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妖界編
帝の訪れ②
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部屋から殆どの者が退室し、ガランとした部屋に、俺達だけが残る。
人界側は、柊士、淕、栞、俺、亘、汐。
妖界側は、ハク、璃耀、翠雨、凪、桔梗。そして、璃耀と翠雨が残る事となったので、護り手を増やす意図で蒼穹も残った。翠雨の側近である游仁も一緒だ。
「それで、相談って?」
柊士が口を開くと、気負った風もなく、ハクはいつもの調子で視線を少し上にずらす。
「うーんと、どこから話せばいいかな……」
そう言いながら、ハクは、ポツリポツリと、本家と妖界の歴史を語り始めた。
大昔、人界と妖界のそれぞれの帝の協定で、二つの世を結界で隔て、妖界の帝の子を人界に嫁がせたこと。そこから、妖界の帝の血を引く者を三百年に一度、人界から送り出し、妖界の帝の地位に据えて来たこと。
そしてその帝が、妖界側の結界を守る結界石に気の力を注いで結界を維持してきたこと。
「当時は妖の寿命が五百年であることから、引き継ぎの意味も含めて三百年に一度って事にしたみたいなんだけど、三代前は四百年、二代前は三百年、そして先代は二百年しか生きなかったんだって。前に龍神様に教えてもらったの。」
帝の寿命は、どんどん短くなっていっている、ということだ。それにしても、龍神様なんているんだ……凄いな。
そんな事をぼんやりと考えていると、翠雨は唖然としたようにハクに目を向けた。璃耀や他の妖界の者達も驚き、難しい顔をしている。
「……それでは、白月様は……」
「まあ、百年の寿命って考えた方が自然だよね。」
翠雨の呟きに、ハクは平然とそう答えた。
「……百年……?」
「……我らが寿命を迎える前に、白月様が……?」
凪と桔梗が、小さく不安げにそう零す。
百年。人間の寿命からしたら、十分な長さだ。でも、妖達にとっては短すぎる時間なのだろう。
「前回、先代が二百年で崩御されたあと、次の帝、つまり私が遣わされるまでに百年の空白が生まれた。妖の世自体は驟雨が治めてたからよかったけど、既に結界は限界だった。結界石に込められていた気の力はほとんど底をつきてて、結果、鬼界から鬼が侵入して妖界は荒らされる事になったの。もう、今の仕組み自体が崩壊仕掛けてると思った方がいい。」
柊士は難しい顔でハクを見る。
「……三百年に一度を、百年に一度にしろってことか?」
……百年に一度。
親族の中から再び、結と同じ立場の者を、同じ方法で送り出さなければならない日が来るということだろうか。
そう思っていると、ハクは徐ろに首を横に振った。
「柊士や奏太は、自分の孫や曾孫を妖界に送り出せる? 私だったら、多分できないなぁー。」
自分に子どもや孫がいないから実感は湧かない。でもきっと、その立場に置かれたら、結や遼のことを思い出して、躊躇ってしまうだろうことは想像できる。
「それに、今回の事で思ったんだけど、天寿を全うする前に私が死ぬことだってある。そしたら、百年より前に、誰かを妖界に送って貰わないとならないかもしれない。」
ハクはそう言うと、俺と柊士をひたと見据えた。
それはまるで、次はお前たちだと、暗に言っているかのように。
ゴクリと生唾を飲む音が柊士の後ろから聞こえてくる。柊士や俺はもちろん、それを守る者達にとってもまた、きっと耐え難い事なのだろう。亘達がそうであったように。
柊士は表情固く、ハクの目をじっと見返す。
「……何が言いたい?」
発せられるその声は、表情とおなじく固いものだ。
しかしハクは、それにニコリと微笑みかけた。
「もう、終わりにしようよ。私達の代で。」
「……終わりに?」
「人界から送られるのは私で最後。子孫にまで引き継ぐのはやめにしよう。」
ハクの言葉に、妖界の者達が目を見開いた。
「しかし、それでは妖界が……!」
真っ先に声を上げたのは翠雨だ。それはそうだろう。ハクで最後になんてすれば、結界が崩壊していくのを黙って待つことしかできなくなる。
「結界が維持できればいいんでしょう? 結界石に陽の気がきちんと注がれていれば、結界は維持できる。それは、帝位になくてもできることだよ。」
「白月様、それでは妖界を治める方が不在になりますが。」
璃耀の冷静な声が静かに響く。
「それは人界の者でなくてもいいでしょう。カミちゃんか、柴川を継ぐ者が担えばいい。」
「白月様!!」
翠雨は床をダンと叩くように手を付き、殆ど叫ぶようにしてハクの方に身を乗り出した。
しかし、ハクは先程と同じ調子で続ける。
「ねえ、カミちゃん。“妖界の事は妖界の者が治めればいい“。驟雨の言ってた事、私は正しいと思ってる。鬼を京に呼び込み、結界を壊そうとしなければ……共に手を取り合えるのならば、私は驟雨が帝位についたままでも良かったの。
むしろ、人界から人を送るからこそ生まれる歪みもあると思う。
それに、私が死んだら誰かを送ってもらわなきゃならないようなシステム自体が、そもそも危うい土台の上に立ってる。妖界で繋がっていく血筋の中で帝位を受け継いでいった方が安定した世を築いていける筈だよ。」
しかし、翠雨は厳しい視線をハクに向けたままだ。
「私は認めません。兄の時のようなことが起これば、妖界は再び混乱に陥ります。」
「カミちゃんが、きちんと導いて行けば良いことだよ。」
翠雨はギリっと奥歯を噛み、顔を歪ませる。
「……だから、方向性が見えてから、きちんと別の場所で説明したかったのに……」
ハクはハアと息を吐き出した。
「少し落ち着いて、カミちゃん。私は今すぐ帝位を降りるとは言ってない。可能性の話をしてるの。話が纏らなければ、寿命が来るまで帝位にいるよ。」
「話が纏まったとしても、帝位に居てくださらねば困ります。」
「……わかった。だから、一回落ち着いて。」
ハクにそう言われると、翠雨は厳しい顔つきのまま姿勢を正して座りなおす。ハクはそれに仕方の無さそうな顔をして眉尻を下げた。
「……それにしても、璃耀はなんだか落ち着いてるね。カミちゃんと一緒で、もっと反対されると思った。」
「私は、白月様が帝位にあろうとなかろうと、御側でお仕えすると決めています。白月様にお仕えできるのであれば、妖界の行く末など些末な問題です。白月様がお決めになったのならば、それに従います。」
璃耀は結構凄いことを平然とした調子で言ってのける。
……世界がどうなろうとハクが居ればそれでいい、と……
翠雨は璃耀を睨み見る。
それに顔を引き攣らせた蒼穹が、話を先に進めようと口を開いた。
「しかし、結界はどうなさるおつもりです?」
蒼穹にそう言われると、ハクはじっと柊士と俺を見た。
「陽の気の使い手を人界から定期的に派遣して、結界石に力を注いでほしいの。私が居なくなったとしても、当面の間は、結界石はそれで十分なはず。ただ、急にやれと言われても難しいから、今のうちに習慣づけといた方がいいと思うけど。」
「当面の間は?」
ハクの言い方が気になって尋ねると、ハクはコクリと頷く。
「もし、寿命が縮んでいっている理由が、妖の血が薄くなっていっている結果だとしたら、何代かあとには陽の気の使い手が生まれなくなるかもしれないって思ったの。
陽の気を発することができる根源が、最初の帝の血によるものであるならば、だけど。
まあ、こっちはあくまで可能性の話なんだけど……別の要因に起因するなら、私の今の話は杞憂で終わるかもしれないし。
でも、備えておいて損はないでしょ。」
陽の気の使い手が、もしも生まれなくなったら……
そんなことになれば、この世から結界はいずれ消えてなくなってしまう。それは、人界、妖界、鬼界の全てが混じり合っていた、ずっと大昔の状態に戻る、ということだ。
鬼と妖と人の交じる混沌とした世界……
鬼を知るその場にいる皆が表情を強張らせた。
「手はあるのか?」
柊士の言葉に、ハクは少しだけ考えを巡らせるように上を向く。
「妖界にある結界石の真上を人界と繋いで、太陽の光が直接降り注ぐようにすれば、妖界はなんとかなるけど……ただそれをしても、人界と鬼界を隔てる結界は、解けちゃう。
人界の結界石がどこにあるかなんて、知らないでしょ?
それに妖界の方も、結界石の真上がどこに繋がっているかわからない。私有地なら人界側でその土地を買収するなり何なりして、本家の所有にしてもらわないと管理ができないし……
いろいろ検討が必要だと思う。
そのあたりは柊士の手腕にかかってるよ。」
柊士はそれに唸り声を上げた。
人界の結界石が何処にあるのか、今綻びがあちこちに出ていることを考えれば、少なくとも太陽の下にはないのだろう。
そして、それを探る手掛かりになりそうなものは、今回の騒動で本家諸共たぶん焼失してしまっている。
かといって、放置しておいてよい問題ではない。
「まあ、まだまだ猶予はあるから、一緒に考えようよって話。それが、私からの相談。」
ハクはそう言うと、話は終わりとばかりに、スッと立ち上がった。
「時々来るから、また情報交換しよう。そういう相談が双方でスムーズにできるように、結界に穴を開けておくんだから。」
ハクの言葉に、柊士はハアー、と深々と息を吐き出した。
「案内する。結界をあけるんだろ。」
柊士も立ち上がると、部屋の奥に作られた隠し部屋に向かっていく。ハクもそれに頷いて、柊士に続いた。皆もまた、それにぞろぞろとついていく。
俺もそれに続こうとしたとき、不意に翠雨の低く囁くような声が耳に届いた。
「蝣仁、戻ったら、例の獺を呼べ。少し考えたいことができた。」
ハクに聞こえないように発せられた翠雨のその声が、何故か妙に耳についた。
ハクは俺達にお題を投げかけるだけ投げかけて妖界に帰っていった。
「面倒くさい課題を残しやがて。」
柊士は遠ざかる妖界の一団を見送りながらそういった。
でもハクの言う通り、俺達の代で考えて決着をつけたほうが良い問題なのだろう。
結が経験したような悲劇を次代に残していかないために、そして、人と妖と鬼の混じり合う、混沌の世界をこの世に招かない為に。
―――― 妖界篇 完
人界側は、柊士、淕、栞、俺、亘、汐。
妖界側は、ハク、璃耀、翠雨、凪、桔梗。そして、璃耀と翠雨が残る事となったので、護り手を増やす意図で蒼穹も残った。翠雨の側近である游仁も一緒だ。
「それで、相談って?」
柊士が口を開くと、気負った風もなく、ハクはいつもの調子で視線を少し上にずらす。
「うーんと、どこから話せばいいかな……」
そう言いながら、ハクは、ポツリポツリと、本家と妖界の歴史を語り始めた。
大昔、人界と妖界のそれぞれの帝の協定で、二つの世を結界で隔て、妖界の帝の子を人界に嫁がせたこと。そこから、妖界の帝の血を引く者を三百年に一度、人界から送り出し、妖界の帝の地位に据えて来たこと。
そしてその帝が、妖界側の結界を守る結界石に気の力を注いで結界を維持してきたこと。
「当時は妖の寿命が五百年であることから、引き継ぎの意味も含めて三百年に一度って事にしたみたいなんだけど、三代前は四百年、二代前は三百年、そして先代は二百年しか生きなかったんだって。前に龍神様に教えてもらったの。」
帝の寿命は、どんどん短くなっていっている、ということだ。それにしても、龍神様なんているんだ……凄いな。
そんな事をぼんやりと考えていると、翠雨は唖然としたようにハクに目を向けた。璃耀や他の妖界の者達も驚き、難しい顔をしている。
「……それでは、白月様は……」
「まあ、百年の寿命って考えた方が自然だよね。」
翠雨の呟きに、ハクは平然とそう答えた。
「……百年……?」
「……我らが寿命を迎える前に、白月様が……?」
凪と桔梗が、小さく不安げにそう零す。
百年。人間の寿命からしたら、十分な長さだ。でも、妖達にとっては短すぎる時間なのだろう。
「前回、先代が二百年で崩御されたあと、次の帝、つまり私が遣わされるまでに百年の空白が生まれた。妖の世自体は驟雨が治めてたからよかったけど、既に結界は限界だった。結界石に込められていた気の力はほとんど底をつきてて、結果、鬼界から鬼が侵入して妖界は荒らされる事になったの。もう、今の仕組み自体が崩壊仕掛けてると思った方がいい。」
柊士は難しい顔でハクを見る。
「……三百年に一度を、百年に一度にしろってことか?」
……百年に一度。
親族の中から再び、結と同じ立場の者を、同じ方法で送り出さなければならない日が来るということだろうか。
そう思っていると、ハクは徐ろに首を横に振った。
「柊士や奏太は、自分の孫や曾孫を妖界に送り出せる? 私だったら、多分できないなぁー。」
自分に子どもや孫がいないから実感は湧かない。でもきっと、その立場に置かれたら、結や遼のことを思い出して、躊躇ってしまうだろうことは想像できる。
「それに、今回の事で思ったんだけど、天寿を全うする前に私が死ぬことだってある。そしたら、百年より前に、誰かを妖界に送って貰わないとならないかもしれない。」
ハクはそう言うと、俺と柊士をひたと見据えた。
それはまるで、次はお前たちだと、暗に言っているかのように。
ゴクリと生唾を飲む音が柊士の後ろから聞こえてくる。柊士や俺はもちろん、それを守る者達にとってもまた、きっと耐え難い事なのだろう。亘達がそうであったように。
柊士は表情固く、ハクの目をじっと見返す。
「……何が言いたい?」
発せられるその声は、表情とおなじく固いものだ。
しかしハクは、それにニコリと微笑みかけた。
「もう、終わりにしようよ。私達の代で。」
「……終わりに?」
「人界から送られるのは私で最後。子孫にまで引き継ぐのはやめにしよう。」
ハクの言葉に、妖界の者達が目を見開いた。
「しかし、それでは妖界が……!」
真っ先に声を上げたのは翠雨だ。それはそうだろう。ハクで最後になんてすれば、結界が崩壊していくのを黙って待つことしかできなくなる。
「結界が維持できればいいんでしょう? 結界石に陽の気がきちんと注がれていれば、結界は維持できる。それは、帝位になくてもできることだよ。」
「白月様、それでは妖界を治める方が不在になりますが。」
璃耀の冷静な声が静かに響く。
「それは人界の者でなくてもいいでしょう。カミちゃんか、柴川を継ぐ者が担えばいい。」
「白月様!!」
翠雨は床をダンと叩くように手を付き、殆ど叫ぶようにしてハクの方に身を乗り出した。
しかし、ハクは先程と同じ調子で続ける。
「ねえ、カミちゃん。“妖界の事は妖界の者が治めればいい“。驟雨の言ってた事、私は正しいと思ってる。鬼を京に呼び込み、結界を壊そうとしなければ……共に手を取り合えるのならば、私は驟雨が帝位についたままでも良かったの。
むしろ、人界から人を送るからこそ生まれる歪みもあると思う。
それに、私が死んだら誰かを送ってもらわなきゃならないようなシステム自体が、そもそも危うい土台の上に立ってる。妖界で繋がっていく血筋の中で帝位を受け継いでいった方が安定した世を築いていける筈だよ。」
しかし、翠雨は厳しい視線をハクに向けたままだ。
「私は認めません。兄の時のようなことが起これば、妖界は再び混乱に陥ります。」
「カミちゃんが、きちんと導いて行けば良いことだよ。」
翠雨はギリっと奥歯を噛み、顔を歪ませる。
「……だから、方向性が見えてから、きちんと別の場所で説明したかったのに……」
ハクはハアと息を吐き出した。
「少し落ち着いて、カミちゃん。私は今すぐ帝位を降りるとは言ってない。可能性の話をしてるの。話が纏らなければ、寿命が来るまで帝位にいるよ。」
「話が纏まったとしても、帝位に居てくださらねば困ります。」
「……わかった。だから、一回落ち着いて。」
ハクにそう言われると、翠雨は厳しい顔つきのまま姿勢を正して座りなおす。ハクはそれに仕方の無さそうな顔をして眉尻を下げた。
「……それにしても、璃耀はなんだか落ち着いてるね。カミちゃんと一緒で、もっと反対されると思った。」
「私は、白月様が帝位にあろうとなかろうと、御側でお仕えすると決めています。白月様にお仕えできるのであれば、妖界の行く末など些末な問題です。白月様がお決めになったのならば、それに従います。」
璃耀は結構凄いことを平然とした調子で言ってのける。
……世界がどうなろうとハクが居ればそれでいい、と……
翠雨は璃耀を睨み見る。
それに顔を引き攣らせた蒼穹が、話を先に進めようと口を開いた。
「しかし、結界はどうなさるおつもりです?」
蒼穹にそう言われると、ハクはじっと柊士と俺を見た。
「陽の気の使い手を人界から定期的に派遣して、結界石に力を注いでほしいの。私が居なくなったとしても、当面の間は、結界石はそれで十分なはず。ただ、急にやれと言われても難しいから、今のうちに習慣づけといた方がいいと思うけど。」
「当面の間は?」
ハクの言い方が気になって尋ねると、ハクはコクリと頷く。
「もし、寿命が縮んでいっている理由が、妖の血が薄くなっていっている結果だとしたら、何代かあとには陽の気の使い手が生まれなくなるかもしれないって思ったの。
陽の気を発することができる根源が、最初の帝の血によるものであるならば、だけど。
まあ、こっちはあくまで可能性の話なんだけど……別の要因に起因するなら、私の今の話は杞憂で終わるかもしれないし。
でも、備えておいて損はないでしょ。」
陽の気の使い手が、もしも生まれなくなったら……
そんなことになれば、この世から結界はいずれ消えてなくなってしまう。それは、人界、妖界、鬼界の全てが混じり合っていた、ずっと大昔の状態に戻る、ということだ。
鬼と妖と人の交じる混沌とした世界……
鬼を知るその場にいる皆が表情を強張らせた。
「手はあるのか?」
柊士の言葉に、ハクは少しだけ考えを巡らせるように上を向く。
「妖界にある結界石の真上を人界と繋いで、太陽の光が直接降り注ぐようにすれば、妖界はなんとかなるけど……ただそれをしても、人界と鬼界を隔てる結界は、解けちゃう。
人界の結界石がどこにあるかなんて、知らないでしょ?
それに妖界の方も、結界石の真上がどこに繋がっているかわからない。私有地なら人界側でその土地を買収するなり何なりして、本家の所有にしてもらわないと管理ができないし……
いろいろ検討が必要だと思う。
そのあたりは柊士の手腕にかかってるよ。」
柊士はそれに唸り声を上げた。
人界の結界石が何処にあるのか、今綻びがあちこちに出ていることを考えれば、少なくとも太陽の下にはないのだろう。
そして、それを探る手掛かりになりそうなものは、今回の騒動で本家諸共たぶん焼失してしまっている。
かといって、放置しておいてよい問題ではない。
「まあ、まだまだ猶予はあるから、一緒に考えようよって話。それが、私からの相談。」
ハクはそう言うと、話は終わりとばかりに、スッと立ち上がった。
「時々来るから、また情報交換しよう。そういう相談が双方でスムーズにできるように、結界に穴を開けておくんだから。」
ハクの言葉に、柊士はハアー、と深々と息を吐き出した。
「案内する。結界をあけるんだろ。」
柊士も立ち上がると、部屋の奥に作られた隠し部屋に向かっていく。ハクもそれに頷いて、柊士に続いた。皆もまた、それにぞろぞろとついていく。
俺もそれに続こうとしたとき、不意に翠雨の低く囁くような声が耳に届いた。
「蝣仁、戻ったら、例の獺を呼べ。少し考えたいことができた。」
ハクに聞こえないように発せられた翠雨のその声が、何故か妙に耳についた。
ハクは俺達にお題を投げかけるだけ投げかけて妖界に帰っていった。
「面倒くさい課題を残しやがて。」
柊士は遠ざかる妖界の一団を見送りながらそういった。
でもハクの言う通り、俺達の代で考えて決着をつけたほうが良い問題なのだろう。
結が経験したような悲劇を次代に残していかないために、そして、人と妖と鬼の混じり合う、混沌の世界をこの世に招かない為に。
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