将軍の宝玉

なか

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34.誤解

   バルコニーかは部屋の中に移動し、ソファに体を預けて大きく息を吐く。

「旦那様?」

   おずおずと言った様子で、シェリルノーラが声をかけた。顔を覗き込み、ん?と先を促すと、恥ずかしそうに視線を逸らす。

   シェリルノーラがいるのはソファに座った俺の足の上だ。バルコニーから抱き上げて運び、そのまま横向きに座らせている。腰に両手を回しているため、降りたくても降りられず、暴れるでもなく大人しくしている。
   どうしたらいいのか分からないのだろう。その両手は行き場をなくして、自分の膝の上でもじもじとしているのを見て笑みがもれる。

「さて、話をしましょうか」

「えっ、あの、このまま?」

「はい。嫌ですか?」

   意地が悪い聞き方かもしれないがそう尋ねれば、そうではありませんが、と消え入りような声で答えてくれる。
   先ほどは俺の勘違いだったが、肝を冷やされたのだ。これくらいは許してほしい。

「先ほどは大きい声を出してすみませんでした。それにこの間もきつい言い方をしてしまって」

「……いえ。私がいけないのです。自分勝手で我儘なことを言ったので……」

   どこが自分勝手で我儘なのかが理解できないが、また肩を落とす背中をそっと撫でる。シェリルノーラはぴくりと動いたが、じっとしていた。何度か繰り返しているとその肩から力が抜けるのが分かる。

「なぜあのようなことを言ったのか、教えて貰えませんか?」

「それは……」

   シェリルノーラはまたつらそうな顔をして、口を噤んだ。逡巡しているのをその定まらない視線が表していた。

「話してくれるまでこのままですが」

「そんなっ」

   驚いて顔を上げ、あまりの顔の近さにすぐにまた俯いてしまう。こんなに接近したことはないので、恥ずかしそうな様子で耐えている。
   しばらくその様子を堪能しながら待っていると、ようやくその重い口を開く。

「私は、こちらにいても何の役にも立ちません。……お留守も守れませんでしたし……、自分が情けないです。それに、体も丈夫ではなく、旦那様にも迷惑ばかりかけています。それなのに離縁も簡単にはできません。
   だから、これ以上迷惑をかけないように、離れるのが一番いいと思って、お話したのです」

   シェリルノーラはぽつりぽつりと小さな声で話し始めた。俺にとっては何とも思ってないことでも、彼にとっては違っていたのだろう。1人でこんなに悩んでいたということは、シェリルノーラがここで俺と生きていこうとしていることの裏返しだ。

「私のことが嫌で、愛想をつかせて離れたくなったのではないのですね?」

「違います!」

   反射的に答えが返ってくる。そのことにまずは安堵する。
 
「遠乗りに言った時にお伝えしたことを覚えていますか?
   あなたの願いを叶えていないのに私の我儘を押し付けるのは申し訳ないのですが……。あなたが何を感じているのか、考えているのか、押し殺さないでちゃんと私に話してほしいのです。ありのままの、あなたのことを教えてほしいのです」

「……」

「勿論、あなたが話したくないことは、話さなくて構いません。でも、どうかひとりで抱え込まないでください」

   シェリルノーラはゆっくり顔を上げて、じっと見つめてきた。綺麗な青緑の瞳が不安に揺れている。
    その不安を取り除いてやりたい。

「あなたのことを大切にしたいのです」


   じっと見つめてきたその顔を見返す。気持ちが伝わるように。

「……私は重荷ではありませんか?」

   重荷?どこが重荷だというのだろう。庇護欲こそ湧くが。

「重荷などと思ったことはありません。心配はしていますが。
   それに、誓ってあなたが迷惑だとか、離縁など考えたことはありません。勿論陛下のことは関係なく」

   肩に回した腕にそっと力を込め、ゆっくりと胸に抱き込む。胸につけた頭に頬を寄せるとシェリルノーラは力を抜き、その身を任せてきた。 その身を委ねてくれているのは、納得してくれた証だろうか。
   この人の心も護りたい。

   夕食の知らせを告げるノックが聞こえるまで、その温かな重さを感じていた。




   

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