仕留めろ。」
「はっ!」
翠雨の命令に、各々が返事をする。
「人界の者には外に出次第白月様の救出へ向かってほしい。場所を分かっているのは其方らだけだ。向こうがこちらへ出向いてくれているならば、今が好機であろう。蒼穹、全てを人界の者に任せるわけにはいかぬ。一部、兵をかせ。私も行く。」
「翠雨様!」
蝣仁が咎めるように声を上げる。
それはそうだろう。ついさっき、民を護れと言われたばかりだ。
「民は一時的に検非違使に任せる。蒼穹にはこちらの対処をしてもらわねばならぬ。」
「では、近衛にお任せください! 白月様を御守りする御役目は、泰峨様に!」
翠雨はそれに、ムッとした表情を浮かべる。
しかしそれに反論しようとしたのか口を開きかけた瞬間、別の方向から声が飛んできた。
「翠雨様、蝣仁の言う通りです。白月様を御守り出来なかった我らに、挽回の機会をお与えください。それに、白月様を奪われた上、翠雨様まで失っては、立ち行きません。」
泰峨は真剣な目で真っ直ぐに翠雨を見つめる。
「翠雨様、長くお仕えしているからこそ、白月様がこのような時にどのように仰るのか、翠雨様ならばお分かりになるでしょう。どうか、ここはお引きください。」
蝣仁がダメ押しとばかりにそう言うと、翠雨はハアと息を吐きだした。
「……わかった。白月様を頼む。」
俺達は部屋を出ると、軍団と共に入口に向かって走る。入口で敵を退ける役目を負う軍団に、近衛と共に協力しつつ、力づくで突破するのだ。
俺は翠雨達と共に逃げるように柊士に言われたが、柊士を守りたい淕を味方につけて抗い、同行許可をもぎ取った。
柊士に歯ぎしりしながら、覚えていろよ、と言われたが、全てが無事に片付いた暁には、都合よく忘れてくれることを祈りたい。
「蒼穹さん、さっき持っていった荷物の中に、大きな厚手の布が入ってます。着替えは難しいかもしれないけど、遮光できる布だから、それだけは持っていった方がいいと思う。」
俺がそう声をかけると、蒼穹の視線だけで承知したように、兵が横穴の一つに走って行った。
空の結界を解かれたなら、陽の気を防ぐ手立てはあった方がいい。多くは守れないかもしれないが、遮光カーテンがあるとないとでは大違いだろう。
蒼穹や泰峨達は出口へ進みながら、横穴に一人二人と兵を走らせ仲間達と合流していく。その中には、凪と桔梗のように見覚えのある者達もいた。
穴は大人が五、六人並んで通れるくらいの広さはある。それでも、道中で合流を繰り返したこともあり、かなりの人数が移動し、徐々に手狭になっていった。
人が増え、入口に近づいていくに従い、胸がドクドクと強く鼓動するのがわかる。走っているのもあるが、それだけでは無いくらいに早く強く打ち付けるのは、未知の戦場というものに緊張しているせいなのだろう。
しかし、戦いが繰り広げられている筈の出口に辿り着く前に、前を走っていた兵達がその足をピタと止め、俺達はその場に足止めを食らった。
「一体、前で何があったんだろう?」
俺達がいる場所からでは、最前線を走っていた者達に何があったのかまでは見えない。体を左右に動かして前の様子を確認しようと試みるが、やはり原因はわからない。
ただ、それから大して時間をおかずに、その理由が判明することとなった。
前方にいた者達が、一人、また一人と倒れていったのだ。
「一体、何が起こっている!?」
誰かがそう叫ぶように言った。
前はよく見えないままだが、異常事態であることだけはわかる。
更に、俺の目の前にいた妖界の兵士もまた、構えた武器を取り落として呻き声とともに蹲った。
驚きに目を見開いていると、蹲った兵の手や首など、地肌の出ている部分が青紫色になっているのが目に入る。
「だ、大丈夫ですか!?」
そう手を伸ばしかけた。そこで、兵士の体に、雨蛙よりも少し大き目の蛙が数匹よじ登っているのに気づいた。
その光景にゾッとする。
少し前、人界で似たやつを見たことがあるのだ。聡がその蛙の体液で死にかけたのをありありと思い出す。
「毒蛙だ!」
思わず叫ぶと、騒然としていた兵の間にさらに動揺が広がるのが分かった。
周囲をよく見ると、地面や壁に、ポツポツと濁った緑や灰色の斑点が見える。
結構な数のそれに背筋が寒くなる。
少し前方にいた泰峨が刀を抜き放ちながら、
「既に侵入を赦しているではないか! 一匹残らず始末しろ!」
と怒声を飛ばした。
周囲の兵達も混乱しながら、地面や壁に目を走らせる。
「足元だ!」
「小さいのがうじゃうじゃいるではないか!」
「壁もだ!」
「毒に気をつけよ!」
先で起こっているはずの戦いに皆が気を取られていたからだろう。小さい体で忍び寄ってくるそれに気づくことが出来なかったのだ。
しかも、この大人数の中、小さい体で隙間を縫うようにちょこまか動くので、攻撃を加えにくい。
周囲の混乱状態の中、不意に、俺の足元から小さな声が複数聞こえてきた。
「おお、コヤツ、見たことがあるぞ!」
「なんと、我らを陥れた人界の小僧か!」
「このようなところに居るとは、なんという巡り合わせか。」
足元を見ると、蛙が複数、俺を取り囲むように距離を詰めているとことだった。
しかも、過去に恨みを買っているせいか、地面や壁からそれらの声につられて他の蛙がどんどん集まってくる。
気持ちが悪いなんてもんじゃない。
ゾッとして立ち尽くしていると、亘はすかさず、ザッ! とその内の一匹に刀を突き立てた。
「奏太様! 下に向かって陽の気を!」
動揺して体が動かなくなっていた俺に、亘が声を張り上げる。言われるまで自分の武器をすっかり忘れていた。
俺は自分の両手を見たあと、パンと手を打ち付ける。
同時に、仲間の妖達が俺から少しだけ距離をとったのが分かった。
ハクや柊士と接しているからだろうか。手を叩く動作だけで何が起こるかを把握しているのだ。
「周囲は妖ばかりです。ご注意を!」
亘にコクリと頷きながら、俺は頭の中に流れる言葉に声を這わせ、自分の足元に陽の気を放った。
出来るだけ周囲に広がらないようにと蛙にだけ集中する。
無防備に近寄ってきた複数の蛙が陽の気に晒されて、ギャッと悲鳴を上げて赤く光りながら焼かれていく。
一方で、やや離れたところから俺を取り囲んでいた蛙たちは、陽の気に慌てて飛び跳ねながら逃げ出し始めた。
陽の気で焼いた蛙なんてほんの一部だ。前方にはまだまだたくさんいるし、俺が取り逃がした奴らもいる。
でも、ここできちんと蛙を始末しておかないと、奥の避難民に被害が及んでしまう可能性だってある。
全て陽の気で焼いてしまえれば早いのだが、亘が言う通り、周囲は妖だらけで無闇には使えない。
自分の側はなんとかなっても、他の蛙を始末するどころではない。
どうしたら……とあちらこちらにいる毒蛙に視線を向けていると、亘から厳しい声音が飛んだ。
「奏太様、今は御自分の身だけを守ることに集中を! 蛙が原因と分かれば、各々が対処できます!」
「でも……」
自分の身だけしか守れない状況がもどかしい。
そう思っていると、刀で数匹を串刺しにした亘が、周囲に視線を走らせながら、懐から短刀を一本取り出し、無造作に俺に差し出した。
「決して無理をせず、御自分の身を第一に考えると約束してくださるなら、これを差し上げます。」
それは、以前、蛙退治のために亘が潤也に貸し出していたものだ。
「足元にいるものは、各々が何とかするしかありません。余裕がお有りなら、壁にいる者共の始末を。」
「わかった!」
やることが明確になり、俺は真っ直ぐに壁に向き合って片っ端からへばりつく蛙を刀で叩き落していく。
周囲の者たちも、足元や壁などにいる蛙を虱潰しにしていったことで、どんどんとその数は減っていった。
ようやくこれで前に進めそうだ。そう思った矢先だった。
ガチャガチャっと武器を構える複数の音が前方から響いてきた。
今度は一体何事だろうか。
ここからはよく見えないが、前方で戦いが始まったようで、兵が大きく動き、怒号が飛び交い始める。
「場所を開けろ! 淕、前に行くぞ!」
不意に、少し前方からそんな声が響いた。
「柊士様!」
淕の悲鳴のような声も聞こえる。
兵をかき分けて柊士のもとに向かうと、柊士が淕に詰め寄っているところだった。
「前から攻められてるんだろ! 中に入ってくる奴らを止めるなら、焼いたほうが早い!」
「しかし、最前線へ向かうなど……!」
「こういう時に陽の気を使わずにいつ使う! 乱戦状態になったら何もできなくなる! やるなら今だ!」
淕は柊士の顔を見て、迷うような素振りを見せたが、直ぐに覚悟を決めたように歯を食いしばると、ふっと猛禽の姿に変わった。
亘よりも一回り小さいその鳥に、柊士は慣れたようにひらりと飛び乗る。
やや小さいとはいえ、この穴の中だ。ぎりぎり飛べるかどうかといった狭さの中、淕が地面を蹴り羽ばたくと、周囲に突風が巻き起こった。
一体何が起こったのかと戸惑う兵士達の頭上を淕はスィと越えていく。
「無茶をするな、人界の!!」
という泰峨の怒声が響いたが、気づけば兵達の頭上を飛び越えて、その姿はあっという間に見えなくなった。
「亘、俺達も……」
と言いかけたが、亘は首を横に振る。
「複数で行っても意味はありません。あちらは柊士様にお任せしましょう。必ず出番はどこかにあります。」
亘は真っ直ぐに前を向いてそう言った。
「は、はい。しかし、時間の問題かと……」
翠雨が尋ねると、兵は緊張したように答える。
「蒼穹、穴を掘るのに長けた者に、避難民の逃げ道を作らせよ。早急にだ。逃げ場を失うことだけは避けねばならぬ。」
「承知しました。おい、和麻達に伝え、早急に対処させよ!」
蒼穹が振り返って命じると、その内の数名が走って出ていく。
「瑛怜、検非違使は民の避難を優先させよ。泰峨、近衛は検非違使と共に民の護りを。軍団は前線へ。侵入を防ぎ、万が一侵入されたとしても、入口で仕留めろ。」
「はっ!」
翠雨の命令に、各々が返事をする。
「人界の者には外に出次第白月様の救出へ向かってほしい。場所を分かっているのは其方らだけだ。向こうがこちらへ出向いてくれているならば、今が好機であろう。蒼穹、全てを人界の者に任せるわけにはいかぬ。一部、兵をかせ。私も行く。」
「翠雨様!」
蝣仁が咎めるように声を上げる。
それはそうだろう。ついさっき、民を護れと言われたばかりだ。
「民は一時的に検非違使に任せる。蒼穹にはこちらの対処をしてもらわねばならぬ。」
「では、近衛にお任せください! 白月様を御守りする御役目は、泰峨様に!」
翠雨はそれに、ムッとした表情を浮かべる。
しかしそれに反論しようとしたのか口を開きかけた瞬間、別の方向から声が飛んできた。
「翠雨様、蝣仁の言う通りです。白月様を御守り出来なかった我らに、挽回の機会をお与えください。それに、白月様を奪われた上、翠雨様まで失っては、立ち行きません。」
泰峨は真剣な目で真っ直ぐに翠雨を見つめる。
「翠雨様、長くお仕えしているからこそ、白月様がこのような時にどのように仰るのか、翠雨様ならばお分かりになるでしょう。どうか、ここはお引きください。」
蝣仁がダメ押しとばかりにそう言うと、翠雨はハアと息を吐きだした。
「……わかった。白月様を頼む。」
俺達は部屋を出ると、軍団と共に入口に向かって走る。入口で敵を退ける役目を負う軍団に、近衛と共に協力しつつ、力づくで突破するのだ。
俺は翠雨達と共に逃げるように柊士に言われたが、柊士を守りたい淕を味方につけて抗い、同行許可をもぎ取った。
柊士に歯ぎしりしながら、覚えていろよ、と言われたが、全てが無事に片付いた暁には、都合よく忘れてくれることを祈りたい。
「蒼穹さん、さっき持っていった荷物の中に、大きな厚手の布が入ってます。着替えは難しいかもしれないけど、遮光できる布だから、それだけは持っていった方がいいと思う。」
俺がそう声をかけると、蒼穹の視線だけで承知したように、兵が横穴の一つに走って行った。
空の結界を解かれたなら、陽の気を防ぐ手立てはあった方がいい。多くは守れないかもしれないが、遮光カーテンがあるとないとでは大違いだろう。
蒼穹や泰峨達は出口へ進みながら、横穴に一人二人と兵を走らせ仲間達と合流していく。その中には、凪と桔梗のように見覚えのある者達もいた。
穴は大人が五、六人並んで通れるくらいの広さはある。それでも、道中で合流を繰り返したこともあり、かなりの人数が移動し、徐々に手狭になっていった。
人が増え、入口に近づいていくに従い、胸がドクドクと強く鼓動するのがわかる。走っているのもあるが、それだけでは無いくらいに早く強く打ち付けるのは、未知の戦場というものに緊張しているせいなのだろう。
しかし、戦いが繰り広げられている筈の出口に辿り着く前に、前を走っていた兵達がその足をピタと止め、俺達はその場に足止めを食らった。
「一体、前で何があったんだろう?」
俺達がいる場所からでは、最前線を走っていた者達に何があったのかまでは見えない。体を左右に動かして前の様子を確認しようと試みるが、やはり原因はわからない。
ただ、それから大して時間をおかずに、その理由が判明することとなった。
前方にいた者達が、一人、また一人と倒れていったのだ。
「一体、何が起こっている!?」
誰かがそう叫ぶように言った。
前はよく見えないままだが、異常事態であることだけはわかる。
更に、俺の目の前にいた妖界の兵士もまた、構えた武器を取り落として呻き声とともに蹲った。
驚きに目を見開いていると、蹲った兵の手や首など、地肌の出ている部分が青紫色になっているのが目に入る。
「だ、大丈夫ですか!?」
そう手を伸ばしかけた。そこで、兵士の体に、雨蛙よりも少し大き目の蛙が数匹よじ登っているのに気づいた。
その光景にゾッとする。
少し前、人界で似たやつを見たことがあるのだ。聡がその蛙の体液で死にかけたのをありありと思い出す。
「毒蛙だ!」
思わず叫ぶと、騒然としていた兵の間にさらに動揺が広がるのが分かった。
周囲をよく見ると、地面や壁に、ポツポツと濁った緑や灰色の斑点が見える。
結構な数のそれに背筋が寒くなる。
少し前方にいた泰峨が刀を抜き放ちながら、
「既に侵入を赦しているではないか! 一匹残らず始末しろ!」
と怒声を飛ばした。
周囲の兵達も混乱しながら、地面や壁に目を走らせる。
「足元だ!」
「小さいのがうじゃうじゃいるではないか!」
「壁もだ!」
「毒に気をつけよ!」
先で起こっているはずの戦いに皆が気を取られていたからだろう。小さい体で忍び寄ってくるそれに気づくことが出来なかったのだ。
しかも、この大人数の中、小さい体で隙間を縫うようにちょこまか動くので、攻撃を加えにくい。
周囲の混乱状態の中、不意に、俺の足元から小さな声が複数聞こえてきた。
「おお、コヤツ、見たことがあるぞ!」
「なんと、我らを陥れた人界の小僧か!」
「このようなところに居るとは、なんという巡り合わせか。」
足元を見ると、蛙が複数、俺を取り囲むように距離を詰めているとことだった。
しかも、過去に恨みを買っているせいか、地面や壁からそれらの声につられて他の蛙がどんどん集まってくる。
気持ちが悪いなんてもんじゃない。
ゾッとして立ち尽くしていると、亘はすかさず、ザッ! とその内の一匹に刀を突き立てた。
「奏太様! 下に向かって陽の気を!」
動揺して体が動かなくなっていた俺に、亘が声を張り上げる。言われるまで自分の武器をすっかり忘れていた。
俺は自分の両手を見たあと、パンと手を打ち付ける。
同時に、仲間の妖達が俺から少しだけ距離をとったのが分かった。
ハクや柊士と接しているからだろうか。手を叩く動作だけで何が起こるかを把握しているのだ。
「周囲は妖ばかりです。ご注意を!」
亘にコクリと頷きながら、俺は頭の中に流れる言葉に声を這わせ、自分の足元に陽の気を放った。
出来るだけ周囲に広がらないようにと蛙にだけ集中する。
無防備に近寄ってきた複数の蛙が陽の気に晒されて、ギャッと悲鳴を上げて赤く光りながら焼かれていく。
一方で、やや離れたところから俺を取り囲んでいた蛙たちは、陽の気に慌てて飛び跳ねながら逃げ出し始めた。
陽の気で焼いた蛙なんてほんの一部だ。前方にはまだまだたくさんいるし、俺が取り逃がした奴らもいる。
でも、ここできちんと蛙を始末しておかないと、奥の避難民に被害が及んでしまう可能性だってある。
全て陽の気で焼いてしまえれば早いのだが、亘が言う通り、周囲は妖だらけで無闇には使えない。
自分の側はなんとかなっても、他の蛙を始末するどころではない。
どうしたら……とあちらこちらにいる毒蛙に視線を向けていると、亘から厳しい声音が飛んだ。
「奏太様、今は御自分の身だけを守ることに集中を! 蛙が原因と分かれば、各々が対処できます!」
「でも……」
自分の身だけしか守れない状況がもどかしい。
そう思っていると、刀で数匹を串刺しにした亘が、周囲に視線を走らせながら、懐から短刀を一本取り出し、無造作に俺に差し出した。
「決して無理をせず、御自分の身を第一に考えると約束してくださるなら、これを差し上げます。」
それは、以前、蛙退治のために亘が潤也に貸し出していたものだ。
「足元にいるものは、各々が何とかするしかありません。余裕がお有りなら、壁にいる者共の始末を。」
「わかった!」
やることが明確になり、俺は真っ直ぐに壁に向き合って片っ端からへばりつく蛙を刀で叩き落していく。
周囲の者たちも、足元や壁などにいる蛙を虱潰しにしていったことで、どんどんとその数は減っていった。
ようやくこれで前に進めそうだ。そう思った矢先だった。
ガチャガチャっと武器を構える複数の音が前方から響いてきた。
今度は一体何事だろうか。
ここからはよく見えないが、前方で戦いが始まったようで、兵が大きく動き、怒号が飛び交い始める。
「場所を開けろ! 淕、前に行くぞ!」
不意に、少し前方からそんな声が響いた。
「柊士様!」
淕の悲鳴のような声も聞こえる。
兵をかき分けて柊士のもとに向かうと、柊士が淕に詰め寄っているところだった。
「前から攻められてるんだろ! 中に入ってくる奴らを止めるなら、焼いたほうが早い!」
「しかし、最前線へ向かうなど……!」
「こういう時に陽の気を使わずにいつ使う! 乱戦状態になったら何もできなくなる! やるなら今だ!」
淕は柊士の顔を見て、迷うような素振りを見せたが、直ぐに覚悟を決めたように歯を食いしばると、ふっと猛禽の姿に変わった。
亘よりも一回り小さいその鳥に、柊士は慣れたようにひらりと飛び乗る。
やや小さいとはいえ、この穴の中だ。ぎりぎり飛べるかどうかといった狭さの中、淕が地面を蹴り羽ばたくと、周囲に突風が巻き起こった。
一体何が起こったのかと戸惑う兵士達の頭上を淕はスィと越えていく。
「無茶をするな、人界の!!」
という泰峨の怒声が響いたが、気づけば兵達の頭上を飛び越えて、その姿はあっという間に見えなくなった。
「亘、俺達も……」
と言いかけたが、亘は首を横に振る。
「複数で行っても意味はありません。あちらは柊士様にお任せしましょう。必ず出番はどこかにあります。」
亘は真っ直ぐに前を向いてそう言った。
0
あなたにおすすめの小説
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜
南 鈴紀
キャラ文芸
妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。
しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。
掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。
五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。
妖×家族の心温まる和風ファンタジー。
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる