【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

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妖界編

御礼の贈り物②

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「白月様、思いつきでそのような事をお決めになられては困ります。」

 璃耀が厳しい顔でハクを見る。

「でも、人界の三人にここへの立ち入り許可を出したら、そうしておかないと来ようがないでしょ。」
「陽の山の泉を通って来れば良いでしょう。」
「陽の山からここまで、徒歩でどれだけかかると思ってるの?辿り着く前に陰の気に蝕まれちゃうよ。亘や淕と一緒に来る前提じゃないと。」

 そう言うハクに、凪は眉尻を下げる。

「しかし、人界の者が自由に行き来できる状況は、危険では……今回のような事があっては……」
「今回みたいなこと、早々起こらないよ。それに、向こうもこっちも、入口をきちんと管理しておけば良いでしょ。何も知らない人が迷い込んできたら可哀想だから、できたら、本家と直接繋ぐのがいいとは思うけど。」
「その場合、こちら側でもきちんと見張りを立てねばなりませんね。検非違使か軍団か……」

 翠雨も顎に手を当てて考え込む。

「でも、そうしたらカミちゃんも一緒に人界に行けるよ?」

 ハクが小首を傾げて翠雨の顔を覗き込むようにそう言うと、翠雨はハッと顔を上げて目を輝かせる。

「私も連れて行ってくださるのですか!?」

 ……あ、御しやすいところから誘惑し始めた。

「お待ち下さい!白月様が行き来なさるおつもりですか!?」
「うるさいぞ、璃耀。白月様がそうなさりたいと仰ってるのだ。それを整えるのが其方の仕事だろう。」

 声を上げた璃耀に、翠雨は顔を顰める。もう完全にハクの味方に回っている。ちょろいというか何というか。
 最上位の二人がこの調子だと、下は苦労するんだろうな……

「自由が過ぎる主を諫めるのも私の仕事です。」
「ほう、其方には荷が重いと。主上の望みも叶えて差し上げられないなど、雉里の名が泣くな。」

 挑発するような翠雨の言葉に、璃耀は顔を引き攣らせる。

「白月様の掌の上で転がされている翠雨様こそ、柴川の名が泣いていますよ。そのような方が政を動かしていくなど、京の立て直しが思いやられますね。」
「京の民が大変な思いをしている間にいなかった其方が言って良い言葉ではないと思わぬか?」
「おや。翠雨様の手には余りましたか。私の手が必要だったと?」
「そうだな。物も掴めねば大して飛べもせぬ雉の翼でも無いよりあったほうがマシだったかも知れぬな。」

 二人の様子に、周囲を囲んでいた近衛が顔を引き攣らせ始める。何だか既視感のある光景だ。

 ハクは白熱し始めた二人を交互に見上げると、こっそりその間を抜け出し、少しフラつきながらこちらにやってこようとする。

 慌てて手を貸して隣に座らせると、ハクは

「ありがとう」

とニコリと笑った。

「良いのか、あの二人は。」

 璃耀と翠雨を顎で指す柊士に、ハクはコクリと頷く。

「いつもの事だから、放っておけばいいよ。
 それより、私も一回本家に行こうと思うの。どこかに結界の穴を開けたいし、一応伯父さん達にも今回の御礼と挨拶はしておかなきゃ。」
「要らねーよ、そんなの。」

 柊士は吐き捨てるように言うが、ハクは首を横に振る。

「一応、けりは付けておきたいんだよね。自分の気持ち的にも。今度は、きちんと白月として行くよ。あの人の姪としてじゃなく。」

 ハクの決意は固そうだ。

「少し先にはなると思うから、書状だけ持って帰ってくれる? 行く日が決まったら、使いを出すよ。」

 柊士はじっとハクの目を見たあと、小さく息を吐いて頷いた。

「わかった。親父には伝えておく。」

 ハクはそれに笑みで応じる。

「ねえ、ハク。俺も一つお願いがあるんだけど……」
「何?」

 話が一段落したところで俺が声をかけると、ハクは小さく首を傾げた。

 俺は柊士と淕にチラッっと目を向ける。訝しげな表情をする従兄弟にはあんまり聞かれたくない。

「ちょっと耳かして。」

 俺はハクに近づくと、柊士に見られないように手で隠しながら、ハクの耳元に口元を近づけてそっと囁やく。

「俺と亘、反対を押し切ってこっちに来たんだ。書状に、きちんと活躍したって書いておいてくれないかな? 父さんが怖いんだよね。亘も変に処分されかねないし。」

 人界に戻ったら、勝手に出ていったこと、その上怪我をして帰ったことを永遠と説教される未来しか見えない。柊士が助けてくれるわけないし、ハクに口添えしてもらって、少しでも父の怒りを抑えたい。
 亘だって、俺をここに連れてきた咎めを受けるはずだ。重たいものを科せられでもしたらたまったものではない。

 すると、ハクがクスッと苦笑を漏らす。

「わかった。じゃあ、それもきちんと手紙に書くよ。叔父さん宛にも。」

 ハクもまた、俺の耳元に手を当てて、そう囁き返した。

 チラッっと柊士を見ると、先程よりも更に険しい顔で探るようにこちらを見ている。
 表情を見るに、たぶん聞こえてはいなかったのだろうが、見定めるような視線がとても痛い。

 ただ、それよりも……

 気づけば周囲がシンと静まり返っていて、翠雨や近衛が唖然としたようにこちらを見ていた。

 更に、凪は何故か顔を少し赤くしていて、

「……あの、白月様……? 奏太殿と、どういったご関係で……」

と恐る恐る尋ねてくる。

「え、従姉弟だけど……」

 ハクは俺と同じ様に、わけが解らないと言うように凪や周囲の反応を見ている。

「いえ……その……そのように御顔を近づけ合うなど、普通は恋仲……」
「それ以上言うな、凪!」

 翠雨が顔を青くして凪の言葉を遮る。
 俺とハクの戸惑いを他所に、周囲の近衛達もざわっと波立つ。

 ……は? ……恋仲? 誰と誰が? ……俺とハクが?

「え、ちょっと待ってよ。何、どういうこと? 従姉弟だって言ってるじゃん!」

 ハクが驚いたように目を見開き、慌てて否定する。

「そうです。そんなのあり得ないです!」

 俺も同じ様に声を上げると、璃耀が呆れ顔でスッとこちらへ進み出てきた。

「白月様、人の姿で男女があの様に顔を近づけあうなど、そのように誤解されても仕方がありません。
 それに、従姉弟同士の婚姻など、然程珍しくもありません。
 更に言えば、先程貴方は人界と妖界を繋ぐ結界の穴を開けると仰ったばかりです。逢瀬の為かとも受け取れます。」

 起こった事象を冷静に並べ立てる璃耀に、翠雨はますます顔を青褪めさせる。

「……白月様……まさか、本当に……」
「だから違うってば、カミちゃん!」

 ハクが叫ぶように言うと、突然ぐいっと俺とハクの間を離すように翠雨が割り入ってくる。
 ついでに俺は亘に、怪我をしていない方の肩をトントンと叩かれた。

「人界と妖界の文化の違いでしょう。先程から凄い剣幕で見られていますよ、奏太様。」

 亘に言われて周囲に視線を巡らせると、以前烏天狗の山でハクに手を握られた時の比じゃないくらいに、鋭い視線が近衛達から向けられていた。

「まあ、この様に可憐な年頃の女性に臆面もなく顔を寄せていくのも如何なものかとは思いますが。」
「だって従姉弟だろ!」

 ジトッとした目線で見てくる亘に言うと、

「……一族の血を守っていくには従姉弟同士の方が婚姻相手としては良い、という考え方もありますけどね。」

とボソっと発せられた淕の言葉が聞こえてきた。
 それが周囲にも聞こえたのか、向けられていた視線が一層厳しくなる。

「淕まで余計な事を言わないでよ!」
「奏太様、もう黙った方が宜しいかと。嫉妬を買って、味方であるはずの朝廷の兵から狙われるのだけは勘弁してください。」

 亘が言うと、柊士はハァーと深いため息をついた。
 ハクはハクで、璃耀のお説教タイムが始まっている。

「白月様。日頃から申し上げていますが、貴方は常に周囲の視線に晒されて居るのです。もう少し自覚を持って、迂闊に行動されないようお気をつけください。」
「……はい……でも、本当にそんなんじゃなくて……」

 ハクはゴニョゴニョともう一度否定をしている。

 一応その後、ハクと二人で誤解を解こうと人界の普通を説明していったのだが、厳しい表情を浮かべる翠雨や、未だ俺を睨んでくる近衛たちの表情を見るに、納得してもらえたかどうかは、とても怪しい。
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